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短編 54 そらがけ 俺達の戦いはこれからだ! 編

作者: にょこっち


 ここで足掻いたのです。このタイトルならば、ここで終わるだろうと。


 ……甘かった。




 前回からおよそ一週間が経っていた。



 その日。大徳寺高校は妙な空気に包まれていた。


 新たなアイドルが転校してきた訳ではない。


 学校の敷地内を歩いていると不思議な香りがふわりと香るのだ。それも朝からである。


 生徒達は直感した。


『今日のお昼はラーメンだ!』と。


 でもまずは朝のホームルームから学生生活は始まるのだ。


「はーい。みんなおはよー。今日も問題起こさないようにねー。先生は今日も朝から校長に釘を差されましたー。あのハゲ頭にも釘を刺してやりたいですねー」


「はーい!」


 おいおい、その返事は不味かろうよ。


 そんなクラスメートの空気も、なんのその。


 今日も朝から大空ひかるは元気いっぱいである。


「今日のお昼はラーメン……よね? これで明日とか言ったら暴動が起きるわよ?」


「ラーメンで暴動を起こさないでください先生殿。スープは手間が掛かるものです……いえ、お昼はラーメンです。はい」

 

 教師に尋ねられたぽっちゃり肥田野君は急に素直になった。クラスメート全てが殺気立ったのだ。思わず肥田野君がビクンとするほどに。


 人はラーメンでここまで変わるものなのか。


 月に一度は必ず外出を許されている肥田野君からすると『そこまでかなぁ?』と思ってしまう。でも教室に充満する殺気は本物である。特に担任の殺気は半端ない。

 

「ひーちゃん。先生はすごく楽しみにしています」


 全身から滲み出る殺気。笑顔なのに笑顔に見えない担任である。


「麺はプロ(おばあちゃん)にやってもらうのでご安心を。味噌の配合も済んでます。人数が人数なのでトッピングは固定ですが……それは流石に許してもらえますよね?」


 肥田野君は逃げ腰になった。食べ物の恨みは怖いという。でも今、恨まれる事ではないよね? ないよねぇ!? 


 しかしそんな思いは空しく蹴散らされるのであった。


「味噌バターコーン!」


「チャーシュー!」


「味たまぁ!」


「チョリソー!」


「フライドオニオン!」


「替え玉ぁ!」


 朝の教室は築地の朝市か! と突っ込みたくなるほどに賑やかであった。


「……チョリソーって違くね?」


 とあるデブの小さな声でのささやかな反抗は、クラスの喧騒の波に飲まれてすぐに消えていった。


 朝のホームルームはトッピング戦争となり、すわ、殴りあいに発展か! とも思えたが、みんな授業が始まると嘘のように落ち着いた。


 このクラスの生徒も鍛えられたのだ。色々と。


 そしてその日の授業が進んでいく。


 特に授業風景は楽しくないので飛ばしてお昼である。



 その日の食堂は異常な熱気に溢れていた。ラーメン屋特有の熱気である。店内に満ちるスープの香り。そしてサウナのようなムワッとした空気。


 今日のお昼は味噌ラーメン。


 それも目の前で調理してくれる熱々ラーメン祭りであった。


 準備と後片付けが、すごーく面倒なので、食堂のおばちゃん達がやりたがらない祭りである。


 この日の食堂は味噌ラーメンに歓喜する少年少女、教師に溢れていたという。


「ほら翔ちゃん。次の寸胴の用意して」


「アイアイサー!」


 一方この男だけは戦場を駆ける衛生兵の様相である。ラーメンは準備さえ整えば簡単に出来る料理である。麺を茹でてスープを入れた器に入れる。そして上に野菜等をトッピングして完成。


 準備さえしておけばとても楽な料理の部類である。


「ぬぐぅお!」


 総重量、百キロを越える寸胴鍋。これを運ぶ事を厭わなければすごく簡単な料理なのである。


 調理場から食堂までスープの入った寸胴を運んで、帰りは空になった寸胴を回収。麺を茹でる釜もちょくちょく交換してこの日の味噌ラーメン祭りは大成功に終わった。終わるかに見えた。


『ピンポンパンポーン』


 そんな音が全校に流れるまでは。


『来週はどんなラーメンにするのか、全校アンケートを採ることになりました。詳しくは帰りのホームルームでチェケラ!』


 肥田野君、寸胴に寄り掛かり灰になる。校内放送で来週の寸胴地獄が決定したのだ。


 ラーメンはスープが大変。でもそれ以外は食材の準備が大変なだけで料理自体はとても楽チンである。


 ラーメンが献立になると料理を担当するおばあちゃん達も楽が出来るのだ。


 つまりはそういうことである。


「あらあらぁ。来週はどんなスープになるのかしら」


「寸胴の数は大体こんなもんだったわねぇ。来週も十個……おかわりも入れると、もう少し欲しいかしら?」


「来週は十二個にしましょうね、翔ちゃん」


「……らじゃー」


 ひーちゃんは灰になってる暇もねぇ。


 この日の準備のために肥田野君は休み時間と放課後、早朝のほとんどを費やした。勿論『そら部』にも参加しつつの二足のわらじである。


 本来は学生なので、三足のわらじかもしれない。


 大変だった。とても大変だったのだ。寸胴鍋、十個全ての味を均一化させるのは滅茶苦茶大変だったのだ。


 同じ材料を同じ量ぶちこんでいるのに少しずつ味が異なる寸胴達と格闘する日々。


 味噌ラーメンのコアとなる味噌の配合にも頭を悩ませた。


 トッピングはおばあちゃん達にお任せしたが、それでも大変だったのだ。


 それこそエロと二次元に熱い男、肥田野君をして『エロゲィする暇もない』日々だったのである。


「来週は新作のゲームが出るので……」


 肥田野君は楽しみにしていたゲームがある。パソコンからゲーム機用にアレンジされた『いちゃラブ』ゲームである。一応一般ゲーム機用にアレンジされたのでレーティングはパソコン時代よりは下がっている。それでも高校生の年齢的にギリギリアウトなゲームではあるのだが。


 しかし肥田野君の見た目ならば大丈夫。誰も彼を高校生とは見ないのだ。なのでそこは大丈夫。


 ストーリー全編で描かれる切なさとほろ苦さは『何でこれをエロゲにしたんよ』と全てのユーザーを悩ませた話題作。でもそのストーリーは秀逸。


『君は画面の前で涙する』


 どのレビューもこれを推していた。このゲームはエロスに特化したエロゲではなく物語に比重を置いた純愛物語エロもあるでよだったのだ。


 肥田野君は次の献血のときにこれを買って帰るつもりである。既に涙を拭くためのティッシュは箱で用意した。


 大徳寺高校は全寮制であるが、ネットショッピングが禁止されている訳ではない。勿論学校の教師による検閲があるが、わりと自由にお買い物は出来るのだ。


 勿論検閲が厳しいけど。エッチなものに対しては超厳しいけど。


 アニメのフィギュアも女の子キャラだと大概はアウトである。


 なのでこのゲームも不許可は確定である。そもそも年齢的にアウトだし。


 でも買いに行ける自分ならそんなこと関係ないのだー! うははははは!


 と、肥田野君はひかる化しながらゲームの発売日を楽しみにしていたのである。


「翔ちゃん。しばらく食堂の控え室で暮らしましょうか。ここなら寸胴の管理がすごく楽になるし」


「まぁ! それなら毎日のお手伝いも楽になるわねぇ。早速校長を脅して来るわ」


「まじでー?」


 肥田野君、ギャル化する。


 そして逃げ道を塞がれた。


 食堂の控え室はおばあちゃん達の安息所である。休憩室とも呼ばれ、肥田野君も何度かここで休憩した事がある。普通に和室だった。


 押し入れに秘密通路があるだけの普通の和室である。それを普通と言えるのかは疑問だが、肥田野君は怖くて追求していない。


「お風呂とか……」


「部屋に付いてるでしょ?」


 付いているのだ。この休憩室にはトイレとお風呂が。滅多に使われないけど使用可能な設備である。


「……勉強とかもしませんと」


「ちゃぶ台があるわねぇ」


 あるのだ。昭和なちゃぶ台も。


「翔ちゃん……異存でもあるの?」


「イエスマム! ノーであります!」


 こうして肥田野君は学校内でお引っ越しをすることになった。ラーメン単身赴任である。


 茫然自失する肥田野君がようやく気付いた時には時が過ぎ、帰りのホームルームが始まろうとしていた。あとで委員長にノートを見せてもらわねば、真面目な肥田野君はそう思ったという。


 



「みんなー。アンケート用紙を配るわよー」


 帰りのホームルームでアンケート用紙が配られた。どんなラーメンを食べたいのか、それを調べるためのアンケートである。


「トンコツとー、担々麺とー、喜多方ラーメンかなー」


「チャーシュー麺……いや、ワンタン麺……いやいや、パイコー麺も……」


「パクチーたっぷりのフォーが食べたいなぁ。書いちゃえ」


 青春の真っ只中にいる少年少女達は目を輝かしてアンケートに書き込んでいた。


 肥田野君はそれを一人、遠い目で見つめていた。


「ひーちゃんは何が食べたいー?」


「……カルボナーラ」


「生パスタっ!? お洒落だよ! ひーちゃん!」


「パスタもありなの!? ならボロネーゼと……」


 肥田野君、墓穴を掘る。アンケートにはイタリアーンな旋風も追加されていった。


 やさぐれ肥田野君が皮肉を込めて答えたのが、見事墓穴となった形である。


「パッスタ! パッスタ! パエリアとラザニアも書いちゃえー!」


「おおー!」


 肥田野君、更に遠くを見つめる。


 教室はもはや無国籍。ラーメンから始まった小麦粉ロードは遥かヨーロッパにまで到達していたのである。


 ……『そらがけ』どこ行ったの? 


 肥田野君がそう思うのも仕方ない。

 

「じゃあ明日の朝に回収するから忘れずにねー。ひーちゃんはこのあと部室に集合です」


「……らじゃー」


 あの日から一週間以上が経っていた。そら部はあの日から休部状態……というわけでもなく、普通に部活動を行っていた。


 スープの管理をしつつ、黒子のひーちゃんは女の子達の指導に努めたのである。


 時に厳しく、時に優しく。


 黒子のひーちゃんは指導者として乙女達を導いて来た。


 その甲斐あってか、顧問含む四人の乙女は空を滑る事が出来るようになっていた。


 スープ管理の裏で部員達は着々と実力を付けていたのである。そっちが本編なのに見事スープに追いやられているが、それも仕方の無い事。ラーメンは青春なのだ。


 そして放課後。


 今日の新生そら部は、みんな部室に集合しての話し合いである。


 議題はこれ。


『そらがけ飽きた』


 女子が全員椅子に座るなかで、黒子のひーちゃんだけは床に正座である。


「そらがけ飽きました」


「私も」


「私もですね」


「先生も飽きた」


「……そっすか」


 衝撃の展開である。


 物語の破綻である。


 おい、お前らマジで!?


 それ一番ダメなヤツやろ!


 実は黒子のひーちゃん、こうなることを予想していた。


 今の『そらがけ』はオートで進むスピードスケートである。始めこそ新体験なのだが、意外とすぐに飽きるのだ。何せオートである。体育館の中をグルグルと進むだけのトロッコ列車なのだ。たとえ宙を滑っていても視点が変わるだけで面白味はない。


 これで自分の技術が滑りに影響を与えるのならば研鑽することに熱中もしただろう。しかし『そらがけ』はオートで進むのだ。


 平坦な空のレーンを何もしないまま延々とグールグルである。


 飽きない方がおかしいのだ。


「これ、部活として成り立ってないよね?」


 あのひかるですらこの意見である。あの天然極楽蜻蛉のひかるが、である。


「外ならもう少し楽しめるかもしれない。でも基本的につまらないのよね」


 天海海月も飽きていた。


「楽しかったのは三日だけです。これで部活を頑張るのは……無理なのでは?」


 委員長も飽きていた。


「先生も同感です。ひーちゃん、責任取りなさい」


 女教師は責めてきた。


「……」


 無茶を言われてる。でも納得の意見である。黒子のひーちゃんは考えた。


 公式試合のパンチラにしか今の『そらがけ』は価値がない。


 パンチラこそが『そらがけ』なのだ。


 女の子のパンチラをエンジョイしようぜ! とは言えない。何故ならみんな女の子。女の子と言えない女の子もいるが、とりあえず女の子である。


 絶望的につまらない。


 絶望的にくだらない。


 でもパンチラさいこー!


