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第31話 思わぬ来客

 実幸はどこにいるのだろう。アテなどなかった。俺たちのいた元の世界なら、図書館とかを探せばいいけど。あいつ本好きだし。

 でもここにそういったところはなかったはずだ。だったらどこにいるのだろう。無難に部屋? それとも中庭にいるだろうか。いや……でも、俺が知ってる場所には留まってなさそうだな……。


 ……やっぱり、適当に探すしかないか。それとも、魔法を使って探すか? 俺程度の魔力だと、1階分しか捜索出来なそうだけど……。実幸だったらこの城いっぺんに魔法を使えるんだろうな……って、いないやつの話をしても仕方がない。というかそいつを探してるんだし。


 とりあえず今まで見てきた実幸の行動パターンから、いそうな場所になんとなく予測を付けて、そこを重点的に魔法で探していこう、なんて作戦を固めたところに。


「ユメくんっ!!」


 後ろから声が掛かった。聞き慣れた声に振り返ると、そこには厨房にいたはずの……ライの姿が。息を切らし、膝に両手を置き、肩を上下させている。


「ライ? なんでここに……」

「ユメくんを追いかけてきたの!」


 いやだから、なんで。


 俺が戸惑っているのも束の間。



「あの、私じゃ駄目かな?」



 いたく真剣な表情で、彼女は言い放った。



 俺はそれを見つめ返し。



 ──ごめん、何が?



 冷や汗を流しつつそんなことを思うが、とてもそんなことは言いだせない雰囲気だった。


 私じゃ駄目って何が? つまり誰かと比べてる? 誰と? どうしよう何も分からない。


 何も言わない俺に、ライはどこか苦しそうに眉をひそめる。そして叫ぶように。


「ユメくんがあの勇者様と相思相愛なのは知ってる!!」


 誰だその情報流したの。完全なデマだ。責任者を呼べ。


「でも今ユメくんにそんな顔をさせているのもあの勇者様でっ」


 えーっと。どんな表情だろう。


「私なら絶対、そんな顔させないからっ!!」


 ……あー、待って、流石に察してきた。俺、今、告白されてるのか。

 実幸といると告白とか無縁だから、全くもって思い至らなかった……。


 いや、たまに、本当にたまに、「幼馴染のことが好きなのは知ってるけど、好きなので付き合ってほしいです」って言ってくれる女子もいたけど……。

 まずあいつが好きだということは丁重に訂正しておき、かつ、付き合うことは出来ないということを告げたが。


 あ、同性から告白されたことはないです。ちなみに俺から告ったことはある。何度か。お恥ずかしい話、惚れ性なもので。


 ……と、現実逃避も済ませたところで。


「……まず、俺と実幸は全くもって付き合ってなどいない。よって相思相愛なんていうものでもない」


 ある意味思い合っているところはあるかもしれないが、話がこじれるので言わないでおく。


「じゃあ……私と……!!」

「それも出来ない。ごめん」


 表情を輝かせたライに、俺は無慈悲に言い放つ。ライは押し黙った。


 申し訳ないとは思うが、ここで少しでも希望を持たせたりしてはいけない。……昔から、「普通」になろうとした。でも、無理だったんだ。……どうしても、駄目だったんだ。

 ワンチャンなんて、ない。


「気持ちは、ありがたい。でも、ごめん。ライとは一緒にはなれないんだ」

「……」


 でも、せっかくの気持ちには真摯に向き合うべきだと思っている。気持ちが報われないことは、辛いから。俺はそれをよく、知っているから。


 あのいつも、穏やかで、のほほんとしているライが、こんなに真面目な表情で、しっかりと気持ちを告げてくれたのだ。

 だからこそこちらも、真っ直ぐその目を見て、同じくらいの真面目さを持って、しっかり誠意を持って告げなければいけない。


 ライは黙り、俯いた。……気まずい。なんとなく喋りづらいし、立ち去りづらいし。どうしよう。そんなことを思っていると。


 ライがその手を、自分の目元に添えた。そして少しして、すすり泣くような声。あー……泣かせたー……。


 言い知れぬ罪悪感のようなものを感じていると、その涙声に混じり、ライが呟く。


「……ユメくん、あの勇者様を……探してるんでしょ? ……だったら、そのまま進んだ先にいると思う……」

「! 本当か? ……ありがとう」


 思わぬ情報提供に、俺は目を見開きつつお礼を言う。今しがた俺は、この子を傷つけたばかりだというのに。優しい子だな、と思った。


 だからこそ俺は、ライが示した方向へ、彼女に背を向けて歩き出し……。



 ──あれ?



 違和感に気づく。


 ライは俺と同じ方向から来たはずだ。何故なら俺の跡を追って来ていたから。

 それだというのに、どうしてその先に実幸がいると、知っているんだ?


 単純な疑問だった。だからこそ俺はそれを問いかけようと、振り返って。


「……!!」


 目を見開く。



 そこには、こちらに杖を構えたライがいたから。



「ラ、イ……?」

「……あ、振り返っちゃった。上手く誘導できたと思ったのに」


 そう告げるライの表情は、声色は、とても冷たかった。今までの彼女からは、考えられないくらい。


 どういうことだ? どうしてライが杖を。ライも魔法使い? いや、でも、そんなこと今まで一言も。というか俺に杖を向けているということは……俺に何か、魔法を使おうとしていた?

 俺は、狙われている?


 嫌な予感と共に、杖を取り出すために手を伸ばす。


「遅いよ」


 しかし彼女の口から出た言葉は、俺を圧倒するには十分だった。



「〝スベギャラーニャ・ゴペルニウス・ニーラヤ〟!!」



 呪文を完成させ、ライの持つ杖の先から溢れる光。それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()を、貫いた。


「ッ、あッ……」


 全身に激痛が走る。しかし致死に至らせるものではない。俺は直感的にそう確信した。

 これは、麻痺だ。体の動きと思考を停止させる。


 だがそれが分かったところで、それ以上どうしようもない。思考はどんどん薄れていき、俺は……意識を手放した。

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