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27 オレのレベルは、百十三

 聞いた事がある個人名や単語を連発されまくったところで。


 ボス――メグトロンは左腕を、鋭利な刃物へと変化させてしまったのだ。


「う、腕が……変わった!」

「驚いたかい、お嬢ちゃん。ならもう一つ、教えてやる。オレのレベルは、百十三。冒険者の限界は九十九。……どうだ、圧倒的だろ?」

「そ、そんな……!」


 百十三……?

 俺の脳裏に、『絶望』という言葉がよぎった。


 レベル、百十三だって……?

 おいおい、何なんだよそれ……。

 それって圧倒的じゃねぇのか。

 俺のミミックも高レベルだって思っていたけど、まさかそれ以上の敵が現れるなんて……。

 いや、それどころか比べ物になっていない。

 こっちはレベル七十八だぞ。

 これ、どうしようもねぇんじゃねえか……。


「クゥゥゥン……」


 ミミックが子犬のような声で小さく鳴いている。

 見たところ大きなケガ――破損はないようだ。

 しかし戦闘続行は可能だろうか。

 念の為ステータスを確認してみた。


 HPが半分程度減っていた。

 数値の上では戦闘可能だろうが、この痛々しく転がってきたミミックの姿を見ていると、戦わせるのに罪悪感が湧いてくる……。


「いったあぁぁ〜い……」


 と、ここで聞こえる女神の声。

 そういえば忘れていた、アイツの存在を。

 ――ハッ、となって振り返ると……。


「お、おま……」


 俺は思わず、目をそらしてしまった。

 女神の服が、ビリビリに破れていたからだ。

 半裸同然になって。


 肩と鎖骨が完全にあらわになっていて、それが胸の膨らみがうかがえる程に肌の面積が広がってしまっている。

 幸い大事な部分は見えていないものの、それなりの形というか掴める程の大きさというか……ってそんな場合じゃない!


「えぇ〜ん……痛いよぉ〜……。さっきの攻撃で服が脱げてサービスシーンみたいになっちゃったよぉ〜……。オマケに何かヌルヌルベットリするのが顔にかかって気持ち悪いよぉ〜……。ミミ久〜、プリメラちゃぁん、何とかしてぇ〜」


 説明口調なのが気になるが、俺は急いで女神のもとに駆けつけた。

 倒れたミミックを手に持って。

 プリメラも一緒だった。


「クックック……、このオレの攻撃を前にいい反応を見せてくれてうれしいぜ?」

「コイツ……!」


 女神を傷つけておいて喜んでやがるのか。

 俺のマントを女神に渡し、プリメラが液体を拭き取っている様子を見て、ボス――メグトロンのヤツが下衆な笑い声をあげているのだ。


「そうそう、それそれ! その悔しそうな表情! こういうのが見られるから、ボスってのはやめられないんだよなー。『よくも仲間を!』ってコッチを睨みつけるヤツ。テメーもオレに敵わねーから何もできないでいるってヤツ。最高だぜ〜? これだけで腹が膨れちまうくらいだな〜?」


 得意気になったのか、俺たちを眺めながらなおも嫌らしく挑発を繰り返してくるのだ。


「テメーらがここに来る前の冒険者たちもそうだったぜ? ウチの盗賊に捕まってここまで連れてこられたくせに、『お前さえ倒せば!』とか言って無謀にかかってきやがったんだ。結果は当然返り討ち。オレの圧倒的なレベル差と、しなるムチで瞬殺さ。するとアイツら、目つきが変わるんだ。オレにケンカを売った勇ましい目から、オレに歯向かった事を後悔したような怯えた目に……な。その瞬間がたまんね〜んだよなー! テメーらで遊び終わったら、またアイツら引っ張ってビビらせてやろっかな〜! ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ……!」

「お前……!」


 俺の中で、怒りが込み上げてくる。


「お、いい反応じゃねぇか! そういうとこだぜ、弱いクセにテメー勝手にムキになる所がよー? こっちからしたら意味不明なんだよなー、どうせオレ相手に何もできない、役立たずのザコヤローなんだから大人しく引っ込んでおけばいいのに、何で戦おうとするかなー? アホじゃねぇの、意味わかんねーや! ククッ!」

「み、ミミ久さん、ダメです……。今はみみ子ちゃんが先です……」


 プリメラになだめられ、俺は改めて女神の方へ振り返る。

 俺のマントで胸元のはだけた部分を隠し、プリメラが一生懸命大きな水滴を拭き取っているものの、まだまだ粘着液がとれる様子はない。


 と、プリメラがある程度、粘着液を払った所で。


「ミミ久さん、少しその場を離れて下さい」

「えっ……」


 真剣な口調。

 言われた通り、俺は女神の側から距離をとる。

 するとプリメラは目を閉じ、手持ちの杖を女神に向けていくと……。



「ケアヒール」



 杖から放たれる、白い光。

 その輝きが杖から離れ、女神の身体を包み込んでいく。


「えっ、これって……!」


 僅かな時間、放たれた光はやがて消滅していく。

 そこで姿を見せたのは、女神。

 しかも、身体中にまとわりついていた粘着液が先程より減少しているのだ。


「へ、減ってる! 今のって……」

「ケアヒール……。回復呪文です。わずかですけど、傷を癒やす事ができるんです」

「す、すげぇ! 本当にあるんだそういうの! めっちゃカッコイイじゃん!」

「あ、はい、えへ……。けど、プリーストとして初歩の魔法だし、自分の傷は治せないから……」

「……ハッ! ちょっと回復したからどーだってんだ! またオレ様が攻撃すりゃあ、それで終いじゃねーか!」


 と、ここでメグトロンの横槍が入ってしまう。


 クソ……! ナメやがって……!

 プリメラは謙遜しているみたいだけどな、回復魔法はすごいんだぞ!

 コイツの存在そのものが、RPGの生命線になったりするんだからな!

 と、俺が心の中で毒づいた所で、俺の頬に冷たい感触が伝わってきた。


「ミミ久〜、ネバネバプレゼントぉ〜……」

「えっ、おまっ! 手に何つけて……っ、汚っ!」

「見て〜、残ったネバネバ集めたのぉ〜。ミミックにでも食べさせてぇ〜」

「お前な……こんな事やっている場合じゃ……ん?」


 ちょっと元気になったら、すぐコレだ!

 女神のおふざけに怒りを露わにしようとした、その時だった。


 俺の中で、ひらめきが頭をよぎったのだ。

 すぐにネバネバを凝視してみる。

 粘着液に映る自分の顔。

 湧き上がる白いもや。

 さらにメグトロンの方へと顔を向ける。

 同じく湧いている白いもや。


「……そういう事か。これで道理がいったよ」

「……ミミ久さん?」

「ようやくはっきりしたんだ。メグトロンに対して感じていた、三つの秘密をな……」

「へー、聞かせてもらおうじゃねえか。テメーの言う、オレの秘密ってヤツをよーぉ……クックックック……」


 これでもかと人を見下した程に歪んだ笑みが、俺たちを嘲笑っているんだと瞬時に納得させてくれる。

 カンに触るけど……まあいい。


「み、ミミ久さん、秘密って、いつの間に……」

「大丈夫だ、プリメラ。大した話じゃない。こいつはスライムの集合体だっていう事だ」


メグトロンの正体を言葉にした途端、空気が張り詰めた。

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