第39話 華やかな飾りつけの魔法
というわけで、前回の話の冒頭に戻る。
「皆で仲良し大作戦☆ ~同じ食事をすることで親睦も深まる~」という、だっs……いや、斬新な作戦名の元、俺たちは計画を実行に移した。
オルカ陛下の強力な後ろ盾も頂き、こうして俺たちは好き勝手やっている。
眼下には、騎士たちと教会のやつら。そして……いつも厨房にいて表舞台には姿を現さない、女性たち。更に他の仕事をしている女性たちも。……城に住む人たち皆が、ここにいる。
そしてその誰もが、不審げな視線を俺に向けている。
「はい! 今回はですねぇ、私たちが皆さんともっと仲良くなりたい~♡ ということで! オルカさんに許可を頂き、こうして皆さんには集まっていただきました~!!」
なるほど、きちんと建前は用意されていたらしい。ただ単に「皆に仲良くしてもらいたい」なんて言っても、帰られるだけだからな。
実幸のマイク越しの声に、人々はザワザワヒソヒソ、何かを話している。この会の主旨は理解したものの、まだ戸惑っている……という感じだ。
あ、ちなみにマイクは、魔法で取り出しました。スピーカーもセットですので、会場(※城の中にある大きなホール)によく響きます。
「おい勇者様、質問してもいいか!?」
そこで騒めきの中から、ひときわ大きな声が響いた。自然と騒めきもピタリと収まる。そして声の主に、注目が集まった。
「はい! もちろんですよ~」
実幸はのんびりとした声で答える。緊張感がない。
俺は声の主をぼんやりと眺める。そしてそれが誰か分かった時、俺は思わず、あ、と言ってしまった。
真っ直ぐにこちらを見つめる声の主。それは、毎度お馴染みゲルニカだったからだ。うん、正直予測できてた。
「どうしてこの場に、魔法使いとか女もいるんだ!?」
その発言に、場の雰囲気が一気にピリつくのが分かった。
魔法使い、というのが教会のやつらのことで(教会に所属する人は、原則皆が魔法使いであるらしい)、女は言うまでもなく。
そしてその言葉は暗に、「彼らと同じ空間にいたくない」と言っていた。
こっちだって、来たくて来たんじゃない。一緒に居たくているんじゃない──。そんな声が、ちらほら聞こえてくる。ゲルニカの言葉で、不満が現れていく。誰もが心の中で抱えていた鬱憤が、溢れ出しそうになるのが見える。
……最悪の空気だ。
そう思いつつ、俺は傍観を決めていた。まあ隣にいるやつが、どうにかするだろ。……さて、どうする?
「……では貴方に聞きます。私のこと、好きですか?」
「は? え、まあ……この国を救ってくれる勇者様っていうし?」
「そうですか! それは良かったです~!」
今の質問に、どんな意味が? と言わんばかりに、ゲルニカは眉をひそめている。実幸は相変わらずの笑顔で、ところで、と続けた。
「私だって魔法使いですよ?」
その言葉に訪れるのは、静寂。
「それに、私は女です!」
誰の発言も許さない空気。
実幸は堂々と胸を張っている。まな板の胸を、とか言うと殴られるな。やめておこう。
「え、いや、でもそれは、勇者様だからで……」
「え!? でも、『魔法使い』であり『女』である私を好くことが出来てますよね!?」
「いや、だから」
「1回でもその経験があるなら大丈夫ですよ! 貴方はやれる人です! 自信持って下さい!!」
「……どうも!?」
謎の励ましになってしまった。
というか、「どうして」から始まった質問なのに、全くそれに答えてないんだが。
でも謎の空気に、なんか皆ゴリ押しされてしまっている。ゲルニカも、すっかりいつもの調子を奪われてしまっていた。
……それに俺が耐えられるはずもなく。実幸の隣で、俺は必死に笑いをこらえていた。いや、こらえられていないので、必死に皆から顔を逸らし続けていた。
「さて! 質問は以上ですね! 他に質問はありますか!? ありませんね!!」
考える時間を与えてやれよ。
「では皆さん! その場から動かないでくださいね~! ……」
実幸が俺に目配せをする。なんとか笑いを押し留めた俺は、頷いた。
