第33話 大ピンチ(笑)
「なっ……!? 何事ですか!?」
ライは慌てたように服に手を突っ込むと、何かを取り出した。それは光り輝く宝石のような……あ、あれってあれか。よく本で見るような魔石ってやつか?
俺が呑気に考えていると、その魔石から声が返ってくる。
『し、侵入者だ!!』
「侵入者!? 何人ですか!?」
『それが……1人で……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』
相手側の悲鳴と共に爆発音が響き渡り、通信が途切れる。ちょっと!? とライが必死に呼びかけていたが、何も返ってはこなかった。
ライはそれを何度か繰り返す。しかし誰に連絡を取っても、最後は耳を塞ぎたくなるような悲鳴で連絡は途切れる。ただ俺はそれを、黙って見つめるだけだった。
……やがて、連絡を取れる人がいなくなったのだろう。ライはその場に、呆然としたように立ち尽くした。部屋の外からも、何も聞こえなくなる。あるのは、静寂だけ。
ライは俺を見上げた。絶望したように目を見開いたまま。
「何を……何を、したの?」
「俺は何もしてない」
「嘘っ!! じゃないと、こんなことになってるはずが……!!」
「言っておくが」
俺が悪者扱いか、と思いつつ、俺は頭を掻き。
「先に手を出したのは、お前らだからな」
それと同時、盛大に吹っ飛ぶ扉。可哀想に。南無。
開け放たれた空間から足を踏み入れたのは……やはり。
「ゆ、勇者、様……」
「……」
魔法のステッキを携えた、実幸だった。その顔に、いつもの純粋無垢な笑顔は無い。……恐ろしいほどの、無表情。だがその瞳だけには溢れんばかりの感情があり、こんなにも、怒りで燃えている。
実幸が一歩踏み出すたびに、ひっ、とライの口から悲鳴が漏れた。それほど今の実幸は怖い。うん、すげぇ怖い。
「……夢を攫ったのは、貴方ですか?」
「えっ、え、えっと……」
「貴方ですかって聞いているんですが。さっさと答えてください」
「わ、私、です……!!」
有無を言わせない様子に、ライはすっかり震え上がりながら答えた。その返事に対して実幸は、そうですか、と答えるだけだった。その声にはやはり、全ての感情が抜け落ちている。
……それを見つめる俺は、やっぱりか、とため息を吐くだけだった。
──というのも俺は前々から、こうして誰かにリンチされかけることが多かった。
何故? とは聞かないでくれ。理由は俺にもよく分かっていないからである。いや、たぶん実幸のお人好しに付き合わせられているせいだ。
というのも、実幸の人助けに付き合っていると、危害を加えていた側が逆上するケースが多いのだ。俺に。何故か俺に。俺主犯じゃないのに。主犯は実幸なのに。
だが俺がそうやってピンチに陥っていると、必ず実幸が助けに来てくれるのだ。異能力も何も持っていない、ただの無力な女の子が。
……ただそこに、誰もが恐れる「怒り」を携えて。
俺が危険な目に遭っていると、実幸はすごい怒ってくれるのだ。他の誰かでもここまではならない。俺だけの特権と言うべきか。まあ人のこと言えないというか。全力ブーメランなのだが。
……まあそういうわけで、俺は実幸が助けに来てくれるものだと分かっていた。誰もが恐れる「怒り」と、今回加わってしまった、「圧倒的な力」と共に。
……本当、ヘイヴィーシュラン王国も災難だな。こんなモンを呼び寄せちまって。
実幸は魔法のステッキを振り上げる。どうするか、なんて、聞かなくとも分かる。……だから、俺は。
「実幸!! やめろ!!!!」
この部屋を揺らすほどの大声で、そう告げた。
それだけでは終わらない。ライの横を通り過ぎ、縄抜けをして手を自由にする。その後、彼女の手を取った。極めつけには、口を開いて。
「……〝実幸の魔力よ、一時的に全て、俺に集まれ〟」
