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探索!

 八歳になりました。っと言っても六歳の頃から特に変わったことはなかった。剣術、体術、魔術が父さんと母さんに習ったおかげで中級の実力になったくらいだ。中級と言っても正式に認められたのではなく、父さんと母さんの見立てで、正式に認められるには国が認めた施設に行く必要がある。なので暫定中級者だ。


 一緒に魔術を習っているレイラも母さんから中級と認められている。俺と同じ中級だが正直に言えば伸びしろはレイラが大きいと思っている。レイラは感覚的に魔術を覚えるため、あれこれ教えるよりも実際に試して覚えるタイプだ。その吸収力は凄まじく中級の魔術くらいなら数回練習するだけで覚えてしまう天才だ。今は俺の方が一日の長があるけどそのうち追い越されると思っている。


 俺の予想は当たっていると思っていた。だが、あるできごとが切っ掛けでそれを確かめることはできなくなってしまった。




 八歳になって半年が経過したある春の日。俺はレイラとジーク、クリスとフランと家の近くにある山に来ていた。山は危険なため子供だけで立ち入ることは許されていないが俺達は例外だ。俺とレイラは村の子供達とは違い魔術を扱うことができる。ジーク達を守るには十分な力を持っている。それに護衛するジーク達も普通の四歳児ではなかった。


 ジークは剣術と体術の天才だ。木剣を持って剣術を習い始めたのが三歳なのに一年でかなりの腕前になった。剣術を教えていた父さんが唖然とするほどの才能を持っている。体術もかなりの才を持っている。性格も活発的で物応じしない戦士向きの性格だ。


 長女のクリスは魔術師の才能がある。まだ、魔術を発動することはできないがその片鱗は既にあり魔素のことを理解しつつある。簡単な文字も読めるので母さんの血筋が濃い。兄のジークとよく競い合って運動面はジークに負けるが頭脳面ではジークを圧倒している。負けず嫌いなのか誰か勝負して負けると暫く拗ねるのが欠点だ。


 末っ子のフランは他の二人と違って特質した点がない。剣術や魔術は他の二人に劣り、性格ものんびりしている。だが、ジークの剣術の練習相手をしたり、クリスの魔術の話し相手になっていたりと多才な面を持っている。もしかしたら兄妹の中で一番優秀なのはフランなのかもしれない。


 そんな才能を持つ弟妹達の唯一の欠点は兄である俺を尊敬しすぎていることだ。母さんやサティさんが俺のことを持ち上げ、『アース(様)はとっても優秀だから見習いなさい。困ったことがあればお兄ちゃん(さま)を頼りなさい』っと口癖のように言い聞かせ、俺がしてきた所業を話すので弟妹達は俺を尊敬するようになってしまった。


 俺もジーク達が可愛いのでちょっと調子に乗っていろいろと無茶なことをしてしまい、しかもそれが成功しているので弟妹達が俺に対する株が上がっている。今日も俺とレイラが山へ行くことを聞きつけるの弟妹達は一緒に行くこと駄々をこね始めた。


「僕もアース兄ちゃんについて行く!」

「私もついて行く。置いていかないで」

「言うことを聞くから連れて行って」


 ジーク、クリス、フランは俺にしがみ付き離れようとしない。俺は助けを求めるように父さん達を見たが父さん達は苦笑しているだけで助けてくれない。


「ジーク、クリス、フラン。春の山は危険が多いから家で待っていてね」

「山菜を採りにいくなら手伝いは多い方がいいよね」

「お兄ちゃんの好きな山菜を沢山みつけるから」

「お手伝いするぅ」


 弟妹達の必死の懇願に俺は負け、渋々ジーク達を連れて行くこととなった。俺の許可が下りたことでジーク達は早速出かける準備を始めた。そんな弟妹達とのやり取りを見ていたレイラはいたずらっ子の顔をして話し掛けてきた。


「お兄ちゃんは大変だね」

「揶揄うなよ。レイラも後数年したら同じ苦労を味わうぞ」


 揶揄うレイラに俺は忠告した。レイラの母であるアイラさんは春先に出産している。待望の二人目が男の子で村長さんの家ではお祭り騒ぎになっている。レイラも弟ができたことが嬉しくて、今日の山菜採りもアイラさんの母乳がよく出る山菜を探しに行こうとレイラが提案してきたのだ。


「さて、やんちゃな弟妹を連れて行くことになったからよろしく頼む」

「大丈夫。熊や猪が出ても私とアースなら楽勝だよ」

「油断大敵!」

「石橋を叩きすぎるのも問題だよ」

「はぁ、素直だったレイラが懐かしい」

「素直だよ。アースのこと信頼しているから」


 レイラも弟妹達も俺のことを過大評価し過ぎて本当に心配だよ。




「これは似ているけど食べられない山菜だ」

「毒があるの?」

「毒はないけど食べても美味しくない」

「私のは?」

「これは食べられる山菜だけど成長しきってない」

「お兄ちゃん、これは?」

「これは……、毒きのこだよ」


 ジーク達は山に入ると早速山菜探しを行った。俺とレイラのそばから離れないことを条件に辺りの探索している。食べられそうな山菜を幾つか見つけて俺に持ってきて鑑定する。半々の確立で食べられない物を持ってくるが三人は楽しいそうに山菜摘みをしている。


