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才能?

 ジーク達が産まれてから三週間ほど経過した。可愛い弟妹が産まれたことで家の中は今まで以上に明るくなった。父さんは仕事から帰ってくるとジーク達の顔を見て、起きていれば三人を抱き上げてあやし、寝ていれば寝顔をながめるのが日課になった。


 母さんとサティさんは体調が回復してきたので家事を行うようになった。ただ、ジーク達の世話には参ってきている。


「アースのときはぜんぜん苦労しなかったから油断したわ」

「子育ては大変と聞いていましたが、これほどとは思いませんでした」

「そうね。アースは特殊過ぎたんだわ。今思えばアースはイージモード過ぎた。私達の本当の子育てはこれからよ!」

「はい、私達で乗り切りましょう!」

(長男を若干ディスっていませんか?)


 母さんとサティさんは育児の愚痴を言い合いながら日々を過ごしていった。平穏な日々が過ごせてとてつもなく嬉しいのだが俺は少し困っていた。


 時期はもうすぐ冬になる。冬になると雪が降り家から出られなくなる。この地方は豪雪と言うわけではないが、大人の膝くらいまで雪が積もる。子供の俺では歩くことが困難になってしまう。したがって子供が一人で外出することができなく、外出できないと村へ行くこともできない。


 俺が村へ行きたい理由は一つ。冬に向けての暇つぶしを探すためだ。冬は家に閉じこもるため、できることが激減する。


 文字はこの一年でほぼ習得した。計算については四則演算ができればこの世界では優秀。分数や小数点、面積、体積の計算などについても専門家しか使わない。したがって一般人が学べる勉強に関してはこれ以上学ぶことができない。


 なのでこの世界の新たな知識を得るには村に行く必要がある。しかし、母さんが妊娠してから村へ行く頻度が激減した。


 母さんが妊娠する前は診療所の仕事があるので毎日のように村へ行っていた。雪が多く積もった雪の日でも母さんは魔術で難なく通うことができていた。しかし、女性は妊娠すると魔素を使うのが困難になる。


 魔素を使おうとするとお腹の中に胎児が反応して魔術などを阻害する。理由は判明していないが胎児の防衛反応だと思われている。また、魔素を集め過ぎると流産してしまう恐れもあるらしく、妊婦は安定期に入るまで女性は魔素を使うのを控える。


 そんな理由から母さんが妊娠してから俺は村へ行く頻度が激減した。子供一人で家から村まで行くには時間がかかる。大人が普通に歩いて一時間以上かかる道のりで、道の近くには森があるため、野生の熊や猪なども生息している。子供が一人で村へ行くには危険が多いため許可されていない。


(父さんも村へ買い出しに行くけど仕事帰りなんだよな)


 俺はどうにかして村へ行くことができないか考えるがいい考えは浮かばなかった。




「アース、だいじょうぶ?」

「…………」


 アースは返事をしない。ただの屍のようだ。


 俺はレイラの質問に答えることができなかった。それほどまでに疲弊していた。村の入り口で力尽きた俺はレイラに発見され、今は村の入り口の壁にもたれ掛け休んでいた。


「はい、おみず。のめる?」


 レイラは近くの家で借りてきたコップに水を入れて持ってきてくれた。俺は頷きコップを受け取った。


(美味しい)


 冷たい水が渇いた喉を潤す。水がこんなにも美味しいと感じたのは転生して始めてだ。俺はコップの水をゆっくり飲みながら自分の愚行を反省した。


 俺は村に一人できていた。母さん達が村へ行くことを許したのではない。魔術の暴走で村にきてしまった。今日は天気が良かったので俺は家の庭で魔術の練習をしていた。火を扱うことができたので今度は風の魔術を練習した。


 風の魔術は母さんが移動するときに見ていた風の歩み(ウィンドステップ)を参考にした。やり方は至って簡単。脚を大地から離す瞬間に風の力を使って加速する。俺はそう思って術を使用した。


 結果。魔術が暴走した。正確に言えば制御することができなかった。加速することは簡単だったが減速する方法が判らなかった。魔術を止めようかと思ったが着地の衝撃が強すぎて脚が砕ける可能性があった。


 結局、体内に保有している魔力が尽きることで魔術が弱り、無事に止まることができた。だが、魔術が止まったのは村の入り口付近で、疲弊した俺はその場に倒れレイラに発見された。


