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第22話 成長する者、停滞する者

 ちょっとだけ気まずくなってしまったものの、その後の魔法修行は、順調に進んだと言っていいだろう。


 ……少なくとも、俺は。


「てやっ、とあっ、ほーーーーっ!!!!」


 実幸が適当な掛け声とともに、なんとか魔法をコントロールしようとしている。しかし実幸の生み出した水弾は的に当たることはなく、壁に当たってその形を失った。


 一方俺は、杖を構える。そして。


「……〝水よ、俺の意思に従って、動くようになーれ〟」


 頭に浮かんだ呪文を、棒読みで唱える。すると杖の先に貯まり始める水弾。それは俺が力を注ぐほど大きくなっていき、やがて、ここが限界か、というところまで来て……。

 その水弾が真っ直ぐに的に向かって飛んでいく光景を、イメージする。それと同時、一気に力を解放する感覚!!


 すると水弾は勢いよく発射され、的の中心に命中した。


「……ふぅ」

「お見事です」


 襲う倦怠感を振り払うがごとく、杖に付いた水滴を振り払うと、ジルファ先生が手を叩きつつ、そう褒めてくれた。俺は微笑み、ありがとうございます、と告げる。


 ……そして、それを気に入らない人物が、ここに1人。


「……夢、ズルい」

「……念のため聞こう。何がだ?」

「ズルいズルいズ・ル・い~~~~!!!! 私より先に魔法を使いこなせるようになっちゃって!!!!」

「……俺の方が少しセンスがいいだけだろ」

「あー出ましたそれ!! どうせ私は不器用ですよーーーーっだ」


 ふん、と実幸はそっぽを向いてしまう。

 めんどくせぇ……という単語が頭の中に浮かぶが。


 だって、仕方ないだろ。出来るようになってしまったものは。


「……俺だって最初は、こんな風に出来なかった」

「……今は出来るじゃん」

「……魔法少女的な呪文も、恥を忍んで唱えている」

「……なんか棒読みでも使えるみたいで良かったね」

「そうだな……」


 思わず返事をしてしまった。違うそうじゃない。

 いや違くない。確かに棒読みでも許されたのは本当にありがたいのだが。違うんだ。


「俺は、お前に魔力を渡してもらって、それで魔力の大きさに慣れて、たぶん魔力を受け止める器ってやつも大きくなったんだろう。こんなに出力が上がったんだからな」

「……良かったね」

「魔法適性微少だって言われたへっぽこ魔法使いの俺でも出来たんだよ。だったらチート級に強いらしい貴方にも絶対出来ますよ魔法少女さん」

「夢がいじめるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

「どこがだ!?!?!?!?!?」


 何がどうしたら今のがいじめているということになるんだよ!!!!


 脱兎のごとく。実幸はその場から駆け出すと、ジルファ先生の背後に隠れてしまった。


「ジルファ先生!! いじめられています!! 助けて!!」

「えっ、えー……?」

「ジルファ先生……そいつを早くこちらに渡してください。いい加減この馬鹿には分からせねぇとッ……!!」

「い、いえ、別に私は、庇っているわけでは……」

「そもそもジルファ先生がこいつを甘やかすからこうなってるんでしょうが!!!!」

「えっ私が怒られる流れなんですか!?」


 とまあ、冗談はさておき。


「確かに実幸の成長があまり見られない。俺と協力する必要があるから、俺と同じ時間、修行を重ねているはず。……それなのに、俺には著しい成長が見られて、実幸には見られないのは、何でだと思います?」

