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お祝い!

 家の庭に露天風呂を作ってから二年の月日が経った。その間に大きな変化があったとすれば村に大浴場ができた。原因は家に作ったお風呂が好評過ぎたからだ。


 魔術を習いにきたレイラがお風呂に浸かり、家に帰ったときに両親に自慢したのが切っ掛けだ。翌日にレイラの母親であるアイラさんが我が家を訪れとんでもないことを提案した。


 村に大浴場を作り湯屋を営んで欲しいと提案してきた。もちろん子供の俺に経営させるつもりはない。魔術でお湯を沸かせる人力ボイラーとして働いて欲しいようだ。


 この提案にサーシャさんは賛成して、父さんは静観。母さんは難色を示した。母さんが難色を示したのは俺の魔力がそこまで多くないからだ。お湯を毎日沸かし限界まで魔力を使うことを良いと思っていない。


 その理由は『魔力欠乏症』の恐れがあるからだ。『魔力欠乏症』は魔力を限界まで使い、それが日常的になるとその状態が正常だと身体が勘違いをして魔力の回復がしにくくなる症状だ。


 冒険者や軍に所属する魔術師が有事の際にこの症例になることがある。長期の遺跡探索や戦争などで常に魔力を限界まで使い続けてしまうからだ。


 アイラさんの計画では大浴場は男湯と女湯に分けて、浴槽はそれぞれ二十人が入れる大きさを予定している。それだけの大きさでしかも、お湯は毎日取り替える必要がある。皆が使用する場所なので、病気の感染を防ぐために水を取り替え掃除を行い常に清潔にする必要がある。


 水に関しては人力で井戸水をくみ上げて張ることができる。肝心なのは水を沸かすことだ。水のままなら行水でことが足りる。だが、俺が湯を沸かすだけの魔力がない。


 無理をすれば二つのうち一つは湧かすことができるがそれを毎日行うことはできない。『魔力欠乏症』を防ぐとなると三日以上の日数を空ける必要がある。


 母さんがそれらのことを説明するとアイラさんとサティさんは心底残念がり大浴場の計画は一旦保留となった。ちなみに母さんは緊急の怪我人が出た場合の治療を行うため、魔力は極力温存している。母さんが代行することはできない。


 結局、俺が成長するまではこの話は見送られることとなった。アイラさんとサティさんは心底残念がていたが、思わぬところでこの問題は解決した。




 アイラさんの大衆浴場の話から一週間後のある日、レイラが面白い場所を発見した。俺の家から少し歩いたところに小高い丘があり、丘には一本の老木が立っている。レイラはこの場所が他とは違うと言うのだ。


 話を良く聞いてみるとこの場所は魔素が多く集まっているようだ。後で母さんに聞いた話によるとこれは魔素地点(マナスポット)と呼ばれる特異地点らしい。


 魔素地点(マナスポット)には魔素が多く集まり、ここにいるだけで通常よりも早く魔力が回復する効果がある。話の真偽を確かめるために俺は限界まで魔力を使い魔力の回復速度を測ってみた。


「これは凄いな」


 思わず声が出てしまうほど魔力の回復速度が速かった。魔力を限界まで使い、全快まで回復時間は二時間程度。通常の数十倍の早さで回復した。


 このことを母さんに伝え、母さんも試してみると同じように魔力の回復が早かった。


「まさかここが魔素地点マナスポットだったなんて……」


 家の近くに魔素地点マナスポットがあることに母さんは驚きながらアイラさんの浴場計画を再度検討することになった。魔力の回復が早いなら俺が魔力欠乏症になるリスクは大幅に下がる。安全母さんの許可が下りたことで村に浴場ができることになった。


 なお、最初に予定していた通りボイラーの役目は俺が行うが、一人で大きな浴槽を二つも担当するのはさすがに厳しい。そこでレイラに白羽の矢が立った。


 レイラはまだ魔術を扱うことはできないが、母さんの見立てではもう直ぐ扱えるようになる。お湯を沸かす魔術にもレイラは強い関心もあるので魔術が扱えるようになったら俺がマンツーマンで教え、レイラも担当に加えることになった。


