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第5話 海岸の洞窟に隠された秘密


 澄んだ青空にわたあめの様な分厚く真っ白な雲が浮かんでいる。左を見れば柔らかな緑の芽吹く草原が、右を見れば崖の下にエメラルドグリーンの美しい海が水平線の限り広がっている。


 心地の良い暖かな風が吹く昼下がり。塩の香りを楽しみながらアカツキ達三人は街を出て、海岸線を歩いていた。


 アカツキの右隣には龍人族の少女、バレイシアが並んで歩いている。布地の少ない民族衣装めいた衣を纏った彼女が、四肢を動かせばはためく布地の奥がちらちらと見える。エルフィとは違うエキゾチックな魅力にアカツキは目のやり場に困っていた。


「それにしても、そのパーティーリーダーももったいないことするわねぇ。武器の新調や整備をしてくれるメンバーなんて便利じゃない。口を開けば回復しろとバカみたいに同じ事を言う奴より二千倍はマシよ」


「そうです! アカツキさんは凄いんですよ、この剣だって作ってくれたんです!」


 左隣を歩いていたエルフィは何故かバレイシアに張り合うよにして、腰に下げていた鞘からミスリルソードを抜き放ち掲げて見せた。バレイシアは磨き上げられたその刀身を見て、へぇと感嘆の声を漏らした。


「だが、俺が戦闘面で足手まといだったのも事実だったよ。アイツらこの国にある西の迷宮とやらを攻略したらしい。俺がいたら厳しかったかもな。強い奴と入れ替えて正解だ」


「ふぅん。まぁ、安心しなさい。ワタシは誇り高きヴィレア族の戦士よ。それも〝サンブレイカー〟と呼ばれる誉ある戦士なんだから」


「うん……? サンブレイカーってなんだ?」


「コレよコレ。ヴィレアの戦士の中でも、最強の戦士だけに与えられる称号! この太陽の印がそうよ!」


 そう言ってバレイシアは右腕のタトゥーを見せてくる。眩しい褐色の肌に刻まれた太陽をモチーフとした模様だ。どうやらあのタトゥーは選ばれし者にしか刻む事を許されない文様らしい。



「へぇ、じゃあアルキデスの十二騎士とどっちが強いんだ?」


 ふとした疑問を零したアカツキだが、それを聞いて両隣の二人が整った眉をピクリと動かした。


「面白い事言うわね、アカツキ。このワタシに決まっているじゃない。この大戦斧が見える? ほっそい剣なんかじゃワタシとは撃ち合えないわよ」


 挑発的なバレイシアの物言いに、今度はエルフィが吠えた。


「十二騎士です! 教皇様に認められた私達の剣技を甘く見てもらっては困ります! 剛剣の使い手であろうと、私は怯みません。民を、教皇様のための守護の剣はそう易々とは折れませんよ!」


 ムキになるエルフィの売り言葉に買い言葉。好戦的な笑みを浮かべるバレイシアはついに背中の大戦斧の柄に手をかけた。


「おい、待て二人とも。こんなところでドンパチはやめてくれ。ほら海岸の洞窟っぽいのが見えてきたぞ。なぁバレイシア、アレであってるのか?」


 アカツキの仲裁によって二人の興味が逸れた。アカツキの指さす先には、ぽっかりと口を開けた洞窟の入り口があった。薄暗くて先は見えないが、どうやら先は下へと続いているようだ。


「そうそう、アレが海岸の洞窟よ」


 冒険者ギルドにてバレイシアに今後のプランを伝えたアカツキ。彼女はアカツキ達と行動を共にする旨と共に、バレイシア自身の持っていた極秘の情報を明かしてきた。その情報とは、海岸の洞窟には隠されたダンジョンへの入り口があるというものだった。


 もしも、未踏破のダンジョンが発見されたとあれば、一大事である。全く情報がないダンジョンは危険度も未知数だが、同じように眠っている宝物も不明。中にはレリックアイテムが存在する可能性まである。


 未探索のダンジョンなど、冒険者が最も目をぎらつかせて探し回る情報の一つだ。バレイシアがどうやってその情報を掴んだのかは不明だが、本当ならとんでもない儲け話しだった。アカツキとしても転がってきたチャンスを見逃す手はない。


「しかし、何でこんな街の近くにある隠しダンジョンの情報をバレイシアだけが知ってたんだ?」


 素朴な疑問を投げかけるアカツキに、バレイシアは懐から取り出したアメを口に放り込みながらニヤリと笑う。


「西のダンジョンに手がかりがあったんだけど、他の奴に知られたら面白くないから石板を壊してきたわ。あの隠し部屋の一番乗りはワタシみたいだったから、他の誰もこの情報は掴んでないわ」


「ダンジョンっての探索は冒険者パーティーにしか許されてないだろ? だから俺達は急ごしらえのパーティーを組んだんだ」


 ダンジョン攻略には当然危険が伴う。それは冒険者パーティーにか許されていない。一人ではダンジョンへの侵入すら叶わないはずだ。


「あぁ、それね。……あー、ダンジョン内でパーティーリーダーと喧嘩して、一人行動してたからよ」


「お前も大概むちゃくちゃな奴だ」


 アカツキは半ば呆れつつ洞窟の入り口に手をかけた。洞窟探索のために用意してきたランタンに灯りをつけ、薄闇を照らす。


 洞窟内部は完全に天然の洞窟だ。特に用もなければこの場所を訪れる事はないはずで、剥き出しの岩肌は乱雑で歩きにくい。


「ワタシね、トレジャーハントって大好きなの。実益もロマンも兼ね備えた良い趣味だと思わない?」


 洞窟内にバレイシアの声が反響する。洞窟億へと流れる空気の流れを背で感じながら、アカツキは奥へと歩みを進める。


「まぁ、確かに」


 それなりに坂道を下ると三人は大空洞に出た。


「それじゃあ、ワタシは調べものをしてるから、何かあったら呼びなさい。こっちも発見があれば呼ぶわ」


 アカツキとエルフィは目当ての鉄鉱石の採掘。バレイシアは隠されたダンジョンへの入り口を探しに、それぞれ分かれて行動を開始した。


 ギルドで手に入れた鉄鉱石の情報には、この洞窟内の地図が付属していた。アカツキ達は迷う事なく印のつけられた場所へ到着した。ランプの炎で壁面を照らしてみれば、赤褐色の岩盤に漆黒の筋が通っている部分を発見できた。


「これが鉄鉱石の鉱脈だな。よーし、エルフィ、俺達はこいつを掘るぞ!」


 道具袋からツルハシを取り出したところで、エルフィが片手でアカツキを制した。何事かとエルフィにランプの光を向ける。


「アカツキさん、私に任せてください!」


 気でも狂ったのかエルフィはミスリルソードを抜き放ち、肩のラインで剣を構える。そして、腰を低く落として深く息を吐いた。


「鉄を斬れない者は十二騎士にはなれません。私の剣技は少し信頼に欠けている様子なので、ここで取り戻してみせます。では、行きます……! やぁっ──」


 鋭く踏み込んだエルフィの手が閃く。銀の軌跡は暗闇と共に、眼前に立ちはだかる岩盤をまるでバターの様に切り裂いた。その光景にアカツキは絶句する。


 崩れ落ちる岩塊をさらに一閃。とても剣でやったとは思えない広範囲がバラバラの石ころに成り下がった。


「ふふん、どうですか! この程度であれば余裕です! どうですか、えっへん」


「おぉ! 凄ぇ! これなら後は不要なとこを砕いて拾うだけだ」


 アカツキはエルフィの剣技を絶賛しつつ、買ったツルハシを使える事に安堵した。


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