 それが『そらがけ』なんだけどなぁ。


 黒子のひーちゃんは考えた。そして悩んだ末にこの答えを出していた。

 

「……改造しますか?」


 レッツ 改造。


 今の『エア靴』と『フォトン回廊』を弄くって、かつての『そらがけ』に近付ける。


 それが黒子のひーちゃんが考えていたプランである。


 実はスープを作りながらひーちゃんは考えていたのだ。


『絶対に飽きるよなぁ。そして怒られる。きっと怒られる。空を自由に飛ばせろーとか無理難題を言われるんだろうなぁ』


 スープを混ぜながらそんなことを考えていた。そしてずっと考えていたのだ。


『そらがけカスタマイズ』を。


「……ひーちゃん、本気なの?」


 女教師は震えていた。きっとラッコが怖いのだろう。これからすることは安全とかけ離れたものになるのだから。


 自由に空を飛ぶ代償は決して安くはない。


 事故、イコール、ラッコ。


 この重荷を背負っている女教師には酷であるが自由の代償はいつの世も大きいのだ。


「危険性は増しますが……昔の姿に近くはなります。あと……」


「ひーちゃん! 改造人間になっちゃうの!?」


「既に改造人間っぽいわね。私は大賛成だけど」


「先生も大賛成よ! むしろやれ! 今すぐに!」


「昔のご主人様……気になりますね」


 何故か話は変な方向へと向かっていた。


「……いや、自分の改造ではなくて『そらがけ』の改造な? 改造するのはエア靴とフォトン回廊な?」


 ひーちゃん、思わずに素になった。


「騙したわね! この詐欺師!」


「女心を弄ぶなんて最低よ! ひーちゃん!」


 そんなやり取りが新生そら部の部室で行われた。


 ひーちゃんとしては心外である。とても心外。むしろ改造人間という発想が出ること自体にドン引きである。


 だが黒子のひーちゃんはこの部活で最下層の存在である。


 この日は怒り狂う女教師によって黒子のひーちゃんは『優しく髪を撫でるのだーの刑』に処される事となった。


 これは漢判定による子作り行為として認定されないので、ひーちゃんも何の文句もなく受け入れた。


 髪を撫でられて幸せそうな顔をする乙女達。その姿を見ながら黒子のひーちゃんは、またしても考える。


『そらがけ』は何処に行った? と。


 最近のそら部の活動は『ひーちゃんチキンレース』と化していた。どこまでひーちゃんが受け入れるのか、乙女達が乙女心を燃やしての苛烈なデッドヒートが繰り広げられていたのだ。


 委員長発案の『お腹を優しく撫でるのだー』は微妙な結果に終わった。


 一方、天海海月発案の『耳元で名前を優しく言うのだー』は乙女全員がノックダウンした。


 大空ひかるの『みぞおちに拳をぶちこむのだー!』は未然に阻止された。アホである。


 女教師発案の『手を繋いで体育館を一周するのだー』は好評で毎日開催されている。


 いや、エロではなくてもこれは……いや、エロではないし。


 これで『子供』は生まれないけども。けどもね?


 肥田野君は微妙な感じで、この一週間を過ごしていた。


 彼は空気の読めるデブである。


 なので自分の容姿や性格もよく分かっている。


 少なくとも、女性にモテる男ではない。そう確信している。


 お天道様に恥じぬ生き方をしているつもりであるが、それはむしろ女性に嫌われる生き方である。


 正直に。誠実に。公平に。


 自身の欲望の声を忠実に。


 彼は己の心の赴くままに生きてきた。


 それを恥じるつもりも後悔するつもりもない。肥田野翔は常に全力で生きてきたのだ。


「次は……壁ドンとかどうかしら」


「少しエロスが強いかと」


「あれって無性にムカつくのよね。ドラマとかでやったけど」


「そなの? イケメンに壁ドンされてムカつくの?」


「あいつら勘違いが激しいのよ。一度勢いでキスしようとしてきた野郎の玉を潰してやったわ」


「おー! たっま、つっぶせー!」


 はうっ!


 ここには肥田野君以上に全力全開な乙女達がいたのである!


 思わず肥田野君も内股にならざるをえない!


 部活の時間も終わりに近付いている。


 でも全力全開である。


「あのー……何でそんなに自分のことを……その、好いているのですかね、あ、いや、自分もみんな事は大好きなんですよ? 愛してます。でも、ほら、なんでなのかなーって」

 

 内股になった黒子のひーちゃん。超下手に出る。そこに男らしさは皆無である。思わず聞いてしまったが、彼はこのあと激しく後悔することになる。


「……ふぅ」


「……はぁ」


「……」


「……ひーちゃんは分かってないねぇ」


 ため息の嵐と委員長のジト目、そしてひかるからのダメ出しである。


 あのひかるからのダメ出しである。


 あの!


 ひかるちゃんの! 


 ダメ出しであるぞ!?


「……すいませんでした」


 ひーちゃん、へこむ。果てしなくへこむ。ひかるに『分かってない』と言われたのだ。天然極楽蜻蛉にしてアホの娘ひかるに、である。


 もはや人としても最下層である。


「ひーちゃんはもう少し女の子を知るべきだと先生は思います。エロゲで女の子を理解できると思うな! このお馬鹿! いつまでもゲームに逃げてるんじゃない!」


「ふぐっ!」


 ひーちゃんは大ダメージを受けた! 


 効果は、びんびんだ! 



 女教師はひーちゃんがいつも一歩も二歩も退いているのを知っている。それはコンプレックスという次元ではない。


 彼は贖罪していたのだ。


 あの『そらがけ』が無くなってからずっと。


 生意気盛りだった小学生の天海海月。彼女が大怪我をして彼は『そらがけ』から去ることになった。


 事故の原因は本人も認める『天海海月の暴走』によるものである。


 それは当時インストラクターとして教えていた天宮少年のせいではない。


 だがその時の彼もまた『生意気盛りの小学生』であったのだ。


 自分の言うことを聞かないくそ生意気なアイドル。天宮少年は当時から男女平等を貫く硬派な男であった。


 いくら止めても人の言うことを聞かず勝手に空を跳んでいく天海海月に彼は匙を投げたのだ。


『ならば勝手に死ねぃ!』と。


 その結果、事故は起きた。


 天海海月を止めることは可能であった。でもしなかった。


 天宮少年は『止めない』という選択肢を選んだのだ。


 その結果……『そらがけ』は消えていった。


 当時、多くの人が空を跳び、重力の楔から抜け出す自由を楽しんでいた。


 その全てが奪われた。


 全ては自分の『選択』故に。


 本当に悪いのは『そらがけ』を今の『そらがけ』へと変えていった者なのだが、きっかけは間違いなく天宮少年が作り出したものなのだ。


 乙女の女子会。


 いつからか『ひーちゃん倶楽部』となったここで天海海月が明かした過去の事実。


 女教師がバーで聞いた彼の悔恨。


 委員長のほどよい妄想と天然娘ひかるによる直感が組合わさり、この推測が生まれた。


 そしてそれは当たっていた。


 肥田野君本人も気付かぬ傷である。


 気付かぬようにしている傷なのだろう。


 空と自由を何よりも好んだ『そらがけ』の天才は自分が壊したものの価値を知っていた。無くしたものの大切さを知っていた。


 だからこその贖罪。


 いくら稀少な血液型だからといって、肉体改造してまで献血するだろうか。


 いくらエロと二次元が好きだからといって、言葉遣いや日々の行動にそれを反映させるだろうか。


 この一週間で乙女達が嫌というほど分かったのは彼の『誠実さ』である。


 どれだけ誘惑しても彼は一線を絶対に越えてこない。どんなときも自分達のことを第一に考えて克己している。欲望に飲まれぬように。不幸な未来を作らぬように。


 彼は己を貶め罪を償っていた。彼は真っ直ぐ過ぎたのだ。


 女子会でその結論が出た時、乙女達は思わず激昂した。


 遠くにいるはずのスープ職人肥田野君が本能の命じるまま、空の寸胴鍋を被って隠れてしまうほどに。


 彼女達の怒りはまず自分達に向けられた。何故気付いてあげられなかったのかと。


 彼にとって今の『そらがけ』は罪の証そのものである。目の前に自分の罪の結果がある。


 それがどれだけ辛いことなのか、彼女達は知ってしまったのだ。


 乙女達は『飽きた』と言ったが、実際には『そらがけ』を彼から遠ざける為の方便である。実際にも飽きたけど。


 そして少しでも不器用で真っ直ぐな男の子を癒すため企画されたのが『ひーちゃんチキンレース』だったのだ。


 すぐに本来の目的から外れた企画になったのは仕方無い。この世に完璧なものなど決してありはしないのだから。


 

 大空ひかるは感じたのだ。


 大きな男の子が必死に隠す慟哭を。


 天海海月は知ったのだ。


 自分の罪の本当の意味を。


 委員長は悟ったのだ。


 現実の男という不器用な存在を。


 女教師は決意したのだ。


 このお馬鹿を絶対に幸せにしてみせると。



「ひーちゃん。今日は部活時間を延長してあなたへの罰ゲームを執り行います」


「……罰ゲームとな?」


 なんか自分がびんびんしてる間、随分長いことみんなが静かだったなぁと、ひーちゃんは思った。でもひとまず黙っている。ひーちゃんは空気の読めるデブだから。


 そんなことより『罰ゲーム』である。


 チキンレースは罰ゲームと違うのかなぁ。同じだよねぇ。でも嫌という訳ではないし。


 肥田野君も男の子である。女の子とおてて繋いで体育館一周するのも嫌ではない。むしろ、いちゃラブ感満載の行動にめっちゃ感動したのだ。


 エロゲを嗜んでいても、本当の彼は『中学生』レベルの男の子である。童貞なのは勿論、キスもまだである。実はこっそりとファーストチューは奪われているのだが、彼はそれに気付いていない。


 女の子と手を繋ぐだけでも大興奮する肥田野君である。


 そんな肥田野君に提示された罰ゲーム。


 ちょっと次元がおかしかった。


 それは『本気でプロポーズするつもりで愛を囁くのだー』というものであった。


 女達の欲望は止まらない。黒子のひーちゃんは驚愕し、戦慄した。


 罰ゲームならば少しの肉体的接触も許される。何故かそんなルールが出来ていた。むしろしないと怒られる。ひーちゃんも謎である。


 ここもダイジェストで行くとしよう。何せ時間が推している。このあとひーちゃんはバイトがあるのだから。


 

 大空ひかるの場合。


「ひかる……」


「ぷきゅう」


 後ろ抱きにされ、耳元に一言囁きを受けただけで、天然娘ひかるは気絶した。とりあえずひーちゃんは脱力したひかるの首にかぷりと噛みつき、軽く歯形を付けておいた。マーキングである。



 委員長の場合。


「子供はいらない。お前だけでいい」


「ふんぐ!?」


 真っ直ぐ前から見つめられた委員長。言われた言葉は予想外すぎた言葉である。彼女は首も真っ赤になるほどに全身が火照り、羞恥に耐えきれず逃げ出した。女子トイレに逃げ込んだのでひーちゃんも追うに追えず委員長の罰ゲームはここで終了した。果たしてどっちの罰ゲームだったのか。



