表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/25

監視下

『この投票は、ホテルの方のリクエストで逐次やりましょう。別のお題も受け付けていますから、どんどん電話して下さい。電話はゼロゼロイチニイサンです。電話はゼロゼロイチニイサン』

「全く、当事者じゃない奴は言う事が気楽だな。本当にスピーカーの線を切ってやろうか」

 宗二がそう言うと水川が答えた。

「スピーカーは高い位置にあるので、脚立か何かがないと線を切るのもなかなか難しいです」

「いや、良いんです」

 宗二はそう言うと少し考えた。

 本当に誰が犯人なのだろう。一人一人、犯人が違う可能性もある。

 まず動機がわからない。そもそも運送業者の轟が殺された理由はなんだ。死因も、出口を探して彷徨っている時に、誤って転んで鍾乳石に胸を貫かれた、としたら出来過ぎている。相当尖っているか、強く打たない限り刺さると思えないからだ。やはりあのバールが凶器だろう。

 運送業者を殺したいほど憎んでいて、バールを用意していた人物。

 考えるのをやめよう。

 一番、簡単そうな人物は……

「一度、全員で宇崎さんの状況を見に行きましょう」

 すると漣が宗二の顔を見た。

「……」

「そもそも、そのためにここに戻ってきたんです」

 五条栄子がツンとした表情で言い切る。

「わざわざ二人で確認しにいったんだから、二人で全部済ませてきなさいよ」

「いや、二人とも犯人だったり、どちらかが犯人だった場合、状況を誤認する可能性がある他の人にも確認してほしいんです」

 雪見乃が手を上げた。

「じゃあ、私と水川シェフが二人について行きます」

「なぜ私なんでしょうか」

 真剣な顔を崩さない。

「いやですか?」

「いえ、理由が知りたいだけです」

「理由はないです。いやですか?」

 雪見乃の顔は笑っているようにも見える。

「わかりました」

 すると五条が言う。

「なら私もいくわ。犯人候補二人と一緒にいたら私も殺されるかも」

「待って、待って、私を置いていかないで」

 玲もついてくることになった。

 すると五条が冷静に残っていた川水に言う。

「あんたも来なさいよ。誰もいない時に、食べ物に毒を仕込まれちゃたまらないんだから」

 水川シェフがさらに冷静な一言で突っ込む。

「その点は建物に鍵を掛ければ済むことですから」

「鍵……」

 宗二はその言葉が引っかかった。

 鍵。鍵を操れる人間はホテルスタッフの水川と漣の二人だけだ。正確に言うと三人だった。もしそれぞれが建物の鍵を持っているのなら、建物の中に入って部屋のキーなどを自由に扱えてしまう。

「ほら、いくわよ」

 五条が先頭に立ってそう言った。

「……」

 宗二は黙って様子を伺った。五条は、宇崎の部屋の位置を知っているのだろうか。

 ホールとつながっている通路は一つで、ホールからは見えない位置で分岐している。

 漣と宗二が行ったのをホールから見ていたから分かる、というものではない。

「分岐点だわ。どっちいくの?」

 宗二はあえてそれに反応しない。無意識に正解を示してしまう人物がいるかもしれない。

「こちらです」

 水川シェフが正解のルートを示す。

 一番つまらない展開だった。宗二は宇崎の部屋にたどり着くまで、根気よく皆の会話を聞くことにする。

「こっちの部屋の方が私の部屋より高級なのかしら?」

 清水に訊かれた漣が答える。

「いいえ、この先の部屋はシングルですので、お客さまの部屋よりグレードが下がります」

「この道、どこまでいくの? 頭が痛くなってきた」

「川水さん、大丈夫ですか」

 と雪見乃が声をかける。

 宗二も言う。

「もう少しだから」

 その言葉を聞いて、五条が後ろの宗二を振り返った。

「この道のこと、やけに詳しいわね」

「……」

 五条の発言に、宗二は言葉が返せなかった。

 五条は宇崎の部屋に行くまでの過程で誰かがボロを出さないか、ずっと狙っていたのかもしれない。いや、それだけではない。もしかして、五条だけでなく、全員が探りを入れているのかもしれない。この中に犯人がいるとしか思えない訳だから当然のことだった。

