幼馴染み!
家での教育方針が変わって辛いです。
今までは放任していたのに父さんと母さんの教育が厳しくなった。覚える内容が難しいとか増えたとかそう言うのではなく、体罰みたいな痛みを伴いながら教わることが多くなった。
例えば魔術の授業で母さんが術の構造や手本を見せてくれる。判りやすいので嬉しいのだがそのあとに魔術を身体に撃ち込まれる。怪我をしても母さんが治してくれるので後遺症はないが、痛いことには変わりない。
母さん曰く、扱う魔術の危険性は身をもって知る必要がある。痛みと苦しみを覚え、無闇に魔術を人や動物に使ってはいけないと言われた。確かに納得はできるので敢えて反抗することはしなかったが、父さんとの剣術の稽古でもおなじことされた。
四歳になってから父さんが本格的に剣術と体術を教えてくれるようになった。木剣の扱い方や身体の動かし方を細かく教えてくれる。最初は素振りなどの型の練習から行い数日後には組み手を行うようになった。組み手は剣術と体術を行うのだがその稽古も痛みが伴う。
木剣で手や足を叩かれるのはまだいい方で、頭や体に当たったときはかなり辛い。一番酷かったのは鳩尾に突きが当たったときだ。痛みで涙や鼻水が止まらず、胃の中身を全て吐き出した。あれは二度と味わいたくない。
何度か魔術や剣術、体術の稽古を止めようかと思うことはあった。しかし、魔術を使うのは好きだし、魔術を扱うには身体を鍛える必要がある。それに父さんと一緒にする剣術や体術の稽古も嫌じゃない。結局、稽古を止めることはしなかった。
そうして冬の間は稽古に励むことで暇になることはなかった。おかげで春になる前に『風の歩み』を扱えるようになった。母さんほど精密な制御はまだできないが、前みたいに暴走することはなくなった。村に行きたいときは父さんか母さんに同行することが条件だが行動範囲は広くなった。
「アース、もう一回。もう一回やろう!」
冬が終わり春になったある日。俺はレイラとオセロをしていた。秋に考案した積み木とオセロは父さんが村の職人達に依頼をすると瞬く間に村中の話題になった。冬の間は家にいることが多くなるのでオセロは家族みんなで遊べると好評だった。台座は作りが簡単で、石は木片などでも代用ができるためすぐに量産することができた。
あまりの好評で冬に村へ行ったときは村の人達から感謝された。特に台座や石を加工している職人達からは冬場の仕事を提供してくれたと多いに感謝された。近々村の名産品として出荷するようだ。
「もう、二十回近くしているけどまだやるの?」
「だって、私はまだ五回しか勝ってないもん」
レイラはそう言うと盤上の石を片付けて石を並べ始めた。俺が手加減しているとはいえレイラも子供ながらかなりの腕前だ。冬の間家族で毎日遊んでいた成果だ。
「じゃあ、負けた私が先行ね」
レイラはそう言って自分の石を盤上に置いた。俺も盤上に石を置き応戦した。始めてから数手は順調に石を置くことができたがレイラの手が妙手だ。これまでもそうだったがレイラの物覚えはいい。対戦するたびに強くなっている何度か手が止まり思考することが多くなってきている。
(始めてまだ数か月なのにこんなにも成長が早いとは。前世の記憶を持つ俺と違ってレイラは本当の天才なのかもしれない)
俺がそんなことを考えながらレイラとの対戦を楽しんだ。
「また、負けた」
「三十戦で僕が二十勝、レイラが十勝だね。前よりも成績がいいね」
「今日こそは勝ってアースのお家に行きたかったのに……」
レイラは前々からうちに遊びに来たがっていた。うちは村から離れているため子供がおいそれと行くことができない。大人の同伴が必要になるのだが、大人達の手がなかなか空かない。駄々をこねられると大変なのでレイラの母親は娘の願いを聞くためにある条件を出した。それがオセロで俺に勝つことだった。オセロの総合結果で勝つことができれば連れて行く約束しているとこの前聞いた。
(往復で二時間以上もかかるから簡単に行き来はできないよなぁ)
一般の人は母さんのように魔術で移動することはできない。魔力で身体強化を行って移動することはできるが移動は速度はそんなに速くない。仮に村の人が身体強化して、村からうちまでの道のりを移動しようとすると二十分以上もかかってしまう。しかも体力をかなり消費するので総合的に見ると歩いた方がいい。
ちなみに父さんは魔術が使えないが元冒険者だけあって基礎の身体能力だけでなく身体強化の技術もピカイチだ。家から村までの道のりを母さんよりも早く行き来することができる。俺が村へ行きたいときは父さんに村まで付き添って貰っている。父さんにしてみれば少し寄り道する程度だと言っていた。
「アースはずるい。村に来たり、家に帰ったり自由にできる」
「父さんか母さんの同伴が必要だけど」
「でも、ものすごく速く走れるでしょう! 私も速く走りたい」
「速く走るなら村で練習すればいいじゃん」
「そうなの? 速く走るにはアースのお家に行く必要があるってお母さんが言ってた」
レイラの話を詳しく聞くとレイラは魔術を習得して速く走りたいようだ。しかし、魔術を使うにはまずは魔素を感知する必要がある。子供は魔素を感じることはできるが、それが魔素だと判断するのが難しい。目に見えない物を理解するのは大人でもかなり難しいので幼いレイラに言っても判らないだろう。
「ねえ、レイラ。僕の右手と左手の違いって判る?」
