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行方?

15日に投稿をしようとして失敗しました!

連続投稿は今回までで一章が終わります。

短いですがこの後は閑話を一度投稿する予定です。


二章に関しては構想はあるので、もう一つの連載と交合投稿ができればいいと思っています。

 俺は村にある空き家の扉を乱暴に開けた。家の中には男が拘束され、声を出せないように猿ぐつわをされている。されているとは語弊だ。俺がやった。


 この男は山中でアースをさらった人攫いの仲間だ。俺が現場に駆けつけたときにこの男が倒れていた。顎や頭部に怪我を負っていたので最低限の治療をしてここに閉じ込めた。これからこの男は尋問しアースをさらった目的を吐かせる。俺は男の猿ぐつわを外して話しかけた。


「起きているだろ。気分はどうだ」

「……最悪だ。ガキに負ける何て、恥さらしもいいところだ」

「ガキに負けた?」

「お前と同じ茶髪の子供だ。お前の息子か?」


 アースがこの男に勝った。僅か八歳の息子が大人一人を倒したことに思わず驚きと誇らしさが胸に広がった。


「そうだ。アースは俺の息子だ。その息子を何処に連れて行った!」

「知るか。ガキに負けて気を失ったんだ。その後のことなんて知るわけがない」

「なら、お前達の目的を教えろ。どうしてこの村に来た。ただの旅人ではないのだろう」


 俺の質問に男は答えなかった。目的を言わないのはやましいことがあるからだ。強引に口を割るしかないと思い俺は剣に手をかけた。


「待ってくれ。俺達の目的は話す。ただ、取引がしたい」

「取引だと。そんなことが言える立場か!」

「そんなことは百も承知だ。だが、俺にもプライドがある。アンタの質問に素直に答える。取引の内容も簡単ことだ」

「……言ってみろ」

「簡単なことだ。俺を役人に渡す際に子供に気絶させられたことを言わないでくれ。俺はアンタと戦って捕らわれたことにして欲しい」

「……それくらいの取引なら応じるが、何故そんなことを言う」

「このまま牢屋に入れられたとしてもせいぜい五年くらいの刑期だ。誘拐未遂だからな。ガキに気絶させられて捕まったことが広がったら、出所後の仕事に影響が出る」

「だから俺に捕まったことにされたいのか。……良いだろう。お前の取引に応じる。目的や知っていることを全部話せ!」


 正直に言えばこんな奴と取引はしたくはなかったが、アースの行方を知るため今は僅かな情報が欲しい。


「取引成立だな。まず、俺達の目的はお前の子供を誘拐することだ。アースってガキじゃない。ジークフリートって言う白髪のガキだ」

「ジークが目的だと!」

「依頼内容は仲介役からしか聞いただけで、依頼人の意図までは知らない。だが、お前には心当たりがあるはずだ。この村に来る前にお前の実家については軽く調べた」

「くっ」


 男の話を聞いて俺は自分をぶん殴りたい衝動に駆られた。実家で親父と敵対していた勢力は風前の灯火だと兄貴の手紙で連絡を受けていた。だが、追い詰められた者は何をするか判らないから注意するようにと警告も受けていた。ここでの生活は権力争いと無縁のためその警告を軽視してしまった。


 その後、俺は男からできるだけ情報を引き出し空き家をでた。向かう先は自宅だ。アースは実家がある街に連れ去られた可能性が高い。実家との連絡用に使っている伝書鳩でアースを保護して貰うよう連絡する。今の俺にできることはそれしかなかった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 アースが誘拐されて半月が経った。あれだけ騒がしかった家は見る影もなく静かになった。子供達の心の傷は大きく、夜泣きやおねしょをするようになってしまった。ジナ様に診ていただいたところ、精神ショックを受けたことで一時的に幼児化してしまったようだ。


 ジーク、クリス、フランは常に大人達と一緒でないと不安なのか子供達で遊びに行くことはなくなってしまった。アースの幼馴染みのレイラちゃんも同じだ。毎日のように家に来ていたが、アースがいなくなってから家に来ることがなくなった。


