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第47話 から回っている

 ジルファ先生と別れ、俺たちはそのまま道なりに進んでいった。すると彼の言っていた通り……行った先には、洞窟があった。いかにも「中になんかいます」、というような洞窟だ。なんと分かりやすい。


「……来ちゃったねー」

「来ちゃったなー……」

「……とりあえずお昼でも食べる?」

「そうだな……腹が減ってはナンチャラって言うし……」


 というわけで俺たち、洞窟の真ん前でレジャーシート(※魔法で出した)を敷き、そこで俺の作ったサンドウィッチを食す。

 サラダを挟んだもの(実幸はマヨネーズが苦手だから入れていない)に、カツを挟んだもの。絶対勝つ、的な。そして魚を挟んだもの。ザックラバスを思い出して、少し悲しくなったりして。

 俺たちは様々な種類のサンドウィッチを食べていく。


「そういえば……ジルファ先生の最後の言葉……あれ、どういう意味だろう?」


 ふと実幸が、そう言って首を傾げた。俺はそれを聞き、ああ……なんて気の抜けた返事をしつつ、考えた。

 ジルファ先生の、別れる直前の言葉。



 ──魔法はまだ、貴方たちにかかったまま残っています。……それが役立つと信じて。



 神のお導きがあらんことを。そう言ってジルファ先生は、それ以上何も言ってくれなかった。


「確かにな……教えてくれそうな雰囲気じゃなかったし……」

「……ま、いっか!! サンドウィッチ美味しい~!!」

「お前から言ったのに素早すぎる切り替え」


 聞いてきた本人がいい、と言ったので、俺も気にしないことにした。先程の実幸ではないが、今は目の前のことに集中するべきだろう。

 腹ごしらえして、戦いに備える。


「……あれ、ふふ、お腹が減ってるんですか? どうぞ、私ので良ければあげますよ~」


 すると前方からそんな声が聞こえた。顔を上げると、実幸の周りを飛ぶ小さな生物が。実幸にサンドウィッチを差し出され、喜んで食べている。……。


「……ドラゴンじゃねーーーーかっ!!!!」

「わぁっ!? 急に大声出さないでよ!?」


 実幸が大きく肩を震わすと、持っていたサンドウィッチが地面に落ちた。……しかし、小さな生物──ドラゴンの子供だろう──は、それにすら嬉しそうに食べついた。

 だが実幸は、ばっちいから駄目ですよ、と言ってそれを奪い取る。露骨に悲しそうにするドラゴンの子供には、俺から新しいのを差し出してやった。


「……いや、だって、驚くだろ普通に。これから戦いに行く相手の……たぶん、子供だろ?」

「まあ……でも可愛いね!!!!」

「頭がお花畑みたいで何より」


 怒る実幸の言葉は右から左に受け流し、俺は目の前にある洞窟を見上げた。

 ……この中にウェダイアンがいる……というのは、疑っていたわけではないが……どうやら、本当みたいだな。





 サンドウィッチを全部消費してしまったため、ランチタイムはそこで終了となった。子供ドラゴンとも別れを告げ、俺たちは軽く準備体操をする。体育か、というツッコミは、心の中に控えておいてくれ。他にすることが思いつかなかったからこうなったのだ。

 俺は腕を組み、実幸を背中の上に乗せ(背中を伸ばす運動である)、実幸にも軽く乗せてもらう。そして手を繋ぎ、体の側面をぐーっと伸ばした。うん、いい準備運動。


「……夢」

「何だ?」


 準備体操は体操と言うだけあって、若干息は上がるものだ。息を整えつつそう問いかけると、全く息の上がっていない実幸は告げる。


「準備はいい?」


 実幸は……笑っていた。

 ピンチも楽しむことが出来る、そんな実幸らしい。


 そして俺は今日も、そんな実幸に振り回されている。


「ああ、いつでもいいよ」


 俺の返事に実幸は満足そうに頷き……前を見据え、歩き出した。俺はそれに続き、歩き出す。


 次にここに来るときは、笑顔で来よう。そしてその後は、何でもない日常の1つとして、あっさりと語ってしまおう。なんてことはない。たかが実幸の人助けに巻き込まれた案件が、1つ増えるだけなのだから。


