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金魚鉢から跳ね出てしまえばやがて死ぬ

作者: 黒楓

今日の“月曜真っ黒シリーズ”は過去作の改定版です(^^;)



なので、イラストも一新しました。



“黒さ”は保証いたします(って何のこっちゃ?!)

 クリスマスイヴの亡霊に寝た子を起こされたのか、()()()()()()()()()の夫が突然、()()()()()


「ちょっと! 和希が勉強してるのよ!」


「ああ!自分の勉強部屋でな! だから自分の部屋の無いオレが寝室でヤル事をやるわけさ!」

言いながら夫は、私の髪をかき上げ、耳を噛む。


「夜食だって、出さなきゃ!」


「さっきチキンだのケーキだの、散々食べさせただろ!?」


「だから眠気覚ましも兼ねて、コーヒーとか出さなきゃいけないの」


 小6の子にこんなにカフェインを摂らせて良いのかと正直思う。 しかし今は受験まであと1か月余りの正念場!!それなのにこの人は!!


 伸びて来る手を布団に巻き込んで押し戻し、心の中の腹立たしさが表に出ないうちに夫を振り切り寝室を出る。


 ドアの外に聞こえる様に舌打ちする“どこもかしこも()()()”夫……その夫からさっき手を入れられて……

ゾクゾクと悪寒が走る。


『何もかも和希の為!!』と口の中で唱えながら夜食を用意し、和希の元へ向かう。


ノックをしても返事がない。


昔、バイトでやったように、お盆を指で支えて、空いた右手でドアを開けると


和希が机の前に蹲って(うずくまって)いる。


「……寝てたの?」


和希は両手をひざ掛けの中に入れたまま、こちらを見上げ曖昧に頷く。


「いくら部屋が冷えるからって! 暖め過ぎて眠くなったら何にもならないでしょ! 今日はもう十分遊んだんだから! しっかりしなさい!! この瞬間に他の子は頑張っているのよ!!」


声を荒げるのは、和希が“寝落ち”していたからではない。


この子はきっと、寝てはいなかった……


それは数日前、この子の下着に残された()()……

思わず下着に顔をくっつけ、臭いまで確認してしまった私……

何となく、覚悟はしていたけれど……

まだ小6の!!

しかもこんな大切な時期に!!!


それが私の語気に火を点けている。


さっきの夫の顔がダブる。


『あの人が変な本とか持ち込んだのかしら?!』


こんな言葉しか浮かんで来ない。



--------------------------------------------------------------------


まだ“12月23日”が休日だった頃……


二人して青いビーチの楽園へ“逃避行”した。


高い天井に据えられたゆっくりと回る天井扇を眺めながら


私はカレの優しい重みに、いっぱいの幸せを感じていた。


迂闊だった……


その“逃避行”の果てが……


義父母との同居になり……


夫の転勤で、黴臭く陰湿なその“家”からようやく逃れても……その先にあったのが、魑魅魍魎の棲む安普請の社宅だなんて!!


 和希の学費や()()()()に辿り着く為の“頭金”の目標額……今日の日中も電卓と睨めっこしながらやり繰りしていたが……収支の開きはいかんともしがたく、暗澹たる気持ちに打ちのめされていた。


それなのに!!


私の頭の中に別の情景が映し出される。


  出張帰りの夫の下着の間に滑り込まされていた謎解きのジクソーパズルは、お菓子でも薬でもない、真ん中に丸いふくらみを残したパッケージのかけら。


寝室のサイドテーブルに出しっぱなしになっている集合写真は夫の社員旅行の時の物……

枕に半分顔を埋めてその写真に目をやり、一番かわいい女子社員の顔を意味もなく睨むのも疲れた。


私と夫の物が積み置かれた寝室の前で……ため息をついてからドアを開けると


夫はまだ諦めていなかった。


押し倒されて、もどかしくパジャマのボタンを外され、()()()()をたくし上げられる。


「寒い!!」


私の言葉に、夫は唸りながらエアコンのリモコンを掴む。


 反応の悪い古いエアコンがようやく動き出した頃には、私はまるで調理される前の、今朝の丸鶏。

冷え切ったカラダを、そのままオスの臭いのする冷たいボウルに入れられている……


私を扱う夫の()()はルーティンワーク。


しかし冷たいボウルは“上下左右に棲息する魑魅魍魎ども”から聞き耳をたてられていて……


リア充を装う私は、夫のびちゃびちゃの舌使いに作り物の声をあげる……


エアコンから吐き出されるのはホコリの臭い……


私はそれにも塗れて(まみれて)しまうのだろうか……


イヤだ!!


私は、あの“逃避行”の時に着た水着をクローゼットの中に持っている。

着れないのではない。着ないだけなんだ!!


だって今年の夏も、

薄着のカラダを

パート先の従業員や不躾なお客達に、散々見られた。


みっともなく変わり果てた夫の肉体とは全然違う!!