 村に浴場ができるまで俺とレイラは魔素地点マナスポットで魔術の練習に励み、建物ができる頃には俺達の準備も整った。村にできた浴場は好評で村の多くの人が利用するようになった。金額も安く村の誰もが利用できる村の娯楽施設となった。




「六歳の誕生日おめでとう!」


 父さんの音頭で俺の誕生日が祝われた。今日で俺は六歳となり、母さんとサティさんも満遍の笑顔で祝ってくれた。弟妹のジーク達も小さな手を叩いて祝ってくれた。


「お父さん、お母さん、サティさん、ジーク、クリス、フラン。ありがとう!」


 俺は家族に俺を言いながら席に座った。俺の目の前には普段は食べることができないご馳走が並んでいた。


(子豚の丸焼きなんて前世でも食べたことがないぞ)


 豚の丸焼きの他にサティが得意なシチュー。母さんのお手製のミートパイもある。誕生日を祝われるのは毎年のことだが今年の誕生日はいつもと違った。


 五歳までの誕生日は俺の好きな料理を一品だけ作ってくれるだけだった。それなのに今年は豪華な夕食に加え、父さん達からの誕生日プレゼントもあった。


「父さんからのプレゼントは剣だ。子供用で刃先は短いが普通の剣と同じで刃は研いである。明日からはこの剣の使い方を教えるからな!」

「お母さんからは魔術書よ。アースは四大属性全て使えるからこの魔術書はきっと役にたつわ」

「私からは外套です。アース様が成長されても使えるよう丈が調整できるようにしてあります」

「ありがとう。大切に使うよ。でも、どうして今年はプレゼントをくれるの?」


 俺が疑問に思ったことを聞くと母さんが教えてくれた。この世界では六に関わる数字を大切にしている。神様が六柱いることからその考え方が根付き、六の倍数である誕生日のときは盛大に祝うのが通例となっていた。


 更にそのときの誕生日にもきちんと意味があり、六歳の誕生日は今日まで成長できたことを神様に感謝し、これからも元気に成長できるように願う。十二歳の誕生日は大人になるための準備に入ることを神様に報告し、独り立ちできるよう知識を学んでいく。十八歳の誕生日で成人と見なされる。親の庇護がなくなり、これからの自分の力で生きいていく。


 二十四歳の誕生日は自分の生き方を定めそれに向かい歩み始める。三十歳の誕生日で成熟したとみなされ、熟練者となる。三十六歳の誕生日からは人生の折り返し地点とされ、今後の人生は後進を育てることに重きを置くされている。

 

 これがこの世界の人の成長と目標とされている。ちなみに父さん達の節目の誕生日は子供(おれ)には内緒で祝っていたと聞かされた。内緒にしていた理由は教えて貰えなかった。


 ちなみにこの六と言う数は他にも使われている。


 例えば剣術や魔術の等級も六段階に分類され、初級(しょきゅう)中級(ちゅうきゅう)上級(じょうきゅう)匠級(しょうきゅう)王級(おうきゅう)神級(しんきゅう)とある。


 父さんは剣術が匠級で体術が上級の資格を持っていて、母さんはなんと魔術師として王級の資格を持っている。王級の魔術師は人族では百人にも満たないので母さんが如何に優秀なのか改めて知った。


 俺は剣術や体術、魔術を教わっていたが、それはまだ見習い期間とされ正式な等級をまだ貰えていない。そもそも等級の資格が貰えるのは六歳からで、資格を貰うには学校や国の機関で試験を受ける必要があるのだ。