 幸いなことはショックで家に引き籠もっているわけではなく、浴場の仕事は続けている。一人では手が回らないが、それでも頑張っている。子供達はアースが誘拐されたことで大きな傷を背負ってしまった。いや、子供達だけではない。私達大人も心に傷を負った。


 夫であるルーファスは夜にお酒を飲むようになった。元々お酒は強くはないので少し飲んだだけで眠ってしまう。ルーファスはお酒を飲まないと眠ることができなくなってしまった。夜中も魘されることが多々あるようで寝言でアースに謝っている。自分がもっと速く現場に駆けつけることができたら、アースが攫われることを防げたと後悔していた。


 サティはアースがいなくなっていから些細な失敗をするようになった。お皿を割ったり、料理を焦がしたりすることが多くなった。仕方がない。人攫いの目的がジークだと知り、アースが身を挺して守ったことに罪悪感を覚えている。


 私の前では気丈に振る舞っているが、夜になると声を殺して泣いている。自分の子供が助かったことを悔いているだろう。いや、サティはそんな人ではない。純粋にアースがいなくなったことを悲しんでいるのだ。


 それに比べて私は冷たい人間なのかもしれない。お腹を痛めて産んだ子供が誘拐されたのに涙を流したのはアースが攫われた日の一度だけだ。翌日からは普通に生活していた。私は人よりも冷たい人間なのかもしれない。


「パシィー、少し話をしていいか?」


 ベッドで眠る準備をしていると夫のルーファスが話しかけてきた。今日はお酒は飲んでおらず神妙な面持ちで話しかけてきた。


「前にも話したが明日、俺の兄貴が家にくる。アースのことについて何か情報を掴んでいると思うが同席するか?」


 私は俯き何も答えることができなかった。アースのことを知りたい筈なのに答えることができない。いろいろな思考が頭を巡るが答えは一向にでない。ただ、アースのことを思うのが辛かった。ルーファスはそんな私を見て何かを察した。


「……パシィー。お前、心を閉ざしているのか?」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……パシィー。お前、心を閉ざしているのか?」


 妻のパシィーの様子が普通ではない。アースがいなくなってから半月が経って俺は要約そのことに気が付いた。アースがいなくなったことで子供達に不安を与えないよう気丈に振る舞っているのだと思ったが違った。パシィーは悲しみのあまり心を閉ざしていた。


 当然だ。アースがいなくなってい一番ショックを受けたのは、腹を痛めて産んだパシィーだ。今すぐにでも探しに行きたいのに残された子供達や村のことを思い止まっている。


 悲しみ、焦り、不安などで心が狂ってしまう前にパシィーは心を閉ざし、アースのことを遠ざけていた。俺はそのことに半月も経ってから気が付いた。アースの誘拐のときといい自分の為体ていたらくが嫌になる。自分で自分の首を絞めたい気持ちになるが、今はそんなことをしている場合ではなかった。


 俺のことよりもパシィーの方が重症だ。自己責任から心を閉ざしているパシィーはいつか壊れてしまう。密閉した樽に強引に水を流し続ければ樽が壊れてしまうのと同じにパシィーの身体と心が壊れてしまう。俺はパシィーを抱きしめ話を始めた。


「明日はお前も同席しろ。アースの現状を一緒に確認する」

「…………」

「子供のアースが弟達を守るために命をかけたんだ、親である俺達はその顛末を知るべきだ」

「……い、……いや」

「駄目だ。どんなに辛くても聞くんだ。最悪の場合になっていたとしても俺達は知るべきだ」

「最悪って……」

「アースが死んでいることだ」

「あ、ああ……」


 パシィーの瞳から大粒の涙が零れる。一雫の涙が頬をつたうと堰をきったようにパシィーは泣き始めた。最初は声を殺していたパシィーだったが、しだいに嗚咽が漏れ始めた。


「うぁ……うううっ…………」

「もう我慢する必要はない。どんな結末になっていたとしても俺達は受け入れるしかない」

「うああああぁぁぁ…………アース、アース。私のアース。返してよ。私の子供を、私のアースを返してよぉぉぉ」


 パシィーが悲痛な叫びをあげ、俺のシャツを思いっきり掴む。今まで溜まっていた感情がパシィーから溢れ出た。俺はパシィーを強く抱きしめた。慰めの言葉はない。一緒にアースがいなくなったことを悲しむことしか俺にはできなかった。




