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弟妹!

 辛いことの後には幸せがくる。と聞いたことがある。それは本当だった。母さんとサティさんに子供ができた! サティさんは冬の中ごろに判明し、母さんは冬の終わりに判明した。


 二人も妊娠したことで父さんは照れくさそうにしていたが、一人でいるときに大はしゃぎをしていたところを偶然に見てしまった。父さんはよっぽど嬉しかったようだ。


 母さんは二回目なので少し落ちついており、初産のサティさんにアドバイスをしている。サティさんは初産でしかも悪阻がかなり酷かった。食べ物も牛乳かヨーグルトしか食べられなかった。


 さすがに牛乳とヨーグルトだけでは身体を壊してしまうので、果実やジャムを少量混ぜて何とかしのいだ。しかし、この世界にもヨーグルトやチーズ、バター言った乳製品があるのは驚いた。


 父さんと母さんは乳製品が好きではないので今まで食卓に上がらなかったが、地球と似たような食べ物は意外と多いことを知った。


 牛乳はそんなに高くはないが他の乳製品はそこそこ高い。他にも野菜や果物は名前こそ違っているが姿形や食感などは地球の物と似ている。もう少し成長したら地球の食べ物を再現してみるのもいいかもしれない。


 そんな他愛たわいのないことを考えているといつの間にか秋になり、サティさんと母さんの出産の時期になった。




「大丈夫だ。俺がついている」


 父さんはそう言って俺を抱きながら扉の前に立っていた。扉の中ではサティさんが出産のために頑張っている。産婆にはジナ婆様とジナ婆様の後継者がついており、俺と父さんは部屋の外で待っている。


 出産時は男は部屋の外で待つのが風習みたいで子供が生まれるまでは男は誰であろうと部屋には入れない。なので男である俺と父さんは湯を沸かし、清潔な布を用意することしかできなかった。逆にそれらの用意が終わるとすることがない。


「いやあああ」

「しっかりおし。教えた呼吸方法を使うんだよ」

「サティ、頑張って」


 手持ち無沙汰俺と父さんと違って部屋の中では女性達の戦場となっている。サティさんが産気づいたのは朝食を食べ終えた後だ。すぐにジナ婆様を呼んで出産に取りかかったが、お昼を過ぎたのにまだ出産に至っていなかった。


 俺は父さんと一緒に赤ん坊が無事に生まれることを祈るしかなかった。




「お父さんですよ。ベロベロバァ」


 父さんは産まれた赤ん坊をあやしている。三人の赤ん坊達は笑顔を浮かべ喜んでいる。


 赤ん坊が三人。サティさんが三つ子を産んだのではない。サティさんは男の子を一人産んだだけだ。他の二人は母さんだ。


 サティさんが出産した後に母さんが産気づいた。サティさんの出産に引きずられたのか母さんの陣痛が始まってその日のうちに双子の女の子を出産した。


 双子の赤ん坊は少し早産だがジナ婆様の説明では許容範囲内と言っていた。


「アースのときよりも重いから大きな赤ちゃんだと思っていたけど、まさか二人もいたなんて」


 出産を終えた母さんはそう言って笑っていたのがとても印象的だった。そんなわけで我が家には一日で三人もの家族が増えた。


 出産で疲労困憊な母さんとサティさんをよそに父さんはずっと大はしゃぎしている。それは嬉しいことだが、父さんはよ。長男は朝食から何も食べていないぞ。母さんの出産が終えたのは日が沈み深夜に近かった。結局、その日は何も食べることができず空腹を我慢しながら眠った。




「女の子の名前はカンナとカレン……。いや、どうせなら長い名前を付けて愛称で呼びたいな」


 翌日、父さんは母さんとサティが休んでいる部屋で赤ん坊達の名前を考えていた。幾つかの候補は考えていたがいざ、名付けになった際に迷ってしまったようだ。


「あなた、女の子達よりも先に男の子の名付けが先でしょう」

「ああ、判っている。実はこれを用意した」


 父さんはそう言って羊皮紙を俺達に見せた。そこには数多くの名前が書かれている。


「どうだ。アースが産まれたときにも考えた名前もあるが、今回考えた名前も数多くあるぞ。サティはどれがいいと思う?」

「私が選んでよろしいのですか?」

「当然だ。家族なんだから皆で決めよう!」

「……でしたらアース様に決めていただきたいです。私とこの子がここにいられるのはアース様のおかげですから」

「僕が決めるの?」

「ええ、お願いします」


 サティさんはそう言って優しく微笑んだ。父さんと母さんも特に否定はせず、父さんは名前が書かれた羊皮紙を渡した。


(この中から決めればいいのかな?)


