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神様!?

「ここが俺が住んでいる街。ラトだ」


 ラグナさんの案内で辿り着いたラトは俺が住んでいた村よりも立派なところだった。家はレンガ造りの家が多く、地球にいた頃にテレビでみたヴェネツィアに似ていた。


「龍族と魔族が沢山いるニャ!」

「龍族と魔族は多種族との共存を嫌うと聞いていたが、間違いだったのか?」

「ダフネのその認識は半分正解で半分間違いだ。龍族や魔族は気心をしれた者とは交流する。だが、獣族や蟲族は自分達の寿命の半分しか生きられない。人族はもっと短い。知り合いが早くに死んでしまうのは残された方は結構辛い」


 ラグナさんはそう言うが悲しそうな顔はしていない。その辺は既に割り切っているのか淡泊な物言いだ。ラグナさんはそれ以上は何も言わずに街を進んでいった。


 街の住人達は見知らぬ俺達を警戒しているのか、遠目でこちらを見ているだけだ。唯一子供達だけが好奇心にかられてこちらに来ようとするが、周りにいる大人達に止められている。やはり、見ず知らずの他種族を危険視しているようだ。


「アース、アーニャ。周りの人が警戒している今はなるべく声を出すな」

「判った」


 オーナーが小声で警告してきた。オーナーも俺と同じで周りの人の警戒を気にしていた。ここでトラブルが起きるのは面倒でしかないので俺もすぐに同意した。アーニャはよく判っていない様子だが、流石に空気を読んだのか大人しくしていた。


 俺達が大人しくしていたのが功を奏したのか、街に入ってからトラブルは起きずにラグナさんの家に無事に辿り着いた。街に入ってから二十分以上は経過しているのでラグナさんの家はかなり街の奥にあった。


 ラグナさんの家は街の中で見かけたどの家よりも立派で洋館のような作りだった。


「今、戻ったぞ」


 門を開けてラグナさんが大声を出すと、入り口の扉から使用人と思われる人達がでてきた。初老っぽい男性の人が一人と三十歳手前くらいの女性が二人でてきた。三人はすぐにラグナさんのところに駆けつけ、初老の男性が一礼してラグナさんを出迎えた。


「ラグナ様、お帰りなさいませ」

「留守の間に何かあったか?」

「特になにもありませんでした」

「そうか。俺の方は人を保護した。後ろにいる三人だ。暫くこの家で寝泊まりするから面倒をみてやってくれ」

「かしこまりました」


 初老の男性は俺達の方を向き挨拶をした。


「私はラグナ様に使える使用人のオロチと言い、使用人達の取りまとめも行っております。後ろの二人は私と同じ使用人です」

「アシナです」

「テヅナです」


 オロチさんとアシナさん、テヅナさんは俺達に向かって挨拶をしてきたので、俺達もすぐに挨拶を返した。


「フロウだ。暫く厄介になる」

「アーニャだニャ。よろしくお願いするニャ」

「アクリスです。アースと呼んでください。よろしくお願いします」

「フロウ様にアーニャ様、アース様ですね。こちらこそよろしくお願いします」

「「よろしくお願いします」」


 オロチさん、アシナさん、テヅナさんとの自己紹介が終わるとオロチさんは俺達を浴場へ案内してくれた。長い航海と遭難などで身体は汚れていたので風呂に入れるのは有り難かった。


 浴場は大きな浴槽が設置されて村の公衆浴場と同じくらいの広さだった。浴槽のお湯はまだお湯が張られていないので、ますは水で身体を洗うことを進められた。


「お湯は自分でやるのでタオルや石鹸などをお貸し下さい」


 俺がそう言うとオロチさん達は不思議そうな顔をしたが、魔術で浴槽をお湯で満たすとと唖然としていた。俺にとっては慣れた作業なので女湯の方も同じようにお湯を貯めた。家に二つも浴槽があるのは珍しいとおもったが、それよりも俺は久しぶりのお風呂を満喫した。


 ちなみにお風呂に入る前に身体を洗うとものすごい量の垢が出てきた。清潔にしていたつもりだったが身体はかなり汚れていたことに驚いた。




 風呂を満喫して脱衣所に戻るとそこには新しい服が置いてあった。俺とオーナーのそれぞれ用意されて下着までも用意されて至れり尽くせりだ。しかも用意された下着と洋服はかなり良い生地が使用されているの着心地がいい。俺は用意してくれたラグナさんやオロチさんにお礼を言おうとしたら丁度オロチさんに呼ばれた。


「アース様。ラグナ様とナラト様がお呼びです」

「ナラト……さん?」

「ナラト様はラグナ様の御友人でこの屋敷のもう一人の主です。ラグナ様がナラト様にアース様や皆様のことをお伝えしたらナラト様がアース様に興味を持ったようです」

「そうですか。これからお世話になるのでナラトさんにも挨拶します」


 オロチさんの案内で俺はラグナさんとナラトさんが待っている場所に向かった。二人がいるのは屋敷の離れでナラトさんは普段はそこで暮らしているとオロチさんが教えてくれた。


「ナラト様、ラグナ様。アース様をお連れしました」

「入れ」


 ラグナさんとは違う少し高い声の男性がした。オロチさんはその指示に従い俺を部屋へと案内し、オロチさんは俺を部屋に通すと屋敷に戻っていった。部屋の中にはラグナさんと見知らぬ男性がいた。黒い髪に蒼い瞳。細身の学者風の男性だ。


「ラグナの友人でここのもう一人の主のナラトだ」

「は、始めましてアクリスと言います。みんなからはアースと呼ばれています」

「アース君、君のことはラグナやオロチから少し話は聞いている。その年齢でとても器用に魔術を使うらしいね。ちょっと僕にも見せてくれるかな」


 ナラトさんはそう言って空のコップを指さした。


(ここに水を入れろと言うことかな?)


