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遭遇!!

 遭難して陸地に辿り着いてから三日目。アーニャ、俺、オーナーの順で川上を目指していた。オーナーとアーニャが見つけた小川には生活用品である鍋やコップが見つかった。川上から流れてきたと推測されるので、小川の周辺で三日間休んでから俺達は移動を開始した。


 本当ならすぐに移動したかったが、食糧の確保や体力を回復するために三日間休息することにした。おかげで俺の魔力も八割以上回復して、食料と水の備蓄も五日分を確保することができた。


「まずは小川の上流を目指す。途中で行き止まりや滝があった場合はその都度対応を考える。最悪の場合はここに戻ってくる可能性もあるからそのことも覚えておけ」

「はい」

「判ったニャ」

「それと何か見かけたり聞いたりしたとしても一人で行動はするな。もし逸れたりしたら他の二人にも迷惑がかかるからな」


 オーナーの的確な指示に従い俺達は出発した。小川を頼りに川上を向かうが整備されていない川の淵は思っていた以上に歩きにくかった。足下は小石や木の枝が落ちていて、土から生えている草や小さい木が邪魔をする。鉈や斧があれば切って進むこともできるが武器になるようなものはオーナーが持っている小剣しかなかった。


「鬱陶しいニャ。こんな草木は風の魔術で切ってしまいたいニャ」

「魔術はなるべく温存しろ。魔獣や大型の動物に遭遇したときに魔力切れになっていたら洒落にならん」

「判っているニャ。ちょっと言ってみたかっただけニャ」

「愚痴を言うと気分が沈むぞ。どうせ喋るなら気分転換になることを言え」

「例えばどんなことニャ?」

「雑談でいい。今日の夕食を何にするかでもいいぞ」

「お魚がいいニャ」

「燻製した魚でいいのか?」

「燻製よりも生がいいニャ。船で食べた生のお魚は美味しかったニャ」

「淡水魚は生で食べられないよ」


 アーニャが川魚を生で食べたいと言ったので俺はアーニャとオーナーの話に割って入った。川魚は淡水魚なので寄生虫がいる。寄生虫を殺さずに食べてしまうと感染症になってしまうリスクがある。前世で釣り好きの上司や同僚がよく話していたことを俺はアーニャとオーナーに話した。


「川魚を生で食べるて腹を壊すのはそれらが原因だったのか……。誰から習った?」

「釣り好きの知り合いからだよ」

「意外と博識な知り合いがいるんだな。寄生虫なんて言葉は始めてしったぞ。だが、魚を捌くと確かに小さな虫がいる。それが腹痛や病気の原因になるとは驚きだ」


 オーナーは俺の話を信じてくれた。オーナーの感じからするとこの世界ではまだ寄生虫やウイルスといった概念はないようだ。確かに寄生虫やウイルスは小さくて目に見えないから意識する人は少ない。むしろ、なんで地球人は発見できたのか疑問に思ってしまう。


「それにしても生のお魚が食べられないなんて酷いニャ」

「焼いたり、茹でたり、蒸したりすれば安全だよ」

「生がいいニャ。今まで生きてきたなかで生のお魚が一番美味しかったニャ」

「そうなの? 醤油がないから俺には物足りなかったな」

「醤油って何だニャ」

「醤油って大豆……。豆から作った調味料だよ。魚醤みたく塩っ気が強くなくてサッパリしているよ」


 醤油か。この世界に転生してから醤油や味噌、米は見かけていないな。久しぶりに和食が食べたくなってきたな。ワカメや昆布などは船の中で海藻サラダででてきたから米は何処かに生息しているのかもしれない。けど、醤油や味噌は自分で作るしかないのかもしれない。


(流石に前世でも醤油や味噌は造ったことがないから手探りになるなぁ。豆を塩と一緒に煮て発酵させればできるのかぁ)


 和食の再現を考えて移動しているといつの間にか夕方になっていた。初日の移動では人里に辿り着くことはできず、その日は小川の近くで野営を過ごすことになった。土の上で寝るのも大分慣れてきたが、周囲を警戒しながら寝るのは気が休まらないので早く人里に辿り着きたいと切に思った。




『グラララララァ。ガアァァァァァァァァ!!!!』


 雷かと思えるほどの凄まじい咆哮に俺の足は竦んでしまった。オーナーもアーニャもここから速く逃げ出したいが同じように足が竦んでいた。身体も鉛のように重くて身動きがとれない。生きるためには速く逃げないといけないのに、目の前のいる巨大な生物から目を逸らすことはできなかった。


