第34.5話 誘拐騒動の後始末
ミヴァリア王国に戻って来た俺は……目の前の光景に、思わず固まった。
「「「「勇者様方、お帰りなさいませ!!!!」」」」
騎士一同、整列。とっても綺麗なお出迎え。
えっ、えっ、と俺が戸惑う中、隣にいる実幸は、何故か大量の冷や汗を流しながら。
「え、えっと、えーっと……くるうしゅうなーーーーいっ!!!!」
お前は殿様か。
そんなことを心の中でツッコみつつも、俺は足早に先を歩く実幸に、慌てて付いて行った。
「おい、実幸」
「な、なぁに、夢?」
「騎士たち、どうしたんだよ。あんな傷だらけで、しかもまるでお前のこと怖がるみたいに、なんか待遇のレベルがグレードアップしてるというか……!!」
「……今日はいい天気だねぇ~?」
確かにいい天気だと思う。外には眩い太陽。草木は風で揺れ、蝶だって飛んでる。ああ、いい天気だなぁ。お前の頭も。
「……お前さては、城抜け出すのに騎士たちフルボッコにしたな????」
「……ナ、ナンノコトダカサッパリダナァ~……????」
「何してんだよお前ーーーーッ!!!!!!!!!!」
露骨に青ざめ、目を逸らされた。もう確信犯だろお前。何のために俺があの一瞬で頭をフル回転させたと思っているんだ!! 騒ぎを大きくしないためだぞ!? お前が騒ぎの元凶になってどうすんだよ!!!!
頭を掴んでその場に正座させると、実幸は大号泣しながら告げた。
「だ、だってぇ~!! 私が城から出ようとすると、すっごい皆に妨害されたんだもん~!! 退いてって言っても退いてくれなかったんだもん~!! ……だったら強行突破するしかないっていうか……」
「今のお前の強行突破は最悪死人が出るんだよ!!!!!!!!!!」
「だっ、大丈夫!! 誰も殺してないよ!! なんか今回の1件で、魔法の扱いが格段に上手くなったみたいで……!!」
「おっ、それはやったな……じゃ、ねぇんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 騎士たちが可哀想すぎるマジで。お前全力で謝ってこい。マジで。はい、何か一言」
「えーっと……てへっ☆」
「もう俺お前と一生口聞かないから」
「さっき感動的な仲直りしたばっかりなのに!?!?!?!?」
実幸曰く、「スーパーウルトラアルティメット土下座☆」を全騎士にして回ったのを見届け、かつ、これをきっかけにヘイヴィーシュラン王国に戦争を仕掛けよう、などと色めき立つ騎士たちには、俺からライと同じような脅しをかけておいた。そんな馬鹿なことをするようなら、実幸の力が火を噴くぜ!! というやつである。漏れなく全員震えあがったので、大丈夫そうだ。
あと実幸が段々自分の存在の大きさに気づき始める頃な気がしたため、「力使って騎士たちに無理なお願いしたりするなよ」、と釘を刺しておいた。肩を震わせ、分かってるよ……と実幸。分かってなかったな。
そしてその翌日。
「あ、ユメくんおはよう~」
「…………………………」
何故か厨房には、ライの姿があった。見事に馴染んでいる。ていうか元々ここにいたんだから当たり前か。
彼女はいつも通り、同僚たちに挨拶をし、末っ子として可愛がられ、ただあどけなくそこにいた。戸惑う俺だけ取り残して。
俺は厨房の女性たちから少し離れたところまでライを引きずり、話を聞くことにした。
「やだ、ユメくん、そんな強引に……♡ 私、まだ心の準備が……♡」
「語尾にハートを付けるな鬱陶しい!! ……じゃなくて!! なんでライがまだここに!?」
飛んでくるハートは蹴っ飛ばして、苛つき交じりに俺はそう言う。するとライは、いつも通りののんびりとした笑顔で。
「ユメくんが、この件に関してはお互い不問だって言ったし、そういうことになったから……私の正体も、ユメくんは誰にも言わないでしょ? だから引き続きスパイは継続しろ、っていう上の判断だよ~」
「面の皮が厚すぎるぞヘイヴィーシュラン王国!!!!!!!!!!」
まさかそう来るとは思っていなかった!! 自分が天才だと自負しているわけではないが、俺の予測を超えるほどのクズたちだったとは思わなかった……。
確かに言うつもりはない。ライが本当はヘイヴィーシュラン王国の人間だと。ないけど……。
……今からオルカ陛下に言っても間に合うか?
「……それに、ミヴァリア王国への再潜入は、私から志願したんだ」
考え込んでいたところ、ライの声色が突然変わる。思考を止めて顔を上げると、ライの視線は……厨房の中に、注がれていた。
「任務の一環で潜入しただけだったけど……ここ、結構楽しくて、好きだったから」
「……ライ……」
その声色に、嘘はなさそうだ。確かにここにいる人は皆、良い人達だし……そう思うのも……。
「あとはユメくんのこと、本気になっちゃったからね~」
「…………は?」
「ユメくんのこと、本気で落としたくなっちゃったんだ♡ ……もとは、『惚れさせたらその分言うことを聞きやすくなるだろう』っていうっていう感じだったけど……絶対にないって言われたら、燃えるというか~……?」
「……何言ってんだお前」
俺は心底呆れた瞳でライを見つめていることだろう。そんなに見つめられたら照れちゃう、とライは頬を染めて笑った。照れるな。
「というわけで、またしばらくよろしくね! ユメくん!」
「絶対よろしくしたくない」
もうその朗らかな笑顔には騙されない。全力で距離を取りたい。無理な気がするけど。
疲労困憊しつつ厨房に戻ると……そこには何故か、整列したエルマさんを始めとした、厨房の女性陣が。
俺が固まっていると、先頭にいたエルマさんが。
「ユメ! アンタ……勇者様というものがありながら、ライに浮気かい!?」
それは問い詰めるような口調でありながら、どこかワクワクもしているような色も含まれていた。なんだ? 不倫好きなのか? 取り巻きというべきか……女性たちの波の中から、「修羅場!?」、「現場はここかしら!?」だなんて聞こえるし。
「そんなんじゃないです! ……まだ、ね?」
すると隣にいたライが、無駄に頬を赤く染めながらそう告げた。すると一瞬で、その場の空気が最高潮になる。……それが爆発する前に。
「……そもそも実幸ともそういう関係じゃないしましてやライとも関係があるわけないじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺の怒りの言葉が炸裂する。ああ、頭痛くなってきた。
そして俺は実幸との関係の誤解と、ライが自主的に広めた噂を鎮圧するのに、その後1週間を掛けるのだった。1番大変だったのは実幸だ。俺が男しか好きになれないの知ってるはずなのに、恋バナとなると目の色が変わるので、しばらくこっちの話をまともに聞いてくれなかった。
誤解を解いた後に聞くと、「まあ人生、『絶対』はないからね」だそうだ。それはそうかもしれないが。
とにかく……はあ、疲れた。なんで誘拐された俺が、1番その後動かないといけないんだ?




