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第1話 パーティー追放と新たな旅路


「パーティーから出て行ってくれないか」


 心地よい夜風が頬を撫でる満月の下、パーティー会場のテラスに二つの人影があった。

 黒髪に赤眼の青年、アカツキはパーティーリーダーを務めるもう一人の青年からの言葉に目を丸くする。


「……は? 何で俺がパーティーを出て行かなきゃいけないんだ!?」


 夢にも思わなかった言葉をかけられ、アカツキは動揺のあまり数歩後ずさりした。呼吸は乱れ、脈が早まる。震える手で白く塗られた木柵を掴んだ。


「今まで心当たりがなかったのかい? 君が戦闘でなんの役にも立たないから、僕らにのしかかる負担は重い。昨日のサファイアドラゴンとの戦闘がいい例じゃないか?」


「だが、俺がいなくなったら装備の整備は誰がやる? 武器だってお前ら作れないだろ? 俺のスキルがなきゃ、今まで通りの運用はできないんだぞ!?」


 アカツキは捲し立てる。パーティーリーダーによる理不尽な物言いに血が上り、急に頭痛までしてくる始末だ。


「必要ないよ。君にできる事は街の鍛冶屋ができる。だから、新しく戦闘員を増やして、君には抜けてもらう事になったんだ。これはパーティーの総意だよ」


「……待ってくれ。確かに戦闘面では実力不足かもしれないが、それは加入時にちゃんと説明したはずだぞ? それに、冒険者ランクを上げるなら俺の武器が必ず必要になる! 現に、サファイアソードだって俺が作っただろ!」


「そうだね。それは感謝している。僕らも鬼じゃない、だから君の仕事分の対価はちゃんと払うさ」


 そう言ってパーティーリーダーの青年は懐から掌サイズの麻袋を取り出し、アカツキに差し出す。


「三十万シルバーある。これで手切れだ」


 三十万シルバーあれば、並みの生活なら二ヵ月は持つ。確かに手切れ金としては悪くない話だが、アカツキには到底受け入れられない提案だった。


 そもそも、このパーティーに加入したのだって最強の武器を作るための事だ。それは加入の時に全員に説明し、承諾だって得ている。だから、金に目がくらんでパーティーを抜けるなどという選択肢は無い。


「そんな金いらねぇよ……! わかった、お前らに今まで負担を強いていたって言うならちゃんと全員に謝る」


「その必要はないよ。もう君とは手を組めない。これを受け取って消えてくれ」


 パーティーリーダーの非情な物言いに、ついにアカツキは返す言葉を失った。そして、ここまで強引に来ている理由も何となく察してしまった。今まで利用されていたんだ。目当ての武器が完成したから、お役御免という訳なのだろう。


 アイツらは本当に裏切ったのか? 今までの旅は嘘だったのか……?


 アカツキの胸中に黒い感情が渦巻き、思考がぐちゃぐちゃになる。最強の武器を作るだとか、もうどうでも良くなった。出て行けと言うならそうする。ここまで言われて、今まで通りになどいくはずもない。


「……わかった。今まで世話になったな」


 アカツキは顔を伏せて表情を隠し、差し出された麻袋を半ばひったくる様な形で受け取る。他の仲間に聞きたい事はあったが、今はそれどころではない。パーティーの喧騒から逃げる様にアカツキは闇夜に姿を消した。


 ☆


 アカツキがパーティーを理不尽に追放されてから、三日が経過した。解雇されたその日に隣町への夜間馬車で移動し、適当な宿をとった。そして、その宿で特に何をする訳でもなく、買い込んだ食料を食べ散らかして今に至る。


 備え付けの窓からは暖かな陽光が差し込むも、アカツキの気分は憂鬱だった。ベッドの上でぐうたらと寝て過ごし、何の目的もなく天井を仰ぐ。


「……なんのやる気も出ねぇなぁ。働かなきゃ金は減るばかりだし、めんどくせぇ。あー、そうだ、武器商人でもやって手堅く稼ぐかね、俺のスキルなら楽だし」


 この世界には多種多様の種族が存在するが、その誰もが皆スキルと呼ばれる力を持って生まれてくる。スキルは所有者によって千差万別。アカツキのスキルは〝武具製造〟と〝アナライズ〟。どちらも直接戦闘には関与しないが、質の良い武器を大量生産するにはうってつけの力だ。


 冒険者は安全上の都合でパーティーを結成しなければ活動できないルールがあり、パーティーを追放されたアカツキは冒険者として活動する資格がない。というか、知り合いもいないのでパーティーを組む相手すら存在しない。


 そのため、スキルで武器商人でもやろうという算段だ。


 アカツキはもぞもぞと支度をし、宿を出た。先日まで滞在していた首都と比べれば規模は小さいが、活気が満ちている事には変わりない。古めかしい尖閣の屋根が軒を連ね、街には蜘蛛の巣の様に水路が張り巡らされている。煉瓦造りの舗装された道波は美しく、街路樹が彩をさらに豊かなものにする。


 ところせましと並んだカラフルな露店を横目で流し見しつつ、武具のマークの看板を探す。アカツキが今いる街の名はデドール。中立国ガイゼルの中で、最も商業が盛んな港町。メインストリートを少し歩けば目当ての店の一つや二つ、すぐさま発見できるであろう。


「あったあった」


 アカツキは目的の看板を発見し、ガラスケースに飾られた武具の値札に視線を落とす。それから、商品に焦点を合わせる。商業が盛り上がっているだけあって、質も値段も悪くない。。だが、それらの武具には光るものがない。というのがアカツキの見立てだ。


「良い鉄鉱石を使ってるな。仕上がりも悪くない。うーむ、このレベルで作ってかねーと金にならなさそうだなぁ」


 武器商人として活動するにあたって、売り物のレベルの指標の参考にと訪れてみたのだが、アカツキが思っていた以上に質が良い。オンリーワンを突き詰めたものではない以上、ある程度は目を瞑らないといけないようだ。


 そうして色々考えていると、今までのイザコザがどうでも良くなってきた。他の商品も見てみようと扉に手をかけた。カランコロンとドアベルの軽やかな音が出迎えてくれる。


 壁には様々な武器が飾られており、店の隅には樽が置かれている。その樽には特売の武器が詰まっている。ガラスケースに掲げられていた商品と比較して、値段は二回りほど安い。


 それと、先客がいる。変わった形のフードを目深く被った小柄の客だ。線の細さからみて女性である事は間違いないが、詮索する程興味は無い。見たところ冒険者らしく、得物を新調しに来た、という感じだろうか。ローブの裾からふかふかの尻尾が見え隠れしている。獣人族だ。


「……うーん、困りました。特売商品でも持ち合わせが足りません。うぅ……」


 誰に聞かせるでもなく、可憐な声色でフードの客が溜息と共に独り言を零す。どうやら、特売品を物色しているらしい。だが、その眼鏡に敵う武器は見つかっていないみたいだ。理由は本人が語るとおり、所持金不足なのだろう。


 アカツキは店の品ぞろえをぐるりと見まわし、それぞれに付けられた値札を確認した。あの樽に詰め込まれた武器がこの店の最安値だ。それを買えないとなれば、ここの店でフードの客が購入できる物はない。


「なぁ、あんた武器が欲しいのか? 俺が用意してやっても良いぞ」


 アカツキは落ち込むフードの客に近寄ると、店主には聞こえないよう小声で呼びかけた。


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