 先生の場合。


「ありがとう……美和子」


「んげふっ!?」


 こちらも真っ直ぐに見つめられた上、名前を呼ばれた。予期せぬ本名呼び捨てに女教師美和子は一瞬で腰が抜けた。とりあえず女子トイレに搬送する事態にもなった。体育館にはシャワー室も完備である。大丈夫。乾燥機も付いている。年を取ると筋肉が緩むのだ。



 最後はこの人。


「……」


「なんか言いなさいよ」


 アイドル天海海月。泣く子もひーちゃんも黙る天下のアイドルである。流石のひーちゃんも考え込む。そしておもむろに彼女の手をとった。


「うひゃあ!?」


 変な声を無視して恋人のように指を絡めていく。


「ううううううきゃー!」


 変な声を無視して両手の指を絡めていく。


「……はふぅ」


 その様子は両手をガッチリと組み合ったプロレスラーのよう。アイドル天海海月のタッパはひーちゃんと同等の180センチである。


「……え、プロレス?」


「プロレスねぇ」


「最初の牽制だねー」


 ひーちゃんも同じように思った。既に天海海月の意識は飛んでいる。まさに立ち往生である。手を掴んだまま気絶した、まさにアイドル、まさにスターの貫禄をそこに見せ付けたのであった。


 こうしてこの日の部活動は終わった。


 そして夜は更けて。


 バーである。





「……味噌ラーメンを貰おうか」


「……はいよ」


 今日の客は敏腕警備員『鉄面皮』だけである。何故かバーに来てラーメンの注文をする『鉄面皮』。


 昼食で残ったスープはこういった場所で働く人に優先的に回されていた。


 新米バーテンダー肥田野君としてもそれは構わない。美味しく食べてもらえれば、それで良いのだ。


 バーのマスターも手慣れた様子でラーメンを作っていく。肥田野君もいつかこんなダンディなマスターになりたいなぁと羨望の眼差しである。


「……サンマー麺は作れないか?」


「……」


 客である『鉄面皮』の言葉を受けて、調理中のマスターが新米バーテンダー肥田野に目を向ける。


「……いや、そんなに見つめられましても。今回ので野菜の仕入れ先が増えたので次からは可能そうですが……横浜出身なんですか?」


「……昔ちょっとな」


 敏腕警備員『鉄面皮』


 彼には謎が多い。謎しかないと言ってもいい。その彼の秘密がひとつ暴かれた。


 正直どうでもいい秘密である。


「……サンマー麺って、あんかけラーメンとも言われますけど……」


「違う! あれはサンマー麺だ! なんだ、あんかけラーメンって! そんなのは別物だ!」


 敏腕警備員『鉄面皮』


 今日は酔いが過ぎたようだ。


 大人には色々ある。美和子さんもそうなのだ。彼女がバーに来てないのも色々あるからなのだ。


 新米バーテンダーはそれを心に刻むバイトの夜となった。


「タンメンはまた違うのだ! あれはあれでヘルシーだがサンマー麺とも違うのだ!」


 ラーメンは人を狂わす。青春であり未来であり、大人を狂わす魔性の料理。


 寸胴に何か変なの入れたっけ? そんなことを思いながらバーテンダー肥田野君は、バーにあるグラスをひとつひとつ丁寧に磨いていった。


「……はいよ」


「……ああ」


 ここだけ見るとハードボイルドなんだけどなぁ。でもバーのカウンターに味噌ラーメンは致命的に似合わないなぁ。


 肥田野君はそんな風に思った。


 そしてバイトが終わった夜のこと。


 肥田野君は調理場の休憩室に向かった。今日からこの部屋が肥田野君の部屋となる。


 純和室の六畳一間が二つ。襖が取り払われて十二畳の少し広めの部屋となる。ここに布団を敷いて寝るのだ。


 おばあちゃん達の休憩室として使われているので基本的に綺麗な部屋となる。


 寮から遠く離れたここが肥田野君の新たな拠点となったのだ。


 自分の新たな部屋。その初日である。荷物は既に運ばれているので問題はなにもない。


 休憩室のドアを開けて室内に入った途端、肥田野君は部屋にいた人物から声を掛けられた。


「あ、お帰りひーちゃん。遅かったねー」


 ぱたり。


 ひーちゃんはドアを閉めた。


 深呼吸する。おかしいものがあった。明らかにおかしいものが部屋にいた。きっと疲れているから幻覚を見たのだろう。


 そう気持ちを切り替えて、そっとドアを開けてみる。隙間から女の子の声が聞こえてきた。


「……ひーちゃんが出て行っちゃったよ?」


「大丈夫です。ひーちゃんは必ずこの部屋に戻ってきますから」


「和室って良いわよね。私もここで暮らそうかしら。私大柄だからベッドよりも布団派なのよね」


「この部屋ならみんなで合宿も可能っぽいわね。今日の外泊もすんなり許可が下りたから大丈夫そうだけど……よく許可が下りたものねぇ」


 ぱたり。


 ひーちゃんはドアを閉めた。


 疲れているんだ。自分は疲れているから幻覚を見たのだろう。女の子達が可愛いパジャマ姿で部屋に敷かれた布団の上をゴロゴロしているなんて……なんてエロゲィだよ。はっはっは。


「……今日は野宿か」


 月を相棒に野宿と洒落こむか。ふっ。ハードボイルドだぜぃ。


 肥田野君は現実逃避することにした。


「ひーちゃん? 話があるから早く入ってよ」


「あ、はい。すいません」


 現実逃避は失敗した。普通にドアが開いてパジャマっ娘に入室を促された。


 そして真実が語られた。


 それは遠い遠い世界で起きた悲しい出来事だった。


「私の部屋で盗聴機が発見されたの。ちょっと問題ありって事でしばらく調査する事になってね」


「それでねー? 安全なお部屋はどこかなーって探したらここを勧められたの」


「職員の方からも太鼓判を押されました。肥田野君なら大丈夫だろうって」


「でも問題を起こしたらラッコなのよ。いい? 絶対に! 問題は! 起こすなー!」


 という訳であった。


 アイドルの世界は怖いなぁ。


 さて、シャワーを浴びるとするかー。


「ひーちゃん。まだ話は終わってないわ」


「……ぎょい」


 肥田野君は疲れていた。今日はラーメン祭りだったのだ。やっと苦行の日々が終わったのだ。今すぐにお風呂に入ってグッタリとお布団に倒れたい。


 残業帰りのお父さんである。


 しかして肥田野パパの願いは別の形で叶うことになったのである。


「ひーちゃん。あなた……幼女にも手を出してるわね?」


 ぱたり。


 ひーちゃんは倒れた。


「学校に幼女から問い合わせが来ました。肥田野君。説明してくれますね?」


「……ぎょい」


 夜は長い。そして乙女達の夜も、まだ始まったばかりである。





 次の日。


 この日は休日である。


 ホリデーである。


 休みではあるのだが、肥田野君は朝の調理場の手伝いに入ることになっていた。バイトである。


 部屋に寝ている女の子達を起こさないように部屋を出た肥田野君は地下通路を利用して寮の調理場へと急いだ。まだ朝の五時である。


 朝と晩のご飯は校内の食堂ではなくて寮の近くにある食堂で食べることになっている。


 寮の食堂と生徒たちに呼ばれてはいるが、食堂があるのは男子寮、女子寮、教師寮とは別の建物になる。


 ちょっとややこしいが仕方無い。元は小学校の給食施設を利用したものなので立地的にそうなるのだ。

 

 朝の調理場は戦場である。


 朝に限らず戦場になるので特に意味のない言葉ではある。


 育ち盛りの少年少女の胃袋を満足させるため、今日もおばあちゃん達はその腕を振るう。


「翔ちゃん。女の子とのお泊まりはどうだったの? ちゃんと優しくしてあげたかしら?」


「……」


 肥田野君は無言である。何となくそんな気はしていた。食堂の控え室は調理場のおばあちゃん達の管轄である。宿泊の許可を出したのはおばあちゃん達でしか、あり得ない。


 若い男と女が同じ部屋で就寝である。間違いが起きない訳がない。おばあちゃん達が仕組んだのだ。


「……責任って取らないと駄目ですかね?」


 肥田野君からクズ発言が漏れる。いつもならおばあちゃん達からお叱りを受ける流れ。当然おばあちゃん達は笑顔で反応した。


「あらあら、翔ちゃんはどこまで大人になったのかしらぁ」


 にこやかに聞いてくるが、その手には巨大なしゃもじがある。隣の家に突撃出来そうな巨大なしゃもじである。重さは10キロオーバー。振り下ろせば、きっと殺れる、そんなしゃもじである。


「……お風呂を覗かれました」


 昨日、肥田野君は執拗なセクハラを受ける事になった。全身を舐めるように視姦されたのだ。四人の乙女によって。


 煽動したのは女教師。


 肥田野君は汚されたのだ。


「翔ちゃんが覗いたのではなく?」


 おばあちゃん達もちょっと怯んだ。可愛い孫のような翔ちゃんに少しだけご褒美を。そんな意図で許可を出したのが思わぬ方向に転がったのである。


「覗かれました。そして見られました」


 肥田野君はもう純潔ではない。汚されたのだ。全身をくまなく。


「あらそう。それじゃあ、お仕事頑張りましょうねぇ」


 おばあちゃん達にそんなことは些事である。怯んだのは刹那の時。人生経験の豊富なおばあちゃん達には微風も良いところであった。


「何故許可を出したのですか?」


「翔ちゃん。女の子は愛されないと死んじゃうのよ?」


 愛したら自分が死ぬんですよね?


 肥田野君はそう言いたい。でも巨大しゃもじを見て諦める。とりあえずキャベツの千切りを作るのみである。


 この日の朝食はハムエッグであった。ただのハムエッグと侮るなかれ。熟練の料理人が作るハムエッグである。高校生すら満足させる至高のハムエッグなのである。


 見た目は普通にハムエッグだったけども。




 そして時が過ぎた。三年ぐらいでどうだろう。


「そういうことになりませんかね」


「だめ!」


 時は過ぎなかった。その日の朝である。


 場所は変わってひーちゃんのお部屋である。


 男一匹、肥田野君。


 男の隠れ家、肥田野君。


 和室でゴロゴロ、肥田野君。


 そうなるはずだった和室の部屋は様変わりしていた。


 畳の部屋には女の子が……。


 女の子……うーむ。


 肥田野君は悩ましげである。


「あぁ? ひーちゃん何か文句あんの?」

 

 畳の部屋には女の子が四人。ジャージ姿でゴロゴロしていた。早朝には部屋一面にお布団が敷かれていた光景はすっかり様変わりしていた。


 一面畳の部屋に乙女がゴロゴロである。


 ……あんまり変わらないし、すごく女臭いなぁ。


 そんなことを肥田野君は思っていた。


 朝御飯を食べたあと、みんなでまったりしている真っ最中……ということらしい。


 新生そら部の乙女達がここに揃い踏み。勢揃い。オールスターである。


「……あの、なして、ここにたむろしてはるの?」


 今日の肥田野君。はんなりモードである。


 昨夜の『幼女事件』は誤解であったことが早々に判明。天海海月の盗聴事件も朝方には解決していた。


 だのに何故ここは乙女で溢れておられるのか。


「畳って良いよねー」


「ひかる。パンツが見えてるわよ」


「おっといけねぇ」


「……あの、ここは一応男の部屋となりまして。皆様ここをなんだと思ってやがるんだぁぁぁ!」


 肥田野君。ついにキレる。


 微妙に下手なのはひかるのパンツをバッチリと見てしまったからだ。ひかるのジャージがずり下がっていて尻が半分以上出ていたのだ。ありがとうパンツ。そして気にしろ乙女。


 肥田野君のウルフが目覚めようとしていた。股間に生息するワイルドウルフである。絶滅危惧種としてレッドアニマル指定されている猛獣である。


「気持ちは分かるけど諦めなさい。天海さんの人気は想像以上に大きかったの。この学校で一番のワルを番犬に、更に教師と委員長の監視付き。ここまでしないと学校の秩序が崩壊しちゃうのよ」


