第55話 お別れ
というわけで俺たちは突然であるものの、最後のお別れを済ませることになった。
まずは何よりも、ジルファ先生だ。魔法の使い方をよく教わったし、魔法で守ってもらえた。彼の魔法がなければ、俺たちはウェダイアンに敗北していただろう。彼には感謝をしてもしきれない。
「そうですか。もう、行かれてしまうのですね……寂しくなります」
「絶対、また会いに来ますから!」
「……本当……お世話になりました……」
「え、ちょ、夢、泣いてる? ……あ、そういえば夢、卒園式の時も好きな先生とお別れだって泣いて……」
「いつの話してんだよ恥ずかしい!! もうそんなガキじゃねぇから!!」
泣いてない。泣いてないぞ。本当だ。
次に会ったのは、エスールとゲルニカだった。なんか一緒に居た。
「俺は最後までお前のことが嫌いだ!!」
「奇遇だな俺も別にお前のことは好きじゃない」
「もーっ、喧嘩しないのっ!!」
「……貴方たちが来てから、この城は賑やかになった。きっとここは、物静かになってしまうだろうな」
「……貴方がそうさせないでくださいよ。偉いんでしょう?」
「……ああ、そうだな。尽力する。このミヴァリア王国を、より良くすると。君たち、勇敢な勇者2人に、ここで誓おう」
そう言うとエスールは俺たちに向けて跪き、剣を横に掲げてそう言った。
一度部屋に戻りたいと実幸が言ったので、部屋に戻った。すると部屋の前には実幸の護衛騎士、フォンさんがいた。俺たちを待っていたらしい。
「実幸のこと守っててくれてありがとな」
「いや……私は、特に何も。あの方が危険に晒されることもなかったしな」
「危険な目に遭っても、今は自分でどうにかするしな~。……でも、俺の代わりに見てくれる人がいたのは、本当に助かった」
「……今日はやけに素直なんだな」
「まあ、最後だし」
「夢~! お待たせ! ちょっと髪が乱れてる気がして……で、何の話してたの?」
「実幸の悪口。……フォンさんが」
「は!?」
「いや、ほら、最後だからこの機会に……って……」
「フォンさん……確かに私、フォンさんには沢山迷惑をかけたと思いますけど……」
「い、言ってません!! 言ってない!!!!」
俺に冤罪をかけられたフォンさんは、そう喚く。その様子を見て俺たちは、思わず笑ってしまうのだった。
厨房に向かうと、そこでは相変わらず様々な女性たちが働いていた。今までと違うのは、そこにいるのが女性だけではない、ということか。騎士や魔法使いも、女性に教えられて料理をしていた。
「忙しそうですね。エルマさん」
「あっはっは、お陰様で大盛況さ! それにしても、ぶきっちょばっかでねぇ、教えがいがあるってもんさ!」
「……それは良かったです」
「ユメくん、元の世界に帰っちゃうんでしょー?」
「うわ、ライ。……元の世界じゃなくて、別の異世界に行くんだけどな。ていうか、なんで知ってんだよ」
「私は地獄耳だから~。……ユメくんがいないと、つまんなくなるなぁ」
「……お前はこれからどうするんだよ」
「んー、こっちの方が面白そうだし、治安も良くなったし、このままこっちにいちゃおうかな?」
「……大丈夫なのか?」
「大丈夫~、ここの人たちには手出しさせないよ。それに……勇者様の従えてるウェダイアンがいればね~。そうそう手出しできないだろうし!」
「……そうか」
「アンタら、一体何の話をしてるんだい? ……というか、ユメ……アンタ、まさに両手に花だねぇ……」
「だーかーらー……違うって言ってるでしょう!?」
悪ノリしたのか、実幸とライが俺の腕に抱き着いて来る。まさに女2人を侍らせている男の完成だ。……勘弁してくれ!!!!