 そう心の中で唱えると、俺は比較的リラックスしつつ、歩を進めることが出来たのだった。





 中は薄暗く、ジメジメしていた。しっかり足元に気を付けて歩かなければ、滑って転んでしまいそうである。


「実幸ー、足元気を付けr……」

「どわっひゃぁッ!!!!」

「…………………………」


 言い終わる前に転んだらしい。盛大な音が響いた。俺はため息を吐き……杖を取り出す。



「〝行く先を示す光よ、温かに周りを照らせ〟」



 すると、杖の先に光が灯る。古びた蛍光灯くらいの出力だけど、俺にはこれでいい。あまりここで魔力を消費しすぎるのも良くないしな。

 光のお陰で、実幸の姿もうっすらと見えた。尻もちを付き、半涙目になっている。


「……立てるか?」

「う、うん……」


 杖を持っていない方の手を差し出し、実幸が頷いてこちらに手を伸ばした、その瞬間。



 ぶわっ!! と、洞窟の奥から強い風が吹いた。



 突然のことに俺は対応出来ず、実幸と同じようにひっくり返ってしまう。いってぇ。


「ゆ、夢!? 大丈夫!?」

「だ、大丈夫……」

「夢ー!!!! 死んじゃやだーーーー!!!!」

「勝手に殺すな!!!!」


 そんなコントを繰り広げてから、俺たちは立ち上がる。……そして洞窟の先に目をやった。


 風が吹いた、ということは……この先に出口がある、ということか? いや、でも、ここはウェダイアンの住み家、って……。


「……進むか」

「う、うん」


 考えても仕方がない。転ばないよう、俺たちは手を繋ぎ……そのままゆっくり、先へ進んでいった。





 奥へ奥へと進んでいくと、その風の正体はあっさりと分かった。

 結論から言うと、出口があるわけではなかった。あった、というか、居たのは……1体の大きなドラゴンだ。


「……ふしゅー……………………」


 ドラゴンは固く目を閉じている。心地よさそうに、鼻から()()()()()()()()


 それを正面から受けた俺たちの髪が、服が、暴れ狂う。……強風の正体はこれか。別に誰に見られているわけでもないので気にする必要もないのだが、慌てて髪を整えつつ俺はそう思った。


 横で実幸も軽く髪を整えている。しかしすぐに終わったようで、俺に顔を寄せてきた。


「……どうしよう、ぐっすりだね……」

「だな……起こすのも忍びないし……ていうか、起きてたら起きてたで、どうするつもりだったんだ……?」

「んー……とりあえずまずは、お話しようと思ってて……」

「……話すって、それが伝わる相手だと思うか?」

「やってみないと、分からなくない?」


 それもそうだし、実幸には戦うコマンドが先に出て来ないのは分かっているが……。


 そんな話をしていると、前方で動きがあった。それは、寝ていたはずの巨大なドラゴン……ウェダイアンで。怠そうに目を開き、こちらを見つめる。その目には、なんというか……少なくとも、友好的な色は感じられない。

 ……そこまで大きな声で話したつもりは、なかったんだけどな。


 俺の背中を、大粒の汗が流れ落ちる感覚が、ありありとした。──睨まれただけで、失神は禁じ得ない……か……確かにこの威圧感を前に、意識を手放したくなるのも分かる。


 すると実幸が、動いた。一切の迷いもなく、滑らかな動きで。……俺が驚くと同時、実幸が微かに振り返った。


「夢。……手は出さないでね?」


 そう笑う実幸の頬に……汗が流れる。実幸も、緊張しているのだ。

 だが俺は何も返事が出来ない。実幸は返事を待たず、ウェダイアンに近づき、目の前で停止した。


「……は、初めまして」


 そう告げる実幸の声は、震えていた。しかし、しっかりと聞こえる声だ。……頑張れ、俺は、心の中で唱える。


 実幸の挨拶に対するウェダイアンの反応は……なかった。ただ無表情で、実幸を見つめている。……まるで、虫けらでも見ているみたいだ。


「……私は、小波実幸と申します。それで、えっと……敵意はありません!! 私たちは、貴方にお願いしたいことがあって……」


 言葉は伝わっているだろうか。気持ちは伝わっているだろうか。……そう考えて、不安になっても。……確かめる術は、ない。


「……魔物さんたちに、人を襲わせるのを……やめるよう、言ってほしいんです。もちろん、分かっています、元々は私たち、人間が悪いです……自分のために、貴方を傷つけようとした……ですが、そんな人たちばかりではないと、分かってほしいんです!! ……私は、貴方と戦いたくはありません。どうか、お願いします……!!」


 ……でも、なんとなく分かることが、1つだけあった。


 ……()()()()()()()


 ウェダイアンが微かに、体を起こした。大きな影が、実幸を飲み込む。

 マズい、と思った。恐ろしくて、声には出せなかった。


 ウェダイアンの大きな瞳の中に、小さな実幸が映る。そして、どこまでも怠そうに。



 ──言いたいことは、それだけか?



 そう、言われた気がした。



「──みっ……!!!!」

「……あ……」


 実幸の瞳に、恐怖が浮かぶ。俺は名前を呼ぼうとする。動こうとする。しかしその全部が、遅すぎる。遅すぎた。

 ウェダイアンが口を開く。その中に、渦巻く炎が見えて。



 にげろ。



 声にはならなかった。心の中で叫んだだけだった。

 実幸は、動かない。動けない。





 ウェダイアンが吐き出した炎が、実幸の体を──飲み込んだ。

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