「のどかだ」


 思わず年寄りくさいことを言ってしまう。でも本当にそう思ってしまう。前世では施設で育ったためにこんなふうに家族と過ごすことはなかった。血の繋がった弟妹達と過ごすのがこんなにも楽しいなんて知らなかった。生まれ変わって良かったと心底思える。


「アース、サボってないで山菜を集めてよ!」

「サボっていたんじゃなくて感傷に浸っていたんだよ」

「感傷?」

「何でもない。さて、お昼になる前にもう一踏ん張りしよう」


 俺は感傷に浸るのを止めて山菜採りを再開した。レイラや弟妹達にいい所を見せるためにもう少しだけ兄として頑張ろう。




「今日のお昼は何かなぁ」

「何かぁ」


 クリスとフランは嬉しそうにピクニックバスケットを開けた。バスケットの中にはサティさんお手製のサンドイッチが沢山入っていた。卵を使った卵のサンドイッチ。ハムと野菜のサンドイッチ。魚を使ったサンドイッチ。チーズと干し肉を使ったサンドイッチなどが入っていた。


 俺は水の魔術でお湯を用意して即席のお茶を用意した。季節は春になっているが山はまだ寒い。冷たい飲み物よりも温かい飲み物がいいはずだ。俺は人数分の簡易コップにお湯と茶葉を入れてお茶を用意した。


「相変わらず手際がいいね」

「そうか? これくらいならレイラもできるだろ?」

「できるけど、アースみたいに自然にはできないかな」

「自然に?」

「アースは魔術を使うときの動作が自然なんだよ。他の人が魔術を使うときは敬いや畏怖があるのにアースにはそれがないんだよ」


 魔素を可視化できるレイラからすると普通の人が魔素を扱うときは躊躇いがあるようだ。父さんや母さん達ですら若干の戸惑いがあるのに俺にそれがない。なんとなくその理由は判る。人は得たいのしれない物に敬い畏怖する。だが、前世の記憶を持つ俺にとって生活を便利にする魔術に対してそれらがない。


 地球の現代人の多くは便利な物になれすぎている。電気製品の構造や仕組みが判らなくても家庭で利用する。移動するときは車や電車を使うがその構造や仕組みを知っている人は殆どいない。身近にある電気についても交流と直流の違いを知らない人が多い。


 仕組みや構造が判らなくても便利だから使う。その感覚に慣れている俺は魔術や魔素に敬いや畏怖はない。便利だから使っている程度の感覚だ。その感覚が一般の人とずれている。もっとも現代人が異世界転生した時点で一般人ではないのだ。


「アースどうかした?」

「なんでもないよ。それよりも昼食にしよう。ジーク達がお預けを言われた犬のようだ」

「あははっ、本当だ」


 レイラは面白そうに笑いながらお茶の入ったコップを運んでくれた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「このお茶はなかなかいいわね」

「はい。行商人さんから薦められて買いました」


 私とサティは夫と子供達が出かけたあと、治療院に行くにはまだ早い時間なので家でお茶を飲んでいる。サティが新しく購入したお茶は値段の割りには美味しく、私好みの味だ。夫と子供達がいないから、先ほどまでの喧騒とは無縁なゆっくりとした時間が流れている。


「アースがジーク達の面倒を見てくれて助かるわ」

「レイラさんには悪いことをしました。二人っきりで出かける予定だったに……」

「その割にはお昼は五人分を用意していたじゃない」

「ジーク達はきっとついて行くと駄々をこねると思いまして……」

「確かにその通りだったわ。まあ、アースが同行するから危険はおこらないでしょう」

「私はアース様の実力がよく判らないのですが、野生の動物や魔物に遭遇しても大丈夫なのですか?」

「アースなら野生動物と遭遇したら逆に狩るわね。熊や猪なら一人で倒せる実力はあるわ。実際にルーファスは何度か狩りに連れて行っているし」

「ルーファス様と行くときはアース様は見学だけだった筈では?」

「あの人が大人しく見学させるとは思えないわ。裏ではアースにも狩りを仕込んでいたはずよ。今日ももしかしたら山菜の他に猪とかを狩ってくるかも」

「そんなことをしたらジーク達が真似をしてしまいませんか?」

「うふふ、ジーク、クリス、フランも才能があるから本当に真似しちゃうかもね。そのときは私達できちんと教育しましょ」

「楽しそうですね」

「ええ、日に日に成長して思いもしない発想をする子供達と過ごすのは本当に楽しいわ」


 私はそう言って残りのお茶を飲み干した。そろそろ治療院に行く時間だ。私はサティに見送られながら家を出た。空は雲一つないいい天気だ。この天気なら天候が崩れることはないだろう。私は子供達が元気に遊んでいる姿を思い浮かべながら村へ向かった。

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