「レイラ、ありがとう」


 喋れるまで回復した俺は横で座っているレイラにお礼を言った。


「どういたしまして」

「コップを返しに行こうか?」

「うん」


 レイラと手を繋ぎながらコップを貸してくれた家にお礼をしに行った。コップを貸してくれた人は顔見知りのおばさんで、お礼を言ったらあめ玉をくれた。


「あめだま、おいしいね」

「うん。レイラのおかげで得をしたね」

「えへへ。ねえ、アースこれから遊ぼう!」


 レイラは俺の両手を掴み遊びに誘った。正直、遊んでやりたいが、帰らないと母さん達が心配する。


「遊びたいけど、母さんに黙ってきちゃったから帰らないと……」

「アースもぬけだしてきたの?」

「抜け出した?」

「わたしといっしょ! わたしもおじいちゃんのおはなしからぬけだしてきたの!」

「村長さんのお話って何?」

「おうたをうたっていた」

「ああ、詩の朗読か」


 村長さんの趣味は詩の朗読だ。自分で作ったものや詩集の詩を読み聞かせる。


(レイラが抜け出してきたのも無理ないか。小さい子に詩の内容なんて判らない。でも、村長さんと一緒にいたってことはすることがないのか……)


 普段のレイラは村の子供達や両親と遊んでいる。村長さんと過ごすことは殆どない。両親や他の子供達は冬に備えるための準備で忙しいのだろう。


(レイラも一人で遊べる物があれば退屈しないと思うのだが……)


 それか大人と一緒に遊べるようなものはないかと思い考えてみるといつくか思い当たる物があった。


(積み木だ。積み木なら一人で遊べるし文字の学習にもなる)


 施設では文字や計算の学習に積み木を使っていた。売れ残りで破棄される物などが寄附され子供達はそれで遊んでいた。俺は作ることはできないがアイディアをまとめて父さん達に相談しよう。


(あとは大人と簡単に遊べる物は……オセロがいい)


 この世界にもテーブルゲームはあるがそれは将棋やチェスと言ったルールが複雑な物だ。オセロなら今の俺でも作れる。


「よし、早速帰って作ってみるか!」

「何を作るのかな?」

「積み木の改良とオセロを作ろうと……!」


 声のする方をみるとそこには母がいた。顔は笑っているが、目が笑っていない。幻覚なのかもしれないが頭に角が見える。


「レイラちゃん、アースは帰らないといけないからここでお別れね」

「そうなの?」

「うん、次にきたときに遊んでね」

「わかった!」


 レイラは手を振って別れを告げた。俺もなるべく笑顔を作りながら手を振った。けれど顔が引きつっているのが自分でも判る。そのあとは俺は母さんに抱き抱えられて家に帰ったが、母さんとサティさんに物凄く怒られ、尻叩きの目にあった。


 今度から魔術の練習は慎重に行おう。俺は腫れたお尻を冷やしながら己の愚行を反省した。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 昔から人よりも物覚えはいい方だと自負していた。学問も魔術も人よりも早く覚え、周囲の人は天才だと私をもてはやした。周囲に言われ、そうなのかっと思ったことは何度もあった。本当の天才とは自分とは違うと母親になって気がついた。


 私とルーファスの間にできた子供は紛れもなく天才だ。一歳を過ぎた辺りから文字に興味を持ち、四歳になるころには一般の文字と四則演算を習得した。


 魔術にも興味を持ちフラン達を妊娠しているとき暇つぶしに教えたら、そうしたらその日のうちに魔術を発動した。普通なら呪文の内容を理解し魔術を心象(イメージ)イメージするのに数日かかる。


 私も魔術を最初に習ったときは魔術の構成は半日で理解できたが、魔術の心象(イメージ)に苦労して発動するのに三日はかかった。そのときの私の年齢は七歳で周囲からは神童、天才だと褒めたたえられた。それなのに四歳児の子供がたった一日で魔術を発動させるなんて自分の子供でなければ信じることができなかった。


(才能に溺れて性格に影響が出なければいいけど……)


 才能が持つゆえに傲慢になる人は多い。我が子がそんな大人にはならないで欲しいと私は切に願っていた。


 そんな私の胸中を知らずアースは元気に育っている。今日も家の外で魔術の練習をしていた。冬が近く寒い中頑張っていると関心をしていた。だが、少し目を離したら庭からいなくなっていた。慌てて庭に行き周囲を探したが姿は見えなかった。ただ、痕跡は見つけることができた。


