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第46話 世界を救いに行きましょう!

 それから、1週間が経った。


 日常は変わりなく、と、表面上だけ見たら思うが、確かに何かが変わっている。城全体の雰囲気が柔らかくなったというか、そんな感じがする。やはりあのパーティ、主催して良かったな。作戦名はふざけてたけど。


 俺たちはなおも変わらず修行に励み、互いに励まし合い、美味しいものもたくさん食べて、1週間を有意義に過ごした。


 そして今日は、遂にウェダイアンのところへ向かう。





「魔法のステッキは持ったかー?」

「はいっ!! 持ちました、隊長!!」

「隊長になった覚えはない。俺の作ったサンドウィッチは持ったか?」

「バッチリ持っていやすぜアニキ」

「アニキになった覚えもない。何か気になることはあるか?」

「バナナはおやつに入りますか!?」

「入りません。デザートです」

「じゃあデザートに持っていきます!!」


 ……遂にウェダイアンのところへ向かう(2回目)。


 えー、はい。この緊張感の無さは何だと、そこの貴方は思ったことでしょう。安心してください! 俺も思っています。


 まあ俺も実幸の漫才に付き合っている辺り、緊張感ないけどな。

 でも思うのだ。別にここで緊張していたところで、ウェダイアンをどうにか出来るわけではないし。だったら少しでもテンションを上げていった方がいいのではないかと。つまり、ヤケクソだ。心中察してくれ。


 そして実幸は恐らく素面シラフである。素でこうなのだ。恐ろしい女。


 俺と実幸は制服を身に着けている。もっと戦闘着というか、そういうのも国は用意してくれていたみたいなんだけど、着慣れた服が良い、という実幸の一言でこうなった。ここに来た時はまだ「新品の服」という感じだったのに、ここで過ごしている内に「着慣れた服」になってしまった。こんなにも、体に馴染んでいる。

 高校にも通っていないのに、一丁前に制服だけ身に着けているのも、新手のギャグだな。


 実幸はその場でくるりと周り、俺を正面にして停止する。


「夢、準備OK?」

「……ああ、いつでも行ける」


 お互い手ぶらだが、それはいいのだ。なんか不思議なところに収納していつでも出せるようになっているので。虚空から杖を出すのと同じ原理である。

 俺の返事に、実幸は笑顔で頷いた。


「それじゃ、行こっか!!」





 俺と実幸、そしてジルファ先生、3人で並んで道を行く。すっかりいつもの顔ぶれというか。安心する。


 ちなみに騎士とか他の魔法使いも同行しているのだけれど、その人たちは後ろにいる。まあ、俺たちを気遣って……のことらしい。特に騎士たちとか、隙あらば実幸に近づこうとするからな。エスールが、そこに配慮してくれたらしい。


「……遂にこの日が来たのですね」


 歩きつつ、ジルファ先生が神妙な面付きでそう告げる。その声色にはどこか緊張が含まれていて、それがひしひしと伝わってきた。


「はい、時間をかけちゃってごめんなさい」

「いえ、謝ることではないんです。……あっという間だったな、という風に思っただけですので」


 謝る実幸に対して、慌てたようにジルファ先生が言った。


 あっという間。その感想は、俺も抱いている。


「……確かに、振り返ってみればあっという間だったな」

「もう……2ヵ月くらい? 経ってるもんね~」

「もう1回目の定期テストも終わってるんだろうな……」


 目を逸らす実幸。おいそこ、テストから逃れられたなら良かったとか思うなよ?

 俺の含みのある視線に、実幸は「イヤァ、ソンナコトオモッテマセンヨォ」と言った。俺は何も言っていないぞ。


 変わらず俺が含みのある視線を向けていると、実幸がそれより! と言って手を叩いた。冷や汗をダラダラに流しながら。


「今は目の前のことに集中しよっ! ほら、ウェダイアンさん元気かな~……とか……」

「まあ……一理あるな」


 俺がそう言うと、でしょー!? と実幸は満面の笑みを浮かべた。でもゆくゆくは元の世界に無理矢理にでも帰るつもりだし、どちらにせよ勉強から逃れられたわけではないぞ、実幸。


 俺たちのやり取りを眺めていたジルファ先生は、たぶん会話の3割くらいを理解していない。だが、いつものか……とでも言うような苦笑いを浮かべていた。


「……それでは着くまでに、ウェダイアンについて復習をしておきましょうか。私が教えたことを、覚えていますか?」

「バッチリです」

「……」


 迷わず返事をする俺。黙る実幸。


「お前……いつも言ってるだろ。授業の後は、ちゃんと復習しろって……」

「え、えぇっ!? べべべ別に、何も言ってないでしょ!?」

「その反応が言ってるようなものだろ……」


 じゃあお前、教わったことを言ってみろよ。と俺は続ける。すると実幸は露骨に引きつった笑みを浮かべた。そして俺から視線を外し、右上を仰ぎ……。


「……めっちゃ強い☆」

「3点」

「3点!?!?!?!?」


 1桁!? とのけ反る実幸。何故今の回答で2桁以上もらえると思ったのか。

 今からそのウェダイアンに会いに行くというのに、そんな浅はかな知識で大丈夫なのか、と思いつつ、俺はため息を吐いた。


「……ウェダイアンは、超上級クラスの魔物。危険度は最大のSSS(トリプルエス)。大きな翼に口に牙。4足歩行のいわゆるドラゴンで、全ての魔物を統率すると言われている。出会ってしまったらまず生きては帰れないし、そもそも滅多に遭遇エンカウントしない」

