第45話 2人が揃えば
というわけで、実幸とエスールの決闘は、実幸の勝利ということで終わった。
約束通り、エスールは実幸の方針に口を出さないこと。更に、ミヴァリア王国の全国民平等に向け尽力すると、一旦目覚めた彼は剣を掲げつつ約束してくれた。
小さいかもしれない、しかし、確かな一歩だ。
そして「皆で仲良し大作戦☆ ~同じ食事をすることで親睦も深まる~」についてだが……流石にそのままパーティを続けることは、不可能だと判断した。でも料理とか結構残ってたし……そのまま続けたい人はどうぞ、という具合にした。
しかしそうすると、その場には多くの人が残った。話題と言えば、先程の実幸とエスールの決闘。あれがすごかった、見ごたえがあった、あんな勝負、一生に一度見られるか否かくらいだ──。そんな声が飛び交った。そこに男女も、役職も、関係なくなるくらいには。
……あの決闘も、思っていたよりずっと多くの影響があったらしい。
誓った後再び気絶してしまったエスールは救護室に運ばれ、実幸は……自室に戻って療養することになった。付添人は、俺だ。
パーティを放っておいてもいいものかと思ったが、そこはジルファ先生とエルマさんが名乗り出てくれた。ここは自分たちに任せろ、と──。
……本当に俺は、いい人と出会えたものだ。
俺は2人にその場を任せ、実幸と2人、実幸の部屋に戻った。
「……えーっと……〝傷が癒え、元のように動けるようになーれ〟」
俺は杖を構え、実幸に向けてそう唱える。俺の杖の先から、淡く光が零れた。……それらは実幸のことを、優しく包む。特に実幸の体に出来てしまった生傷を覆うが……。
「やっぱり……駄目だ。俺の魔力じゃ……全部、完璧に治せない」
俺はそう言って項垂れる。実幸の傷は、塞がらなかった。苦労して、あれだけ修行しても、結局俺の魔法は、弱いから……。
「大丈夫だよ、夢、気にしないで。ちょっと楽になったし、ありがとう!!」
一方、実幸は、優しく笑ってそう言ってくれた。その笑顔に、俺は余計悔しくなる。……俺が、もっと強かったら……。
そう思うが、俺がすぐにもっと強くなれるわけではないし、実幸の傷が塞がるわけでもない。……俺は自分の感情を誤魔化すように、包帯を取り出した。救護室に務めていると言っていた女性から譲り受けたものだ。
俺は慣れた手つきでそれを実幸に巻いていく。……まあ実幸の人助けに付いて行った結果、俺が怪我をすることが多かったからな。慣れているのは、そのせいだ。
「それで……どうだ? 魔法、使えそうか?」
「んー……無理みたい。私、夢中になって魔法を使っちゃったから……この前みたいに倒れる一歩手前……って感じかなぁ」
実幸は魔法のステッキをその場でブンブン振り回しつつ、そう言う。たまにそれが俺に当たって、痛い。
そう、俺が治せないなら、実幸が自分で治療すればいいじゃん、という話なのだが、実幸はこうして今、魔法を使うことが出来ないのである。せめてもう少し休憩して、時間を置かないとだな。
俺は無心で包帯を巻いていく。腕、脚、と巻いていき、残りは脱がないと巻けないところだけになった。流石にここは自分でやってくれ、と言おうとしたところで。
「ごめんね」
実幸が突然、そんな風に謝罪をしてきた。
「……何が?」
俺が冷静に問いかけると、実幸は俯く。俺は実幸に対して跪いていたところから、隣に移動して座った。そして彼女の顔を覗き込むと、彼女はとても暗い顔をしていた。
「……私1人の勝負だったのに、結局、夢のことを巻き込んだ。それに……夢のこと、道具なんて言っちゃったし……」
「ああ……」
それを気にしていたのか、と思う。いや、正直いつも俺、実幸にいいように使われてるし……ぶっちゃけいつもとしてること変わらない気がするんだが……。
ああいや、でもいつもは、俺が勝手に実幸のために動いてるだけなのか。