 ジャージでゴロゴロしている女教師美和子の説明である。


 破廉恥極まりない男女同室には、ちゃんと理由があった。ひーちゃん、驚きと共に感情が収まった。ウルフは大人しくなったのだ。わふんと巣穴でおねむである。


「理由は分かりました。ですが……子作りは禁止ですよ?」


「ちっ、腰抜けめ」


「なんでそこまで子作り熱望でござるか!?」


 エッチな事が大好きな肥田野君をして、ちょっと引くレベルで女の性欲は強かった。しかも舌打ちしたのは青い髪のアイドルである。


 昨夜はみんなお風呂を覗いて興奮しまくってぶっ倒れたのだ。だから肥田野君は無事に朝を迎えられた。興奮しても鼻血は意外と出ないものだ。布団は血に染まることもなく……でも何となくしっとりはした。きっと乙女の寝汗だろう。


「ひーちゃんにはきっちり責任とってもらうとして……しばらく一緒に暮らすからよろしくね」


 ぱちこん。女教師がウィンクを寄越した。下手くそである。


 そして話が終わったからなのか。空気を読まないこの娘も動き出した。


「ひーちゃん、だっこしてー」


「はっはっは。生殺しって知ってるかい?」


 ひーちゃんは男の子で、ひかるは女の子である。股間のウルフが頭を上げた。巣穴の外を窺っている。すわ、出番かと。


「肥田野君。そっくりそのままお返ししますよ。私達がどれだけあなたの赤ちゃんが欲しいと思っているのか、まだ理解出来ないのですか」


「……すんません」


 エロの伝道師。かつてはそう自負していた肥田野君は怒られた。マジな顔の委員長に怒られたのだ。


 かつてはエロの伝道師。今や立派なチキン野郎である。ウルフは巣穴の奥へと急いで逃げていく。尻尾はくるんと股に挟んだ状態だ。


 このままではいかん。


 肥田野君は流れを変える事にした。


「ところで改造はどうします? 今すぐに着手しますか?」


 昨日の放課後の続きであるが、下手くそである。あからさまである。しかしここで流れを変えないと委員長による妄想ファミリー劇場が始まってしまうのだ。


 彼女が産んだ数は先日三桁を越えた。孫も生まれたそうで大きな家を郊外に建造中とのことである。勿論全て妄想である。彼女ほど出産願望に厚く、出産経験の豊富な女子高生もいないだろう。勿論妄想の話なのだが。


「うー……ひーちゃんは辛くないの?」


「……ん? そこまで大変な作業でもないぞ。大変なのは『そらがけ』する方になるからな」


 ひかるの心配は別の意味で伝わっていた。


 アホの娘ひかるは、いつの間にか『肥田野翔』に惹かれていた。


 エッチな男の子なんだけど優しくてあたたかい人。


 彼女の感じる肥田野君とは『日だまり』のような存在であった。


 ひかるは『肥田野翔』が『天宮翔』である事を知っている。女子会で知らされた。だがそんなことは、どうでも良いのだ。ひかるは肥田野君が好き。それだけで。


「うー……ひーちゃんの真面目ー。でも好きー」


 最近乙女に目覚めてきたひかるが小声で呟く。完全に女の子である。いや、元から女の子ではあるのだが。


「改造ってそんな簡単に出来るものなの? そんな話は聞いたこともないけど」


 ひかるがもにょもにょしているのを横目に見ながら天海海月がひーちゃんに尋ねた。ひかるも気になるが、話の内容も普通に気になる。改造が簡単に出来るなら今の『そらがけ』はもっと前に変わっていてもおかしくない、そう思ったのだ。


「……あれ? 言って無かったか? エア靴の基本設計を組んだのは……自分もエア靴の基本設計に携わってたんだよ。昔は神童と呼ばれててな。今は普通の人だから気にしなくていい。普通のぽっちゃりさ。ははは」


 肥田野君、驚愕事実がまたしても明らかになる。途中、あからさまに話をねじ曲げたのはアイドル天海海月の『お前マジか!?』的な視線を受けた為である。


 天宮翔の父親が日本唯一のエア靴メーカー『天宮工業』の社長であることは天海海月も知っている。


 かつての『そらがけ』を世に知らしめた一大興業主でもある。この男が日本各地でイベントを開催して『そらがけ』は一気にブームになったのだ。


 ひかるはその地方巡業で『そらがけ』と『天宮翔』に出会った。そういう事である。


 そして『天宮工業』と言えばそらがけ。


 エア靴と言えばこの会社。


 そう言われる程の超有名な大企業である。


 エア靴の世界シェアを独占する一強独裁企業。そらがけが劣化した今でもその勢いは、むしろ伸びている。


 しかしそれほど有名にして勢いのある会社なのに、エア靴を開発した人間というものは決して表に出て来なかった。


 海外にあるエア靴メーカーは基本理論こそ同じものを使っているが日本のエア靴より格段に性能が落ちるものしか作れていない。


 その為にエア靴は世界的に見ても『天宮工業』の独占状態にあるのだ。


 ネットでも『エア靴の秘密を解き明かしたら1億円』という書き込みが頻繁に現れる。


 売っているのを解体してもよく分からない。コピーしても劣化品しか作れない。


 ……どゆこつ? と世界の人々は頭を悩ませた。


 それだけエア靴には謎が多い。そんなものをみんな平気な顔して使っているのだから図太い神経してるわねー、と天海海月はずっと思っていた。


 でも真相は『天宮翔』にあったのだ。


「ひーちゃん。あなたならエア靴……もしかして1から作れたりしないわよね?」


 天海海月は怯えながら聞いていた。もしそうなら『天宮工業』を潰すことすら可能になる。エア靴には特許が存在しない。真似してごらん? ゴミしか出来ないから。そんな理由で『天宮工業』は特許申請をしていないのだ。


 強気である。あまりにも強気。


 でもそれがはったりだとしたら?


 自分達にも理解出来ないものを作っているだけだとしたら?


 天海海月は女の勘でそれを感じていた。


「いやいや、1から作るとか無茶ですがな」


「そうよね。うん」


 天海海月は、ひーちゃんの答えに、ほっと胸を撫で下ろした。


 何せ相手はあの『天宮翔』である。何が起きてもおかしくない。


 海月ちゃんは気が抜けた。


 だが肥田野君のターンはまだ終わっていなかった。


「フォトン回路ってちゃんとした研究所でしか作れないんだよ。結構危なくてさ。あ、完成品は安定してるから大丈夫だぞ? エア靴大爆発とかニュースになってないだろ? 研究所だとよく爆発してさー。みんな大爆笑しながら爆発させて遊んでたなー」


「ダウトー! ひーちゃん、それは絶対に内緒にしないと駄目な奴よ!」


 懐かしそうに語っていたひーちゃんは天海海月によって守秘義務を負わされる事になった。


 海月ちゃんはとんでもない爆弾を掘り起こした気分である。ひーちゃん本人と他のメンバーは特に気にも留めてないが。


 天海海月は『天宮翔』を追う過程で『そらがけ』についても調べていた。


 だから知っている。


 フォトン回路の発見者はノーベル賞を受賞したあと、どこぞかに消えた。完全に行方不明となったのだ。


 回路の製法は研究室に残されていたので今出回っているフォトン回路はそれを基にして作られたものとなる。


 だが最初期に作られたフォトン回路は今のものと根本的に異なるものであったという。それは研究所の何処を探しても見つからなかった。


 噂では研究者と最初のフォトン回路は共に何処かの国に拉致されたのではないか、とまことしやかに囁かれた。


 今も発見者は見つかっていないので真偽のほどは分からない。


 そして極めつけ。


 世界で一番最初に作られたフォトン回路の研究所、ここも今や存在しない。謎の爆発によって、ある日突然建物が吹き飛んだのだ。それも跡形もなく。


 その爆発はすさまじく、研究所の跡地には大きなクレーターしか残されていなかった。人がいたのかも分からないくらいに全てが吹き飛んだ。建物があった痕跡も、人間の肉片すらも確認できなかったという。


 こうして初期のフォトン回路にまつわる人々は悉くが消えていった。研究室にいたとされる研究員も全員が行方不明。全ては謎に包まれたまま迷宮入りとなったのだ。


 そこには『天宮工業』の黒い噂が飛び交った。


 だが全ては噂である。


 技術を独占するために全員の口封じをした、とか。


 研究所に協力を拒まれたから殺した、とか。


 スポーツとして欠陥品でしかない『そらがけ』がこうして学校やテレビで人気を博しているのも多額の献金をしているから、との噂がある。これは噂ではなく真実だが。


 天海海月は事の真相に触れた気がした。


「ひーちゃん。先生は大台に乗る前に結婚したいの」


「……そ、そっすか」


「先生は大台に乗る前に結婚したいと言っています」


「そ、そうなんすか」


「……ここに婚姻届があります」


「あー! なんで自分の名前が書かれてるんですか!」


「ちょっと! 私のもあるんだからね! 私が肥田野海月になるの!」


「なんでやねーん!」


 シリアスな話はぶっとんでいった。いつもの風景である。


 子供だったひーちゃんがこうして無事に育っている。このミューテーションを無事かどうかと判断するのは微妙な範囲だが。


 だから多分平気なんだろう。


 海月ちゃんはそう判断した。


 こうして朝の時間はゆるりと賑やかに過ぎていく。いつもはうるさいひかるが珍しく静かなのは、いつの間にか畳の上で眠っているからである。



 そして時は進んで……


「……知ってますか? 郵送でも婚姻届って受理されるんですよ?」


「委員長!? 妄想でござるか!? 妄想でござるよね!? そうだと言ってよ! 委員長ぉぉぉぉ!」


「うふふふふ」


 時は進んでいなかったようだ。


 この日の委員長はとてもにこやかであったという。


 ハムエッグの朝はこうして過ぎていった。


 そして今度こそ時は進んだ。なんと一週間近くも進んだのだ。手抜きではない。仕様である。





 五月の下旬。風の心地よい春の日の事。あのラーメンの日から大体一週間後の事である。この日は休日。土曜日である。


 世間では一般的に休日とされるこの日。大徳寺高校の門扉が開かれた。


 そこから出てきたのは制服姿の巨漢とお洒落なスーツを身に包んだ女性……そして元気な女子と大柄で青頭なモデル体型の女子と委員長っぽい女子であった。


「では行ってきます」


「気を付けてな」


 一人男性である巨漢は門扉を開けた警備員に一礼して踵を返す。


 彼はこれから処刑場へと赴くのだ。足取りは重く、しかし止まらない。


 背後で門扉が閉まる音を聞きながら彼は同行者に声を掛けた。


「では病院に行きましょうか」


 今日は毎月恒例の『輸血デー』である。肥田野君が学校から特例で許されている外出日となる。教師が一人同行することになっており、二回目の今回はこの人が担当というか、お役目を押し付けられていた。