そして実幸がマイクを消し、代わりに魔法のステッキを取り出す。それを、2人で握って。
「「〝色とりどりな料理と飾りつけで、素敵なパーティになーれ〟っ(!!)」」
呼吸を合わせ、同じ呪文を唱える。
すると、光が人々の頭上を舞った。それは中心で弾けると、人々に降りかかる。
たちまち現れる、出来立ての料理。
風船やリースなど、心躍る飾りつけ。
人々を照らす眩い電灯。
フォーマルに変わる人々の服。
……あっという間に、パーティ会場の完成だ。
最終的な仕上げに、俺たちも服装を変える。実幸は淡いピンク色のワンピース。下に行くにつれ、白く変わっていく。ピンクと白のコントラストが映える、春の桜を思わせる服だ。
一方俺は、灰色のスーツというシンプルなものだ。胸ポケットには、ピンク色のスカーフを刺してある。まあ遊び心、というやつだ。ちなみに前は開けている。暑苦しいので。
他の人の服装も、フォーマルで動きやすいものに仕上がっている。好きな色になるよう、かつ似合うような服に設定しているから、きっと気に入ってもらえるだろう。
人々の反応を見る。あちらこちらから、歓声が上がっていた。すごい、こんな服着たことない! かわいい! すごい動きやすい──。そんな声が聞こえてくる。
俺と実幸は顔を見合わせ、そして、笑い合った。
「……それでは、立食パーティのスタートですよっ!! えー、ここの料理は、全て夢と厨房の方々が、丹精込めて作ってくださいました!! 作ってくださった方、そして食材などにも多大なる感謝をして、食べて、談笑を楽しんでください~!!」
実幸のその締めの一言で、皆は動き出す。先程までのピリついた空気はない。朗らかな雰囲気となっていた。
……とは思うが、やはりそう簡単にはいかないらしい。
というのも、パーティは主に3グループに分かれていた。皆様のご予想通り、騎士たち、教会のやつら、そして女性たちの3グループだ。
こうして俯瞰して見ていると分かりやすい。分かりやすく纏まっていて、「互いに我関せず」、という感じだ。
……だがそれだと、意味がないのである。
俺は女性たちに近づいた。そこには見慣れた顔ぶれがいる。
「エルマさん、楽しんでいますか?」
「ああ、ユメ。お陰様でねぇ」
厨房のトップ、エルマさんだ。もうお酒を飲んでいるらしく、その顔は微かに赤かった。
「アンタが提案してくれた料理、皆に好評みたいだよ! アタシも鼻が高くなっちまう」
「はは、作ってくださったのは皆さんですし」
「……ところでユメ、これは、あの勇者様が皆と仲良くなりたいがための会だと言っていたが……それは建前なんだろう?」
笑っていたと思ったら、急に真面目なトーンになる。俺は思わず動きを止めた。
「本当は、この城にいるヤツら皆まとめて仲良くさせる……違うかい?」
「……さて、どうでしょう」
俺は薄く笑いつつ、そう返した。長年の経験があるからだろうか。この人は、物事の核心を良く突いてくる。酔っているだろうというのに、末恐ろしい人だ。
「……ま、アタシゃなんでもいいけどねぇ。……ただアタシも人間なのさ。いくつになっても変わるモノ……アンタと出会って、アタシも変わったんだよ。男にだって、悪い奴らばかりじゃない……そう分かった」
「……」
「アンタが正直に言うなら、協力してやらんこともないよ?」
「……!!」
エルマさんの言葉に、俺は大きく目を見開く。するとエルマさんの目が細まり、口角が大きく上がる。……これは、俺の反応でバレたな。俺は苦笑いを浮かべつつ、口を開いた。
「……そうなんです。ここにいる人、皆を仲良くさせたくて。……発案者はあいつで、俺は協力しているだけですが」
「はぁ~、勇者様は立派な考えをお持ちだ。……分かったよ。出来ることはしてやるさ」
エルマさんは満足げに頷くと、俺の肩を軽く叩いてから歩き出す。向かうのは、男性……魔法使いこと、教会のやつらの方だった。
どうするつもりなのだろう。念のため、俺は彼女の背を追って歩き出した。




