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第17話 魔法少女、大暴走!!

 その日は泣いて、泣いて、ただひたすら泣きじゃくった実幸は、次の日にはケロリとした顔で姿を現した。……腫れた瞼には、触れないようにしておいて。


 一応、魔法修行の途中だったため、俺たちは中庭に集合した。ジルファ先生も実幸の目のことには気づいていたと思うけど、触れないでくれていた。


「ところで、どうしてお2人が魔法を使えないのか……その理由が、恐らくですが、判明しました」

「本当ですか!?」


 実幸が表情を輝かせ、パンッ、と手を叩く。一方、ジルファ先生は、少しばかり気まずそうに告げた。


昨日さくじつの戦闘を見ていたのですが……実幸様、あの時、魔法を使いましたね?」

「は、はいっ」


 ジルファ先生の問いかけに、実幸は上ずった声で答える。……昨日のことに関して突っ込み、実幸がまた傷つかないか、それが心配だったのだろう。しかし実幸が笑顔を浮かべているのを見て、彼はホッとしたように続けた。


「魔法というのは、言葉に宿る強いイメージと魔力が共鳴することで、初めて現れるものです。……恐らく、こちら側の用意している呪文では、お2人はイメージが込めづらいのでしょう」

「……と、いうと?」


 流石に俺も分からなかった。挙手をし、更なる説明を求めると、ジルファ先生は持っている杖を一振り。次いで、何か呪文を唱えると……彼の手に、1冊の本が現れた。


「これをご覧ください」


 そしてジルファ先生は、本を開いて見せてくれる。俺たちはその本を覗き込み……。


「……子供の落書きみたいな字……」

「だな……」


 実幸の率直な感想に、俺も思わず同意する。そう、その本には、なんかぐしゃぐしゃな字が……恐らくこれは、文字の一覧表なのだろう。枠の中に、様々な文字が書いてあった。

 ……うん、たぶん文字であってる……はず……。


「これはミヴァリア語です。ここら一帯、我が国が治めている地域は、どこもこの言語が使われています。……そしてお2人が読んでいた本……それらは全て、このミヴァリア語で書かれています」

「「えっ」」


 俺たちは思わず、同時に、驚愕の声を上げる。全部、この子供の落書きみたいな字……いや、ミヴァリア語で書かれてるって? でも俺たちは、あの本を問題なく読めて……。


 ……いや、それが既におかしいんだ。ここは日本じゃない。外国ですらない、全く別の世界。こうして言葉が通じ、コミュニケーションがなんの滞りもなく出来ること……よく考えれば、おかしい。今まで疑問にすら、感じていなかった。


「しかし我らはこうしてつつがなく会話が成立しています。何故か? ……それは、我らが大司教様が、お2人がこちらに来るときに……ここにあるあらゆるものに対し、自動翻訳がなされるような……そんな魔法を掛けたからでしょう」

「じ、自動翻訳……」

「……最新式のスマホみたいだな……」


 なんか、最近は、カメラでかざすだけで文書を勝手に翻訳してくれたり、音声を聞き取らせると勝手に翻訳して喋ってくれたりするんだろ? 知らないけど。便利な時代になったよな……。


 ……と、ジルファ先生の頭の上のクエスチョンマークがありありと見えるようなので、気にせずどうぞ、と話の先を促した。


「それでミヴァリア語には……文字の1つ1つに、イメージが込められています。そしてそのイメージを、心の底から強く信じることで、魔法が使える。……しかしお2人は、そのイメージに疎い……そのため、呪文を唱えても効力を発揮しなかった。そして、お2人にとってより身近な言語には発揮したのでしょう」