「さっきこの道を歩いたから分かるんです。それくらいは二回目でも判断できますよ。それよりそんな一言で、『やけに詳しい』と言うのはどうなんでしょう。予めそう言うと決めていたような発言だ」

 雪見乃が、川水の背中をさすりながら言う。

「宇崎さんのことですけど、第一発見者の二人以外の人がしっかり確認するべきですよ」

「わかってるわよ」

 全員が宇崎の部屋の前には立てない。

 五条と雪見乃がわずかに開いた扉からスマフォを差し込み、宗二がそうしたように画像を撮りながら確認していく。

「タオルが扉の取っ手につながっていて、首を吊っている形ですね」

「動画で見たけど全く反応ないわ。完全に死んでる」

 五条がそう言うと、雪見乃が再び口を開いた。

「見る限りは自殺です。発見した時、鍵はどうなってました?」

「僕は扉の確認はしなかった。漣さんが鍵を開けた音がしたから、くる前はかかっていたと思う」

 雪見乃が言う。

「漣さん、それで良いですか?」

「鍵はかかってました。開けたのに、扉が開かないから焦りました」

「うん、かなり扉が重かった」

「すでに死んでいた?」

 宗二が言う。

「体温は感じなかった。画像で見る限りの結論からすると、死んでいた。状態は今と同じだよ」

 雪見乃は指を二本立てて、全員に見せるように手と顔を向ける。

「ふたつ考えられます。一つは本当に自殺した。もう一つは首を絞めて殺してからか、睡眠薬などで寝かせてから扉に死体を立てかけ、犯人が出て行きこの状態を作り出した」

「そんなにうまく行くの?」

「客観的に考えて、難しくはないでしょう。問題は最後に鍵をかける必要あることです」

 宗二は水川をちらりと見てから、漣に視線を向けた。

「えっ?」

「自殺だったら別にもう仕方ない。最悪なのは殺人だった場合なんです」

「私はしていません」

 水川シェフは手を振って、そう否定した。

「でも鍵はかけれる」

 宗二が言うと、漣も言う。

「それだけで殺人の容疑者なんておかしいじゃないですか」

 雪見乃が大きく手を振って割り込んでくる。

「宗二さんは可能性だけを言っているんです。そもそも宇崎さんが自殺だったら何の意味もありません」

「……」

 五条が腕を組んで言う。

「その可能性を言って何の意味があるのよ」

 雪見乃が答える。

「そうやって可能性を集めていけば、犯人候補を一本化できるかもしれないと考えているんですよ」

「シェフと、こっちのスタッフのどっちかってことね」

 五条の言葉に対して、漣は言う。

「私と水川さんは同部屋でした。私が朝まで寝ていたのは水川さんが知ってます」

「確かに、お風呂から帰ってきて、漣とずっと一緒にいました」

「警察がいないから、犯行時間が特定出来ないんです。だから一晩中起きていた以外でアリバイというのは無理ですよ」

「それは皆さんも同じことなのでは?」

 水川はそう言い切った。

 漣がそれに続けて言った。

「そもそも宇崎さんが自殺したのなら、意味ないですよ」

「自殺だったとしても、五郎坂さんを毒殺した可能性、轟さんを突き殺した疑いは残りますよ」

「そ、そんな……」

「いや!」

 清水が甲高い声を上げた。

「そこに!」

 何もない鍾乳洞の壁を指さし、震えている。

 壁の陰影が、人の顔のように見えなくもない。

「玲さん、落ち着いて」

 宗二が近づくと、玲はホールに戻る方向に走り出した。

「待って!」

 宗二は玲を追いかけた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