01 イケメンじゃねぇか
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身体の感触が、よみがえる。
俺はふと、目を覚ました。
「ここは……」
見慣れない木々に好き放題に伸びた雑草。
人の手が加えられているのかも分からない、森の中。
側に広がっているのは、日の光を反射した綺麗な湖。
「そうか……ここが、異世界、か」
ここで俺は、自分の手と足を確認する。
日本の物とは明らかに違う、白装束の布。足には頑丈そうなブーツが履かれている。
「これは……ミークになったって事だよな?」
いつの間にか、高校の制服から衣装が変わってしまっていた。
もっとも、首元のマフラーだけはそのままだったが。
「湖? ……そうだ。顔を覗けるかも……」
さっそく、俺は上体を起こし、自分の顔を確認する。
ミークを初めて見た時は死体だったのだ。布に覆われていたのではっきり見た訳じゃないが、まさかアンデッドになっていたりしたら、とても困る……。
恐る恐る、湖に近づいて見ると……。
「……何だよ。イケメンじゃねえか」
凛々しく、整った顔立ち。
芸能界入りすれば、間違いなく大勢の女性から黄色い歓声に包まれてしまうような……。
つまり、ミークは俺みたいな陰キャラとは正反対の、リア充顔で陽キャラなナイスガイだったのだ!
「……………………」
俺はもう一度、湖に映った顔を確かめる。
一言で言えば、黒髪のイケメン。
整った顔つきと、やや鋭い目つき。高い鼻にシュッとしたあご。
次に、今着ている自分の服装を確かめる。白の衣装だ。
アラビア風の上着にズボン。マントも羽織っており、それも白だ。
そしてマフラー。俺が高校生の時から巻いていた物。
薄く黄味がかった白い物であり、俺のお気に入りというか、暑い時期以外は常に首と口元を覆っていたアクセサリーだ。
「マフラー……残してくれたのかな……?」
高校へ行くときの必需品も同然だったマフラー。
まあ、好きかときかれると、そういうんでもない。ただ何となく、口元を隠した方が落ち着いたからだ。
「制服は消えたっていうのに……不思議なもんだ」
「でしょー? 私すごいでしょーっ?」
と、ここで俺の足にすり寄る感触。ミミックだ。
「――ワンワンワンッ!」
「そうか。お前も来たんだったな。よしよし」
犬を可愛がるように、ミミックを軽くなでてやる。
「……しかし、こんなかっこいい顔してるのに、……迫害されるのか……」
「ねー」
「どう見てもイケメン……アイドルになれるレベルだぞこれ……」
「うんうん」
「これ程の逸材で孤独死に追いやられるんだとしたら、かつての俺なんて一体どうなるのやら……」
「分かる分かる」
……と、ここで俺、つぶやきをストップする。
横から飛ぶやじにいい加減、我慢できなくなったからだ。
ここにいるはずがない、すでに別れたはずの人物からのやじが。
「おい……」
「確かにミークはイケメンだったわ。アナタと比べてそうであるように、私もそう思う。けどね、人生は顔じゃないの。この異世界ではいかに誠実に生きられるかが、何より顔面偏差値以上に大事なの。 ……と、金髪美少女顔な私が説教する件について!」
見送られたはずだった。
日本への別れと同時に始まる異世界ライフを見守ってくれる……と、期待していたはずだった相手が。
「何でお前が……ここにいる?」
「あー、私の事は気になさらず、ささ……」
「いや気にするわ! 何で……何で……」
俺はその女に指を差し、
「何で女神がここにいるんだよおおおおおおおおおおおおおおお……!」
目の前の女神にどなりつけたのだった。
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