3話 運命の出会い
魔物は突然炎が消えたことに驚きつつも突進を続ける。しかし、魔物の攻撃が僕の防御魔法に届くことはなかった。空中へいくつも水の塊が現れたかと思えば、魔物の周りに集まり包み込む。身動きのとれない魔物は、抵抗するように水の中でもがいている。
(強力な水魔法……もう援軍が来たのか)
防御魔法を解除するか悩み、観察を続けていると魔物のオーラがわずかに増した。それに比例して徐々に風が強くなる。魔物の起こす風により水がはがれ始めた。だが現在魔物は隙だらけだ。僕は即座に剣を持って跳びかかる。
ピギィィィィィ
魔物の首を剣で切り落とす。さすがの魔物も聖属性である回復魔法は使えないのか、巨体はどすんと地面に倒れ込んだ。
(助かった……。しかし雨を操る魔法使いは聞いたことがないな。水の操り方も緻密で優秀だ)
「ありがとう。弱点も知らず困っていたので助かりました」
そう言いながら後ろを振り返ると――そこにいたのは少女一人だけだった。
(一人だけ?そういえば仲間の声も聞こえないし、騎士団の人ではないのか?)
「ええと、あなたは騎士団の方では―」
「騎士団……いいえ違います」
少女は首を振りにっこりとこちらに微笑んだ。少女という言い方をしたが、羽があることと、人間とは異なる耳の形を見るに彼女はエルフの女性であろう。エルフは人間よりも寿命が長く、見た目が老いるのも遅い。彼女は茶色の髪を後ろにはらいのけると、毛先と同じ水色の澄んだ瞳でこちらを見やる。
「通りすがりのエルフです。お困りのようだと思ったので、つい。余計なお世話でしたか?」
「いや、先ほども言った通り本当に助かりました。ありがとうございます。この御恩は決して忘れません」
「どうぞお気になさらないで」
雨が降る中そのように僕らが話していると、たくさんの足音が聞こえてきた。どうやら仲間が援軍を連れてきてくれたようだ。
「それでは、私はこれで……」
エルフの女性はすぐさま立ち去ろうとする。呼び止めようとするも、彼女の困ったような顔を見てやめた。恩人に迷惑をかけたいわけではないのだ。
彼女が去ると先ほどまで降っていた雨が止んだ。そして木々の間から仲間と援軍の騎士団員らの顔が見えた。
「勇者。援軍を連れてきた」
「おい無事だろうな!?魔物はどうした?」
「勇者様、どこかお怪我はありませんか……!」
仲間たちが僕に駆け寄る。聖女は僕に怪我ないことへ気づかず、慌てて回復魔法をかけようとする。賢者はすぐさまそれを制し、僕に当然の問いを投げかけた。
「魔物を倒したのは勇者なのだろうが……首以外に傷がないのはさすがに疑問が残るな」
(どちらにせよ後でお礼に行くつもりなのだから、わざわざ隠す必要もないだろう)
「優秀な水魔法を使う方に助けてもらったんだ。おかげさまで傷一つない」
「そういうわけか、なるほどな」
賢者は魔力の形跡から嘘でないことが分かったようで納得したようにうなづいた。聖女はそれを聞くと嬉しそうに僕らに声をかける。
「優秀な魔法使いの方なら、ぜひ我々のパーティーの一員として誘ってはいかがでしょうか?」
「魔法での補助も攻撃も、賢者が一人でしていた。負担は減らしてやりたい」
「俺はどっちでもいいけどさ……魔法使えるやつが増えるのは嬉しいな」
騎士に続くように賢者も声をあげた。どうやら仲間たちは乗り気のようだ。ただ彼女の行動を見るに簡単には入ってくれなさそうだが……僕は仲間の期待するような視線を受け、理由もなく却下することはできなかった。
「とりあえずお礼をするためにもう一度伺う予定だから、そのときに話をしてみるよ」
「ただ彼女、どうやら人見知りみたいで。僕だけで行ってみることにするね」
それを聞いた騎士と賢者は、そういう理由なら任せようと言いギルドに向かって歩き始めた。聖女は「彼女ということは女性……?]とつぶやき立ち止まる。どうやら何か考え事をしているようだ。騎士団の方々もいるし安全だろうと考えた僕は、賢者らの後を追うように歩みを進めた。