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狼煙!

「この足跡は……」


 山菜採りをしている最中に地面にある足跡を見つけた。形の違う足跡は三つありどれも大人の物だ。村の大人が来ているのかと思ったが違う気がする。俺達は熊除けのためになるべく大声で会話をしながら来ている。村の人なら子供の声を聞いたら確認する筈だ。なのに誰にも会わないのは不自然だ。俺はすぐに辺りを確認したが誰もいない。


「アース、どうしたの?」

「レイラ。今すぐ家に帰ろう」

「何かあったの?」


 俺の言葉にレイラは察したのか険しい顔になった。俺は足跡のことをレイラに話すとレイラも同じように不信感を持った。レイラは帰ることを提案し俺も同意なのでジーク達を呼んだ。ジーク達は山菜採りを中断してすぐに俺達のもとに集まってきた。


「お兄ちゃん、呼んだ?」

「ジーク、クリス、フラン。今日の山菜採りはここまでにしよう」

「えー、なんで」

「まだ、お昼を食べたばかりだよ」

「私、もっと集めた」

「さっき冷たい風が吹いた。雨が降ってきたら大変だから今日は家に戻ろう」


 雨が降る気配なんてない。ジーク達を帰らせるための方便だ。ジーク達は不思議そうな顔をするが俺の言葉を信用し帰る準備を始めた。行きと違い帰りは慎重に行動する必要があるため、レイラ、ジーク、クリス、フランの順で歩かせ、俺が最後尾で皆を監視するようにした。


 山菜採りで山の中まで来ているためここから家まで子供の足で一時間はかかる。何事もなく帰れればいいと願ったがそれは叶わなかった。


「ちょっと道を尋ねたいんだが、いいかな?」


 レイラの前を遮るように一人の男が姿を現した。顔は見たことがないので村人ではない。外套を着て旅人の恰好をしている。父さんよりも若い感じの男で、前世で言うところのチンピラみたいな感じだ。一番先頭を歩いていたレイラは気丈に男に返答した。


「何ですか?」

「実は道に迷っちまった。村へ行く方法を教えてくれねえか?」

「村へ行くならあっちに小屋があるので、そこから村へ行く道がありますよ」

「それは助かった。ありがとうな」

「どういたしまして。私達はこれから帰るので失礼します」


 レイラがそう言って歩き出すが男は道を譲るどころか、レイラ達の前に立ち塞がった。


「退いて下さい」

「実はもう一つ聞きたいことがあったんだ。ルーファスって男のことだ」

「そんな人……」

「お父さんのこと?」


 俺が知らないという前に父さんの名前を聞いてジークが口を滑られてしまった。ジークの言葉を聞いた男は満遍の笑みを浮かべた。


「ヤッホー。村について早速標的に遭遇したぜ! さすが俺様、ついているぜ!」

「はしゃぐな。まだ、そこ子供が標的と決まったわけじゃない」


 目の前の男とは違う別の声が聞こえた。声は俺の後ろから聞こえ振り向いてみると二人の男がいた。二人の男も旅人の恰好をしており、一人は髭を生やした四十代くらいの男。もう一人は細い目をした男だ。


(チンピラに髭親父、細目。雰囲気からして行商人や普通の旅人とは思えないぞ)


 三人は村に時たま訪れる旅人や行商人とは明らかに雰囲気が異なっていた。レイラやジーク達も男達が普通の人ではないと感じたのか怯え始めた。


「なんだ。声をかけただけなのに怯えているぞ」

「子供だから仕方あるまい。標的を確認してさっさとすませるぞ」


 チンピラと髭親父がそう言うと俺達に近づいてきた。レイラ達は恐怖で震えているがしっかりと俺を見ていた。俺はあらかじめ準備していた魔術を発動した。


「皆、顔を伏せろ」


 俺の言葉にレイラ達は素直に従い俺は光の魔術を発動した。光の魔術は攻撃魔術ではなく、光を出すだけの魔術だ。だが、その光量は防犯グッズのフラッシュライト並みだ。油断して直視すると目が痛くなって暫くは目が開けられないはずだ。