レシピをいくつか渡し、他の人たちにも挨拶を済ませ、俺たちは中庭に出た。するとウェダイアンが嬉しそうに顔を上げた。そして実幸に向かって突撃。実幸はそれをなんとか受け止めつつ、微笑みを返した。
「ダイヤちゃん……出会ったばかりですけど、ここでお別れです……」
「グキュ?」
「残念ですけど、貴方は連れていけないんです……皆さん、びっくりしちゃいますからね」
「キュ……」
「……元気にしててくださいね。絶対、いつか会いに来ますから」
「グルッ!」
「貴方はこの国から出て行って、元の場所に戻っても大丈夫です。……まあ、もしまた貴方に害を成す人間がいましたら、全力でぶっ飛ばして大丈夫ですから!!」
「グルルッ!!」
「死人を出そうとするな」
意気揚々ととんでもないことを言い放つ実幸と、意気揚々と返事をするウェダイアン。邪魔はせず、傍からそれを聞いていた俺は、思わずツッコミを入れてしまうのだった。
最後に足を運んだのは、オルカ陛下のところだった。まあ、1番偉い人なので、なんとなーく最後にしようと思った所存だ。
「オルカ陛下、また俺たちは、別の世界へ向かう運びとなりました」
「そうか……気を付けて向かてくれ」
「はい、もちろん」
「この度は……本当に、我がミヴァリア王国を救ってくれて、ありがとう。勇敢な若者2人よ」
「お安い御用でした!!」
「はは、頼もしいお言葉だ。……今後は、君たち2人が現れなくても……様々な危機を、我々の手で解決していくつもりだ」
「……はい。皆さんで支え合って、国を発展させていってください。……ところで、オルカ陛下」
「何だい?」
「俺は、生きたいです。だから、生きていこうと思います。……こいつのために、何より、俺自身のために」
「……そうか。それなら良かった」
俺とオルカ陛下は、笑い合う。間に挟まった実幸だけが、何の話か分からずに戸惑っていた。
お別れは済ませた。口々に皆が悲しんでくれた。……最初はどうなるかと思ったけど、来て良かったな。
神のいるところに戻ってくると、そこには既に色んな人たちが集まってくれていた。わー……なんか……壮観だなぁ……。
人混みの中には、俺たちをここに連れて来た司教の姿があった。彼は宙に浮く椅子に座っている。足腰が悪いのだろう。
「おじいさん! お久しぶりです、大丈夫ですか?」
「ああ……ありがとう、大丈夫だよ。……まさか本当に、国を救ってくださるとは……」
「そんな大きなことはしていませんよ! ……貴方のお役に立てて、何よりです!」
実幸は司教の手を取り、朗らかに笑う。一方司教も、涙交じりに応答していた。
……そしてそれを見つめる神が、1人。
『……用は済みましたか?』
「ああ。……一応」
俺がそう答えると、神は微笑んだ。ようやっとかよ、とその顔に書いてある。仕方ないだろ。沢山の人にお世話になったんだから。
『それでは、転移を済ませてしまいましょう。……どうぞ、こちらへ』
神はそう言うと、手を上へ突き出した。そしてその手を振り下ろすと……そこに、何か薄いピンク色のモヤが現れた。光に反射して、キラキラ輝いている。
……ここに入ると、別の世界に向かうことになる……ってことか。
俺たちは見つめ合い、頷いた。ゆっくり、そこに向けて歩き出す。
「勇者様ー!!」
そこで、後ろから声がした。
その声を合図にしたように、様々な声が届く。
「ありがとう!」
「一生忘れません!」
「また来てください!」
「2人が来てくれて良かった!」
俺たちは再び顔を見合わせる。……そして笑って。
「皆さん、お元気で!!」
実幸が叫び、手を振った。それと同時に、沸き上がる歓声。どこかで泣き声も聞こえた。……その全てを背に受け、俺たちは再び前を向く。
「行くか」
「うん」
確かに、寂しいけれど、俺たちはもう振り返らない。
だってきっと、また会える。
俺たちはそのモヤの中へ……同時に飛び込んだ。