 羊皮紙に書かれた名前は数多くあり正直どの名前がいいか判らない。個人的には丈夫で健やかに育って欲しいと思っているので力強い名前がいい。


 俺は羊皮紙から弟に視線を移した。白髪に水色の瞳。そして、褐色の肌の赤ん坊。その姿に俺はある英雄の名前を思いだした。


「ジークフリート。愛称はジーク。駄目かな?」


 ジークフリート。施設あった絵本に出てきた北欧の英雄ジークフリート。絵本には白い髪に褐色の肌で描かれていてとても格好よかった。同じ風貌の弟には英雄のように育って欲しくて同じ名前をつけた。


 俺の言葉にサティさんは目を丸くして驚いた。いや、サティさんだけでなく父さんと母さんも驚いている。


「素敵! 男の子らしい力強い名前ね。アースはネーミングセンスもあるのね」

「はい、私もとても気に入りました。この子の名前はジーク。ジークフリートです」


 母さんとサティさんは大喜びで父さんは負けた。っと言う顔をしている。地球の神話からとっただけなので恐縮してしまう。でも母さん達は大喜びで父さんも悔しがりながら納得していた。


 ジークの名前が決まると今度は妹達の名前の話になったが、父さんが対抗心を燃やしていろいろな名前を提案してき。俺はこれ以上口を挟むと父さんが嫉妬するので女の子達の名前は父さんに任せた。


 その結果、女の子達の名前はクリスティーナとフランティーナに決まった。クリスティーナは愛称はクリス。フランティーナの愛称はフランとなった。


 ちなみに赤ん坊達の外見はこんな感じ。


ジークフリート。愛称はジーク。

 サティさんの父親と同じ白髪でサティさんの髪の色と同じ水色の瞳をしている。サティさんの家系は水色の遺伝子が強いらしく髪や瞳にその特徴が現れるらしい。


クリスティーナとフランティーナ。愛称はクリスとフラン。

 この子達は一卵性双生児だと思うが、瞳の色が微妙に違う。クリスティーナは父さんと同じ茶色い瞳だが、フランティーナは母さんと同じ赤い瞳だ。髪の毛は二人とも明るく赤みがかかった金髪で顔もソックリなのに瞳の色だけが違う。不思議だ。


 ちなみに俺は髪の色は父さんと同じ茶髪だが、瞳の色は黒い。顔つきは前世と変わっているけれど、瞳の色は前世と同じなので鏡や水面に映る自分の目を見ると気分が落ち着く。


 ジーク、フラン、クリスが新たに加わったことで四人家族が一気に七人家族となった。前世では天涯孤独だったのに異世界転生したおかげで大家族となった。この世界に転生できたことに俺は深く感謝した。




「眠い」


 俺は眠い目をこすりながら起き上がった。寝間着から普段着に着替え、朝の日課である鶏を小屋から出した。鶏達はすぐに柵で囲われている庭に飛び出して、雑草や土の中にいる虫をついばみ始めた。


「朝から元気だな」


 俺は鶏達が出て行った小屋に入り卵を集めた。この小屋では雄鶏は飼っていないので全て無精卵だ。この卵を集めるのと鶏の朝食を用意するのが俺の朝の日課だ。


 卵を集め終えると今度は餌やりだ。小屋に設置してある水入れと餌入れに水と餌を補充すると庭で遊んでいた鶏が小屋に戻ってくる。全羽が小屋に戻るのを確認して小屋の扉を閉めた。俺は集めた卵を持って家に戻った。


