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狂気

 二人はホールに戻ると、そこにいた全員に宇崎の死を告げた。

「これで三人よ、異常だわ」

 五条がそう言うと雪見乃が言った。

「どういった風に亡くなられていたんですか?」

「ドアに背中を預けているような状況だった。ドアノブからタオルが下がっていて、そこに首を引っ掛けている。状況から、自殺も考えられる」

 清水(きよみず)(れい)が言い直す。

「自殺?」

 雪見乃が気に入らないと言った風に宗二に突っ込んでくる。

「なぜ『自殺』と言い切らないんですか?」

「僕たちには調べられないからだよ」

 玲の体がふらっと揺れた。

 そのまま俯いて、長い髪が顔の前に垂れて顔が隠れた。

「呪いよ……」

 髪に隠れたその奥で、目が光ったように見えた。

「呪いなの。悪霊がやってきて、自殺に追い込んだんだわ」

 垂れた髪を後ろに送ることもせず、皆に訴えかけていく。

「毒を飲ませたり、洞窟で転ばせたり、自殺させたり。誰かが誰かを殺そうとしてるんじゃなくて、悪霊が無秩序に人を殺してるんだわ」

 宗二は玲の前に立って、手を広げる。

「悪霊は毒を盛ったりする必要はないでしょう。現時点で宇崎さんの死は不明ですが、少なくとも五郎坂さんと轟さんは他殺だと思いますよ」

「誰が何のためにやるのよ。このまま閉じ込められていればやがて食力が無くなって死ぬのに、わざわざ殺す必要なんかないわ」

 宗二は玲の両方の二の腕に触れ、諭すように言う。

「玲さん。気持ちをしっかりもって。僕は殺されなければ、この洞窟からは助かると思ってます」

「助からないわ。悪霊渦巻く洞窟で、一人一人気が狂いながら死んでいくんだわ」

 宗二はどうにか玲の気持ちを落ち着かせたかった。

「玲さん。僕を信じて。無事ここを出られたら投資を」

『今日も元気に小川宏です! 洞窟ホテルのラジオ、始めるよ〜』

 宗二の言葉の途中で、洞窟内ラジオが始まってしまった。

『リクエストはゼロゼロイチニイサン。今リクエストが少ないから採用されるチャンスだよ。そうそうリクエスト以外にもこの番号で受け付けてるから、どんどん電話してね。昨日は放送後にメッセージが残ってたからここで読み上げるね』

 五条が怒って声を上げる。

「水川シェフ、このバカ放送やめさせなさいよ」

 建物に走って行こうとするのを、

「待って」

 と言って宗二が止めた。

「このメッセージというのを聞いてからでも良いですか」

『犯人はこの中にいる』

 しばらく音声が途切れてから、再び小川の声がした。

『なんだろう、ちょっと変な内容だよね。洞窟内で毒殺されたって話だから、その犯人はまだ間違いなく洞窟内にいるよね、きっと。誰でもわかることだと思うんだけど、こんなことわざわざメッセージに残す必要あったのかな?』

 宗二は水川に訊ねる。

「水川さん、何番の内線が使われたのか、追えないですか?」

「何番から掛かってきたか、機械ではわかるはずですが、履歴まで追えたかどうかわかりません。出来たとしても…… きっと外の機械です」

「そうなのよ!」

 玲の声は、裏返っている所ではない。どうやって出しているのかわからないほど、高い声だった。

「この中にいるのよ、悪霊の使いが。順番に殺すために、次々に乗り移っているんだわ」

「玲さん」

 宗二の伸ばした手を叩いた。

「触らないでよ!」

「落ち着いて」

「どうせ体目当てだったんでしょ」

 清水玲は、冷たい目で宗二を見つめる。

「何を、突然」

「投資するって言えば、私が近づいてくる。それを焦らしていれば、擦り寄ってくる」

「男は全部汚くて、汚れた獣」

 玲は自身の体を抱きしめるように手を回した。

「私はチョウチンアンコウの提灯。男を寄せる擬似餌(ぎじえ)

『ここで一息入れて音楽をかけましょう』

 宗二は口を開きかけたが、小川の話が終わるのを待っていた。すると玲が詰め寄ってきた。

「はっきり言ったらどうなのよ」

「正直。僕はこの件で、玲さんと仲良く出来るのかな、とは思っていた」

「キモい! キモい! キモいキモいキモい!」

 玲が狂ったように言い続けるのを、宗二は耐えた。

「やっぱりそうじゃない。投資なんか最初から考えてない。金を増やそうなんてちっとも考えてない」

「君こそ、この投資で儲かるなら、自信がもっと投資すればいい。わざわざ他人を入れようとするのは、この投資に本当の価値がないからだ。より愚かなものに高く売ることで儲けるつもりだからだ」