「なんで徒歩なのよぉぉ。車出しても良いじゃないのよぉぉぉ」


「しばらく我慢してください。先生殿」


 ひーちゃん苦笑い。


 今日も付き添いは担任である女教師美和子である。昨日、ついにひーちゃんとゴールインしてお腹に赤ちゃんが宿った美和子ちゃんである。


 勿論妄想であるが。


「昨日は随分と飲んでましたよね」


「これが飲まずにやってられるかぁ! 友達が三人結婚して式に呼ばれてるの。結婚式貧乏なの。あと純粋にムカつく。あいつら駆け込み結婚なんかしやがって!」


「先生殿……」


 歩道を歩く女教師は今日も足取り確かである。昨日はボトルが八本くらい空になったのに。


「ひーちゃんが献血ってなんか変な感じー。針が刺さらない気がするんだよねー」


「流石に刺さるでしょ。刺さるわよね?」


「力を抜いておけば大体のものは刺さるぞ?」


「力入れたら?」


「一度やったことがあるが、針が折れて飛んでった。危ないから真似しちゃダメだぞ?」


「うん!」


 和やかな会話をしながら五分程歩いた先。四人の乙女と一人の巨漢は、とある家の前に到着していた。


「さて、覚悟はいいな?」


 肥田野君は四人の乙女に確認した。何と事前の説明無しである。乙女達は病院に向かっていると思っていた。


「……え、ひーちゃん?」


「あの、ここの表札が……」


「ちょっと待って! ひーちゃん、本当に待って! せめてあと二時間は待って! 酒の匂いがまだ……」


 きんこーん。


「これからうちの母に会ってもらいます。大丈夫。多分怒られるのは自分だから」


 呼び鈴を鳴らした肥田野君は微かに笑顔であった。


「……」


「あ、海月ちゃんがまた気絶してるー」


「また立ち往生か。器用なアイドルめ」


 強ばった顔のまま天海海月は気絶していた。玄関先で立ち往生である。弁慶も真っ青だろう。頭も青いし。


 玄関の前でそんな風に騒いでいると玄関のドア越しに声がした。


『はいはーい! どなたかしらー?』


 それは意外にも若い声だった。


「かーちゃん、おれおれー」


 肥田野君、実はこれが素である。


『まあ! ちょっと待っててねー。今スタンガンと釘バットを用意するから』


 ドア越しにがさごそと不穏な音がする。乙女達は固まったままである。


「はっはっは。かーちゃんはマジでやるからみんな気を付けろ。多分他にも飛び道具を使ってくる」


 肥田野君は何て事のないように話しているが、そのこめかみには汗が流れている。


『あらー? そこまで分かってるって事は翔ちゃんかしら?』


「かーちゃん。もう高校生なんだから翔ちゃん呼びは勘弁してよ」


『あらあら。丁度ホームセンターで斧を買ったばかりなのよね』


「やべぇ! 全員退避!」


 立ったまま気絶している海月ちゃんを抱き締めて急いでドアから離れる肥田野君。他のメンバーも何となくヤバそうな気配を感じていたので、すぐにドアから離れた。


 ザクッ。


 そんな音がした。


 いつの間にか、ドアから銀色の棒が生えていた。


「あっぶねー。Eブレードかよ」


『あら、やっぱり翔ちゃんだったのね。すぐに開けるわねー』


 ドアから生えていた銀色の棒がするするとドアに飲み込まれるようにして消えていった。何故か穴は見当たらない。


「……ねぇ、あれはなんなの?」


 呆気に取られていた女教師がようやく口を開いた。出た言葉はまずそれだった。


「ん? かーちゃんも独り暮らしで、なにかと物騒な世の中じゃん? だから家に残してきた護身用の兵器だよ。あれは電撃が走ってる棒。触れたら黒焦げになるヤバイ武器だ」


「……は?」


 女教師呆ける。しかし無情にもドアが開く。そこに現れたのは妙齢の女性であった。


「おかえりな……翔ちゃん? 女の子を誘拐してくるとはどういうことですか?」


 女性はひーちゃんの腕の中でぐったりしている海月ちゃんを見て眉をひそめた。確かにそう見えぬ事もない……のかもしれない。


「……この子はあの天海海月だよ、かーちゃん」


 ひーちゃんは少し躊躇ったあと静かに答えた。このあとどうなるのか大体想像はつく。しかし嘘を付く事は出来ない。


「あら、そういうことね」


 母親に笑顔が浮かんだ。ひーちゃんはそれを見て急いで捲し立てる。


「うん。だから誘拐ではなくて……」


「拉致してきたのね。ようやくこの女に復讐する気になったなんて。お母さんは嬉しいわ」


 母親は笑顔だった。とても笑顔であった。危険な笑みである。


「かーちゃん。違う。これ、嫁候補だから」


 やはりこうなったかとひーちゃんの冷や汗が止まらない。


「……んー? どういうことかしら?」


「とりあえず家にあげてもらえる?」


「ええ、いいわよー。その子達も……嫁候補なの?」


「……話せば分かるよ。かーちゃん。だからその手の斧を下ろしてよ」


 非常識な生き物、肥田野翔。


 それを産んだ人もまた、普通ではない。


 むしろこの子にして、この母あり。


 ひかるですら絶句する相手。


 肥田野楓さんのご登場であった。





「……というわけなんよ、かーちゃん」


「そうなの」


 肥田野家の居間である。最近の家には珍しく和室でお座敷であった。


 そこで始まったひーちゃんの言い訳というか説明。何故か話はすぐに通じた。肥田野母は若々しい女性で美しい人であった。


「わ、わたくし、肥田野君の担任をしております美和子と申します」


「あらあら、ご丁寧にどうもー」


「私はひかるです! ひーちゃんが好きです! 結婚してください!」


「あらー? 私もひーちゃんなんですけどねー? うふふー」


「田中美鈴です。よろしくお願いします」


「誰!? あ、委員長!? そんな名前だったの!? なんか名前まで委員長だよ!?」


「あらあら」


 怒濤の挨拶ラッシュである。何気に初めて委員長の名前が出てきたが、担任すら驚いているのは何故なのか。


 そして挨拶はこの人がトリとなった。勿論三つ指ついての土下座スタートである。


「……天海海月です」


「ええ、よく知っているわ。こそこそと嗅ぎ回っていたみたいね」


 瞬間、肥田野母から尋常ではない殺気が迸った。口調も気配も一気に極寒へと移行する。


「やべぇ! かーちゃんストップだ! そいつは昔の天海海月じゃない!」


 ひーちゃんが血相を変えて母親を止めた。あまりにも危険。マジで殺っちゃう二秒前である。息子の悲鳴のような呼び掛けに僅かに身を震わせた母、楓。


「……そうなのかしら?」


 いつの間にか彼女の手に短刀が握られていた。西洋のナイフではなく日本の懐剣である。


 息子が必死に止めていなければ閃光が瞬きアイドルの首が落ちていただろう。


 和室に緊張感が満ちる。


「……私のせいで彼の人生は狂いました。この身全てを掛けて彼の幸せに尽くします。烏滸がましくはありますが、私は彼を愛しております」

 

 天海海月は深々と頭を下げた。


「……そう」


 二人の間に冷たい稲妻が走る。母親として到底許せる相手ではない。彼女は全てを見てきたのだから。だが当の息子が許している。だから連れてきた。自分の前に。


 肥田野楓は懐剣を鞘に仕舞った。カチンという音が室内に響く。部屋の空気は元の空気に戻りつつあった。


「かーちゃん。おれ、このあと献血に行くんだけど車を出してもらえないかな。んで、献血の間、この子達と話をして欲しい」


「……そういうことね」


 肥田野楓は息子がやって来た意味をここで悟った。手紙で今日来ることは知っていた。大切な話があると。


 まさかここまでの話とは思わなかったが、それも息子のすることである。楓は慣れっこであった。


「おれは怒ってない。でも嫁候補がこんなにいるのは流石にどうかと思う。かーちゃん、どうしたらいいかな」


「全員を幸せにするのが男の子なのよー?」


「求められてるのは男の子じゃなくて男として、なんだけど?」


「まあまあ。翔ちゃんも男になったのねぇ」


「まだ……うん。なんでもない」


「あらあら」


 肥田野親子の会話は独特なものであった。急遽肥田野君の親に挨拶することになった乙女達も二の足を踏む空気である。


 特に天海海月の顔は下げっぱなしで真っ青なまま。


 肥田野楓。


 かつての華族の成れの果て。没落した家の末裔とは聞いていた。歴史だけは深い。それだけだと。


 実際に会ってみて探偵が役立たずだったことを知る。


 とんでもない相手である。少なくとも敵に回して良い存在ではない。


 あの『天宮翔』を産んだ人。


 そして今の『肥田野翔』を育ててきた人である。


 せめて心の準備はさせてよねー。


 海月ちゃんのパンツは冷や汗でびっしょりである。


「それで……翔ちゃんはみんなとどこまでやったのかなー?」


「……かーちゃん。そういうのは親子でも恥ずかしいんだけど」


「あとでこの子達にも聞き出すから無駄な足掻きよー?」


「なら、言わんくても……」


 カチン。鞘から白光が迸る。


「先生とは毎日手を繋いでます。キスはまだです。ひかるは毎日頭を撫でてます。キスはおでこと首にしました。委員長……田中さんには太ももにキスマークを六個つけました。それだけです。天海さんは……胸を揉んでます。キスは……足の裏にしました」


 カチン。


 白光は消えた。そして楓ママはとても笑顔である


「あらあらあらあら」


 肥田野君。随分と爛れていた。一週間で随分と爛れたものである。不潔である。破廉恥である。特に委員長と海月ちゃんに対する破廉恥さは群を抜いている。なんて野郎だ豚野郎。


「違うんです、お義母様!」


 カチン。シャキン。ぎらり。


「……誰がおかあさまですって?」


「ストップザかーちゃん! 刃物は置いとこうぜぃ!?」


 お約束だけど、なんか違う。いや、そんなことよりかーちゃんだ。


 肥田野家でのご挨拶は中々に危険な一時となった。


 



 そして三十分後。一行は病院に到着していた。今日の目的は本来ここである。肥田野家でのご挨拶はオマケに当たる。


 ここで血を抜くのが第一の目的。肥田野君の恒例行事であるデブの血液一リットルぶっこぬきである。


 良い子は決して真似してはならない。多分倒れる。というか体重によっては死ぬ。


 毎月一リットルの献血をする肥田野君は、この病院でも名物デブとなっていた。献血センターではなく病院で献血するのは、ここですぐに使用するからでもある。


 そう。今日の第二の目的はそれに関連する。乙女達が外出に同行しているのも、この第二の目的の為である。

 

 肥田野君が血をぶっこぬかれてる間、乙女達と肥田野ママは病院のロビーで『女子会』を開くことにした。


 診察に来た患者用のスペースではなくお見舞いに来た人達向けのスペースで優雅な女子会の開催である。


 ここで乙女達は肥田野ママから『うちの翔ちゃんのどこが好きなのー?』とか『本当はどこまでやったのー?』とかを根掘り葉掘り聞かれることとなった。


 ひーちゃんがこの場にいなくて正解である。女性の猥談には加減がない。赤裸々であり、明け透けであり、とにかくエグい。


 ひーちゃんの知らぬところで乙女達はひーちゃんを堪能しつくしていた。


 お風呂覗きはある意味で日課となっていたし、枕や下着は当然の如く貪られていた。


 寝ているひーちゃんの上に乗って尻パイルバンカーで起こすのも毎朝の光景である。


 知れば知るほど愛しくなる。側にいれば側にいるほど体を重ねたくなる。ひーちゃんはスルメのような味わい深い男だったのだ。


 たまに隠れて匂いを嗅がれる事もあるけれど、それも乙女として恥ずかしくもあり、嬉しくもある。でも足の匂いを嗅ぐのはノーサンキュー。特に運動後。


 そんな話が病院の明るいロビーを彩った。


 この病院の看護婦さん達も大興奮する女子会である。


 いつの間にやらギャラリーは増え続け大変な規模の女子会へと発展していた。


 ひーちゃんが見たらきっと号泣して膝から崩れる、そんな規模である。そして話題はこれに移っていた。


「ひーちゃんが帰って来たら幼女と面会ですね」


「ひーちゃんと幼女かぁ」


「幼女なのよね」


「……大丈夫かしら。幼女にひーちゃんはインパクトが強すぎる気がするの」


「黒子衣装も持ってきてるけど、マッスルひーちゃんで行く?」


「それこそトラウマになるわよ!」


「あらあら」


 今日は献血以外の目的として幼女との面会が予定されていた。これも学校公認である。これがあるからこそ、教師を除いた三人の乙女、大空ひかる、天海海月、田中美鈴がひーちゃんに同行しているのである。


