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22 ドラゴン……?

 『ミミック族』


 闇が広がるボスの部屋の中で。

 女神の唐突な単語に、ボスも含め俺たち全員固まっていた。


「……………………」

「どうしたのっ? 聞き慣れない単語を耳にして、反応に困ってしまったかの間をみせちゃって?」

「いや、どーしたも何も、……何だ? ミミック族って……?」

「ほらミミ久ってぇー、『ミミックの戦士』でしょー? だったら戦士が属する種族があるかと思ってぇ、私が呼んでみたんだぁ! カッコいいでしょ?」

「いやお前、何勝手に造語を……。しかも俺の黒歴史を引っ張ってくるなと……」

「へぇ、そーかいそーかい。オレは何だって構わねぇけどよ……」


 ……とここでボスの殺気を滲ませるような声。


「どうあれ殺しちまえば何でもいっしょだろ? このまま何も分からねえまま引き裂いてやってもいいんだぜぇい? それとも、じわじわと痛めつけてやろうか……?」

「沈黙してからちょっと時間あったわよねっ? さっきまでポカンと呆けていたのかにゃーん?」

「お、おい……挑発するなよ……。くそ、どっちにしろ抵抗はするつもりだけどな」


 俺は宝箱の蓋を握り、左手で持ち上げる。

 右手はプリメラの感触が残っていて気が散ってしまいそうだからな……。

 それでも左手から徐々に力が込められていくのが分かる。


「テメー、モンスターに引っかかれた事はあるか?」


 ねっとりとした口調で、俺に囁いてくる。


「ねぇよな? ……けど、猫ならあるだろ? かかれた瞬間は何ともねぇ。……が、箇所を見てみると、そこには数本の線が出来ちまっている。傷を見た衝撃と、後からやってくるヒリヒリとした痛みで、人は恐怖におののいていくんだ」


 心なしか、声が大きく、耳に鮮明に響いていく気がする。


「猫でさえ、苦痛にあえぐんだ。ドラゴンに引っかかれたら……どうなると思う? ……熱いんだとよ」


 殺気を感じた。

  ーーその瞬間だった。



ーーガキィィィィィン!



「キャアアアアアアアアアアーー!」



 金属音が、弾け飛ぶ。

 それと同時に鳴り響く、プリメラの悲鳴。


「み……ミミ久さん? ……みみ子ちゃん?」

「私は大丈夫。……でも」

「……え?」


 少しの間をおいて。

 プリメラが、何度も悲鳴をあげ始めていく。


「ミミ久さん! ミミ久さん返事をして!」


 ……………………


「ミミ久さん! ミミ久さんってば! やだ、やだよぉ……死んじゃやだ! ミミ久さん!」

「……大丈夫だ、プリメラ」


 あまりにやかましいため、思わず口に出してしまった。


「……え?」


 とはいえ、俺も最初から状況を把握できた訳ではない。


 先程の不意打ちに、俺は確かに反応出来ていなかった。

 音もなく忍び寄る攻撃に、きっと俺の左肩から下がズタズタにされていたんだろう。


 しかし、実際はそうじゃなかった。

 気づかなかったはずの攻撃を、俺は確かに受け止めたのだから。


 プリメラも唖然としているな。

 まあいい、暗闇に目が慣れてくる頃だろうし、すぐに状況をのみこんでくれるだろう。


「なっ……! テメー……! どうして……!」


 狼狽した、ボスの声。


「どういう事だ!オレが見た感じじゃドラゴンの攻撃に耐えられる訳がない……!」


 どうやらボスの目論見では、さっきの暴風のような一撃で俺をなぎ払う算段だったらしい。


「何でだ! テメーがそんなに強い訳……!」

「何でって言われてもな……。実際防いだんだからしょうがないだろ」


 確かに、ボスの言う通りドラゴンの攻撃といえば、強力なんだと思う。

 かつての日本同様、最強格のモンスターとしてこの異世界でも恐れられているんだっていうのは何となく分かる。


 まあ、そんな攻撃を宝箱、いやミミックの一一振りで止めてしまったんだ。

 驚くというのもまあ……分からんでもない。

 しかし、それにしたってうろたえ過ぎじゃないか?


「あり得ねー、あり得ないんだよ! たかがレベル一ごときのザコヤローなんかが、こうも簡単に受け止められるとか……!」

「レベル……?」

「あら、アナタも見えているのね。この子の強大なレベルがっ!」

「なっ……!」

「え……!」


 レベルが見えている……?

 突然、女神により明かされる真実。

 確かにボスのヤツ、俺に向かって『レベル一ごときのザコヤロー』って言っていたのだ。


 という事はコイツ、俺のレベルを知っていた? 

 弱いと思った上で、奇襲を仕掛けたっていうのか?


「う……ぐ……、そ、そんなあああぁぁぁ……!」


 どうやらそれは図星のようだった。

 ボスがさらにうろたえているような声を漏らしていたからだ。さらに……。


「み、ミミ久さん……何だか、天井がうごめいています……!」


 プリメラが嗚咽を漏らす。


 天井を見上げると、得体のしれない影が、俺たちの頭上でゆっくりと動きをみせているのだ。

 しかし、見覚えが全くない訳ではなかった。

 部屋の微かな光から伺える無数のウロコ、時折光る鋭い眼光……。

 そして、ボスが言っていた言葉。『ドラゴンに引っかかれたら……』


「この影って、まさか……」

「そのまさかだよっ。あれがこの部屋に潜んでいたボスの手下……巨大なドラゴンの姿なんだからっ!」

「ほ、本当に……ドラゴン……?」 

「恐らく相手は……ドラゴンのレベルは七十七。対して、こちらのレベルは一程度。この圧倒的な開きがあれば私たちをいたぶり殺すのは容易い。そう踏んだんでしょうね」

「う……くっ……!」


 再び、ボスのうろたえた声。

 やはりこれも図星のようだった。


「でも、覚えておいてねっ。ミミックは、己の擬態に釣られた獲物に対し全力を注ぐものなの。一撃で、的確に仕留めるために、即死魔法を使ってでもね。……それを見抜けず、表面ばかりにとらわれる。……それがアナタの限界よ!」

「う……うるせぇ!」

「手の内を見抜かれた時点で、ミミックの罠にハマったも同然っ! 年貢のおさめどきよっ! 今までアナタが殺めた人々の顔を思い出しながら罪を贖いなさいっ!」

「く、クソッ!」


 精神的に追い詰められているのが分かる、ボスのうろたえる声。


 女神のヤツ、やるじゃねぇか。

 まるで悪をくじく主人公のよう……。


 ……って、アレ?

 主人公って、……俺だよね?


読んでくださりありがとうございました。


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