第0話
統一歴 一九九八年 八月
世界で最も発展している国、グロースクリーガー帝国。
バイアリー大陸の西側に存在するこの国は工業力、経済力、技術力全てにおいて世界でトップレベルの水準を誇る大国だが、そんなこの国も二年前まではこれほどまでに強力ではなかった。
この国は、つい二年前まで長い間、東側の大国、ファーゼストニア連邦との間でバイアリー大戦と呼ばれる戦争をしていたのである。
そして本来であれば帝国は負けていた。
圧倒的な人口、資源に技術で抗いきれず、長い間劣勢だった帝国が突如として逆転し戦勝国となる、それにはなにかとてつもない存在が居たはずだ。
そしてそれは軍事に精通していない者でも知らない者はいないというレベルの人物であり、間違いなくこの世に存在していた。
私は多くの資料から得られるごくわずかな手掛かりをもとに、ついに【天空の調停者】、または【デーモンアイ】と呼ばれ、戦勝の英雄として今も市民から神格化され、敵味方から尊敬され、恐れられた一人の【少女】の下にたどり着いた。
国境沿いに広がる山脈、迷路のような小道に車を走らせると開けた土地が出てくる。
間違いなくそれは滑走路であり、山を切り開いたバンカーには見たこともない帝国の軍用機が格納され、滑走路のわきにはポツンと一軒の小屋がたてられている。
「見ない顔だ、ただの一般人でたどり着けるわけもなく・・・まぁいい、とにかくここにたどり着いたことを誉めようか?」
驚きと共に振り返るとそこには猟銃と共に既に血抜きのされたウサギを持った少女が立っていた。
「ふっ、ここにたどり着くなら私のことも少しは知っているはずだ。それとも、なんだ。本当に少女とすら呼べる私がデーモンアイなのか、信じられないか?」
もちろん知っていた、一四歳にして空軍パイロットとして参戦し、終戦時一八歳、その四年間でこの国を勝利へ導いた張本人であるということを。
だがやはり、この目の前に立つ、金色の眼、長くなびく黒髪を持つ二〇歳の少女を見るとにわかに信じがたい。
だがどうやら事実のようだった。
「まぁ、ここは寒いだろう?家に入ろう、暇だったんだ。来たからには話をしよう。」
招かれた家のなかで、私は少ない情報から多くのパイロットの下を訪ね、そこから空軍のジーク・シャーザーという大将に繋がりこの場所を教わったことを伝える。
そうするとこの少女は懐かしむかのように笑った。
「はっ!懐かしい名前だ。奴は二年前まで少将だぞ。しかも左遷された過去がある。」
大将を奴と呼べるほどの人物、だがそこには今でも信頼を寄せているように感じる。
・・・そうして彼女は語り始める。
親に捨てられ、孤児院で育った自分は帝国軍へ志願し、自分でも恐れるほどに優れたセンスで空軍試験を突破、その類稀な能力を駆使し戦場を駆け回っていたと。
今でも空軍に在籍しているが、再び戦争となったそのときまで世間に露出することを禁止され、報酬で一生を不自由なく暮らせるほど稼いだ今はただ一人、かつての愛機と共に隠居しているとも。
「さっき君が言ってたエースパイロット達も、私の部下だった者が多い。変な奴揃いだが、いざ戦争となったら私の一声で集まるだろうさ。そして・・・その私もジークの一言で帝国軍人として再び空を舞うだろう。」
戦争が無くて悲しいともとれる、うれしいともとれるその表情は何とも言えない。
少しばかり沈黙が続いた後、彼女は口を開いた。
「私は、この大空に自分の存在意義を貰ったんだ。親に捨てられ、そんな私でもあの時だけは求められた、そして認められた。それは・・・名声という、尊敬という、畏怖という価値が、何よりも私を作り上げていた。あの戦争は今でも素晴らしいものだった。人としてではないが、私に価値を与えた、そう考えると私にとって母のような戦争だったともいえるだろうさ。もちろん、当時の私は今ほど穏やかでもなく、思い返せば狂っていたけれど。・・・なあ、私の話を聞きに来たのだろう?もちろん他言したら君の命も危なくなるだろうが、久しぶりに私も話したくなった。付き合ってもらおうか?」
そういうと彼女はあの戦争について語りだす。
それは、バイアリー大戦で天空の調停者、デーモンアイと呼ばれ空を飛びぬけた少女、エクセリア・フォーデルトの物語である。
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