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第2話 貧乏剣聖エルフィ


「わわ、感謝です……! 貴方はとても良い人ですね!」


 武器屋からフードの客を連れ出し、街のメインストリートに出た瞬間、後ろをついてきたフードの客は笑顔を咲かせながら礼を言った。


「良いんだ、ただの気まぐれだし。武器で困ってるヤツを放っておくのは性分じゃなくてさ」


「理由はともあれ、とても助かります! 私はエルフィ、アルキデス教国の十二騎士の一人……、でした。はい」


 途中で突然歯切れが悪くなる。フードの客、エルフィは名乗りを上げると目深く被っていたフードを取り払った。


 素顔を現したエルフィを見て、アカツキはそのあまりの可憐さに一瞬言葉を失う。艶やかに煌めくゴールドピンクの長髪。けぶる様に長い睫毛と宝石の様な空色の瞳。柔らかそうで麗しい唇、かすかに色づいた頬、と顔のパーツどれを挙げても整っている。美少女、とは彼女のためにある様な言葉だ。


 容姿の良さを差し置いて、彼女のチャームポイントとなっているのは、やはりふさふさの獣耳と尻尾。狼系の獣人族のようだ。


「俺はアカツキ。冒険者のなり損ないだ」


 アカツキはエルフィに見とれていたが、はっと我に返って自己紹介を返す。


「アカツキさんですね! よろしくお願いします!」


「ところで、どうしてそんな金欠なんだ? それに、十二騎士でした、とは……?」


 エルフィの可憐さに気を取られ、忘れていたいくつかの疑問を思い出す。

 アルキデス教国の十二騎士といえば、世界屈指の剣豪で形成された、教皇を守り国の敵を討ち滅ぼす組織だ。その誰もが高い名声を誇り、教皇より与えられた特別な武具を持つ。


 この華奢な体つきのエルフィでさえ、アカツキが所属していたパーティーメンバーの誰よりも強いはずだ。そんな人物に武器一つで恩を売れると思えば、安い買い物だ。

 もしも、彼女と手を組めるのであれば、パーティーを追放された事で諦めてしまった、最強の武器を作るという目標にも光明が持てる。


「あはは……、そうですよね、気になりますよね。話せば長くなるのですが……」


 しゅんと肩を落とすエルフィ。


「訳ありか。まぁ、いいさ。素材を買い集めるあいだ、暇だし聞かせてくれよ」


「素材集めですか?」


「あぁ。俺はスキルで武器が作れるんだ。鍛冶師じゃないがな」


「なるほど! それではお話しますね……」


 アカツキは頷き、エルフィに話の続きをするよう促した。


「事の始まりは、教皇さまから賜った武具を騙し取られてしまった事から始まります……」


 エルフィの語りだしにアカツキは眉をひそめた。ずいぶんと不穏な滑り出しだ。


「それを知った教皇様はお怒りになりまして、私騎士団を追い出されてしまったのです。仲間達からもお前はバカだと罵られ……」


「当たり前だ」


 理由は聞かなかったが、教皇から貸し出された名誉の武具を騙し取られては、十二騎士のメンツが丸つぶれだ。誰だって怒るだろう。


「それでですね、教国から追放された私は生活のため冒険者になろうと決意しました。こんな私ですが、十二騎士に選ばれる実力はありますから! それで、必要なものを買い揃えようとこの街に来たまでは良かったのですが、知り合った神父様に寄付を頼まれて──」


「おい、待て。まさか全部くれてやったんじゃないだろうな?」


 エルフィの言葉を遮り、アカツキが突っ込んだ。悪い予感がしてきた。


「差し上げました! 病気で困っている子供達のため、涙を流す神父様に協力しなかったとあれば、十二騎士の名折れです!」


「はぁ……、なるほど、それで今に至るという事だな」


 アルキデス教国は中立を貫く道徳を重んじる国家だ。そこの騎士は誇り高く慈悲深いという噂を聞いた事があったが、どうやら本当らしい。ただ、この少女は抜けているというか、人を疑う事を知らないというか、とにかくお人よしが過ぎる。


「一つ聞くが、十二騎士の武具ってのはどうして盗まれたんだ?」


「武具の点検をすると言われ、預けたのですが、そのまま持ち去られてしまいました……」


 気を落とすエルフィだが、アカツキは呆れて言葉を失った。


「……そうか。この話はもう止めよう。そうだ、この街はもう慣れたか? 鉱石なんかを売っている場所を案内してほしい」


「やや、それならお任せください! 心当たりがあります! あちらですよ」


 エルフィはそう言ってアカツキの手を取ると、早歩きを始めた。ぐいぐいと導かれるまま人混みを引き裂き突き進む。目的地は武具屋からそう遠くない場所にあった。


 露店が立ち並ぶメインストリートの一角。木箱の詰まれた無骨な店が一つあった。様々な鉱石が詰められて並ぶその店の客足は、驚く程に少ない。だが、それもそのはず。ここは素材屋だ。そもそも商売相手は一般人ではない。