俺は試しに魔素を集めた左手と何もしていない右手をレイラの前に出した。魔素をレイラが認識することができれば少しだで魔術について教えることができるかもしれない。しかし、四歳児に魔素を感じて理解することは難しいと内心は思っていた。
「アースの手は両方とも何もないよ」
「そうだよ。でも、何か感じない?」
「うーん。何も感じないよ」
「そっか……」
「でも、左手はキラキラがいっぱい集まっていしているね」
「!?」
レイラは何げなく呟くが内容はとんでもないことだった。レイラは左手がキラキラして見えるといった。俺の左手には魔素を集めているのでレイラの言葉が本当なら魔素を可視化できるている。普通の人間にそんなことはできない。
「レイラ。そのキラキラは他にもあるの?」
「あるよ。アースの左手みたいに集まってないけど、いろいろな所にいるよ。あ、そう言えばアースのお母さんもキラキラしているときがあるね!」
間違いない。レイラは魔素を可視化している。これが本当のことならとんでもない才能だ。俺はレイラが本当に魔素を可視化することができているのか確かめることにした。
「ねえ、レイラ少し試して欲しいことがあるのだけれど……」
「アース、また遊ぼうね」
村の入り口でレイラに見送られながら俺は迎えに来た母さんと家に帰った。今日は父さんの帰りが早かったようで父さんとサティさんがジーク達の面倒を見ている。そのためか魔術は使わず歩いて帰ることになった。
母さんと手を繋いで今日の出来事を話した。レイラとオセロで遊んだことや昼食用に持たせて貰ったお弁当の感想など最初はたわいのない話をした。母さんは嬉しそうに俺の話を聞いてくれる。楽しい話をいつまでも続けたいけれどレイラのことを黙っておくわけにはいかない。俺は母さんにレイラのことを話した。
「お母さん、今日、レイラと遊んで判ったんだけど、レイラは魔素を観ることができるよ」
「えっ! アース、それは本当なの!」
「本当だよ。いろいろと試したから間違いない」
「それは凄いわね。そのことはレイラちゃんのお母さんに伝えた?」
「まだ。大事なことだからお母さんに伝えた方がいいと思った」
「そうね。教えてくれてありがとう」
魔素を可視化できるのは精族と魔族の限られた一部の種族しかできない。レイラの曾祖父が精族と聞いたことがあるのでその血が色濃く出たのだと思う。
「レイラきっと凄い魔術師になる。僕なんかよりもずっと」
「アースは……、レイラちゃんがアースよりも凄い魔術師になったらどうする?」
レイラが凄い魔術師になったら。そんなのは決まっている。
「一緒に冒険に行きたいかな。村を出ていろいろな場所に行きたい。父さんや母さんが冒険したところに行ってみたい!」
俺は密かに夢見ていたことを正直に母さんに伝えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「レイラちゃんが魔素を可視化できるとは、アースよりも才能があるな」
寝る前の剣の手入れをしながら夕食中にアースから聞いたことを思い出していた。
魔素の可視化。精族や魔族から稀にその才能を持つ子供が産まれる。歴史に名を刻む偉人者の中に大魔導師と呼ばれる者がいる。大魔導師も魔素を可視化できたと記録に残っている。
大魔導師は国や所属に拘らず世界中を旅していた。決して人に仕えることをしなかった彼を自国に取り入れようとした大国があった。金や地位などの言うに及ばず大魔導師ための法律を作るとまで提案したが大魔導師は首を縦に振ることはなかった。
言うことを聞かない大魔導師に大国はしびれを切らし一万の軍勢で大魔導師を捕らえようとした。たった一人に一万の軍勢で捕らえようとするのは愚行だと誰しもが思った。しかし、結果は違った。一万の軍勢は返り討ちにあい敗走した。たった一人の魔術師に大敗したことにより、国の威信は地に落ちその国は滅びた。
大魔導師は魔素を可視化する才能を持っているため、常人では扱うことができない魔術を使用して軍を撃退したと言われている。そんな途方もない才能を持っている子供を放っておくわけにはいかない。外部の漏れてしまうとレイラが誘拐される可能性が出てくる。それに今のレイラは危険だ。
「明日は村長達と話す必要があるな」
今のレイラは管理されていない武器庫と同じだ。魔素を可視化できるなら扱うこともできる筈だ。幼いレイラが自覚せずに魔術を使用してしまう可能性がある。使用できる魔術の規模は現状では予想することができない。レイラ自身がその才能を理解して使えるようにならないと大惨事が起きてしまう可能性もあった。
「まったく才能が豊かな子供が多くて困るなぁ」
自分の息子のアースもそうだが他の家の子まで才能が豊かだと手に余ってしまう。それに産まれたばかりのジーク達もどんな才能があるか判らない。特にジークは注意する必要がある。
俺の家系は希に褐色の肌を持つ者が産まれる。褐色の肌の持ち主は秀でた才能を有していることが多い。俺の祖父であり、サティの父である人も褐色の肌を持ち非常に優秀な人だった。文武に優れ特に頭の回転が人よりも速かった。当主だった頃は経営に優れて領地を大いに発展させた。
フランとクリスもパシィーの血が色濃く出ているからきっと優秀な子供に育つだろう。
「凡人の俺にしたら羨ましいことだが、父親として息子達や娘達に尊敬される父親であらねばならない」
俺はいつもよりも念入りに剣の手入れを行い、明日は村長の家に行くことを決めた。
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