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4 悪気はない
彼には悪気はないはずだと。
社長はいった。
あの後、彼女はすぐ相談にいった。
S社は中小企業で社長と職員の壁もそれほどない。
女子職員は社長に「そんなに神経質にならずともよい。きっと杞憂に終わるよ」。
「悪気があるないではなく。無神経というか……」
「わたしも面談で詳細を聞いたんだが、彼に過失はないようだし」
「え、過失がないって? だって罪を犯したのでしょ?」
「いやそれがだね……」
面談で詳細を聞いた社長は女子職員に説明をしようとする。
社長の言葉に首をかしげる女子職員は疑問符を付けて食い下がる。
そこへ社長室を訪ねる者がもう一人。
ドアの向こうから、コンコンとノックする音が聞こえた。
「失礼いたします!」
ドアを開けて入室して来たのは、話題になっているその本人だった。
その声に振り向いた女子職員は口から心臓が飛び出る思いになる。
生唾を飲まずにはいられなかった。
社長と女子職員は一瞬、口を閉ざした。
少年のことを二人で悪く言っていたわけではないのに。