だから私は今、心に秘めた人を想う……


その人は、カサブランカの画の人……


私は夢想する……


その人の瞳はきっと

あのビーチの空を映した海の……優しく深いエメラルドブルー


その瞳を見つめて


優しく抱き、抱かれたい


あの人ならきっと


この“みっともないオトコ”が『メロン』だとなじった

おなかに刻み込まれた“歴史”も理解し

そこにキスをしてくれるだろう……


私の“夢想”は現実に溶けて


吐きだし始めた()()()()()()に色を差す


そして“夢想のジェルで塗り固められた”()()を……受け入れる。


なのに


ジャリ!っとした顎が私の二の腕をかすめて


私は現実に引き戻される。


それは、“カサブランカの彼女”にはない物だから……


そう、0時を過ぎた今はもう、クリスマス


“カサブランカの彼女”もきっと、伴侶の腕の中で……


私のガラスの靴は

忘れ去られている


口から洩れる動物の喘ぎとは裏腹の涙が

私の頬を伝う。


それを見て

「オレもイイ!!」

と、唸り喋るオトコに!!

これ以上キズを見られたくなくて


私は顔をそむける。


そむけた視線の先は、


シミの拡がる古びた板の天井


「!!!!!」


鮫皮おろしのような殺意が私の心の中に浮かび上がる


このオトコと


私自身への



±±±±±±±±±±±±±±±±±±±±±



 やっと会えた“カサブランカの画の人”は首筋が赤く刺されていた。


最初は“夫”という名のチンケな蚊かと思った。


でもそうでは無かった。


彼女はテキーラサンライズのグラスを口紅だらけにして

みっともなく惚気(のろけ)た。


それも!!

私の知っているオンナの事を…


 私の手の中にある“ウォッカギブソン”のパールオニオンは、まるでらっきょうのような無様さで私をバカにする。


オンナもオトコも


到底信ずるには足りない


ありがとう“カサブランカ”


おかげで

私は本当の“恋”を見つけた。


私の手の中にある大切な“あの子”


私が『メロン』のおなかと引き換えにこの世に産み出した和希を…



±±±±±±±±±±±±±±±±±±±±±



和希はよく頑張った!!


だからこれはご褒美!


4月からは晴れて開青中! 男子校だから変な女子も居ないし気が散ることもないでしょう


ママね!

すっと心配で

和希の事を見ていたのよ。


和希にはいっぱいいっぱい我慢させたから

その代わりに

たくさん甘えていいのよ。

ママ、ママ、ママって


こうやって

ふたりでお風呂に入って


全部きれいにしてあげる


ほら、ガーゼもあるの


昔みたいに

お顔も

お尻も

あの頃は小っちゃくてかわいかった“ぞうさん”も……

キレイキレイしてあげる


震えているの?


和希はもう

お水は怖くないでしょ

スイミングで克服したから


なんだ

ガーゼが痛いのね


甘えん坊さんね


仕方ない子……


ママのキスで


これからずっとずっと

きれいにしてあげる


そしたら

いつでも

()()()()


戻れるのよ


和希を私の中に連れ戻し……

甘い甘い幸せに包まれて

私はうつろな目を開ける


鏡に写る私は

美しくも甘い

白桃……


今、口の中に

そして体の中に注ぎこまれた

()()()に相応しい


…… ……

あぁ


……和希!!!



±±±±±±±±±±±±±±±±±±±±±



 お父さんは真新しいホームドアの脇にそっと花束を置いた。


駅長さんをはじめ何人もの駅員さんが帽子をとって黙とうしてくれる。


僕は涙を隠すふりをして、まだ新しい学帽を目深に被る。


そんな僕の肩にお父さんは手を置いて話してくれる。


「こうやってホームドアも設置できて……お母さんの死もきっと無駄にはならないよ」


「ウチは賠償金払わなくていいの?」


「そんな事、あるもんか!!」


「良かった」


ホームの照り返しで

体はドンドン汗ばんで来る。


あの時、

僕が押したオッサンの背中の汗を思い出す。

オッサンから始まったドミノ倒しは最前列の“あの人”を押し倒した。


“あの人”の事をママって

絶対呼ばない!!

然しながら

あえて非難も口にしない。


中学生らしく社会的通念に沿って『お母さん』と呼称する。


“お母さん”がホームから

きれいに落ちて

電車にクリーンヒットして

本当に良かった


なのに僕は……

お母さんによって奪われままの

自分の中の空虚な部分に茫然としている。


それが悔しくて悲しくて

泣いてしまう


そんな僕の様子を見て勘違いしたお父さんは

僕の為に涙を浮かべてくれた。


良かったね

お父さん!


僕もお母さんもとっくに知っていたあの“ジクソーパズル”のオンナの所へ

心置きなく行けるね!


僕も心から嬉しいよ!


それもお母さんへの復讐のひとつだから。




                 終わり



。。。。。。。。。。





挿絵(By みてみん)


実は2つほどネタを思い付いていたのですが却下して、季節先取り?のお話にいたしました(^^;)






ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、いいね 切に切にお待ちしています!!



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― 新着の感想 ―
[一言] 『古めかしい板で…金魚鉢は蓋をされた』と続編の『そのベタはメスのはずなのに… 金魚鉢の内面に写る自らの姿にフレアリングする』を合わせましたね ( ̄ー ̄)b  ……和希くん、ミソゾニスト、…
[一言]  私も、先生を見習って(?)黒いの描く予定ですが、負けました(笑)  愛憎は絡み合い、美醜を成す。 「カサブランカ」のくだりは、私には難しかった(汗)
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