 ドラゴン。日本の竜や龍とは違う西洋の伝説上の生物。それが今目の前にいる。身体はリヴァイアサンとくらべると小さいが全体を視認できる分、ドラゴンの方が恐ろしかった。爪の大きさは俺の身体と同じくらいで、身体は小さな山ほどの大きさがある。鋭い牙と大きな角もあり、赫く美しい鱗に金色の瞳は途轍もなく綺麗だった。


 どうしてこんな生物と出会ってしまったのか正直に言えば判らなかった。移動を始めてから四日目の朝に俺達は村を見つけた。村と言っても廃村で人は住んでいなかった。人がいなくなってどのくらい時間が経ったのかは不明だが、家の造はまだしっかりとしていた。


 村の中で一番頑丈そうな建物を見つけて俺達は休憩していた。使える調理器具や道具などを探して、今後に役立てようかと相談していたら突然地響きが鳴った。外に何か落ちたのかと思い建物から出てみるとそこには巨大なドラゴンがいた。なんの脈絡もなくドラゴンが突然現れたのだ。


(ゲームやアニメだったらもう少し出てくる展開があってもいいのに。でも異世界に転生して最後にドラゴンを見られたのは幸せだったのかなぁ)


 地球にいたら絶対に見られない伝説の生物に出会えたことに正直に言えば興奮している。しかし、それ以上に死の予感がつきまとう。もう、生きて帰れないと思うと自然と涙がでてきた。父さんの顔や母さんの顔。サティさん、ジーク達の顔が脳裏から溢れ出てくる。走馬灯だ。もう死ぬしかないと思っていると不意に父さんの話を思い出した。


 父さんは冒険者の頃にドラゴンと戦ったと話をしてくれた。普通の武器ではドラゴンの鱗を傷つけることもできなく、母さんの魔術と協力して戦ったと言っていた。そのとき父さんが言っていたのはドラゴンは視覚、聴覚、嗅覚などは人や獣よりも優れている。無闇に逃げることだけはするなと言っていた。


 じゃあ、『ドラゴンと遭遇したときはどうすればいいのか?』と聞いたら父さんはあることを教えてくれた。


「俺達は盗賊や略奪者じゃない。遭難したんです。助けて下さい」


 俺は大声をだして命乞いをした。父さんはドラゴンに遭遇したら大きな声をだせと教えてくれた。ドラゴンの中には人の言葉を理解できる個体もいるので、まずは敵対しないことと自分の状況を伝えるといいと父さんはいっていた。俺の言葉を聞いてドラゴンは首を傾げた動作をするとそのまま俺達を睨んだ。


『ギャッガァァァァァァァァ!』


 ドラゴンがまた咆哮をあげると今度はドラゴンが金色に光り出した。光はどんどん大きくなって目が開けられない程の光量になった。俺は目を閉じて腕で光を抑えたが、光の強さはドンドン大きくなっていくのを感じる。何が起きているのか判らないが、一分くらいすると光は急速に弱まっていった。


「だぁぁぁ、はっはっはっはぁぁぁぁ! ドラゴンに助けを求める子供なんぞ始めて会ったぞ。小僧なかなか面白い奴だな」


 光が完全になくなると男の声が聞こえた。目を開けて見るとドラゴンはいなくなり、代わりに大柄な男がいた。赤褐色の肌に黒い髪。張り裂けるほどの筋肉を持ち、ターバンを巻けば砂漠の民と思える風貌の男だ。


「我の名前はラグナ。龍族のラグナだ。小僧、お前の名前を教えろ」

「お、俺の……私の名前はアクリス…………です。知り合いからはアースと呼ばれています」

「アクリス。(あざな)がアースか。よき名前だ。そこの獣族の娘と人族の男も名を名乗れ!」

「あ、あちきはアーニャだニャ」

「……フロウだ」


 ラグナの言葉にアーニャとオーナーが名を名乗った。オーナーの名前はフロウと言うのは始めて知ったぞ。


「アーニャにフロウか。お前達もよき名前だ。して、お前達はこの廃村に何用だ? アースは遭難したといったがここの海辺ではないぞ」

「……船から投げ出されて、ここから歩いて四日くらいの浜辺に流れ着いた。そこから小川をつたってここに辿り着いた」


 ラグナの質問にオーナーが答えるとラグナは満足そうに頷いた。


「なるほど。お前達がここに来た理由が判った。こんな辺境に女子供を連れた男がいたからつい警戒したが、その必要はなかったようだ。驚かせてしまった詫びにお前達を保護しよう。我が住んでいる場所へ案内してやろう」

「それは助かる。感謝する」

「やったニャ!」

「あ、ありがとうございます」


 ラグナの言葉に俺達は大いに喜んだ。ドラゴンと遭遇して死ぬかと思ったが、何とか生きのこることができた。


(そう言えば俺達があったドラゴンは何処に行ったんだ?)