 ……田中美鈴は委員長である。いつの間にか増えたキャラではない。


 そしていつの間にか現れた幼女はかつて『幼女事件』を起こした幼女である。肥田野君が食堂の休憩室にお引っ越しした日に起きた事件。残業疲れの肥田野パパに止めを差した、あの事件の幼女である。


 幼女が学校に問い合わせてきたこの不思議な事件。幼女が『命の恩人さんにお礼を言いたいのです。会いたいのです』と大徳寺高校に電話を掛けてきたのがこの事件の発端である。


 これを受けた学校は対処に困った。事案が事案である。そしてこの連絡から三日後に答えは出た。


『今度の外出の際に、ついでで会ってみるのはどうかね』


 大徳寺高校の校長はそう考えた。献血の時期はすぐそこに迫っており、これならば許可云々は問題ないと判断したのだ。確かに一石二鳥の手である。


 しかしこの男は黙っていなかった。


『あぁ? いたいけな幼女の願いを、もののついでで済ませる気か? 歯ぁ食いしばれハゲがぁぁぁぁ!』


 校長は屈強な体育教師達に守られて無事であった。


 しかしこれで教師が三人脱落した。体育の授業は自習……しばらくはドッチボールになった。


 そして教師に暴行を働いたデブは懲罰房に収監され監禁となった。そして妥協案が示された。


『アイドルも連れての面会ならどうかね』


『ふざけるなハゲェェェェ!』


 デブとアイドルのツープラトンが炸裂した。


 校長はこうして大徳寺高校から去っていった。今の責任者は副校長であり、教頭である。


 大徳寺高校の外出許可は異常に厳しい。肥田野君はそれを『正しい』と判断していた。アイドル天海海月も同様である。


 この厳格たるルールがあるからこそ、この学校は『大徳寺高校』なのだと。


 それを校長がねじ曲げるとは言語道断。


 恩人である肥田野君が特例で許されるのならば、まだ納得は出来る。相手は幼女で入院中なのだから。


 しかし無関係にして『アイドルだから』という理由だけで天海海月の外出許可が出ることは他の教職員ですら許しがたい暴挙だったのだ。


 なのでお咎めは無しとなった。校長室と懲罰房の壁は大きな穴が開いたままである。


 だが現実問題として肥田野君が幼女に会いに行くとなると、色々と色々である。何故なら連絡を入れてきた幼女はまだ入院している病人なのだ。病人に肥田野君単品では刺激が強すぎるだろう。


 学校は新たな判断を下した。


『暴力行為を働いた罰として社会奉仕活動を命ずる。病院で心細い思いをしている少女の話し相手をしてきなさい』


 見事なやり方である。


 これならばツープラトンしたアイドルも同時に派遣できる。病院で入院している少女にはサプライズにもなるだろう。でも刺激が強すぎても危ないよね。オマケで同じ部活の女の子達も付けとこう。これならば少しは薄まるはず。薄まるよね? 


 ……頑張れ美和子! 問題起こすなよ!


 こうして学校の判断は最終的に女教師美和子に丸投げされた。


 美和子がお酒に溺れるのも無理はない。


 大空ひかると委員長が同行しているのは明確にアウトなのだが身内には甘い肥田野君である。深く考えないことにした。


 そして今日、肥田野君は幼女と対面することになったのである。説明がやたらと長いが仕方無い。そういうものなのだ。


 そしてながーい説明の間に体重を一キロ減らしてきたデブが乙女達の元へとやって来た。


 献血完了。顔色が少し変わったが、元がむくんでいるので分かりにくい。


「……なんだ、この女子空間は」


 来るなり肥田野君はそう呟いた。来訪者用のロビーには看護婦や入院患者も集まり『うふふ、あはは』と笑みを浮かべて自分を見てくる。全員が女性である。なんとも落ち着かない空間である。


 椅子に座らずロビーの壁際に立つ新人看護婦も真っ赤な顔で肥田野君をチラチラと見てくるのだ。


「ひーちゃん。あのね? 足の匂いを嗅がれるのはみんな嫌なんだって」


「なんの話でござるか!? いきなり過ぎるでござるぅ!?」


 肥田野君、寝耳に水である。そしていきなりの性癖暴露である。かーちゃん目の前におるんやで!?


 そんな思いは無視された。当然である。だってひかるちゃんだし。


「せめてお風呂上がりにして欲しいってみんな思ってるのよ」


「あらあらー。翔ちゃんはスカートの中に入るの、好きだったものねー」


「今も好きでござるよ!? あ、いや、げふん! さぁ、幼女のスカートに会いに行こうか。待たせるのも良くない」


 ひーちゃん、テンパり過ぎて思わずアウトな事を口走る。多分本音でもあるので仕方無い。


「幼女ではなく私達のスカートで我慢してください。旦那様」


 ロビーには『きゃー!』という黄色い歓声があがる。ここは病院なのに騒いで良いのかなぁと肥田野君も現実逃避である。


「今日は私にもキスマーク付けてね、ひーちゃん」


「先生は今日、タイトスカートだからスカートの中には入れません! だからお風呂で……ね?」


 きゃー!


 そんな黄色い歓声に飲みこまれるロビー。新人看護婦は鼻血を垂らしていた。


 肥田野君は早々に逃げ出すことにした。


 何より母親が居ることが辛い。


 それもにこにこしてるのが胸に突き刺さるのだ。


 かーちゃん、なんでにこにこなん? 息子の成長を見守るにしても少しは止めてけれよ。おれ、恥ずかしいねんな。


 よく分からない言語で思考する肥田野君はエレベーターホールを抜けて病院の中庭にまで逃げ出していた。


 病院の中庭には庭園が作られていた。遊歩道には車イスに乗った人や、散歩中の入院患者の姿もある。


 季節は春。今は五月の下旬。風が気持ちいい日である。


 肥田野君はここで深呼吸していた。


『ああ、緑の匂いだ。女臭くない』


 現実逃避である。


「うきゃー! なんなんですの、この大きな人はー!」


「ぬ?」


 肥田野君、尻に視線を感じて振り返る。最近尻に視線を感じる機会が増えていた。なので彼のお尻の感度はびんびんなのだ。


 振り返った先、視線を下げるとそこには勝ち気そうな幼女がいた。何故かドレス姿である。ピアノの発表会に出るような素敵なドレスを着た幼女である。そして頭には大きなリボン。


「……ん?」


 確かに可愛らしい幼女である。お洒落した女の子はやはり良いものだ。でもここは病院の中庭である。あまりにも場違い。なので肥田野君は少しバグった。


「……がおー」


 彼は何故か熊のポーズを取った。似合う。とても似合う。むしろ熊そのものである。にじりにじりと幼女へと近寄る熊がそこにいた。


「きゃー! 私を食べる気なのですよ!? きっと足の先からちびちびとはむはむされてしまうのですー!」


 着飾ったドレスの幼女は必死に叫んでいた。周りの人達もその様子をほっこりと見守っている。


「がおー」


 のそのそ歩いていた熊が、ついに幼女をその射程圏内に捉えた。そして幼女の頭に手を伸ばす。


「きゃー! リボンに触るななのですよー! あら?」


 熊さん、リボンを微調整。そして三歩退いた。


「がおっ」


 ジャストフィット。納得のバランスに落ち着いた。少しだけリボンが傾いていたのだ。


「……はう。ありがとうなのです」


 熊は親指をぐっと上げてニヤリと笑った。やはり幼女は素直なのも良い。国の宝だ。


 熊が見たところ、幼女は恐らく小学生に入るかどうかといったところ。つまり六歳ほどだと予想した。


 良い。


 幼女は良い。


 きっと幼女のパイルバンカーはものすごく軽いのだろう。みんな幼女にならないかなー。そんな馬鹿な事を考えてしまう。


 肥田野君もまだ回復に時間が掛かるのだ。


「熊さんもご病気なのですか?」


「がお?」


 熊はとりあえず幼女を手招きしてベンチへと誘った。幼女の発した『熊さんも』という言葉が引っ掛かった為である。


『おいでなさい。お嬢さん』


 熊からのお誘いである。


「うにゅー……スカートだから座れないのですー。汚れちゃうのです」


「がお」


 熊さんは先にベンチに座り、自分の膝を叩いた。


『カモン! 幼女!』


 そういう意味である。不思議なもので、さっきのと同じ意味になる。


「熊さんは不思議な熊さんですね。では遠慮なく」


 ポスン。そんな感じで幼女は熊の膝に乗った。熊の腕が幼女のお腹を優しく抱き締め自分のお腹へと引き寄せる。極上の熊シートである。


 周りの人達もほっこりである。でも何人かは通報しているようにも見える。幼女に癒されている熊さんにはどうでも良いことだが。


「ふわぁ。熊さんは温かいのですー。あの、あの、熊さんは体が悪いのです? どこが悪いのです? 大丈夫なのですか?」


 幼女は熊に抱かれながらも顔を上げて熊を見た。その顔にあるのは『心配』であり『優しさ』であった。


 良い。


 自分はこういう『ほのぼの』系も大好きなのだ。


 この幼女は良い幼女である。


 肥田野君は最近の生活で疲れていた心が猛スピードで癒されていくの感じていた。


「がおがお」


「はうー」


 心配そうにする天使の手を取りにぎにぎした。幼女が幸せそうな顔をする。


 良い。


 これが幸せというものなんだね。僕は知らなかったよー。こんな幸せもあったんだねー。


 そうじゃ! 男の幸せとは幼女なのじゃ! 翔よ、これからも精進せい!


 肥田野君はまたしても三途の川の手前に飛んでいた。お花畑である。いつぞや見た老爺はカカカと笑っていた。


 あまりにも幼女が可愛いので熊さん肥田野君は昇天していたのである。


「いたぞー! ロリコン誘拐犯だ! でかいぞ!? なんかでかいぞ!? あれが通報にあった性犯罪者……って輸血人間じゃねぇか」


 肥田野君、目が覚める。なんかすごい言われように怒りが沸くが今の自分は幼女の椅子である。我慢することにした。


 顔見知りの警備員が仲間を引き連れて側にやって来た。手には警棒やさすまたを手にした武力隊である。こいつらとバトルを繰り広げた回数は結構な数にのぼる。肥田野君もかなりの強敵と認めるこの病院の精鋭である。


 そんな奴等が近付いて来たのだ。気になったのだろう幼女が警備員達に尋ねていた。


「どうしたのですか?」


 幼女はまるで動じていなかった。熊に抱き締められている幼女である。その安心感の賜物か。


「いや、お嬢さんはこのでかいのと知り合いなのかい?」


「はい! ついさっきお友達になりました!」


 良い。なんだこの天使は。天使すぎるぞ。この子になら、いくらでもパイルバンカーされて構わない。


 熊さんの怒りは真夏の氷のように溶けていく。まるで悪に染まった心が浄化されていくようだった。


「……そうなんか?」


「がお」


 熊のひーちゃんは子供の味方である。夢を壊すのはダメな大人のやること。だから熊に徹することにした。警備員はあとで殴るけど。


「……そうか。とりあえずあれだ。逮捕だこの野郎!」


「がお!? がおがおがおー!」


「うひゃぁぁぁぁ!」


 警備員は熊に襲い掛かった。当然である。


 熊と人間の共生は難しいらしい。幼女を慮る熊ひーちゃんはろくに抵抗も出来ず捕獲された。武装した警備員によってお縄を食らうことになったのである。


「がおー!」


「くまさーん!」


 幼女と離された熊は鳴いた。がおーと鳴いたのだ。幼女が手を伸ばすも届かない。これが自然と人間との距離感なのか。


「いや、一応これ、人間だから。じゃ、事務所で話を聞くぞ」


「がお……」


「くまさーん! またねー!」


 つれない幼女もまた、良い。


 幼女の素晴らしさを再認識した熊のひーちゃんである。


 手を振る幼女と別れ、手錠と縄と拘束具を付けられた熊のひーちゃんは警備員に連行されて事務所へと向かうことになった。そしてお説教も食らうことになった。当然熊のひーちゃんは大暴れして警備員の事務所は大変な事になるのだが、幼女に比べるとあまりにも些末な出来事であるので割愛する。