「へぇ、良い感じだな。ちょっと待ててくれ。くれぐれも知らないヤツの言葉に耳を傾けるなよ」


「はいっ、わかりました!」


 アカツキはエルフィに釘を刺して、品定めを始める。目を離した隙に誰かに騙されて、連れていかれてしまっては困るからだ。


 パーティーから理不尽な解雇を受けた時に、押し付けられた金ならまだかなりある。剣一つ作るくらいならそこまで費用はかからないだろう、と思っていたアカツキだったがとある商品を見つけて思考が止まった。


「これ、ミスリルか!? なんでこんな貴重な物が……!」


 アカツキが視線を奪われたものは、一つの鉱石箱だった。灰色の輝きが眩いミスリル鉱石が詰まったソレを見て、アカツキは喉を鳴らす。名札に記された価格は高い。


「おっ、兄ちゃん鍛冶師か? ソイツに注目するとはお目が高い」


 ミスリルに思わず声を上げたアカツキを見て、店主の大男は口元を緩めた。


「ミスリルは気まぐれに生まれる希少な鉱石だ。掘ろうと思って手に入る物じゃない。鉄よりも固くしなやかで、おまけにこれを素材に使えば耐魔のスキルが付く代物だ!」


「良く知ってるな。だがここいらの職人じゃあソイツを武具に加工できなくてな。希少なクセに売れなくて困ってるんだ。どうだい? 安くしてやってもいいぜ」


「本当か? いくらで売ってくれる」


「二十七万シルバーでどうだ? これでも出血大サービスだ」


「よし、買った!」


 即決だった。ほぼ持ち金全てだったがミスリルの希少性に目が眩んだアカツキにとって、もはや値段など判断材料に入る余地はない。ただ単純に、ミスリルで武器を作りたいという想いだけが先行していた。


 金の入った差袋を店主に渡し、代わりにミスリルの入った木箱を受け取る。そうしてエルフィの元へ戻る頃には興奮が冷め、残るは衝動買いしてしまった自分への後悔だった。


「アカツキさん、おかえりなさい! それが武器の素材ですか……?」


 前のパーティーで活動していた時も、武器を作るために様々な素材を集めたがミスリル鉱石とは出会えなかった。これは元十二騎士を仲間に引き入れるため、必要なコストだと内心自分に言い聞かせる。


「ただいま。……なぁ、エルフィ。俺と取引をしないか?」


「はい、いいですよ!」


 エルフィの笑顔の二つ返事にアカツキは毒気を抜かれた。


「まぁ、取引というよりは、……あれだ、提案だ。俺はこれからこのミスリルで剣を作ってソレをエルフィに譲ろう。その代わり、俺と組まないか?」


「アカツキさんは信用できる良い人ですし、喜んで組みますよ!」


 あったばかり、それも一時間程の付き合いで〝信用できる良い人〟判定を受けたアカツキは苦笑いしつつ、彼女の善意に甘える事にした。


「俺には目標がある。そのためには、エルフィの力が必要だ」


「どんな目標ですか……?」


「最強の武器を作る、それが俺の目標だ。十二騎士が持っている聖剣みたいな〝レリックアイテム〟と呼ばれる様な伝説の武器。そいつらを超える武器を俺は作りたいんだ」


「なるほど、大変そうですが素敵な目標だと思いますよ!」


 この話はかつて、前のパーティーに加入する時もした。その時は無理だと笑われてしまったが、この獣人族の少女は違う。エルフィの素直な称賛には嫌みが無く、それを受けたアカツキも自然と笑っていた。


「ひとまずは武器商人として活動する。冒険者をやるには最低三人メンバーが必要だからな。それに先立つ物も必要だろ?」


 最高の素材を集めるために必要なものは何も力だけじゃない。資金や情報網などいくらでもある。当面の目標は冒険者として活動するために必要な三人目探しだろう。加えて資金調達と可能であれば素材の情報収集だ。


 パーティーを追放され、一からのやり直しになってしまったが、アカツキの内心は晴れやかだった。装備も金もないが、信用してよさそうなドが付くお人よしが一人仲間になったからだ。


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