 俺はドラゴンが消えてしまったことに疑問を持ちラグナさんに聞くことにした。


「ラグナさん。先いたドラゴンは何処にいってしまったのですか?」

「何を言っている。先ほどのドラゴンは我が変身した姿だ」

「えっ。龍族はドラゴンに変身できるのですか?」

「いや、龍族は確かにドラゴンの力を扱えるが、完全にドラゴンに変身できる龍族は我ともう一人だけだ」

「そうですか。教えていただきありがとうございます」

「うむ、礼儀正しくてよい小僧だ。アースよ、我はお前が気に入った。どうだ我の弟子にならないか?」

「えっ」


 ラグナさんの突然の提案に俺は思わず固まってしまった。どうして今までの流れで弟子を取る話になるのだ。龍族は気に入った相手を弟子にする風習でもあるのか。ラグナさんの意図が読めずに困惑しているとオーナーが助け船を出してくれた。


「ラグナ殿。アースが混乱している。この数日間は心安まる時間がなかったので弟子の話は落ち着いた場所でして貰えるだろうか」

「そうだな。我としたことが早計だった。まずはお前達を案内するのが先だな。我の後に付いてこい。ここより半日程歩いた場所に街がある。そこが我の根城だ」


 ラグナさんはそう言って北の方角を指さして歩き出した。俺達はラグナさんに遅れないよう後をついていった。




「ラグナ殿。つかぬことを聞くがここは東大陸か?」

「そうだ。東大陸の南に位置する場所だ」


 ラグナさんの案内で街に向かう道中で、オーナーはラグナさんから様々な情報を聞き出した。ラグナさんの言葉を信じるであれば、此所は東大陸でもかなり南の先端部分に近い場所だ。船の目的は東大陸の中央部より少し南下した場所なので予定よりも南に来ていた。小舟で遭難していたときに海流でかなり南に流されてしまったようだ。


「今から向かう街は東大陸でもっとも南に位置にある街だ。二十年ほど前までは先ほどの廃村のように小さい村はあったが、街ができてからは皆が移住した」

「どうして皆が移住したニャ? 住み慣れた場所を離れるのは抵抗があるニャ」

「そのことについては我もよく判らん。街があった場所は我と友が拠点にした場所だ。暫くそこを拠点にしていたら人が集まってきて街になった」

「友? その人も龍族なのですか?」

「友は魔族だ。我らは百年ほど世界各地を旅して二十年前にこの地に戻ってきた。友が暫くこの場所で暮らしたいと言うので拠点を構えたのだ」


 さらっと百年旅をしたと言ったが母さんが言っていたとおり、龍族や魔族の寿命は人族に比べて長いようだ。人族の寿命は六十から八十年ほどだ。獣族や蟲族は約二百年。精族と魔族、龍族は五百年以上と言われている。龍族や魔族の百年は人族と違うことがよく判った。


「街の住人は五千人ほどいるが、主に龍族と魔族で九割をしめている。残りは精族と商いに来ている獣族か蟲族だが、今の時期だと商いの者はもういないだろう」

「時期によって? 何か理由があるのですか?」

「それは街についたらゆっくり説明するぞ。それよりも我は腹が減った。何か食べる物はあるか?」

「森で採れた果物と干したキノコ。それと燻製にした肉と魚があります」

「では、肉とキノコを貰おう」

「あちきは魚を頂戴ニャ」

「オーナーはどうする?」

「俺は魚と果物を貰おう」


 皆の要望を聞いた俺は背負っていた葉の包みから食料を取り出した。大きな葉っぱが自生していたので食料はその葉に包んで持ち歩いていた。


「ラグナさんは携帯用のコップなどはお持ちですか?」

「そんな物は持っていないな」

「じゃあ、さっきの村で拝借したコップを使います」


 俺は廃村から持ってきたコップに水を注ぎラグナさんに渡した。


「ほぅ。魔術でいとも容易く水を作るとはやるな。しかもこの水は少し冷たい。水の温度の調整までしたのか?」

「はい。水をお湯にするように訓練していたら逆もできるようになりました」

「ふむ。その歳でここまで魔術に精通するとは驚きだな。我が友も興味を持つだろう。街に着いたら合わせてやる」

「ありがとうございます」


 不思議な雰囲気を持つラグナさんの案内で俺達は日が落ちる前に街に辿り着くことができた。船から投げ出されて十日近く経過してようやく心が安まる場所に辿り着いた。


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