「久しぶりだな」


 八年ぶりに再会した長兄ライオスはそう言って俺の家に訪れた。八年前に会ったときと風貌は変わっていないが威厳は増したような気がする。次期当主として日々を送っているため自然に身についたのだろう。俺は訪ねてきたライオスを家の中に案内した。

 

 家の中には俺とパシィー、サティの三人しかいない。子供達は村長の家で預かって貰っている。兄貴は椅子に座り、その対面に俺は座った。俺の両脇にはパシィーとサティが座った。


「まずは謝罪する。今回の件は現当主である父と反発していた者が起こした。人を雇いサティさんの子供を誘拐して新たな当主に仕立てようとした」

「そのことは予想できていた。俺達が知りたいのはアースが攫われた理由と居場所だ」

「アース君が攫われたのは優秀だったからだ。人攫いと反当主派の契約では、ジーク君の他に優秀な子供がいたらその子らも攫えとあった。大人一人を倒せる子供なんて条件に一致する」

「それでアースは今は何処にいるんだ?」

「……判らない」

「「「っ!」」」

「お前から連絡を貰ってこちらもすぐに動いた。現当主の反対派は監視していたから首謀者はすぐに判明した。当主の兄であり、私達の伯父だ」


 現当主の俺達の父親には三つ年上の兄がいる。俺達の伯父に当たる人物は優秀だが思慮に欠け感情的な人間だ。若い頃に次期当主になると思い込み犯罪まがいのことを多く行っていたと聞いている。そのことが原因で当主には弟の俺達の父親が選ばれた。伯父は父が当主になった後も家督を譲るよう父と対立していた。その伯父が今回の首謀者でアースを誘拐した張本人だった。


「そこまで判っていてどうしてアースの行方が判らない!」

「伯父が殺されたからだ。私達が伯父の屋敷に調査に向かった日に殺された。執事やメイド達を尋問したところ、傭兵のような格好をした男が伯父を訪ね、伯父はその男を招き入れ自室で話をした。それ以降に伯父の生きた姿を見た者はいない。十中八九雇った者と揉めた伯父は殺害されたと私達は思っている」


 兄貴はサティが用意したお茶に口を付け一息ついた。


「伯父を殺した者はすぐに行方を追った。それと同時にアース君の行方もすぐに追った。事後承諾で悪いがアース君は貴族の子供として各地に知らせた。貴族の子供であれば悪いことにはならない。人買いに買われたとしても金の力で取り返すことができるし、報奨金目当てで情報が集まる。当主である父はアース君の身柄について全力を尽くすことを約束している」


 兄貴はそう言って一枚の紙を差し出した。それは誓約書だった。誓約書には父と兄の名前が署名され、内容はアースに行方について家の威信をかけて行う旨が記載されていた。また、アースの死が確定された場合は伯父の親族達にも重い罰を与えると書かれていた。


「本来なら伯父の親族達にも重い罰を与えるのだが、彼らはアース君の捜索を命じた。アース君が無事に戻らなければ罰せられるので死に物狂いで探すだろう」


 誓約書には親父や兄貴達が現状でできうることが詳細に書かれていた。アースを探すために最善を尽くしてくれているのがよく判る。


 俺はこれ以上兄貴に何かを言うつもりはなく頭を下げた。元々兄貴は手紙で俺に注意喚起を促していた。それを軽く見ていたのは俺だ。この中で一番責められるのは俺である。


「ありがとう、兄貴。ここまでしてもらえるとは思わなかった」

「気にするな。元々はこちらの問題に巻き込まれたんだ。他にできることがあれば協力する。お前自身が探索に加わりたいなら今の仕事の後任はこちらで手配する」


 兄貴の言葉にパシィーとサティが思わず身を固め、不安そうに俺を見つめた。二人はアースに続いて俺も家からいなくなるを想像したのだろう。確かに俺は今すぐにでもアースを探しにいきたい。だが今の状態で俺まで家を出ていったら、残された家族はたぶん耐えられないだろう。


 俺は兄貴の申出を断りアースの捜索に力を尽くして欲しいと懇願した。それが今の俺がアースにできる唯一のことだった。

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