第38話 作戦会議
「というわけで、『皆で仲良し大作戦☆ ~同じ食事をすることで親睦も深まる~』、開始です~!!!!」
「…………………………」
意気揚々と叫ぶ実幸の横で、俺は努めて気配を殺していた。無理だろうけど。だって俺に視線が集まっている。ほぼ全員の視線だ。そしてその全員が、俺に「説明しろ」と訴えている。
……説明って言ってもなー。俺から言えることは一言で。
……実幸に関わってしまったのが運の尽き、ってことだよ。
協力してくれる? そう尋ねてきた実幸に対し、断る理由など、あるはずもなかった。
もちろん、と快諾すると、実幸は話してくれた。その、「やり残したこと」とやらを。
「……騎士の人たちと、教会側の人たちがいるでしょ? その人たち、どうも仲が悪いみたいだから……なんとか仲良くさせられないかな、って……」
それを聞き、ああ、なるほどな。と俺は思った。
確かに、騎士たちと教会のやつらは仲が悪い。初日から見てきたし、ゲルニカとジルファ先生の口論も、目の当たりにしている。日頃からあんな調子なのだろう。
……俺はそんなのどうでもいいし、興味もないから、そんなこと考えてもいなかった。それを「どうにかしたい」と考えてしまうのは、やはり実幸らしい。
「……俺たちの後衛も、騎士たちと教会のやつらが務めるみたいだからな。仲が良いに越したことはない、というか、同じ戦線をくぐるなら、仲が良い方がいいな……」
「おお、計算高い……」
実幸は冷や汗を流しつつ拍手をする。いや、別に、普通の分析だと思うけど。それより。
「ただこの世の中には、どうやっても仲良く出来ないやつは、絶対に存在する。そういうものなんだ。……それを了承しておけよ。全員仲良し、って、都合良くいくとは思えない。それにあそこは、だいぶ拗れてるみたいだからな……」
「分かってます! 私だって、皆手を繋げば仲良く出来るなんて、思ってないよ」
「……ならいいんだけどな」
念のためそう言うと、実幸はガッツポーズを見せてくる。頼もしいと思わせたいのか、そのポーズの意味は謎だが、まあ分かっているのならいいのだ。
世の中、なんでも一筋縄にはいかない。
……実幸なら、そのセオリーすら飛び越えさせてしまいそうだけどな。そうは思うが、口には出さなかった。
「で、具体的にはどうするんだ? 割と発言力のあるお前が『仲良くしろ』って言ったところで、うわべでは執行されても、裏では結局仲悪いままだし」
「ちっちっち。助手くん、私をそんな脳筋馬鹿だと思ってもらっちゃ困りますねぇ~」
「おっと自覚がおありで」
そう言うと、ぽかぽか殴られた。地味に痛い。それに、脳筋馬鹿なんて思ってねぇよ。……脳内お花畑馬鹿だとは思ってるけど。もちろん俺は賢いので、言わない。
話の腰を折られた実幸は、うおっほん!! と大袈裟な咳払いをしてから言った。
「して助手くん、君はどうやって厨房の方々の信頼を勝ち取られたのでしょうか?」
「何故助手に敬語を? ……どうやってって……」
俺は思い出す。ここに来てすぐのことを。実幸を探し、城の中をアテもなく歩き回り、ようやく辿り着いたのは厨房。周りに味方は存在せず、疑いの目を向けられる中、俺がしたことは……。
……俺の弱さを赤裸々に語り、それで笑われ……。
「はい時間切れーーーー!!!!」
「クイズだったのか!? というか俺のことで俺にクイズとかなんつー不毛なことを」
「でも答えられなかったじゃん」
それは俺の情けないところを見せるのが嫌だからだよ察しろ。
しかしそんな俺の思いを他所に、実幸は堂々と口を開き。
「それはズバリ!! 料理!!」
しかも俺の回答と違った。
「ああ……そっち……」
「? そっち、って?」
「いや、なんでもないです……」
言及されても面倒だし、恥ずかしいところを自分から晒したくもないので、それで? と促した。実幸はハッとしたように目を見開き、人差し指をピンと立てる。
「私!! 美味しいものには、人を自然と笑顔にさせる効果があると思うの!!」
「おう……」
「心は和やかになるし、自然と雰囲気も柔らかくなると思うんだよね。そうすれば……ちょっとは、穏やかに話せるようになるんじゃないかなー……なんて……」
「……なるほどな」
チラッ、とこちらの反応を窺う実幸に対し……俺は、微笑みを向ける。
確かに料理は、食べるだけで心が休まる。好きなものを食べた時なんかは、特にだ。もちろん、そうならない人もいることは分かっているが……それでも、アイディアとしてはいい。
いつも人の幸せ、笑顔を考えている実幸だからこそ、思いつくことだな。
「良いと思う」
「ほんと!? そう言ってもらえて良かったぁ~……」
「で、俺はどうすればいい? ……なんとなく予測は付いてるけど」
「その予測通りだと思う! 夢には、その料理を作ってもらうのと、私が司会をするから、横に立っててほしい! 安心要員!」
「そりゃ光栄なことで……」
横にいるだけで安心すると思ってもらえるなら、こんなに嬉しいことはない。
……ない、のだが。
「……念のために聞いておこう。実幸、騎士と教会の人、合わせてどれくらいいるか知ってるか?」
「知らない」
「騎士たちが確か3,000くらい。教会の人も同様に3,000くらい。合わせて6,000くらいだ」
「わぁ、多いね~」
「俺1人に作らせる気か!? 殺す気か!?」
どれだけ時間が掛かるんだよ全く!!!! 一生かけても終わる気がしない!!!!
「べ、別に、そんなこと言ってないでしょ~!? そこは……えっと……夢にどうにかしてもらって……」
「俺に丸投げか!!!!」
はぁーーーー……と、クソデカため息を吐く。……アテがないわけではない。それこそ、厨房の皆様に協力を仰げばいいのだ。いつも騎士たちや教会の人たちに料理を作っている、プロたちなのだから。俺のようなアマチュア料理人より、よっぽど役に立つ。
……だが、協力してくれるかどうかは……いささか読めない。
あの人たちは、男性に嫌悪感を抱いている。そもそも、受け入れてもらった俺が奇跡のようなものなのだ。……いつもの料理は、恐らく仕事だと割り切っているから出来るのだろう。しかし今回は? あくまで俺たちの個人的な一存でやることだ。しかも男性たちのために。……例え俺たちの頼みであっても……。
……望み薄だな。
「……だったら」
「?」
気づけば俺は口に出していたようで実幸が首を傾げる。俺は彼女の顔を見つめ、告げた。
「なあ、それ、仲良くする対象を増やしてもいいか?」
実幸はキョトンとしていたけれど、すぐにいいよ、と頷いた。満面の笑みで。
考えなしかよ、と思ったが、まあこいつにとっては誰もが仲良く出来るのなら、それが1番いいのだろう。




