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1 なんなの、あの子
「なんなのよ、あの子は?」
「どうしたのよ? そんな浮かない顔して」
「ほら、例の訳ありの新入生よ」
「ああ最近、入社した彼ね。うちの社長は少年犯罪者の更生に前向きだから」
「べつに、そういう意味じゃないのよ」
そこは、S社の事務所。
女子職員が昼休みに新入社員の噂話をしている。
新入りの従業員と何かトラブルがあったようだ。
女子職員のA子が眉を顰めながら新入生の陰口を言い出した。
「私は社長にこの上なくお世話になっている身だから、なさろうとすることに異論はないのよ。ただね……ちょっとおかしいのよ。あの子」
女子職員のA子にそういう少年に偏見を持ち出したらきりがないと諭すのはB子。
「もう、そういうのを気にしだしたら差別や偏見で苦しむ人が増えるから。だから再犯率が減らないんじゃないのよ。少しは大人になってよ」
「ちょっと待ってよ!偏見とかじゃないのよ。ちゃんと聞いてよ!」
ふたりの女性が勤める会社の社長が、少年犯罪者の更生に理解のある人物で。
先日、ひとりの前科持ちの少年が受け入れられてきたのだ。