「……」

 玲の目が据わった。

 宗二は自分の口を手で抑えた。

「ごめん。こんなこと言うつもりなかったんだ」

「そう。知ってたの。知ってて、乗ってくるふりをしてたの。最悪」

 宗二は静かに頭を下げた。

「気持ち悪いのも、最悪なのも、事実だよ。僕はどうかしてた。投資するはずもない話を一所懸命検討して」

「……」

 玲が落ちるように椅子に座った。

「こんな何もない地獄に閉じ込められて」

 ボソボソと小さい声で話し続ける清水を横目で見て、五条が怒った。

「私たち、いつまでこの茶番を聞かされなきゃいけないの?」

 水川がいない。

 音楽が急にフェードアウトして、小川の声が入った。

『ニュースです。洞窟内で五郎坂さん、轟さんに続いて、三人目の死者が出たとのことです』

 水川が外のホテル側に電話して、放送をやめさせようとしたのだろう。

 しかし、小川が一方的に放送を続けているのだ。

『もうね、これはみんなで誰が犯人か投票したら良いですよ。このスタジオに電話ください。名前は言わないで良いですから、順番に犯人だと思う一人の名前を言ってください。こっちで集計します。誰が誰を犯人だと思ってるかとかは絶対秘密にしますから』

 建物の方から電話に向かって怒鳴っている水川の声が微かに聞こえる。

『投票の一番多い方をまずは鍵のかかる部屋に入れて、それで事件が起きなければその人が犯人ってことで』

「何を言ってる! 洞窟の中にいる人間を使ってゲームでもしているつもりなのか」

 スタジオの小川に聞こえる訳でもないのに、宗二はホールの天井に向かって声を上げた。

 五条も最初は呆れ顔だったが、小川の言葉に興味を示した。

「閉じ込めるのは賛成しないけど、投票してみる価値はあるんじゃない? 投票するとか、全員で推理するのよ。犯人は一人とは限らない。誰を誰が殺したか。ひょっとするともう犯人も死んでいる可能性があるし。いろんな意見をぶつければ磨かれて正しい答えが導けるかも」

『……さあ、順番に電話口に来てください』

 建物から水川が出てきて、言った。

「皆さん、放送を止められなくて御免なさい」

 五条が、周りを見回してから、建物を指さす。

「誰からいく?」

「じゃ、私から」

 雪見乃はそういうと、建物の中に入っていった。

 そして出てきた。

 宗二は川水に全員の名前を説明していた。

「怪しいのは決まってるじゃない」

 清水はそう言うと一人建物に入っていった。

 そうやって順番に建物の電話口で小川に犯人と思われる人物を告げていった。

 最後に告げて建物から出てきた宗二はポツリと言った。

「これ本当に意味あるのかな」

『集計ができました』

 ドラムロールが鳴る。

 宗二は腹を立てている。

『同率第二位』

「馬鹿な読み上げ方をするな!」

『清水さん、漣さん、雪見乃さんの御(さん)(かた)です』

 雪見乃が言う。

「誰よ、私に投票したの」

「怪しいじゃない。あんたヒッチハイカーだし」

『そして栄光の…… じゃない。不名誉な第一位は』

 ドラムロール。

『川水さん、おめでとうございます。みなさんからの不信感を一気に集めて第一位を獲得しました』

 宗二は川水に近づいていって言った。

「こんなの気にするな」

『それぞれの投票理由をいってみましょうか。川水さんに入れた人の意見。洞窟に隠れていて、記憶もないから怪しい。突然出てきて怪しい。細すぎる体と細過ぎる目が呪われている感じがする』

「そんな余計なことまで発表する必要があるのか」

 宗二がいうと、雪見乃が言った。

「だって、小川さんが『じゃあ理由は』って聞いてきたでしょ?」

「そんなの答える必要ないじゃないか」

『確かに意見を見てみると、もっともな理由です。洞窟に隠れていた、これはつまりアリバイがないってことじゃないですか。記憶がないというのもポイント高いです』

 後の理由は川水の見た目の話だ。

 宗二はそう思った。見た目が人を殺すわけではない。動機なのだ。

 そしてホールの全員に呼びかけた。

「もしかして、皆、本当に呪い殺されていると思っているのか?」

「冷静な第三者に判断してもらうのはある意味正しい」

 突然、口を開いた川水に全員の視線が集まる。

「川水さん、そんなこと言って、結果、あなたが疑われているんですよ」

「けれど、もっともな理由だ」

「こんなやり方、正気じゃない」




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