 俺はナラトさんの意図を汲んで短い詠唱で魔術を発動させた。使う魔術はお馴染みの水の魔術で魔術が発動すると一瞬でコップは水で満たした。コップが水で満たされるとナラトさんはコップを持ち上げて水を飲んだ。


「冷たい水だ。水と氷の魔術を発動するのではなくて水の温度を調整して発動させた。浴槽にお湯を張ったのも水の温度を調整して発動させたのだろう。魔術が得意な魔族や精族でも同じことをできる者はいないかもしれない」

「俺の言ったとおりだろ。面白い奴だろ」

「ああ、ラグナ君の言う通りだ。アース君は面白い発想で魔術を使用している。僕も君に興味がでてきた。アース君、君に魔術を教えてたのは誰だい?」

「お母さんです。魔術はお母さんから習いました」

「先ほどの魔術も君は母親から習ったのかい?」

「先ほどの魔術は自分で考えました。自宅で簡単にお風呂に入りたかったので自作しました」

「自作した? まだ、十にも満たない子供が自分で考えたのか……」


 ナラトさんはどうも俺の言葉を疑っている。まあ、常識的に考えれば普通の子供が水の化学反応を知っている筈はない。前世の知識を応用して作った魔術だからこの世界の人にとっては不思議な現象かもしれない。


「ナラト。小僧の言葉を信じないのか?」

「いや、アース君が嘘を言っているようにも見えない。ちょっと気になることもあるから調べさせて貰うよ」


 ナラトさんは席を立って一言「ちょっと調べさせてね」と言って俺の頭に手を置いた。ナラトさんの手が頭に触れた瞬間。目の前の景色が変化した。世界から色が消滅して白と黒の世界だけになった。訳が判らない状況になったが、それ以上に恐ろしいことに気が付いた。


 ラグナさんとナラトさんの気配が異常だ。見た目は変化した様子ではないのに人の気配ではない。父さんに連れられて森で獣や魔獣を狩っていたから生き物の気配の違いはなんとなく判る。ラグナさんとナラトさんの気配は人ではなくどちらかと言えば魔獣……、いや海魔リヴァイアサンに似ている。


 正確には海魔リヴァイアサンよりももっと強烈で畏怖する気配だ。二人から逃げ出したいが、身体がまったく動かない。手足が動かないのは勿論、呼吸するも止まっている気がする。時間の感覚もそのうちなくなり、周りの景色もドンドン黒くなっていく。このまま真っ暗になってしまうのかと思った瞬間に景色が元に戻った。


 景色が戻ると足も動くようになって俺はそのまま膝から崩れ落ちた。


「おい、大丈夫か?」


 ラグナさんが優しく手を差し出すが、ラグナさんがとても恐ろしい。先ほどまでの異様な気配はなくなり、出会った頃の普通の気配だが先ほどの気配を覚えているのでラグナさんが恐ろしく思えてしまう。


「――あなた達は何者ですか? (大丈夫です。気にしないでください)」

「どう言うことだ」


 しまった。思っていることと口から出た言葉が逆になっている。俺の言葉にラグナさんは怪訝な顔をして、ナラトさんは驚いた顔をしている。ナラトさんは何か思い当たる節があるのか俺に尋ねてきた。


「アース君。君は僕達の正体に気づいたの?」

「――普通の龍族や魔族ではないことが判りました。気配がリヴァイアサンに近い。……違う、リヴァイアサン以上に恐ろしくて畏れ多い存在……です」


 ナラトさんの気配がさっきの気配になった。違う。今までの気配が偽りで、今の気配がナラトさんの本来の気配だ。どうしてそう思うのかは判らないが、今の気配の方が何故かしっくりとしている。


「この世界の住人ならこの気配を察知することができないのどうして判るのかな? 君が異世界の魂だから魂で感じてしまうのかもしれないな」

「!?」

「異世界の魂? ナラト、アースは異世界の住人なのか?」

「違うよ。肉体はこちらの住人だ。魂だけがこっちの世界に来て、胎児に憑依したんだ」

「魂だけが界渡りをしたのか? そんなこと無理だろ。裸で雪山を登山するのと一緒だ。世界と世界を渡る前に魂が消滅するぞ」

「普通ならそうなんだけど。飛ばされた時期が良かった。いや、巻き込まれた言った方が正しいかな。そんなことよりもアース君に僕らの正体がバレてしまったから口止めする必要がある」


 口止めって聞いて俺は殺されることを想像したが、ナラトさんはそれを否定した。


「そんなに怖がらないで。僕達の正体を他の人に言わないと約束してくれればいいだけだよ。もっとも『神』との約束はとても重いから破ったら命の保証はないよ。仮に命が助かっても五体満足とはかぎらないけど」

「神? ラグナさんとナラトさんは神様なのですか?」

「そうだよ。僕は魔族の神である魔神。ラグナは龍族の神である龍神。この肉体は仮初めだけど僕達はこの世界を創造して守護している六柱の神だ」


 ナラトさんは冗談ぽっく言うがその目は冗談を言っている様子ではなかった。ラグナさんに視線を移してみるが、ラグナさんも不適な笑みを浮かべている。そして、ラグナさんの目もナラトさんとも同じだった。


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