「ぐあぁ」

「くっ!」

「レイラ、ジーク、クリス、フラン。走れ」


 俺の言葉に四人は顔を上げて走り始めた。レイラの目の前にいたチンピラはまともに光を見たのか両手で目を押さえて、俺達が横を通り過ぎるが何もできずにいた。


(後ろの二人も同じように光を直視してくれればいいのだ)


 俺はそう思って後ろを確認すると髭親父と細目はチンピラほど苦しんではいない。その様子からすぐに追いかけてくると俺は判断した。レイラ達を逃がすのを優先させるために俺はまた魔術を発動させた。


 今度は水と土の魔術で簡易的な沼を作った。あからさまな沼だと警戒されるので表面には薄く土を被せ普通の地面と見た目は変わらない。これに足を取られれば逃げ切れる確率が上がる。俺は後ろの様子を確認しながらレイラ達の後を追った。




「なかなか、肝が据わった子供だ」

「どうします?」

「気が変わった。あの子供と少し遊んでみよう。その方が面白い」

「依頼はどうされます」

「失敗してもかまわない。もともと大した依頼ではない」

「判りました」

「まずは、アイツを当て馬にしてみよう」




 男達と遭遇した俺達は全力で山を下りた。しかし、子供の体力は長くは続かない。クリスが走れなくなってきたので俺は一旦木の陰に身を隠した。魔術で水を作りジーク達に飲ませた。ジーク達はすっかり怯えてしまい今にも泣きそうだった。


「レイラ、一人を抱えて魔術で走ることはできるか?」


 レイラは俺の意図を察したが首を横に振った。レイラは風の歩みの魔術を覚えていた。まだ、拙いが普通に走るよりも速い。だが、他者を抱えて移動することはまだ無理なようだ。俺も一人を抱えるのがやっとなので皆が助かるには歩いて家に戻るしかない。


「糞ガキ共。出てこい」


 遠くからチンピラの声が響いてきた。その声を聞いてジーク達は更に怯えてしまった。レイラも顔が真っ青で手が震えていた。


(このままみんなで移動しても捕まってしまう。時間を稼ぐしかない)


 俺は意を決して足止めをすることにした。


「レイラ、悪いけどジーク達を連れていってくれ。サティさんが家にいるから事情を話して父さん達を呼んで欲しい」

「アース……」

「ジーク、レイラの後をちゃんとついて行くんだぞ。それとクリスとフランを守ってくれ」

「お兄ちゃん」

「クリス、フラン。レイラの言うことを聞いて、ジークの手助けをしてくれ。兄ちゃんがあいつらを足止めしてくるからその間に家に帰るんだ」

「やだ」

「お兄ちゃんも一緒がいい」


 俺が足止めすると言うとクリスとフランが俺の服を掴むが俺はその手を無理矢理引き剝がした。レイラとジークも内心は反対なのかしれない。俺は四人の頭を撫で合図をしたら真っ直ぐ家に向かうように言い聞かせた。ここで誰かが足止めしないと全員が捕まってしまう。なら、一番戦力が高い俺がそれをするしかない。


 四人は目から涙を流しながら最後は了承してくれた。


「みんな。また会おうね」


 俺はみんなに別れを告げて、チンピラの声のした方向に向かった。




 風の歩みで移動するとすぐにチンピラ達の姿が見えた。やはり俺達との距離はそんなに離れていなかったようだ。幸いなことにチンピラ、髭親父、細目が揃っていた。


「生意気に移動魔術も使えるのか!」


 チンピラが俺を見つけると足下にあった石を投げてきた。身体強化をしているのか石は弾丸のように迫ってきた。俺は父さんから貰った剣を抜き石を弾いた。


「剣術まで扱えるのか。本当に只のガキじゃないようだ」


 チンピラも腰に差してあった剣を抜き構えた。剣を構えた途端にチンピラの雰囲気が変わった。今まではどこか隙があったそれがなくなった。父さんと対峙しているような感覚に陥る。


(いや、父さんの方がもっと隙がない。剣術と魔術を駆使ししてできるだけ足止めしてやる!)