 そしてこの人達に視点は変わる。




「幼女……どうやらお金持ちの子みたいね。かなりのブルジョアっぽいわよ」


「可哀想とは思いますが病気に貴賤は関係無いですからね」


「ひーちゃんが献血してなかった絶望的な状況だったのかー。本当に命の恩人になるんだねぇ」


「……いいなぁ。私もひーちゃんの血を輸血したい。ひーちゃんの血が私の体の中を流れる……はふぅ」


「血液型が適合しないと死にますよ?」


 女子会の乙女達アゲイン。


 肥田野君が逃げたあとも女子会は続いていた。そして一足先に彼女達は幼女への面会に向かったのである。


 幼女の術後は順調で、すでに普通の生活が出来るまでに回復しているとの事であった。肥田野君の血液は型が珍しいだけで超回復をもたらす効果などは認められていない。


 そんな効果があってもおかしくはない。そういう扱いを受けるのもまた仕方無し。


 肥田野成分百パーセントの血である。


 乙女達も少しだけ怯えながら幼女への面会に挑んだのだ。


『ひーちゃんみたいな幼女だったらどうしよう』と。


 しかし幼女の病室に辿り着いた段階で問題が発生した。


 幼女失踪。


 命の恩人さんにようやく会える。それは嬉しくも緊張する事だった。幼女は一人、心を落ち着けてくると言って散歩に出掛けていた。


「あらあら女の子が沢山ざます」


「まあまあ、奥さまもお若いですねー」


 病室に残っていたのは幼女の母親であった。現実でザマスを使う人間に他の乙女達は固まった。肥田野ママが居なければ危なかった事だろう。


 その後、すぐに幼女は部屋に帰って来たのだが、知らないお姉さん達がいっぱい! と大興奮して、ぶっ倒れる事になった。


 幼女は動けるようにはなったが、まだ病み上がりである。綺麗なドレスをひっぺがされ、頭のリボンも取り上げられた。そしてベッドに寝かしつけられた。


 寝ながら半べそをかく幼女である。


 命の恩人さんに『こんなに元気になったのですー!』と見せたかった。そんな彼女の想いは儚く散ったのだ。


「あらあら、女の子はそう簡単に泣いちゃダメなのよ? ところでうちの翔ちゃんを知らない? あなたから翔ちゃんの匂いがするのよねー」


 肥田野ママ、動く。そして他の乙女達も動いていた。


「くんくん……確かにひーちゃんの匂いがする?」


 野生児ひかる。躊躇いなど、こいつには存在しない。ベッドに寝ている幼女の頭をくんかくんかする。幼女は少しびくりとした。


「そんな馬鹿な……くんくん。あら? 本当にひーちゃんの香りが」


 アイドル天海海月も同様にくんかくんかした。幼女は再度びくりとした。この人アイドルですよね? そんな疑問もなんのその。


「もしかして大きな男の人に抱き締められたりしたかな? 体の大きな人に」


 二人の変態乙女とは違い、くんかくんかされた幼女に優しく話しかけるのは委員長である。妄想で何人もの子育てをこなしてきた委員長である。幼女の扱いにも慣れたものである。でもそれ、妄想です。


 優しくて真面目そうなお姉さんに幼女の警戒が緩んだ。


「……くまさんです?」


 幼女は少しだけ悪いことをした気持ちになっていた。見知らぬ男の人に抱き締められたのである。まだ男女のなんたるかを知らぬ幼女ではあるけれど、抱き締める、という行為が『そういうこと』だと彼女はきちんと認識していたのである。おませさんな幼女である。


「……くまさん、ねぇ。確かに初見ならそう思われても……」


「納得ですね。でもなんで抱き締めたのでしょうか。事案ですよ?」


 乙女達はすぐに理解した。何が起きて、誰が犯人なのかを。そして罰ゲームが確定した。幼女に手を出すのがあまりにも迅速過ぎである。


「お姉さん達はくまさんのお知り合いですの?」


「あー……えっと……あのね? そのくまさんがあなたのあれよ。血液の提供者になるのよ。うん」


 女教師、悩みながらも答えていた。間違いなくこの幼女は堕ちる。というか既に堕ちている。完璧にくまさん、というか肥田野翔の虜となっている。


 ここで真実を知れば、彼女は既に堕ちているのが更に堕ちる事になるだろう。それを大人としてなんとか止める方法はないかと画策したのだが……。


「くまさんが命の恩人さんなのですか!? そうなのですかママ!」


「そのようざます。わたくしもちょっと驚きざます。世界は広いようで狭いざますねぇ」


 幼女のママは顔面蒼白で汗が滝のように流れていた。なのに震えているようにも見える。


「あらあら、娘が元気になった。それで十分ではないですかー」


「……そ、そうざますね、楓先輩」


「あらあら私はただのパートのおばちゃんですよー?」


「すいません先輩! 生意気言ってすいません!」


 肥田野ママ。かなり謎の多い人であることが判明。この人に任せれば良いやと女教師は丸投げしたのである。


 世界は広いようで狭かった。肥田野ママと幼女ママは知り合いだったようである。でも幼女や乙女達には関係無い。


「くまさんはねー。女の子が大好きなんだよー? 特に頑張る女の子は絶対に見捨てない。だから私達もくまさんの事が大好きなんだよー」


「そうなのですか!? ふわー。くまさんは女たらしなのですー」


「こんな小さな子にもバレてますね」


「どうしよう。私、妹がずっと欲しかったから我慢できそうにないの。ぎゅー!」


「はうー」


「海月ちゃんが動いた!? ならば私もだー! 私には妹がいるけどもー!」


「はうー!」




 この日、新たな乙女達の結社『乙女の血涙』が結成される事になった。


 何となく物騒な名前だが結成当時のメンバーが『いやよ! 学校から出られないのよ!? こんなに可愛い妹が出来たのに……そんな……すぐに離れるなんて、そんなの耐えられないわよぉぉぉぉ!』と血涙を流す勢いで嘆いたのが、この名前の由来となる。


 そして乙女達が新たな仲間とわいわいしている間、肝心の女たらし野郎はこんな感じになっていた。


「くそっ! 拘束具を引きちぎりやがった!」


「奴は人間か!?」


「応援を呼べ! 機動隊、いや、自衛隊を呼んでこい!」 


「くまくまくまぁぁぁぁ!」


「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


「おい、人間が嘘みたい飛ばされたぞ! 衛生兵! えいせいへーい!」


 熊と化したひーちゃんは血液を一リットルも抜いたというのに、やたら元気に暴れ回っていた。このあとも彼の興奮は冷めやらず、更に一リットルの血抜きをすることになるのだが……これもどうでも良いことである。


 くまのひーちゃんに文通相手が出来た。今日の成果はそれで十分である。


 熊と乙女達は昼まで病院に滞在していた。幼女はくまさんとの邂逅を強く望んでいたが、肝心の熊が暴れすぎたので病院から追い出される事態となったのだ。


 肥田野ママは幼女ママとお話があるようでここでお別れ。


 熊と乙女達はこうして帰路に着くことになったのである。


 時刻は昼。病院の外である。


「あ、エロゲ買ってから学校に帰るのでみんなは先に帰ってていいよ。徒歩でも十五分あれば学校に着くと思う」


 血を二リットル抜いたデブ。まだまだ元気に溢れていた。どことなく爽やかなのは血抜きの影響なのだろうか。


「ひーちゃん? 私達がいるのにエロゲを買うの?」


 全ての男に刺さる問い。しかし肥田野君には刺さらない。


「いや、エロゲという括りではあるが文学作品として高い評価を受けてるゲームなんだ。ということで駅前のショップに行ってきまーす!」

 

 デブはそう言うと爽やかに駆けていった。まるで飛ぶような勢いである。デブなのに。


「あ、速い!? 海月ちゃん!」


「くっ! ダメよ! 今の騒ぎで私がアイドルだってバレたわ! 急いで学校に戻るわよ!」


 今乙女達がいるのは病院の前である。駐車場がすぐ横にあり、そこから人が沢山現れていた。アイドル出現の噂で集まったオタク達である。


「……天海さん、変装とか全くしてないわよね」


「そうですね。頭が青いので目立ちますし」


「頭じゃなくて髪が青いのよ! 囲まれる前に学校に行くわよ!」


「うわー。ここ病院なのに関係ない人で駐車場が……」


「本当に人気アイドルなんですねぇ、天海さん。肉奴隷なのに」


「それはあなたの妄想でしょ! すぐに妄想とも言えなくなるけど!」


「あーはいはい。とりあえず走った走った。先生は何も聞いてないわよー。そして問題を起こさずに学校に帰るわよー」


 この日の帰りは忙しないものとなった。行きは肥田野ママの車で来たので大きな騒ぎに発展しなかった。

 

 だが、もし帰りが夕方にでもなっていたら、ゾンビ映画のようにここの病院が天海海月のファンで取り囲まれる事態となっていただろう。


 熊のひーちゃんがそこまで読んで暴れていたのかは彼のみぞ知る。


 乙女達がノンストップで走り続け、大徳寺高校の門扉に着いておよそ一分後。デブも正門に現れた。駅前まで行っていたはずなのに驚きの俊足である。そして彼は追われていた。


「渡さぬ! 渡さぬぞ! これは拙者の限定版プレミアム豪華特典付き……」

 

「海月ちゃんをかえせぇぇぇ」


「俺達のアイドルをかえせぇぇぇ」

 

「海月ちゃんを汚したデブは死ねぇぇぇぇ」


「……うわぁ」


 丁度乙女達が中に入ったので門は閉じられていた。門の中から凄まじい数の男達に追われるデブを眺める乙女達。まるでゾンビ映画である。


 デブなのに滅茶苦茶足の早い肥田野君である。あっという間に門扉の前に辿り着いた。ゾンビ達をぶっちぎりである。


 しかし門は開かない。


「かいもーん! 早くかいもーん! ぜぇぜぇ」


 息を切らした肥田野君は胸に袋を抱えていた。かなりのサイズである。これであのスピードかよ、と乙女達はドン引きしつつ、取引を持ち掛けた。


「……ひーちゃん。そのエロゲを捨てるなら門を開けてあげましょう」


「なんですと!?」


 乙女達の背後には申し訳なさそうにする『鉄面皮』の姿が。


「海月ちゃんをかえせぇぇぇ」


「僕らのアイドルをかえせぇぇぇ」


「グラビア水着の海月たぁぁぁぁぁぁぁん」


 ゾンビの声はどんどんと大きくなっていく。肥田野君、絶体絶命。果たしてエロゲの行方は!