「……????」


 実幸の頭の上に、数多の「?」が浮かんでいた。今回は、俺も理解と言い換えが難しいな……。


「つまり……『マ行はかわいい』とか、『タ行は強そう』とか……そういうのが、ミヴァリア語にもあって……それが魔法を使ううえで、大事になる……みたいだな」

「へぇ……????」

「まあ……言葉には力が宿る……そういうものだと思っておこう」


 今回は俺も自信がない。


 ジルファ先生もよく分かっていないようだったが、頷いていた。この現場、誰も分かってねぇじゃねぇか。


「だからこそ、こちらから呪文を教えることは不可能です。教えても、お2人にはピンと来ないでしょうから。……そのため、お2人には呪文を考えるところから始めてもらいましょう」

「呪文を考える……」

「ワクワクするねっ!!」


 ジルファ先生の言葉に、俺も実幸も分かりやすく表情が輝く。そう、まさに剣と魔法のファンタジー。ワクワクする展開だ。


「はーい、どんな呪文を考えればいいんですか?」

「そうですね……お2人は将来的に、魔物と対峙することになるでしょう……そのため、戦闘系の魔法を身に着けるべきであるかと」


 まずは、と言い、ジルファ先生は杖を構える。すると彼の向く先に……何か、的のようなものが出てきた。そして。



「〝ニルファン・アディスト・バーラ〟!!」



 ジルファ先生が高らかに叫ぶ。……その声に合わせ、杖の先から炎が出てきた。ゴウ、と渦巻き、少し離れた俺たちにも伝わるくらいのその温度を感じる。


 そろそろ汗が出てきた、というところで、杖の先から炎の弾が発射された。それは綺麗に的に命中し、あっという間に焼き尽くしてしまう。


「これが基礎の魔法……炎を生み出し、真っ直ぐに飛ばすことの出来る魔法です。……ちなみにですが、基礎魔法であるほど呪文が短くなるという特徴があります。お2人にはあまり関係ない話であると思いますが、念のため」

「へぇ……」


 相槌を打ってから、実幸を見やる。すると実幸はステッキをブンブンと振り、「やる気に満ち溢れています!!」と、全身で表していた。おい、俺に当たりそうだ、やめろ。


 ジルファ先生はまた杖を一振り。俺たちの前に1つずつ的を出してくれた。これに当たるよう練習……ということらしい。


 すると実幸は一歩前に出た。張り切ったように鼻息を荒くし、ステッキを的に向けて突き出して。



「〝炎よ、出ろーーーー〟っ!!!!」



「そんな適当な掛け声で出るわけ……」


 ないだろ、という俺のその言葉は、途中で切られてしまった。


 何故なら、まあ皆さんの予想通り、実幸の持つステッキの先に、灼熱の炎が灯ったから。


「うっわ」

「! 下がってください!」


 すると俺は、ジルファ先生に思いっきり腕を引かれた。驚くと同時、目の前にはジルファ先生の大きな背中が。そして。



「〝ウェンドラ・アディスト・バーラ〟!!」



 後半の呪文、さっきと一緒だったな、と思うと同時、ジルファ先生の杖の先から、水泡が溢れ出す。……そして、こちらに向かって来ていた炎を、水で打ち消した。


 それで悟る。今のは、俺を庇ってくれたのだと。


「あ……ありがとう、ございます……」

「気にしないでください」

「わわっ……きゃっ!?」


 高鳴る心臓を抑えつつお礼を述べると、ジルファ先生の声と、実幸の悲鳴が同時に聞こえた。驚いて顔を上げると、目の前では燃える2つの的。そして、燃え盛る中庭。


 軽く大火事が起こっていた。


「…………………………」


 ジルファ先生は、黙って杖を振った。するとまだ使い切っていなかった水泡が、どんどん大きくなる。……そして中庭全体を覆うくらいの大きさになった瞬間……爆ぜた。

 まるで中庭だけ、豪雨が降ったかのようだった。勢いの強い雨に、炎もたちまち消え去る。


 最終的に残ったのは、濡れ鼠になった俺、実幸、ジルファ先生の3人と、燃えカスとなった的。


「……実幸様、別の魔法にしましょうか」

「……はい……」


 露骨に実幸は、しょぼんとしていた。

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