「一緒にここに来ちまった時点でそんなの今更だし……俺たちは2人で戦うんだ。そういうものだと思ってる。……それに、俺も自分のこと『傀儡』なんて言ったしな」
「……迷惑じゃ、ない?」
「ごめん、迷惑とは十数年前から思ってる」
「ガーン」
実幸は涙目になって、セルフ効果音を発する。それを見て俺は笑いながら、彼女の鼻をつまんだ。
「ふにゅっ?」
「でも、俺たちには〝絆〟があるんだろ? この程度では壊れない信頼関係があるんだろ? 自分で言ってたじゃないか」
「そうだけど……夢も、そう思ってる?」
「もちろん」
俺は迷わずに頷く。
本当に迷惑なら、とっくの昔にどうにかして離れているはずなんだ。
それを本気でやろうとしていない時点で、「迷惑」なんてたかが知れている。
それこそ、俺たちの間には切っても切れない〝絆〟があるから。
「……そっか」
実幸はようやく笑ってくれた。俺も実幸の鼻から手を放す。ふみゅっ、と実幸は謎の悲鳴を上げた。
そして俺たちは顔を見合わせ、再び笑い合って。
……笑いも収まってきたところで、実幸が立ち上がった。向かうのは、俺の部屋よりもずっと広い窓辺。そこに、実幸は立って。
「……私、自分は強いんだと思ってた。ううん、実際に強いんだと思う。皆がそう言ってくれるし。……それで無意識に、私、うぬぼれてたのかも」
実幸はそう言って、俺の方を振り返った。
「夢がいなかったら、きっと私、負けてた」
「……そうかもしれないな」
俺のことを道具にする、なんて、そんな屁理屈が通じるのかと、実はヒヤヒヤしていたし。それで受け入れられなかったら、今頃勝敗は逆になっていたかもしれない。
……それでもなお、俺はなんだかんだ実幸が勝つとは思っているけど……とりあえずここは、頷いておいて。
「私、もっと強くなるよ。それで、もう戦うのが馬鹿らしいって皆が思うくらい……それくらい最強な魔法少女になる!!」
……なんか、笑顔でとんでもなく怖いことを言ってる人がいる。
正直、エスールとの決闘だけで俺にはすごい強いと思ったのに。更に上? しかも、戦うのが馬鹿らしいと思うほど? もうほとんどの人が戦うなんて考えられてないと思うぞ。……更にチート極めるのか……? 恐ろしすぎる……。
「……………………そっか、頑張れよ……」
「うんっ!! ありがとう、夢!!」
そして残念なことに、俺のコマンドには「応援する」以外ありゃしないのだ。あゝ無情。
「……でも、私1人だったら、ただの〝最強〟だから」
「?」
何やら含みのある言い方だ。俺が首を傾げると、実幸は満面の笑みを浮かべた。
「私と夢、2人でいたら怖いものなんてない……〝無敵〟なんだよっ!!」
無敵。
単調でいながら、絶対的な意味を持つ言葉だ。正直、俺1人が加わるくらいで、「最強」から「無敵」に変わるとは思えないが……。
「だから、夢、これからも私と、ずーっと一緒にいてね!!」
そう言って実幸に手を差し出される。……ずっと、って、お前、結婚とかしても俺といるつもりかよ。相手に嫉妬されるぞ。
……いや、そういう意味じゃないとは、ちゃんと分かってるけど。
「……お前みたいな暴走車を止められるのは、俺くらいだろうしな」
「暴走車って何!?」
「そのままの意味だろ……こちらこそ、これからもよろしくな」
「色々納得できないけど……うんっ!!」
その手を掴んで立ち上がると、実幸の周りに花が散る。もちろん比喩だ。それくらい喜んでいる様子だった、ということだ。
……俺と実幸、2人揃ったら、〝無敵〟……か。
……悪くないな。
「……? ニヤニヤして、どうしたの?」
「何でもない」
俺は誤魔化すように実幸の足首を軽く蹴る。すると実幸は乙女らしからぬ濁点交じりの悲鳴をあげると、その場に座り込んだ。
……あ、こいつが怪我人なの、忘れてた。




