プロローグ4 ミークが愛用していた、宝箱です
「ミークは、誤解を解きたいんだと思う」
「う……?」
一連の流れに戸惑う俺。
そこに投げかけられる、女神の真剣な声。
「そして何より、自分をパーティーから追い出したログナスたちを見返したいって思っているでしょうね……」
「……………………」
さっきのぶしつけな流れをツッコんでやろうと思った。が、それはやめにした。
女神の蒼い瞳が涙でうるんでいるのが分かったからだ。
それと、今にも泣きそうな表情も含めて。
そうか……女神も悲しんでいるんだ。ミークという男の、悲惨な最期を哀れんで。
そうだよな。俺だって、ミークの事、可哀想だと思うよ。
誰にも認められず、誰からも相手にされず、最後には一人のまま人生を終えてしまった、その寂しさを。
俺も同じだ。何せ、女の子に舌打ちされて、この世を去ったのだから。
「協力って言ったな。……どうしたらいい?」
俺の中で、決心が固まった瞬間だった。
「え? 本当? 協力してくれるの?」
「まあ、他にする事がないしな。俺でよかったら、力になるよ」
「……うれしい。ありがとう! じゃあ……」
悲しそうだった女神の表情から、笑みをこぼすようになる。
「さっそくだけど、ミークになって異世界へ行ってほしいの!」
そして、奇妙な提案をしてくるのだった。
「え? えっと……」
「説明不足だったわね! 今から女神の力で、アナタの魂をミークに憑依させます。それでミークの身体を修復してから異世界へ転移。そこでアナタはミークとして善行に励み、彼の汚名を返上してほしいんです!」
「あー、なるほど……そういう……」
分かったような分からなかったような……けど雰囲気は伝わったので、とりあえず返事する俺。
「それでアナタには、持って行ってほしい物があるの」
女神が指をさす。
その先にスポットライトが再び、照らされたのだ。
俺の目に映ったのは、木の板と金属で組み立てられた宝箱。
「アレって……もしかして……」
「そう、ミークが愛用していた、宝箱です」
「やっぱり……」
「あの宝箱を、アナタに差し上げます。その足でおもむき、その手で掴み取るのです」
あの宝箱はミーク武器でもあり、荷物を入れられるカバンでもある。
何より、彼のシンボルでもあり、形見でもあるんだ。
なるほど……。俺はこれからミーク・カロラヴィーナとして異世界に転移する。
そしてこの姿と宝箱を持って異世界を縦横無尽に駆け回り、無双する。
その圧倒的な活躍の前では、人々は俺を称賛し、王様に認められ、カワイイ女の子たちがついてくる。
そんな輝かしい姿を見て、ログナスたちは後悔するんだ。あの時、ミークをパーティーから外すべきじゃなかったって。
しかしもう遅い。お前たちがいくら悔やんでも、懇願しても、俺にとってお前たちなんて最早必要ないんだ。
せいぜい土下座して、これからの日々を悔やむんだな……ざまぁみろ! ハッハッハッハ……!
「……大丈夫?」
「……ハッ! い、いや、何でもない!」
女神が不思議そうに、俺の顔を覗き込んでいた。
つぶらな瞳に思わず吸い込まれそうになるものの、俺は我に返って、さっきまでの妄想を振り払った。
そうだ、妄想なんていらない。これから俺の手で、現実にしていけばいいんだから。
「……よし」
俺はつばを飲み込む。宝箱まで足を運んで、もはや目前に迫っている。
俺の膝くらいはあるだろうか。思っていたよりも大きい。見た感じだが木の表面がザラザラしているように思う。一方で、鍵穴の部分だけは金色に輝いてピカピカだ。
そして、宝箱の隙間からちょろっとはみ出した紅い舌ベロ……。
「……ベロ?」
いや、ちょっと待てよ? 何で宝箱にベロがある? 箱なんだろう? 生き物じゃないんだろう? それじゃまるで、モン――
――ガタッ!
俺が思考を巡らせた、その瞬間。
「ガウウウウゥゥゥ……!」
犬が威嚇するような、唸り声。
次の瞬間。
「ガウガウッ! ガウガウガウガウガウッ――!」
宝箱が口を開き、俺に飛びかかってきたのだ。
「え! ちょ、おい……!」
サメのようにおびただしい数のキバを剥きだしに、肉食獣のように獰猛に吠えながら。
「え! 何何? 待って待って! 何で……?」
俺はとっさに、宝箱の口と体を手でおさえる。
「もぉ〜、早いよぉ〜。もっと近づいてからって言ったじゃん〜」
「な、……ええっ!」
「ミークの手品を再現するんでしょ? あ、もしかして、久しぶりだから興奮しちゃった?」
何やら、女神が宝箱に話しかけている。
どういう事だ? ミークの宝箱なんだよな? もしかして、別の……?
いや違う。コイツはそもそも宝箱なんじゃない!
そうだ、間違いない! コイツはそう、RPGのゲームとかでよく見る……。
ミミックだ!
ミミックが俺に、襲いかかっていやがるんだ!
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