24 ミミックって、一体何なの……?
金属音が、鳴り続く。
ドラゴンの雄叫びが部屋全体にこだまする。
――カァァァン……! ――キン! ――キン!
――アオオオオオオオオン……!
――ドガッ! ――ドッ……! ――ガリガリガリ……!
暗い部屋の中で、彼らの姿はよく見えない。
しかし、確かに彼らは戦っているのだ。
対等な力を持ったもの同士、しのぎを削り合いながら。
俺の手をすっぽ抜けて……。
「でも、どうして……?」
ふとここで、プリメラが声を漏らし始める。
「ミミックって、一体何なの……?」
それは、彼女にとって、当然の疑問だった。
「なぁんだ、知らなかったの? プリメラちゃん」
これみよがしに女神がため息を吐いてみせる。
そしてそのドヤ顔は、俺にも向けられていた。
「そのまま座っていてね、教えてあげるからっ。ミミ久もね?」
「あ、ああ……」
「それじゃあプリメラちゃん、ミミックとは、宝箱に擬態したモンスターだって知っているわよねぇ?」
「は、……はい。宝箱のフリをして人をだまし討ちする極悪非道のモンスターだって……」
「実はそのフリ、宝箱である必要はないのっ」
「……ええっ!」
「あら〜、やっぱり知らなかったんだぁ〜。まあいいわ、じっくり説明してあげるからねっ」
「は、はい! 勉強になります!」
女神のご指導にプリメラが正座の姿勢をとろうとする。
さすがに真面目というか、周りが見えてなくないか?
今、戦闘中だぞ?
俺たちの側でミミックとドラゴンがバキバキ音を鳴らして戦っているんだぞ?
しかも、座りやすくするためかプリメラのやつ、ローブをめくって太ももを晒してきて……。
「何見てるの? ミミ久ー?」
「……はぁ! えぇっ!」
女神の不意打ち同然の呼びかけに、思わず変な声を出してしまう。
「今、プリメラちゃんの足見てたでしょー? えっちーっ」
「あ、いや、そういうんじゃ……」
「えっ? 私の足を……?」
「いや違うって! ああもう、俺も座るから早く説明しろ!」
危うく変態認定される危機を回避するため、俺もプリメラの隣にあぐらをかく。
乱れた心を落ち着かせようと平静を装い、女神の話を聞く姿勢をとった。
「ミミックっていうのはね、そもそも擬態ーー何かに形を真似る……という意味をさすの。つまり壺でもいいし、タンスでもいいし、井戸でも構わないのっ」
「あー、たまたま宝箱だったと……」
「……あのー」
「それじゃあ、次の講義ね。ミミック族について教えてあげましょう!」
「は、はい、お願いします! 教えて下さい!」
今度は造語について講義を始めてくる女神。
激しい攻防に加え野次まで飛び始める中、そんな彼女に逆らえず流されている俺も悪いが、プリメラも素直すぎるんじゃないかって思ってしまう自分がいる。
「ミミック族とは、ミミックの強さにあやかり、激動の世界を生き抜くため、潜み、変装し、時には獲物を仕留める……! そのために、ミミックの生き方を参考にした人たちの事を指すのっ。歴史は古く、数千年前から存在しているといわれているわ」
「へぇー……」
「……おーい」
ーーガン!ガン!
「ミミック族には掟があり、ミミックのように忍耐強く、したたかに生きるために、皆が掟を守り、日々修行に励んでいるのっ」
「ほ、ほえぇ……」
「ちょっとー」
「また、ミミック族は世界中に散らばっていて、それぞれ世界各地の環境に適応しながら、様々な日々を送っているのよ。……なぜ擬態するのか。それは、生き抜くために必要だから」
「す、すごいです! 私、知りませんでした!」
「もしもーし……」
「ここからは、さらにすごいわよっ。ミミックの戦士の話ね。よく聞いておいてねっ! さらに長くなりそうだから、私の手持ちのバナナでも一つ食べて……」
「……いや聞けっつってんだろーがぁ!」
女神の講義に水を差す、ボスの叫び声。
「なぁにぃ? 騒々しいわよ、さっきから?」
「……あのさ、オレたちって、……戦っているんだよな?」
ボスの尋ね方に、威厳が感じられなかった。
何というか、素に近い態度だった。
「ええ」
ボスの問いかけに、堂々と答える女神。
ーーゴスッ、ゴスッ!バキバキ……!
「……というか、現在もバキバキって、ウチのドラゴンの爪が鳴りまくっているの、分かるよな?」
「それがどうしたの?」
「いやだからさ……何で……」
ボスの方から、深呼吸する音が聞こえてくる。
そして、あらん限りの声を発したのだ。
「何で戦闘中に楽しくおしゃべりしてんだよおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
辺りが静まった。
ドラゴンの攻撃も、ピタリと止んだ。
静寂が、訪れた。
ああ、やっと気がついたんだな……。
ようやく、肩の荷がおりた気分だった。
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