 俺は剣を中段に構えチンピラと対峙した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「……さん、お……ん」


 夕食の準備のために庭でハーブを摘んでいると誰かの声が聞こえた。辺りを見回してみるとジークとクリス様、フラン様が泣きながら走ってきた。その後ろにはレイラさんの姿もあった。


「ジーク、それにクリス様とフラン様。どうしたの?」


 私の元に駆け寄ってきた三人を優しく抱き止め、三人に事情を聞こうとしたが三人は堰を切ったように泣くだけだった。三人の様子がただ事ではないと判断した私はアース様の姿がないことに気が付いた。


「アース様に、お兄ちゃんに何かあったの?」

「山で知らない人に会って、人攫いのようだったからアースが足止めを……」


 泣いているジークの代わりにレイラさんが教えてくれた。彼女も泣いていたのか目元が真っ赤に腫れていた。私は四人を家の中に入れると戸締まりをして緊急用の狼煙を上げた。この狼煙をみればルーファス様か村の青年団が駆けつけてくれる。私は四人を抱きしめながら誰から来るのをまった。


 ドンドンと扉を叩く音が聞こえた。私は扉に近づき合い言葉を言った。


「山の清き水は」

「村の宝。ルーファスだ。開けてくれ」


 ルーファス様が駆けつけてくれた。私は急いで扉の鍵を外して扉を開けた。


「サティ、何があった」

「ルーファス様、人攫いが出たようです。山でアース様達が遭遇したようです」

「子供達は全員無事か?」

「アース様以外はここにいます」


 私がそう言うと子供達はルーファス様に抱きついた。頼れる父親が来たことで子供達は安心したのか涙は止まったようだ。


「みんな無事で何よりだ。レイラちゃんも無事で良かった」

「おじさん、私達のことよりアースを、アースを助けてください。アースは一人で足止めをしています」

「判った。パシィー達もすぐに来ると思うからそれまでここで大人しくていてくれ。サティ、パシィー達が来たら村に避難しろ」

「判りました。ルーファス様は……」

「アースを助けに行く」

「よろしくお願いします」

「任せろ」


 ルーファス様はそう言うとアース様を助けに山に向かった。私達は家の戸締まりをしてパシィー様達が来るのをまった。




 夜、村長の家には大勢の人が集まっていた。人攫いが出たことで村の自警団が村を閉鎖し、村の重役達が村長の家に集まって今後の方針を決めていた。


 私とジーク、クリス様、フラン様は隣のレイラさんの家に避難していた。ルーファス様がアース様を探しに山に向かったあと、パシィー様達もすぐに家に戻ってこられた。私が事情を説明するとすぐに村に避難することになりレイラさんの家に招かれた。


 子供達は見知った大人達がいることに安心したのか今は眠っている。気掛かりなのはアース様の行方だ。どうか無事に保護されることを六柱神に祈った。私が部屋で祈りをしているとパシィー様が部屋に入ってきた。


「サティ。ちょっといいかしら」

「パシィー様、アース様は保護されたのですか?」

「ルーファスが戻ったわ。人攫いの一人を捕まえたみたい」

「それよりもアース様はどうなりま……」


 私は最後までアース様の所在を聞くことはできなかった。パシィー様の沈痛な表情が全てを物語っている。アース様は未だに発見されていないのだ。


「森で戦闘した形跡が見つかったの。そこに男が一人倒れていて、ルーファスが捕縛したのよ。ルーファスはその後に山を探したけどアースを見つけることはできなかったわ。多分、村の周辺にはもういないでしょう」

「あ、ああ……」


 パシィー様の言葉を聞いて私はその場に崩れ落ちてしまった。義理息子であり私の大切な家族が行方不明になってしまったことに私は深く絶望した。そんな私をパシィー様は優しく抱きしめてくれた。


 私とパシィー様は抱き合ったまま涙を流した。アース様がいなくなってしまったことを悲しみ、今はその悲しみを受け入れるしかなかった。

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