第35話 授業前のガトーショコラ
……はーい、本編に戻りまーす。
疲労困憊している俺はほっといてくれ。どうせすぐ回復する。
……というわけで、実幸の話をしよう。前回のお話で実幸がチラッと言っていたように……実幸の魔法の腕は、格段に上がっていた。怒りのままに魔法を使いつつも、意外と理性は飛んでいなかったりするので、「死なないようにしつつも捌く」という行為に成功したらしい。そしてその経験を覚えているので、これがとても活かされる。いつも通りの中庭の練習でも、それを発揮していた。
「……夢さん、大丈夫ですか」
「疲れました……」
「はは……お疲れ様です」
お久しぶり、ジルファ先生に労りの言葉を掛けてもらえ、俺は半涙目になっていた。ちょっと今の俺、疲れすぎて優しさに弱い。……ジルファ先生、引いたような顔をするな。
だがそんな俺に構わず、実幸はノリノリで魔法を使っている。どうやら、自分の思い通りに、自由自在に魔法を使えるのが、楽しくて仕方がないらしい。実幸がそう楽しそうだと、俺まで少し元気が出る。……少しだけだけどな。
「〝炎よ、私の意思に従って、舞い上がれ〟!!」
実幸が高らかに告げる。すると魔法のステッキの先で灼熱の炎が渦巻き……実幸が振り下ろすと共に、その火の弾は、的に一直線に向かって行った。的は焼き尽くされるが、その他周りの草木に影響はない。ないように調整しているからである。……初めは大火事を起こしていたのにな……大きな成長だ。
しかも自分で的を新調する余裕まであると来た。俺なら……出来ても2回とかかな……あとは疲れすぎて、ぶっ倒れる自信がある。実幸はあんなに元気なのに。
再び実幸は魔法のステッキを振り上げる。次は何をするのか……と、ジルファ先生と2人、並んで座り、それを見学。
「〝木よ、地に根を生やし──〟」
「〝水よ、この大気を巡り──〟」
「〝土よ、英気を養い──〟」
「〝風よ、葉を遠くまで運び──〟」
すると実幸はなんと、魔法を4連続で使ってしまった。しかもファンタジー作品でよく見るような……五大元素とかいうやつだったっけか?
的はボロボロ。しかしそのたびに実幸は、すぐに新調させて見せた。……見ているだけで疲れる。俺には絶対に出来ない。
……やっぱり、俺の方が上達が早かっただけで、実力は圧倒的に実幸の方が上……そのことに漠然とした焦りを覚えるが、俺は学んだのだ。俺と実幸が違うことは当たり前で、俺は俺に出来ることをするだけなのだと。
……というか……。
「てやーーーーっ!!!! ……あははっ、楽しい!!」
……傍から見たら、ただの破壊神である。こうはなりたくない。俺は心底そう思うのだった。
かなり時間も経ってきて、ジルファ先生が立ち上がる。その手には大きな杖が握られていて。
「……実幸様、そろそろ休憩致しましょうか!」
そう叫び、何か呪文を紡ぐ。すると金色に輝く小鳥たちが、その杖の先端から登場する。その数、ざっと15匹くらいか? 美しい光景に思わず見惚れていると、その小鳥たちは実幸の魔法を食べていく。……そんな表現が正しかった。
丁寧に、礼儀正しく、厳かに、魔法を啄んでいく。
魔法を中断された実幸は、不満げに振り返った。
「……実幸様、そろそろ休憩に致しますよ」
「えー……」
「えー、ではありません。お気づきですか? 実幸様、かれこれ1時間ほど、独自の修行に励まれているのですよ。……そろそろ休息が必要です」
「えっ、もうそんなにやっていたんですか!? ……ッ」
ピンピンしていた実幸だが、1時間も修行をしていたという事実を頭が理解すると、体もその疲労を思い出したらしい。後ろ向きに体が傾いたので、俺が慌てて駆け寄り、抱きとめた。
その体は、とても重い。まるで体だけ眠っているようだった。
「ご、ごめん、夢……」
「大丈夫か? 実幸」
「えーっと……ちょっと、体が動きそうになくて……」
「……馬鹿」
馬鹿じゃないもん!! と俺の腕の中で騒ぐ実幸。それだけ元気そうなら、まあ大丈夫か。ていうかお前、この前自分で「私は馬鹿だ」って言ってたじゃねぇか。
まあそれはともかく。ジルファ先生に地面に布を敷いてもらい、実幸をその上に寝かす。実幸は意識こそ覚醒しているものの、指1本動かせないような様子だった。
「良いですか? 夢さん。限界まで魔法を使うと、このような症状が現れます。もっと使うと意識まで失えますが、魔物たちの前でこのような状態になってしまったら、終わりですね。苦しんだまま確実に死んでしまうかと」
「私で怖い授業しないでください!!!!」
「はい、よく覚えておきます」
「夢、ツッコミ放棄しないで!!!!」
わざと放棄してんだよ。
「それでは夢さんの持ってきてくださったお菓子を食べましょうか。今日は何ですか?」
「今日はガトーショコラです。とても濃厚な甘さがいいんですよ」
「えっ? ちょっと待って? このまま? 私このままなの? 私のガトーショコラは!? ちょっと!? もーしもーーーーし!!!! ──」
俺はとっても優しいので、寝たまま動けない実幸の口に、ガトーショコラを突っ込んでやる。矢継ぎ早に突っ込んだせいで呼吸困難に陥りかけたみたいだが……俺は気づかなかったなぁ~。
まあ死んではいないのでいいだろう。そんなことはともかく。
「実幸様も夢さんも、だいぶ魔法の扱いが上達してきましたね。この調子なら、もう……上級クラスの魔物にも、引けは取らないのではないでしょうか?」
「えっ、もうそんななんですか」
「実幸様の実力なら余裕ですね。夢さんも……夢さんは、頭が回りますから。貴方のような上手い使い方をすれば、五分五分くらいになるかと思います」
「……これ、褒められてる……?」
「ここで貶す人がいますか?」
最初にめちゃくちゃ嫌そうな顔を向けてきたり、「意外と繊細」とかだったり言ってきた人が言うと説得力が足りない。
まあ謝罪は受け取ってるから、素直にこれは誉め言葉として受け取っていいのだろう。ありがとうございます。照れます。
「というわけでそろそろ、上級クラスの魔物への対抗の仕方の説明をしようと思うのですが、どうでしょうか?」
「良いと思いまーす」
「良いと思います! ……けど、あのぉ、私、いつまでこんな感じなんですか……?」
「そうですね……実幸様はとても多量の魔力を使っていらしていたので……あと30分は起き上がれないかと思いますよ?」
「やだぁぁぁぁ!!!! 起きてるのに一切動けないの気持ち悪いーーーー!!!!」
これから魔力配分気を付けますから!! という実幸の泣き落としで、ジルファ先生は回復魔法を使ってあげていた。やっぱりジルファ先生、実幸への甘さが抜けないな。




