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第43話 切り札

 ──しかし、熱くなってきた実幸の様子とは対照的に、エスールの動きは淡白なものだった。


 懐から、何か宝石のようなものを取り出す。あれは……!! 見覚えがある。ライに攫われた時、ライが通信用に持っていたあれに、似ている。だが、色が違う──。


 実幸の起こした嵐が、エスールに直撃する。……が、その嵐は、宝石の中に吸い込まれた。


「「なっ!?」」


 俺と実幸の声が、重なった。エスールは風でなびく髪をいなしつつ、言い放つ。


「──お返しだ」


 そしてその宝石を、実幸に向けて弾いた。


 宝石は宙を舞い、太陽の光に反射してキラキラ光り……その体に、ヒビが入った。

 その小さなヒビはあっという間に大きくなり、やがて……真っ二つに、割れた。


「っ!!」


 何か危機を感じたのか、実幸は魔法のステッキを構えて。



「〝皆さんを守る盾を〟!!」



 ……なんと、こちらに向けてきた。


「実幸!?」


 俺が叫ぶと同時、目の前に薄い膜が現れる。薄く虹色に輝くそれは、実幸の作り出したもので……。

 割れた宝石の中から嵐が吹き荒れたが、こちらからしたら向こう岸の火事も同然だった。


 ……完璧な盾だ。

 だが、実幸は?


 俺はその膜に触れる。それは見てくれの割に頑丈で、俺が殴ってもびくともしなかった。……見えないんだよ、砂埃で、実幸がどうなってるのかが……!!


 俺は奥歯を噛み締める。しかし、俺に出来ることは何もなかった。


 やがて砂埃が晴れる。そこで見えたのは……うつ伏せに倒れる実幸、その首元に剣を添えるエスール。

 ……誰がどう見ても、エスールの優勢だった。


「……残念だ、大魔法使い様。……もっと骨のある勝負を期待していたのだが」

「……あの、宝石……? みたいな……道具使うの……ズルいと思うんですけど……」

「魔法石のことか? 道具を使うことは禁止、というルールは設けなかったのでな。というか、そうなると、貴女も魔法を使えなくなると思うが」

「剣と杖以外は使用禁止とかでいいじゃないですか……!! いえ、もう勝負を始めてしまった以上、後の祭りですけど……」


 実幸は顔だけ上げ、自分のすぐ真横に剣があることに、一瞬体を震わす。……しかしそのまま動かず、エスールのことを見上げていた。


「……さて、大魔法使い様、降参するか?」

「……しません。まだ抵抗の余地はあります」

「……そうか」


 実幸の瞳は、やはり輝いている。そこに「諦め」の2文字はない。……だがそんな実幸のことをあざけるがごとく、エスールのとった行動は。


「これでも、同じことが言えるのか?」

「……ッ」


 エスールの懐からゴロゴロと出てくる、宝石たち。

 無論、この全てが……先程と同じ効力、魔法を閉じ込め、割れた時に同じ魔法が発動する、魔法石なのだろう。


「これは元来、魔法を持たぬものが、危険な目に遭った時に備え持っておく魔法石……その中に身を守る切り札となる魔法を閉じ込め、いざという時に割る。……しかし、貴女様ほどの魔力となれば、魔法石は10秒と持たない。……貴女様が魔法を使うだけで、簡易的な時限爆弾となるのだ」

「……私の魔力の強さが、仇になってる……ってことですか……!!」


 実幸は冷や汗を流しつつ、そう言った。その悔しそうな横顔は、俺も滅多に見ないもので。


 実幸は、強い。とにかく出鱈目なくらいの、力を有している。


 しかしエスールの方が頭を使っている。実幸への対策は……というより、誰に対しても負けぬよう、日頃からあらゆる事態をシミュレーションし、修行に励んでいるのだろう。そして実幸を相手に、自分に有利な盤面を持ってきた……。


 ……これが、ミヴァリア王国騎士団、騎士団長……!!


「さて、大魔法使い様、今一度ご自分の立場を理解されたら、降参と申して……」

「……ふふっ」


 誰もが、エスールの勝ちだと思った。

 いくらこの国を救うと言われている、はちゃめちゃに強い魔法使いだとて、この状況は覆せない。……そう思っただろう。


 しかし、そんなことは一切思わない人間は、ここに2()()いる。

 実幸と、もちろん、俺だ。


 確かにめちゃくちゃ心配だ。こちらから姿が見えなくなっただけで生きた心地がしなくなるし、実幸の心臓に剣先が向けられたときは、あいつじゃなくて俺の心臓が止まるかと思った。

 ……だが、それだけだ。


 俺は、知ってる。──実幸は、負けない。

 例えどんなに状況が不利でも……絶対に、ひっくり返して見せる。


「ふふふ……ふふ、あははははっ!!」

「な……何を。自身の状況に、笑うしかなくなったのか?」

「あー、いえ、すみません。違うんですよ。……いえ、ある意味ではそうかもしれませんね。今の状況に、笑うしかありません」


 実幸は立ち上がった。もはや剣など、全く意味を成していない。彼女は恐れることはないのだから。

 魔法のステッキを握り直し、エスールに向けてそれを突き付け。


 ──彼女は、不敵に笑う。


「……この状況からの逆転だなんて、いくらでも可能ですよ」



 実幸の豪語に、エスールはたじろいでいるようだった。しかし、今の自分の状況を思い出したのだろう。再び調子を取り戻した。


「……ほう、では聞こう。これだけの魔法石があれば、私に魔法は届かない。私は少しくらいのことなら、降参などとは決して言わない。君ほどの華奢な女性に、私を降参と言わせるほどの腕力があるとも思えない」

「……私に魔法しかないと思われても、困ってしまいますけど……」


 確かに私、握力18だけど……と聞こえた。うん、実幸は身軽だし持久力もあるから運動は出来るのだが……非力なのである。もちろん、エスールほどの屈強な大男に素手で敵うとは思わない。


 ……でも力が強い方が絶対に勝つ、というわけではないし。それは、今まさに証明したエスール自身が分かっているはずだ。

 だからこそ、実幸の大逆転も、不可能ではない。


「……切り札は、ちゃーんと残してあります」


 実幸はステッキを上に掲げる。エスールは眉をひそめた。


「……? 私に魔法は……」


 同じ事を言おうとするエスールに、実幸は被せるように。


「いつも自分に意識を向けてもらえると思ったらそれは恥ずかしい勘違いなんですよ~?」


 と、満面の笑みで言い放って。

 ……なるほど、実幸さん、どうやらそれなりにキレてるらしいです。



 実幸は素早く、小声で何かを唱える。そしてステッキの向く先は……俺。


 盾となっていた膜が消え、俺は光を浴びる。……それと同時、俺の頭の中に声が流れてきた。


 ──〝夢、聞こえる!?〟

 ……ああ、バッチリ。

 ──〝良かった、じゃあ……〟


 聞こえてくる声に、俺は心の中で頷く。

 ……まあ、結局こうなるよな……!!



 実幸と(切り札)は、同時に心の中で唱える。



 ──さぁ、反撃開始だ。

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