「おー」


 実幸が俺に拍手を送ってくれる。送ってる場合か。


 俺は呆れてもはや何も言えない。だがとりあえず、持っている知識を全て言っておくことにした。じゃないとこいつ、何も知らないまま挑みそうで怖い。情報を持つ者の方がはるかに有利だというのに。


「そもそも今俺たちがウェダイアンのところに行くのは、ウェダイアンが他の魔物たちを使役し、人間の生活を脅かしているから。原因は隣国のヘイヴィーシュラン王国。その国がウェダイアンの鱗を手に入れようと目論もくろんだだから。……ここまではいいか?」

「う、うん、覚えてるよ」


 良かった。ここの事情はきちんと覚えていたらしい。


「じゃあ次にウェダイアンの特徴。見た目はまあ……さっき言った通りとして。ウェダイアンは様々な攻撃を繰り出してくる。まず踏み潰されたらあっという間に肉塊にくかいだろうし、翼で一仰ぎされただけで台風並みの風力。恐ろしいほどぶっ飛ぶだろう。それに長い爪で切り裂かれるのもある。ウェダイアンにとってデコピン程度の力でも、まあ死ぬだろうな。後は、口から炎とか氷とか出すらしい……というのは口伝くでんだけで、実際に見た人はあまりいないらしいけど……その前に物理攻撃で死ぬからな。あとは最終奥義というか、精神攻撃もしてくるとか。なんでも、精神に干渉して、自殺するように促すみたいな……これはほとんど伝説程度で明確な証拠とかは存在しないみたいだけど……」

「ま、待って待って!! 多い!!!!」


 無心で覚えていることをそらんじた俺に、実幸が慌てたようにストップを掛ける。……確かに長いな。あくまで覚えていることを喋っただけだから。つまり、まとめると……。


「ウェダイアンの攻撃には3種類ある。物理攻撃、口から吐く攻撃、精神攻撃、だ。ただし後半に行くにつれ、信憑性は薄いと言える」

「おお、分かりやすくなった」


 実幸はそう言って手を叩く。なんかわざとらしい気がしたので、そこまで嬉しくなかった。

 というかお前も覚えてないとおかしい知識なんだからな!?


「夢さんは本当に覚えが良いですね。教えている側からしてもやりがいを感じます」

「こいつがおかしいだけなので、安心してください」

「ちょっと!?!?!?!?」


 そんな会話をしていたところ、後ろから足音が響いた。振り返るとそこには……エスールの姿が。


「司祭。……この辺で」

「……ああ、もうそんな所まで来ていたんですね」

「?」


 実幸は首を傾げる。一方俺は、どういうことなのか悟った。


「実幸様、夢さん。ここを真っ直ぐ行くと、洞窟があります。その中こそ……ウェダイアンの住み家です」

「……分かりました」

「そして、私が同行出来るのは……ここまでになります」


 俺たちが数歩先に進み、ジルファ先生は足を止める。並んで立つ俺たちと彼の間には、何か見えない境界線が引かれたような気がした。


「……同行してくださって、ありがとうございました」

「……ええ。2人とも、お気をつけて」

「はい!! まあ、ちゃちゃっと終わらせて帰って来ちゃいますよ!!」


 どこかしんみりとした空気になったのを、実幸が元気な声で破壊する。俺とジルファ先生はそれを聞き、思わず噴き出した。緊張しているこっちが、馬鹿らしく思えて。


「……何故でしょう、実幸様がそう言うと、本当にそうなってしまう気がしますね」

「おっ、分かってきましたか、ジルファ先生」

「えっ、何2人で通じ合っちゃってるの!?」


 ジルファ先生の言葉に、俺は深く同意する。実幸は俺たちの間で、何も分かっていなさそうだった。分かられても面白いが。

 一通り、笑って。


「……それじゃあ、行ってきます」

「行ってきます!」


 俺たちがそう言うと、ジルファ先生は微笑んで……。


 ……俺たちのことを、まとめて抱きしめた。


「「!?」」


 俺たちは声にならない声をあげる。しかしジルファ先生は、それなりに強く、俺たちのことを抱きしめていて。……解けそうになかった。


「……絶対に、帰って来てください。先生との約束です」


 ジルファ先生のその声は、どこか震えていた。俺たちは、少し黙ってから。


「はい」

「もちろんです!」


 迷わず、自信を持って、告げた。

 ふ、と笑う声がする。そしてジルファ先生は、俺たちを離した。


「待っています」


 彼の不安そうな、しかし俺たちを安心させるように笑う、その表情に、言いようのない感情が襲う。だが精一杯笑い返して。

 俺たちは、同時に頷いた。

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