「寒くなったな」


 家に戻ると少しかじかんだ手を擦りながらかまどに火をつけた。火をつけるには専用の道具が必要になるが、俺は魔術で火をつけた。


 母さんが妊娠中に魔術を教えてくれた。母さんは暇つぶしの一環で教えただけで、まさか三歳の子供が魔術構成を理解できるとは思っていなかったようだ。だが、俺は前世の記憶があるため魔術の構成を理解することができた。


 この世界の魔術は魔素と呼ばれる無色透明で無味無臭の物がいたるところにある。母さんの話では大気や水、土など全て物にある。もちろん生物にもそれがあり、生き物は魔素を扱うことができる。


 魔術は魔素を自分が思い描く現象に換える術だ。魔素を集め自らが扱える力、即ち魔力にして火や水を作り出す。それが魔術だ。母さんはそう教えて魔素の集め方や魔術の発動方法を教えてくれた。


 俺は習ったその日のうちに母さんの教えと地球で得た知識を使って魔術を試してみた。まずはイメージし易い火を想像した。


 理科の実験で使っていたガスバーナーを思い浮かべる。魔力をガスの代わりにして熱を持たせる方法を試してみた。


 魔素や魔力の知識、経験が不足していたので最初の一時間くらいは何もできなかった。だが魔素と魔力を意識することで魔素や魔力について次第に理解することができた。魔素は確かにこの世界に存在していた。目には見えないが意識することで周囲や自身の中にあることが認識できる。


 その魔素を指先に集め魔力に変換する。魔力をガスに、ガスに熱を加えることを想像する。そして、試行錯誤の結果、火種を作ることに成功した。


 マッチの火くらいの大きさだが魔術を発動することができた。これならマッチを使った方がいいのだが魔術を発動できたことが嬉しかった。


 俺は魔術ができたことを母さんに伝えようとした母さんは固まっていた。近くで見ていた父さんとサティさんも目を丸くして驚いていた。


 後で聞いた話だが魔術を使える人は多くないらしいく、魔術を発動させるには数日間の練習が必要だ。習ったその日のうちにできるのは極稀だと聞かさた。


 魔術は魔力と想像力から術が完成する。大概の人はその想像力が上手くできず、集めた魔素は身体能力を高めるのに使ってしまう。父さんや一般の人はそうやって身体能力を高め、狩りや農作業などをしている。だから、三歳の俺がその日のうちに魔術を使えたことに三人は驚いた。


 特にサティさんの天才だと褒め称え将来は名の知れた魔術師になると大はしゃぎだった。


(前世の記憶があるから上手くいっているだけだ。中身は凡人だから今度は注意しよう)


 前世での俺は普通の凡人だった。転生したからといって天才になったわけではない。漫画やアニメの主人公みたいにできるとは思っていない。身の程はわきまえているので調子に乗らないように注意しようと俺は決心した。


「アース様、おはようございます」


 かまどに火をつけて部屋が少し暖かくなるとサティさんが起きてきた。


「いつもありがとうございます」


 サティさんはかまどの火を見ながらお礼を言った。この世界のマッチは一般市民には高価な物で火を熾す際には火打ち石などを使う。火打ち石で火をつけるのはそれなりに大変で母さんやサティさんは毎回苦労していた。


 母さんは火の魔術を使うことができない。水や風の魔術は使えるが、火を生み出し操作するイメージが上手くできない。もちろん火を自在に操る魔術師もいるが、人間である以上少なからず得手不得手がある。なので火の魔術を使えるようになってからかまどに火をつけることと鶏の世話が毎日の仕事になっていた。


(朝早く起きるのはしんどいけど母さんやサティさんはなるべく子守に集中して欲しい)


 弟と妹ができたことで俺は積極的に家事を手伝うようになった。四歳児の俺ができることは少ないが兄として弟と妹に尊敬される兄でいたいのだ。


「今日は卵がいつもよりも多いですね」

「鶏さんが頑張ってくれたみたい」

「では、燻製肉と一緒に料理しましょう。スープを温めるのでアース様は吹きこぼれないように見ていてください」

「はい」


 サティさんのお手伝いをしながら父さん達が起きてくるのをまった。このときの俺はこの何げない日常がいつまでも続くと思っていた。

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