「急に正気……」


 ジルファ先生が何かを言った気がするけど、とりあえずスルー。


 彼は俺の問いかけに対し、顎に手を添えて悩む。背後に隠れる実幸もその答えが気になるのか、少しだけ顔を出してきた。


「……そうですね。実幸様はもともと力が大きいので……変化がしづらいのではないでしょうか? 逆に夢さんはもともとが微少だったものですから、伸びやすい……」

「あー……なるほど」


 よく聞くあれだ。テストで低い点数を取っても、「伸びしろしかないぜ!!」という、あれ。たぶんそれなのだろう。俺には伸びしろしかないと。そして実際にそれが伸びたと。

 対して、元から上にいるやつは、変化が難しい……。

 30点から50点にするのと、80点から100点にすること。同じ20点でも、伸びやすさで考えると全然違うのだ。


 ちらり、と実幸を見る。果たして実幸はこの言い分で納得しているかどうか……。


 ……すると実幸は、大きく頬を膨らませている。予想はしていたが、全然納得していなそうだ。


「結局夢の1人勝ちじゃん~~~~!!!! 私だって、私だって努力した成果で成長して、色んな人に褒めてもらいたい!!!! チヤホヤされたい!!!!」

「お前、俺がチヤホヤされてると思ってたのか」


 え、違うの? と言わんばかりに首を傾げられた。違う。たぶん。


 というかここに来てから断然、お前の方がチヤホヤされてるだろ。あんなに分かりやすいヨイショ見たことないぞってくらいヨイショされてたじゃねぇか。

 ……まあ、この調子だと自覚なさそうだけど。


「実幸様は日々努力を重ねられていて、立派だと思いますよ」

「えっ!? やったーーーー!!!! ジルファ先生大好き!!!! ……夢にはこういう優しさが足りないのっ!!」

「ほらジルファ先生すぐ甘やかす」

「あ、こういうところですか……」


 お陰で俺が悪者みたいじゃねぇか。結果が出ないなら、結局努力を重ねるしか道がないのに。現状にだけご褒美を与えて、それ以上を求めないようにしてしまったら、そこで停滞するだけなのに……もちろん飴も大事だが、鞭を欠かしたら……。

 ……んー。俺が悪者になっている気がする。


「……まあ、いつも同じ修行ばかりじゃ飽きるよな。ジルファ先生、他のやり方ってありません?」

「貴方も大概甘いと感じますけど……」

「……そうか?」


 ちょっと意味が分からないが、深く考えないようにして、ジルファ先生からの返答を待つ。


「そうですね……やはりそうなると、実地経験でしょうか。実幸様は一度出来るようになってしまえば、それ以降はあまり苦労はしないように見受けられます。一度どこか、実地での感覚を掴み、経験を積めば……。それにしても、賭けに近いところはありますけどね」

「実地経験……つまり、対魔物で魔法を使う、ってことか?」

「……ええ。ゆくゆくはそのための魔法修行ですし」


 俺とジルファ先生は、黙って実幸の方を見る。ジルファ先生の背中にしがみついている実幸は、俯いて黙っていた。


 ……思い出しているのだろう。ザックラバスたちのことを。その命が、目の前で失われたときのことを。


 もともと、俺たちがこうして魔法を学んでいるのは、この国の平穏を脅かす魔物たちに対抗するためだ。そこで魔物に遠慮とか配慮とかしてしまえば意味がないし、そもそもそんな心遣いをしている間に死ぬだろう。


 ……俺もどちらかと言えば、エスールと同じ意見だ。危険に脅かされる可能性があるのなら、殺してしまった方がいい。


 でも実幸はきっと、違うから。


「……ジルファ先生、1つ、質問をしてもいいですか?」

「ええ、もちろんです」


 実幸はジルファ先生の背中から出て、その顔を真っ直ぐに見上げる。



「生き物を生き返らせる魔法……といったものは、ありますか?」



 実幸のその質問に、この場の空気が凍る。

 ……そんな雰囲気がした。


 しかしその空気は、ジルファ先生が小さく吐いたため息で押し流される。



「……ちょうどいいですね。実幸様、夢さん。


 ……魔法倫理の話をしましょうか」



 中庭、草木の生い茂る場所。俺たちはその地べたに座り込む。


 プチ座学というか、青空教室が始まった。

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