実幸の魔法のステッキが、俺の声に合わせて光る。それと同時、感じる熱。俺には考えられないような、途方もない力が、俺の中に集まっているのが分かる。
体が重くなり、倒れかけるが、大きく息を吸うことでなんとか耐えた。
「……夢……」
「……実幸。もういいから」
「……夢がそう言うなら」
実幸から放たれていた緊張が、解放されるのが分かる。実幸の雰囲気はいつものものに戻っており、俺は安堵のため息を吐いた。そしてすぐに実幸の魔力を返す。こんな大きなもの、俺にはずっと持ってはいられない。
体が軽くなる感覚に息を吐き出して……俺は振り返った。
「さて……ライ」
実幸の手から手を放し、俺は振り返る。するとライは大きく肩を震わせた。ライはすっかり腰を抜かしており、杖も地面に放り出して、座り込んでしまっている。
だから俺は彼女と目線を合わせるため、彼女の前にしゃがんだ。……さっきと立場は逆だな。
「……俺たちはこの件に対して、ミヴァリア王国に何も報告したりしない。さっきも言ったが、戦争の火種になるなんてごめんだからだ。だからお前らヘイヴィーシュラン王国も、この件に関しては口を閉ざしてくれ。無かったことにしろ。いいな」
「は……はい……」
足元の魔法陣は反応しない。この返事に嘘はない、ということなのだろう。
「……もしこの件についてお前らが言及したり、実幸に関わる件で戦争なんて起こした暁には……」
俺はそう言いつつ、後ろにいる実幸を親指で示した。
「……こいつがまた来るからな」
ここで俺が来ると言っても大した脅威にならないのが、悲しいところである。
勝手に脅威扱いされた実幸は、流石に空気を読んだらしく、何も言わなかった。ライが激しく何度も頷くのを確認し、俺は満足する。ここまで怖がった様子なら、大丈夫だろう。
俺は立ち上がり、実幸の方を振り返る。……少々気まずく思いつつも。
「……帰るか」
「……うん」
実幸もどこかぎこちなく笑うと、俺の言葉に頷いた。
「そういえば、これ」
「あ……ありがとう。やっぱり、これに気づいてくれたか」
「うん。これ見よがしに落ちてたから」
帰路の途中、実幸にある物を手渡される。……それは、俺の杖だった。
というのも俺は、ライに襲われたあの時……自分の身を守ることより、実幸に今の事態を伝えることを優先した。
まずは俺の異能力、「春眠の夢」で、俺が驚いたまま何も出来ていないように見せかける。だが実は、こっそり魔法を使うことには成功していた。今さっき言った通り、実幸に俺がピンチだというSOSを伝える……ただそれだけ。一瞬しか時間はなかったし、それだけで実幸には伝わると、分かっていたからである。次に、どこでそれが起こったのかを伝える余裕はなかったので、杖を落とすことでそれに代用した。もちろん異能力でライにはバレないようにした。拾われてしまえば意味がないからである。
そして、俺のSOSを受け取った実幸は必死に城内を駆け回り、俺の居た痕跡を探してくれたはず……いや、今は魔法でどうとでも出来るか。とにかく、襲われたその現場で俺の杖を発見してくれれば、後は魔法でどこに向かったか特定してもらえばいい。その後、実幸が単身で乗り込んでくるのも予測済みだ。こいつは、誰かに頼るという発想が毛頭ない。特に俺が関わっていると。だからこの件がミヴァリア王国に伝わることもない。
まあそういうわけで、俺があの一瞬で考えた作戦は、見事に成功した……というわけだ。ピンチの時でも良く回ってくれる頭で助かる。
「……」
「……」
だが、唯一無二の親友? 戦友? とも言える幼馴染と喧嘩のようなものをしている時、どうすればいいのか……ということに関しては、全く頭が回ってくれない。実幸が関わると俺はポンコツになるのだ。残念なことに。
でももともと、実幸ときちんと話すと決めて、飛び出してきたのだ。……しっかり、話をしないと。




