序章
街の外で倒した魔物の素材をギルドに持っていく。素材の換金と依頼の報酬を受け取り終えた俺は、仲間が待つ酒場へと向かった。
「換金して来てくれた?ありがとう」
「おう、どういたしまして。俺の分の料理頼んでおいてくれたか?」
「あ……吟遊詩人の詩に夢中で忘れてたよ」
「おいおい、マジかよ。腹へってんのにすぐ食べれねぇじゃん。それよりも――吟遊詩人に夢中とは珍しいな。そんなに面白い詩が聴けるのか?」
「というより、初めて聴く詩なんだ。今まで旅をしてきた中では少なくとも聞いたことがない」
「ほぉ……それは俺も気になるな。おいおっさん、俺もちょっと聴いてくるよ。注文は肉系なら何でもいいからさ」
そう言って俺は予算となる金額を酒場のおっさんに示す。
「へい。あんたらが聴いてるうちに作っとくよ」
「ありがとう。助かる」
こんな砂漠に近い辺鄙な街で、そんなに珍しい詩が聴けるとはにわかに信じがたい。
(だがまあ、仲間の言葉を全く信じないのは男としてよろしくない)
そう思い俺は吟遊詩人の詩が聴きやすい席へ、仲間とともに着いた。
「これから歌いますのは、今は無き一人の『勇者』の英雄譚でございます。誰も知らない、勇者と一人のエルフの少女しか知らないお話でございます」
(それなら吟遊詩人であるお前はなんで知っているんだ……)
矛盾が生じる発言をした吟遊詩人に、訝しげな表情を向けていると
「これは限られた者しか入れない砂漠のオアシスで、私が実際に聞いた話にございます――」
まるで俺の問いに答えるようにそう言うと、吟遊詩人の語りが始まった。