第42話 騎士団長vs魔法少女
流石に室内で暴れるわけにはいかない。2人は外に出た。向かった先は、広大な原っぱ。城の敷地内ではなく、誰もが通れるもっと広い所。
そしてそこに集まった沢山の観客。成り行きを見守っていた騎士たちを始め、事情を知らない教会の人たちや、エルマさんなど女性たちも集まっている。……先程までパーティーに参加していた全員が、2人の決闘を眺めに来ていた。
……えーっと……どうすりゃいいんだこれ……。
「ではルールを決めよう。命を奪うことはしない。相手が降参と言えばそこで終了。気絶など、相手が戦闘不能になっても終了。勝負は1回限り。……何か異論は?」
「いえ、ありません」
実幸は首を横に振る。ルールを再確認する様子もない。……珍しく、1回で覚えたらしい。それほど集中している、ということか。
いいだろう、と言うと、彼の瞳が……何故か、俺の方を向いて。
「……もう1人の勇者と呼ばれる者。君は手出しをしないように」
「……勝負に水を差すようなことはしねぇよ」
「それならばいいのだ」
俺の返事はお気に召したらしい。次にエスールの目は、ジルファ先生の方に向かって。
「司祭、貴方には審判を頼みたい。公平なものを頼む」
「……承知しました」
エスールに名指しされると、ジルファ先生は少し驚いた様子を見せてから、恭しく頭を下げた。
ルールの確認も終わった。審判も用意したし、横やりもない。
……あとは戦うだけ、だが……。
俺は実幸の方に視線を送る。大丈夫なのか? あいつ……。
すると実幸は俺の視線に気が付いたのか、軽く笑って手を振って来た。違うそうじゃない。……お気楽だな……本当に大丈夫なのか、あいつ……。
ジルファ先生は実幸とエスール、2人の間に立つ。そしてその大きな杖を掲げて。
「それでは、ルールは先程の確認の通り。……両者、準備は宜しいでしょうか?」
「大丈夫ですっ!」
「……問題ない」
実幸は魔法のステッキ、エスールは剣を構え、それぞれのテンションで頷いた。
ジルファ先生は緊張したような面付きで微かに息を呑む。……そして。
「では……始め!!」
高らかに、叫んだ。
それと同時、巻き上がる突風。
「「「「!!!!」」」」
観客の誰もが、軽く悲鳴をあげる。それほどの風が、勢いよく吹いたのだ。
今……一瞬しか見えなかったが、エスールが動いた。見えたのは、それだけ。
あいつ、実力を見るまでもなく、初っ端から本気かよ……!!
俺は現状を舐めていたのかもしれない。心のどこかで、手加減するだろうとか、初めから本気では来ないだろうとか、思ってしまっていたのかもしれない。……甘かった。どうして手出ししないと、言ってしまったのだろう。砂埃が上がってしまったせいで良く見えないが、実幸は、どうなって……。
「──な・る・ほ・ど~……強いですねっ!!」
するとそんな楽観的な声と共に、砂埃が晴れた。
そこには、剣と魔法のステッキを拮抗させる、2人が。お互い全力を尽くし、せめぎ合っているのだろう。剣と魔法のステッキは、微かに震えていた。
「……驚いた。最初の一撃で、気絶まで持ち込めると思っていたが……」
「舐めてもらっては困りますよ~!! 始める前に、自分に色んなことを強化させる魔法を掛けておきましたから!!」
「……色んなこと?」
「えーっと、まあ漠然と、強くなぁれ、的な?」
「……本当に貴女は、恐ろしい大魔法使い様だ」
エスールが微かに笑った。そして剣と魔法のステッキは、火花を散らして弾き合う。一度2人は、元の距離まで下がった。
「それでこそ、倒しがいがあるというもの!!!!」
「……殺すのは無しですからね!?」
きっと実幸のその声は聞こえていない。エスールは再び地面を蹴った。
一瞬で実幸との距離を詰める。そして剣で切りかかるものの、実幸はまるでその軌道を読んでいたかのように避けた。しかしエスールはすぐには止まらない。そのまま続けて、2連続、3連続、4連続……。
早すぎて、滑らかすぎて、俺にはその剣の行く先が見えない。いや、ここにいる誰もが同じことを思っているだろう。
──自分だったら、もう軽く10回は死んでいる。
「っと、ほっ」
しかし実幸は全てを見切り、その攻撃達を避けて見せた。その剣を避けるためだけの、最低限の動き。……先程言っていた、色んなことを強化させる魔法のお陰だろう。……アバウトすぎるけど。
だがそのアバウトさで、こうしてエスールに対応してしまっている。
「避けるばかりでは、興が冷めるというもの。貴女様からもぜひ動いていただきたい!!」
「えーっ……まあ、そうしないと終わらないのも事実ですね……」
何やら高ぶっているらしいエスールとは対照的に、実幸の口調はあくまでのんびりとしていた。……あれだけの連撃を避け続けているというのに、危機感というものが圧倒的に足りない。
実幸はその手にある魔法のステッキを、微かに動かす。……しかし。
エスールが剣を繰り、その動きを止めるように切りかかった。
「……だがさせない!」
「もーっ、動いてほしいのかそうじゃないのか、どっちですか~っ!!」
剣先と魔法のステッキの上部にある星が、丁度噛み合ってしまっている。そのせいで、実幸はステッキを全く動かすことが出来なくなっているらしかった。微かに震えていて、実幸が冷や汗を流していることから、それが分かる。しかし。
「……〝私が動けるようになーれ〟っ!!」
「!」
実幸のステッキから迸る動き。実幸がその光を浴びると、彼女は数センチ横に移動していた。少しの移動に過ぎない。しかし動けるようになるには十分。……実幸はすぐに、ステッキを振りかざした。
「……〝炎よ、全てを、〟」
「遅い!!」
実幸が呪文を唱えおわるより先、エスールの剣が実幸に届く──……。それは実幸の心臓を捉えたかに見えたが、彼女は一瞬顔をしかめ。
「〝焼き尽くせ〟っ!!!!」
そして実幸の足元で起こる爆発。剣から逃れるには役立ったが、代わりに実幸は爆発の衝撃で地面に転がってしまう。一方、同じく至近距離でダメージを受けたはずのエスールは、剣を地面に突き立てることで衝撃を殺していた。
……ぼろぼろになった実幸は、膝を付きつつ立ち上がる。その瞳から、まだ希望は消えていない。
「……騎士団長さん……殺す気で来ていますよね……?」
「そんなことはない。……貴女ならこれを避けると思った。それだけだ」
「今そういう信頼いらないんで!!!!」
流石に実幸は、少しイラついたように叫ぶ。そしてはぁ、と大きなため息を吐くと、再び魔法のステッキを構えた。
「……今は不問にしてあげますっ!!」
そしてそのステッキの先を、エスールに向けて。
「〝爽やかな風よ、ここで全て集まり、強大な嵐になーれ〟っ!!!!」
瞬間、その場に吹き荒れる嵐。
しかし実幸は何かしらの配慮をしてくれたのだろう。こちらには一切風が届く様子はなかった。だが実幸とエスールにだけは、その衝撃がダイレクトに伝わっている。
実幸はスカートの裾を片手で抑えつつ、もう片方の、ステッキを持っている方の手に視線を移して。
「……いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
そしてその吹き荒れる風全てが……エスールの方へ、襲い掛かった。




