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閑話 大きな栗の木の下で

もっと早く投稿する予定でしたが仕事が忙しくて無理でした。

誤字脱字の報告があり、この場でお礼を申し上げます。

「大きな栗の木の下で、あなたとわたし、なかよく遊びましょう、大きな栗の木の下で」


 アースが教えてくれた歌を歌いながら私は老木に寄り添っていた。この場所は魔素地点マナスポットと呼ばれる特異点だが、私にとってそんなことは重要じゃない。この場所はアースとの思い出が沢山ある大切な場所だ。


 この場所はアースと私が遊んだ場所。

 この場所はアースと私が歌を歌った場所。

 この場所はアースと私が魔術を学んだ場所。

 この場所はアースと私が喧嘩した場所。


 どれも大切な思い出だ。だけど、その思い出はこれ以上増えることはない。アースは半年前に人攫いに捕まってしまい行方不明になってしまった。私もその場に居合わせたのに逃げることしかできなかった。アースは自分を囮にして私やジーク君達を守った。


 人攫い達にたった一人で立ち向かった勇者。弟妹や幼馴染みを守った英雄として村ではアースを賞賛している。けれど、本当のアースはそんな大それた子供じゃない。私の知っているアースはとても怖がりで臆病な子供だ。


 村にいる他の男の子は乱暴で生き物に酷いことをする。虫を捕まえて争わせたり、猫や犬に石を投げたり追い回す。村の女の子が注意しても止めることない。アースはそんな男の子達と違ってそんなことはしない。むしろ虫を怖がって近づくこともしない怖がりだった。


 六歳の誕生日にお父さんからプレゼントされた剣も大事に持ち歩いているが、練習以外で鞘から抜いたことはない。他の男の子は短剣を持つとむやみに振り回して怪我をするのに、アースは刃物は危険だと言って決して鞘から抜くことはしなかった。


 臆病で怖がりだったアース。私はそんな彼が大好きだった。いつから好きになっていたのかは判らない。小さい頃からアースと遊びたくて両親に我が儘を言ったこともあるくらいだ。私に魔術の才能があり、アースと一緒にいる時間が多くなったことはとても嬉しかった。


 そんな大好きなアースがいなくなってしまった。私は家で何度も泣き続けた。家に泣き続けているとアースに会いたくなってアースの家に何度も行こうとした。けれど、家に行ってアースがいないと思うと足が震えて行くことができなかった。


 仕方なく浴場の仕事をして気を紛らわせた。いや、違う。浴場の仕事をしていればアースが手伝いに来てくれるかもしれないと期待していた。浴場の仕事は私とアースの大切なお仕事。私が頑張っていればアースが手伝いに来てくれると思ったからだ。だけど、何ヶ月も経ってもアースが来ることはなかった。


 アースがいなくなった事実に私は塞ぎ込むようになった。家にいることが多くなってなって外出することも少なくなった。両親はそんな私を気遣ってくれたが、それは逆効果で私はどんどん塞ぎ込んでしまった。


 そんな私を叱責したのが村長のお爺ちゃんだった。ある日おじいちゃんは私を強引に家から連れ出し家の庭に連れ出して大きな声で私に告げた。


「せっかくアースが身を挺して守ってくれたのに何という体たらく。助けてくれたアースを今度は自分が助けることすらしないのか!」


 お爺ちゃんの思い掛けない言葉に私は雷に打たれたような衝撃を感じた。アースを助けに行く。私を助けてくれたアースを今度は私が助ける。その言葉は私の胸に突き刺さり、身体の中から熱い何かを感じた。


 そうだ。臆病で怖がりなアースが私達を守るために人攫いに立ち向かったのに、助けられた私がいつまでも落ち込んでなんかいられない。


「私がアースを助ける」


 思わず口に出た言葉はこれからの私の目標となり、今までの私と決別する切っ掛けとなった。


「お爺ちゃん。アースを助けるにはどうすればいいの!」

「おう、そうだなぁ」

 

 私が強い口調でお爺ちゃんに尋ねるとお爺ちゃんは驚いていたが真剣に答えてくれた。


「まずは知識が必要じゃ。読み書きや算術は勿論、人を探すとなると旅をする必要がある。旅は村で暮らすのとは違うから旅の知識が必要になってくる。それと旅をするにはある程度の強さも必要じゃ。野生の動物や魔物を退くことができる強さが必須じゃ」

「どうすれば知識と強さが身に付けられるの?」

「そうだなぁ。学園に通えば一通りの知識を学ぶことができるかもしれない」

「学園」


 このときの私はまだ知らなかったが、学園とはこの国と他国が運営する教育機関のことだ。学園は学問だけでなく武術や魔術、その他にも世界のあらゆる知識が学べるところだ。私の中に生まれた新たな目標を達成するには最適な場所であった。


 私は学園に行くことを決めた。学園は遠方にあるためすぐに入学することはできない。それに入学するにもある程度まとまったお金も必要だとお爺ちゃんが教えてくれた。なら、浴場の仕事も休んでいられない。お金を沢山稼いで学園に行くのだ。




 学園に通うことを決めた翌日。私は半年ぶりにアースの家を尋ねた。私が尋ねたことにパシィーさんとサティさんは驚いていたけれど温かく迎え入れてくれた。私はサティさんが淹れてくれたお茶を飲みながら学園にいくことをパシィーさん達に報告した。私が学園に行き知識を学びその後はアースを探す旅に出ることもきちんと話した。


 パシィーさんとサティさんは驚いていたが、私の決意が固いことを知ると応援してくれた。そして、学園に行くまでに必要な文字の読み書きや魔術についても指導してくれると約束してくれた。私は二人に感謝しながら、好意に甘えることにした。


 アースの家からの帰り道、私はアースとの大切な思い出がある老木のある丘に寄った。アースとの思い出を振り替えながら私はここで誓った。


「アース、今度は私が助けるから」


誤字脱字の指摘や感想などを頂けると嬉しいです。

評価やブックマークをして頂けると励みになりますのでよろしくお願いします。


二章の投稿は二月になりそうです。

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