 地面に削れたような跡があり、村へ続く街道に跡が幾つも続いていた。私はサティに子供達の面倒を頼んで街道のついた跡を追った。


(魔術を覚えたばかりで風の歩み(ウィンドステップ)を使うなんて……。暴走したら怪我をしてしまう)


 私が移動手段で使っている風の歩み(ウィンドステップ)は子供が扱えるものじゃない。脚に風の力を纏わせるため制御が難しい魔術だ。魔術が暴走してアースが怪我をしている可能性があるので私は急いで後を追った。


 跡は村まで続き、私が村へ着くとアースはレイラちゃんと手を繋いでいた。アースの様子からして怪我はしていないようだ。無事なことを確認できて私はホッとした。私はアースをレイラちゃんから引き離し来た道を戻った。


 家に着きアースが無事だったことをサティに伝え二人でアースを説教した。アースは素直に謝ったが今後の教育もかねてお仕置きをしておいた。


 これで少しは懲りるかと思ったがアースの才能はとどまることを知らなかった。二日間ほど家で大人しくしていたと思ったらとんでもない物を私達に見せた。


「積み木の改良案とオセロを作ってみた」


 アースはそう言うと一枚の紙と木の板、複数の石をテーブルに置いた。紙には積み木の改良案が書かれていた。正方形の板を複数用意して表面には絵を裏面には表面に描かれた絵の文字を書くと紙には書いてあった。四角い積み木で遊びながら文字の学習までできるのは確かに妙案だ。


 もう一つ作った物はオセロと板と石はテーブルゲームだと説明した。木目調の板に石を置く単純なゲームだ。ルールを聞いたときは面白いのかと思ったけれど、実際に遊んでみるとなかなか面白い。


 テーブルゲームが不得意なルーファスとサティだがオセロはルールが簡単なのですぐに覚えた。アースはこれらを村の職人に作って欲しいとお願いしてきた。ルーファスは二つ返事でアースのお願いを聞き入れ次の日には村の職人と話をつけてきた。その報告を聞いたアースは無邪気に喜んでいたが、私は少し不安になっていた。


 私の不安はアースの教育に関してだ。今までの教育の方針が間違っているのではないかと思い始めている。今までは伸び伸びと育って欲しいと思い、教育に力をいれていなかった。だが、アースは他の子供達とは違う。多岐にわたる才能があり、ちょっとしたことで様々な才能を見せる。


 特に魔術は危険なので教えることを躊躇している。しかし、アースはきっかけあれば独自に勉強して学んでいく。既にその片鱗を見せており、風の歩み(ウィンドステップ)を独学で発動させた。


 あの術は火や水、土と違って風と言う不可視の物質を操作するため発動や制御が困難だ。それを独学で使ってしまうアースに私は僅かな恐怖を感じた。


 今はまだいいかもしれないが、成長し才能を開花したときが怖い。傲慢な性格になり周囲の人に恐怖され、人々を傷つける存在になるかもしれない。最悪の場合は反逆者シンラのようになってしまう。




 反逆者シンラ。知識、武術、魔術などあらゆる才能を持った彼は国を滅ぼしかけた。シンラはその才能ゆえに傲慢で人を見下していた。その才能と傲慢な性格に恐怖した権力者は彼を弾圧した。シンラはその弾圧に抵抗するため反逆を起こした。


 最初は小さな抵抗だった。だが、時間が経つにつれてその抵抗は大きくなった。国や貴族に反感を持つ者はシンラの元に集まり組織ができあがった。組織は次第に大きくなりシンラの反逆は国を巻き込むまで膨れ上がった。


 シンラの反逆は国を相手取り滅亡の一歩手前まで追い込んだ。あと一歩のところで勝利することができたがシンラは過労で命を落としてしまった。様々な才能を持つシンラは全ての仕事を一人で行っていた。傲慢な性格のゆえに周囲の人を信頼することができなく重要なことはシンラが一人で決めていた。


 人を信頼することができなく、膨大な量の仕事がシンラを苦しめ死に追いやった。人を信じ信頼することができれば彼は死ぬことはなかった。そもそも権力者との軋轢がなければ反逆者になることもなく、反逆者の汚名を着せられ歴史に名を残すこともなかった。


 母親としてアースを反逆者シンラと同じようにする訳にはいかない。アースの教育についてもう一度ルーファスとサティと話し合う必要がある。


 私は一人の母親として子供を間違った道に進ませない教育をする。アースは周囲の人から愛される人間に育てると心に誓った。

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