「アースが十二歳になったら大きな街へ行きましょう。そこでアースの実力を皆にみて貰うの! きっと街は大騒ぎになるわよ」


 母さんが嬉しそうに語るが「その頃には神童でなくなりますのであまり期待しないで下さい!」とはさすがに言えないので、俺は目の前にあるご馳走に舌鼓を打つしかなかった。




「これ、美味しい!」


 行商人から買った菓子が思いのほか美味しかったらしくレイラはご満悦だ。俺達は村に来た行商人からからお菓子や雑貨を買って魔素地点マナスポットで休んでいる。


 俺の誕生日が過ぎ、もうそろそろ冬が始まる。冬が訪れる前に収穫祭があり、それに合わせて行商人達が村に訪れていた。


 行商人の商品は村では手に入らないお菓子や食べ物などの食料から玩具や雑貨が手に入る。俺は珍しい本や細工品などを買い、レイラは玩具やお菓子を買った。


「明日もこれを買おう!」

「無駄遣いするとアイラさんに怒られるぞ」

「大丈夫。一日銅貨十枚までなら怒られない」


 アイラは胸を張って宣言した。最近は貨幣の使い方を覚えて自分で買物ができるのが楽しいらしい。俺達のお小遣いは子供にしては多い。浴場で働いているため一定の収入がある。収入の殆どは母さん達が管理しているが、少額のお小遣いは貰えていた。


「明日も行こうね」


 レイラはハチミツの菓子を食べながら嬉しそうに笑った。俺はレイラの提案に頷き翌日も行商人の店を訪れた。


「今日も来てくれたんだ。お小遣いは大丈夫かな?」

「大丈夫。昨日と同じハチミツのお菓子をください」

「はいよ。そっちの男の子も同じのでいいのかい?」


 行商人はそう言うが、他にも美味しい菓子があるのか何やら別の箱を取り出した。箱を開けるとそこには前世で見たお菓子があった。


金平糖こんぺいとう?」

「金平糖? 違うよこの菓子はそんな名前じゃないが、この菓子のことを知っているのかい?」

「砂糖を使ったお菓子ですよね。確か砂糖を回転させて作るはずです」

「坊主は博識だな。その通りだ。一粒食べてみるかい」


 行商人は金平糖らしき物を俺とレイラにくれた。せっかくの好意なので食べてみると前世の食べた金平糖と同じ物だった。


「甘くて美味しいです。一袋いくらですか?」

「大銅貨二枚。と言いたいが一枚でいいぞ」

「判りました」


 俺は財布から大銅貨一枚を取り出して行商人に渡し、金平糖モドキを購入した。


(母さん達のお土産にしよう)


「坊主。つかぬことを聞くがお前の名前はアースか?」

「本名は違いますが愛称でアースと呼ばれています」

「やっぱりそうか。お前さんがオセロを考案したんだろう。一度会ってお礼を言おうと思っていたんだ」

「お礼?」

「この村で仕入れたオセロが意外と好評でいい値段で取引できたんだ。今ではいろいろな場所で売られている。権利を独占していれば大儲けできたんだが、まさか子供が考えた遊びがこんなに流行るとは思わなかった」


 商魂たくましい行商人はそう言いながら金平糖の袋をもう一つ渡してきた。きっと商人なりのお礼なのだと思い素直に受け取った。それにしてもオセロがそんなにも流行っているとは思わなかった。


 俺は商人からこの世界でのボードゲームについて詳しく聞いた。商人の話によるとボードゲームは幾つか存在するが将棋やチェスのような物が主流で他はあまり数がないどうだ。トランプをみたいなカードゲームもないらしい。


(いつか、大きな街に連れて行ってもらったらその辺りのことも調べてみよう。もしかしたらオセロみたいに流行になるかもしれない)


 俺は街に行くことが少しだけ楽しみになった。魔術という摩訶不思議な力がある世界なのだからきっと地球では見たことの無い物が沢山あるのだと俺は心を躍らせた。そして、先ほどから金平糖の袋を凝視しているレイラに一つだけ金平糖の袋を渡して今日は家に戻った。


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