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第9話 防衛都市ロクムスへ!

「ロクムスへの陸路はアースドレイクを使うんですね」


「馬よりも早いしカッコイイからな。昨日稼いだ金で一匹買ったんだ」


 アカツキは荷台に物資をつぎ込みながらエルフィへの質問に答える。エルフィは馬よりも一回り大きなドラゴンの額を撫でている。濡れた様な漆黒の鱗に覆われた体は逞しいが、凶暴そうな見た目に反して性格は人懐っこい。翼は退化しているため飛ぶ事は叶わないが、脚の筋肉は異常に発達している。蹴りなどくらおうものなら、骨という骨を粉々にされるに違いない。


 アースドラゴンの値段は馬の三倍はする。安い買い物ではない事など重々承知しているアカツキだが、馬の隣の厩舎で偶然通りがかり、何故か懐かれてしまったのだからしょうがない。おかげでダンジョンで稼いだ金の大半を使い果たしてしまった。


「この子に名前は付けましたか?」


 羽根を毟った鳥を一羽丸々餌付けしているエルフィにも、アースドレイクは高めの声を上げつつ頭を摺り寄せていた。人徳の成せる業か、すでにエルフィにも懐き始めている。


「カラアゲにした。由来は俺の好物だよ」


「おや、アカツキさんの故郷ですか?」


「そうそう、極東の島国カザクラ島。俺のこの黒い髪もそこの出の特徴だ」


「確かに黒髪は珍しいですよね。綺麗な色でとても羨ましいです」


 エルフィの言う通り、この地域では黒髪は珍しい。明るい髪色が多いとは言え、エルフィのゴールドピンクもなかなか珍しい色だ。


 時刻は正午になろうとしていた。蒼穹には太陽が燦々と輝き、大地を干上がらせようと言わんばかりに熱を振りまいている。アカツキは照り付ける日差しを疎ましく思いながら、黒いアースドレイクことカラアゲに手綱を取り付ける。


「バレイシアのやつ遅いな」


 待ち合わせに指定した時間はとうに過ぎている。すでに出発の準備も整っているし、アカツキも暇を持て余しつつあった。率直に言って、カラアゲを撫でるくらいしかやる事がない。


 待ち合わせに指定した場所も正しいはずだ。街の西口で二人と一匹が待機している様はなかなかにシュールで、通り過ぎ去っていく通行人と良く目が合う。


「確かに少し遅いですね。ちょっと心配です」


 二人して荷台に並んで座っていると、ようやくそれらしい人影が現れた。銀髪褐色に角とちらちら見え隠れする龍の尾。両肩には木樽を担ぎ、背にはお馴染みの大戦斧を装備している。シルエットが特徴的過ぎる辺り、バレイシア本人で間違いない。


「お待たせ。悪いわね、思ったよりコレが持ちづらくて手間取ったわ。積むの手伝ってちょうだい?」


 バレイシアは言いながら片方の木樽を荷台へ降ろそうとする。エルフィがそれを受け取り、良さそうなスペースへと置くと、木製の荷台がぎしりと悲鳴に似た音を立てた。


「何だそれ」


 怪訝な瞳で積み込まれる荷物を睨むアカツキに、バレイシアは嬉しそうに木樽を叩きながら口を開く。


「何ってお酒よ、お酒。それぞれ葡萄酒と蜂蜜酒。これだけあれば旅路も楽しくなるわね」


 もう一つ、バレイシアが酒樽をどかんと荷台に置いた。バレイシアといえば、彼女は財宝と酒に目がないらしい。それもとんでもない酒豪で、昨日も財力に任せて酒場の在庫事情に大打撃を与えていた。


「よーし、それじゃあ行くぞ! 頼むぜカラアゲ」


 全員が乗り込んだ事を確認したアカツキは、カラアゲの手綱を引いた。知能の高いアースドレイクは人の意思を組んでくれるため操りやすい。カラアゲは雄叫びをあげると荷台を引いて走りだす。


「さぁて、アースドレイクの足ならロクムスまで二日ってとこかな」


「アカツキさんの作った武器、売れると良いですね! 売る時はお手伝いしますから、頼りにしてください!」


 紹介状ももらっているし、武器屋の店主のお墨付きまで頂いている。商売に関してはあまり心配はないだろう。


「ねぇ、アナタ達はロクムスに行った事ある?」


 流れゆく景色を眺めていたバレイシアが頬杖のまま話題を振ってきた。


「ないぞー」


「私もです!」


 二人揃って同じ返答をすると、バレイシアは悪戯な笑みを浮かべた。この数日でバレイシアについてアカツキが理解した事が幾つかある。まず、自由奔放な性格で腕が立つ事。負けず嫌いで大酒豪な事。そして、この笑い方をする時はろくな目に合わないという事だ。


「武器を売るって言うからてっきりロクムスに行った事あると思ってたわ。じゃあ、何でロクムスが防衛都市の異名を冠しているか知ってる?」


「いや? しかし、防衛都市とはずいぶん物騒な異名だな」


「ふふ、物騒な街なのよ。きっとアナタの用意した武器は飛ぶ様に売れる事間違いなしね! 何て言ったって、あの街はダンジョンから溢れ出る魔物を食い止めるための前線基地だもの」


 バレイシアの言葉にアカツキは表情を引き攣らせた。


「ダンジョンから魔物が溢れ出るってマジか?」


「えぇ、マジよ。ロクムスは巨大ダンジョンの上に築かれた街なの。それはもう、わらわらと魔物が出てくるから退屈しなくて済むわよ。あー、でも、治安が悪いのが玉に瑕ねぇ」


「そ、そうか……。とんでもない場所だな」


「楽しみね!」


「新しい街、楽しみです!」


 バレイシアに続いてエルフィもノリノリだ。


 聞いただけでも危ない街だが、武器の需要はかなり期待できそうだ。飛ぶ様に売れると謳ったバレイシアの言葉も現実となる可能性がある。防具屋の事もあるので収益はかなり見込めそうだ。


 港町を出発したアカツキ達は草原を抜け、山岳地帯へと踏み入れた。山脈がそのまま国境となっており、ひとたびそのラインを越えれば異国の土地だ。初めて訪れる国の、最初の街だ。街並みを想像するだけでも、自然とアカツキの期待は膨らんだ。


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