「くっ! なんと卑怯な! これは文学作品だと……」


「なら限定版である必要は皆無よね?」


「いや、ほら、資料集とかさ、より物語に深みがね?」


「明らかにフィギュアよね? そのサイズ」


「いやぁ、フィギュアなんて滅相も御座らん。ちょっと気合いの入った人体模型っすよ。そんなことよりかいもーん!」


「……ひーちゃん。それ、浮気だよ?」


「浮気ではござらん! 紳士の嗜みでござる!」


「……ふーん」


「いや、あの、開けてもらわないと本当にヤバイんですけど?」


 ゾンビはもう目と鼻の先である。ただ本当のゾンビではなく、あくまで一般人なので全員がへとへとになってはいるのだが。


「ひーちゃん。そのエロゲを捨てなさい。エロゲを嗜むあなたは幼女に対して顔向け出来るの?」


 これにはひーちゃんもズキンと来た。


「……これは純文学なのでセーフ!」


 エロと二次元に熱い男、肥田野翔。彼が熱くなるのは贖罪ではなくて素なのである。


「あのオタクの波でエロゲごと潰されちゃいなさい!」


「いや、確かにエロゲとは言ったけどレーティングが見直されてるからエロゲとは言えないものなんですぞ? 今度一緒にやってみる? 泣くよ? 感動で」


 語るオタクほどウザいものはない。乙女達は背を向けて校舎へと歩き出した。


「初心者には何が良いか。やはり最初は王道が一番……幼馴染みものか」


「……確かに鉄板ではある。だがそれ故に陳腐になりやすい」


「まずは入門編ということで」


「ふむ。それならば……」


 乙女の背後でデブと『鉄面皮』の会話が続く。なんというオタク魂なのか。ゾンビに呑まれながらも会話を続けているのだろうか。そうまでしてエロゲがやりたいのか。


 石でも投げつけてやろうかと乙女達は一斉に振り返った。そして見た。


 門の内側で『鉄面皮』と談笑するデブを。胸に大きな袋を抱えているデブが何故かそこにいた。


「……なんでひーちゃんが中にいるの?」


 思わず海月ちゃんは聞いていた。聞いたというか呟いていた。


「ヒロインが二人だとどうしても戦争に……ん? どしたの? みんな部屋に戻るのでは? 自分はこの秘宝を寮の部屋に安置してから部屋に戻るけど」


「……門が開く音はしなかったわよ?」


 門の外。ゾンビ達も何故か動きを止めて静まっている。一体何が起きたのか。


「今日は二キロも減ったから体が軽くてさ。この程度の門扉なら片手が埋まってても登れるのさ」


 肥田野君、やはり何故か爽やかである。ちなみにここ大徳寺高校の門扉は10メートルの高さを誇る鉄製の柵である。


「いつもは電流が流れているから決して登らないように」


「……はい。知ってます」


 肥田野君は電流の経験者である。何度も脱走に挑んだアホである。ここは『鉄面皮』の忠告に大人しく従う肥田野君であった。


 そしてその姿を見て危機感を覚えたのが乙女達である。なんとしてもひーちゃんのエロゲを取り上げなければならない。女としてなんか負けた気がするのだ。猛烈に。


「……ひーちゃん。そのエロゲを寄越しなさい」


 女教師がまず前に出た。その隙に両翼から委員長と天海海月がターゲットを取り囲む。


 だが、今日のひーちゃんはいつものひーちゃんとは一味も二味も違っていた。


「……ふっ。君達に僕が捉えきれるかな?」


 なんか爽やかである。そしてすごくムカつくデブである。


「よこすのだー!」


 猪突猛進、ひかるが真っ正面からタックルを仕掛けた。乙女としてそれは如何なものなのか。


「ふっ。甘いよ。そんな動きで今の僕を捕まえられると思うのかい?」


 デブにしてなんか爽やか系に変化したひーちゃんはひかるのタックルをサイドステップで回避した。そして背後から迫っている委員長を華麗なターンでヌルリとすり抜ける。デブなのに華麗である。その姿、まるで熟練のバレリーナの如し。


「くっ、なんてキレなの!」


「なんで二キロも血を抜いたのにそんなに動けるのよ!」


 海月ちゃんはぶちギレた。意味が分からない。普通なら立ってるだけでも辛い筈なのだ。というか普通は死ぬ。


「これは心外だね。わりとフラフラなんだよ? 流石に二リットルはちょっとキツいね」


 肥田野君、実は血を抜きすぎておかしくなっていたことが判明。


「……肥田野君? 実は本当にキツかったりする?」


 女教師は何となくそんな気がした。いつもなら泣き言を……よく言うけど、自分の体調管理はしっかりしている肥田野君である。それが『キツい』というのはかなりレアである。


「……実は本当にキツいんです。なのでこのエロゲで気合いを維持してる感じなのです」


 爽やか肥田野君。既に限界を越えていた事が判明。何となく膝がガクガクしているようにも見える。


「……それ置いてきたらすぐに部屋に戻るのよ?」


「ふっ、了解さ」


 肥田野君は爽やかに返答し、そして颯爽と去っていった。


 残されたのは微妙な感じになっている乙女達である。警備員の『鉄面皮』は既に遠くで門扉を守っている。


「……いいんですか? あれ」


 委員長こと田中美鈴は消えていくデブの背中を見送ってから担任に確認した。一応エロゲとは言えないものでありそうだが、多分年齢的にアウトなゲームである。


「ひーちゃんがバイトしているときに部屋に忍び込み破壊する。楓さんの許可はもらっているわ」


 これが大人。大人の女のやり方である。


 女教師美和子。敵にしたら恐ろしい女である。


「じゃ、部屋に帰りましょうか」


「はーい! それにしてもあのひーちゃんはすごかったね。掠りもしなかったよー」


「日頃の授業はどれだけ手を抜いてるのかしら」


「目立ちたくないみたいですね。もう手遅れなのに」


「ほら、部活で必死になってる子達もいるでしょ? ひーちゃんが本気出したらみんな絶望しちゃうのよ。ひーちゃんも努力は欠かして無いんだけど、見た目がね」


 肥田野翔。彼は努力を怠らない男である。体育館が新生そら部の占有になってから彼は体育館で運動をし始めた。以前は人の目を気にして部屋でこっそりトレーニングをしていたらしい。


 その音が『自家発電』であると周りの生徒に誤解されて色々と問題が発生したりもした。とんだ誤解……とも言い切れないのが彼の人間性なのだろう。


 体育館が使えるようになってからは肥田野君も乙女達の前でトレーニングをするようになっていた。


 それは誰かに打ち勝つための鍛練ではない。


 月に一度は一リットル!


 そのための肉体維持である。

 

 つまり部活や何やらで頑張る生徒達とは根本的に異なる鍛え方なのだ。肥田野君の肉体改造の歴史は長い。既に人の括りは越えている。


 それ故に『手抜き』である。


 部活に全てを懸けている他の生徒からすれば舐めプ野郎ということになる。


 肥田野君としてもそれは理解している。だからこそ要らぬ争いを避けるために手抜きをしているのだ。


「でも見た目がねー」


「そうなのよねぇ」


「慣れると気にならないというか、普通に愛しく思えますよね」


「でも普通の人にはスケベな巨漢にしか見えないでしょうね」


 今は血が足りなくて爽やかになった想い人を思い浮かべる乙女達。


 デブが爽やかに笑い、華麗にターンを決める。そして背中に星が散る。


「無いわー」


「ですよねー」


「キャラがおかしいわよね」


「全然マッチしてないわよ! ひーちゃんが爽やか!? なにそれ職員会議開催!? また押し付けられんかよ! むきぃぃぃぃ!」


 女教師は爆発した。肥田野君が何かをやらかす度に職員会議は開かれる。女教師美和子はここでいつも生け贄にされるのだ。なので怒りは常にマクシマム。教師寮のバーはほぼ美和子の為のバーである。


「うわぁ」


「先生も大変ですね」


「今日は私も疲れたわ。死ぬかと思ったし。早くお風呂に入りたい」


 天海海月は今日死にかけた。実は何度も危険な橋を渡っていた。怪我ひとつ無いのは奇跡である。


「ひーちゃんのお母さん……すごかったね」


「きれいな人でしたね。ひーちゃんは父親似なんでしょうか」


「母親似よ。昔のひーちゃんにそっくりだもの」


「そうよね。先生もびっくりしたわ。あのまま育っていたら美少年だったのにぃぃぃ! むきぃぃぃぃ!」


 美和子のテンションは未だマクシマム。実はまだアルコールが抜けきっていなかったりする。うわばみ美和子はそれでひーちゃんの母親と挨拶したのだ。


 テンションがおかしくなるのも仕方無し。大人として一番駄目な初対面になったのだ。


「美少年……」


 一方、ごくりと生唾を飲み込むのは大空ひかる。『天宮翔』が大好きなのは今も変わらない。今のひーちゃんも好きなだけで今もひかるは『天宮翔』の大ファンなのだ。これは浮気ではない。乙女の嗜みである。


 委員長も美和子先生秘蔵の『天宮翔君ブロマイド』を見せてもらっているので、かつての姿はご存知である。


 だがしかし、委員長だけは『天宮翔』を生で見ていない唯一の人物となる。なので基本的に眉唾状態となる。何せファーストコンタクトが今の肥田野君なのだ。


 かつての写真を見せられてもビフォーアフターですらない、超絶メタモルフォーゼに当然の反応である。


 美少年だった『天宮少年』が今の肥田野君の前身である。そう言われて彼女はこう思ったのだ。


『妄想の範囲を越えてるわ』


 妄想にもルールがある。現実味のない妄想は妄想ではない。単なる空想である。それはファンタジーの領域だ。なんでもありの世界ほど、つまらないものはない。


 妄想女子の委員長は最初から『天宮翔』ではなく『肥田野翔』にずぶずぶである。だから別に構わない。彼に対する彼女の想いは本物なのだから。


 でももし美少年の血が流れているのなら、産まれてくる子供達の顔を修整する必要がある。


 妄想の鬼、田中美鈴はこの大事業を控えていた。彼女にとって大切なのはそこである。


 しかしかつての彼は本当に輝いていた。


 その輝きに魅せられた者は諦められないのだ。


「ひーちゃんが献血を止めたら元に戻るのかな。もしくは更なる改造をしたら」

 

 ひかるはさらりと外道な提案をしていた。


「そうねぇ……幼女軍団を作って嘆願させてみる? もしくは、みんなで水着を着て迫ってみるとか」


 女教師は現実的な案を出してきた。


「……試す価値はあると思うわ」


 青い頭の大きな女の子は『いけそうだわ!』と結論付けた。暴走する乙女達。その姿を見て一人委員長はため息を吐く。


「私は今の旦那様で十分なんですけど」


「委員長は見てないからそんなことを言えるんだよ! 昔のひーちゃんは……あれだよ! ね! あれ!」


 ひかる、突然の老化。今のひかるにも語彙力をあまり期待してはならない。


「超売れっ子アイドルだった私が嫉妬して未来を潰すほどの天才だった。本当に潰されたかったのは私だったのにね」


 天宮翔の話題は今も天海海月の鬼門である。目から光が消えてアイドルオーラが瞬時に淀む。


「重いわよ! そろそろ他の生徒達と遭遇するからこの話題はここまで! 先生は今回の報告をしてから部屋に戻るからひーちゃんをよろしくね」


 そしてこの日のミッションはこれにて終了した。


 肥田野君は待望のエロゲを手に入れた。大金星である。


 大空ひかるは……うん。特になし。


 委員長は名前が分かった。快挙である。


 女教師美和子はお義母さんと挨拶できた。外堀が確実に埋まったのでこれも快挙である。


 天海海月は罪と向き合った。死にかけたが何とかなった。


 各々が大切なものを手に入れたのだ。


 幼女も大切な人を見つけられた。


 玉にはこんな日があってもいい。そのくらい充実した日であった。


 だが。


 だが世界というものはそれだけではないものだ。禍福はあざなえる縄の如し。


 彼らに新たな試練が降りかかろうとしていた。


 次回、そらがけ最終回に続く。




 今回の感想。


 みんなキャラが立ちすぎてませんか?

 


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