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16 しゃべるな変質者!

「安心してくれ。俺は敵じゃない」


 とりあえず言ってみる。


「…………………………………………」


 しかし返事はない。


「俺はお前たちを助けに来たんだ。もう大丈夫、何も心配はいらない」


 俺は手を差し出そうとする。


「――ヒッ!」


 それに合わせ、ビクッ! と女性冒険者たちが肩を震わせる。


「お、男! 来ないでケダモノ!」

「やっぱりこの人、私たちを襲おうとしているんですよ! あのいやらしい手つきが証拠ですよ!」

「くっ! 近づくな! 汚らわしい目つきで私たちを見て……お前もやっぱり、あの盗賊たちの仲間なんだな!」

「…………………………………………」


 あーあ、何だよこの嫌われっぷり……。

 かつての日本でもここまでひどい扱いは受けた事なかったぞ……。

 まあ、あそこでは陰キャだったから、そもそも女子と接点なんてなかったんだけどな。


 いや、これ、無理だろ……ここから俺が盗賊――男に襲われたばかりの女性冒険者たちから信頼を勝ち取るなんて……。

 彼女たち、半裸だぞ……。

 上半身裸のヤツとかいるし……。


 刺激が強すぎる……。

 ここは素直に女神のヤツでも呼んで、女同士で弁解してもらうのがいいんじゃないか……?


「なあ、めが……」

「黙れ! しゃべるな変質者!」


 俺が呼びかけようとした瞬間、戦士風の女性冒険者からピシャリ! と怒鳴られてしまう。


「へ、変質……?」

「貴様、何を企んでいる! 誰を呼ぼうとした! まさか貴様のような汚らわしい仲間が、他にいるというのか!」

「いや、違う……。知り合いの女を呼ぼうとして……あと俺、別に汚らわしくないし……」

「嘘ですよね? だって明らかに女の人と付き合った事ないって目つきしてますもんね?」

「うん確かに付き合った事ない……って、違ぇよ! どんな目つきだよ! 別に嘘ついてねぇよ!」

「何かコイツ顔隠してるし! どうせブサイクな顔してるくせに『口元とか隠すと俺カッコいいよね?』とか思って狙ってやってんでしょ! いかにも女狙いのケダモノが考えてそうな妄想ね!」

「ケダモノじゃねぇよ! あと別にカッコいいって思って顔隠してるって訳じゃ……」

「……じゃあ、どういうつもり?」


 ここで、上半身ビリビリに破れたタイツかつ魔法使い風の女冒険者から追求されてしまう。


「さっきから私たちを助けに来たとか、ケダモノじゃないとか、どうして信じてもらえるって思っているの? 私たちからしたらアナタ、自分の素顔も晒せない得体の知れない男なのよ? 私たち、……その男どもに襲われたのよ? 分かってるの? ……それでもどうしても信じてほしんだったら、私たちに対して誠意を見せるべきなんじゃないの? そのマフラーとマントを脱いで、私たちにアナタの顔を明かすのが先なんじゃないの? そんな事もしないで『はい、そうですか』って受け入れてもらえるって本気で思っているのなら、アナタ、ホンモノのおおバカ野郎だわ!」

「うぐっ……!」


 メタクソに言われ、俺は口ごもってしまった。


 クソッ……! 

 この魔法使い風の女、随分と饒舌じゃないか。

 ここまで責め立てられるとは思わなかったぞ……。


 が、的を得ていない訳でもない。

 確かに顔を明かすべき……というのは賛成できる。

 ……しかしなぁ……。


「ちょ、ちょっと待っていろ」


 その正体というのが、この異世界で嫌われまくっているっていう、ミーク・カロナヴィーナなんだよな……。

 もしその姿を晒しでもしたら恐らく、あの時見た彼の死体のように、村人や世界中の人々から迫害される日々が始まってしまう。

 当然、俺にそんな苦行に耐えられるようなメンタルなんてないし、ミークの汚名返上から大きく遠のいてしまうのは間違いないだろう。

 それだけは何としても避けたい事態だ。


 ここはやはり、女神の打ち合わせ通りにやってみるしか……。


「顔は……明かせない」

「……はぁぁぁ?」


 魔法使い風の女冒険者を始め、女性陣から睨まれてしまう。


「どうしても明かせない……事情があるからだ」


 それでも俺は口をつむがなかった。

 今俺が答えるべき解答を述べてみせたのだった。


「明かせない……事情?」

「……………………」

「そう、ならいいわ。これ以上聞かないでおくわ」


 そう言うと、彼女たちの追求が取り下げられる。


 こんなものなのか……と一瞬思ったものの、ここまで女神の打ち合わせ通りに進んでいる事実に俺は驚いていた。


 そう、女神は言っていたのだ。

この異世界の人々の嘘に対する扱いについて。



『ここの人々ってね、確かに相手を騙すような行為には激しく怒りをあらわにするの。けどね、嘘なら何でも許せないんじゃなくて、例えば何か事情があって隠し事をしている……そんな嘘だったら結構分かってくれるんだよねぇ』



 女神の打ち合わせ通りだった。

 彼女たちの追求が止んだ。


 そう言えば、女神とプリメラが村へ向かう途中で世間話をしていた時、プリメラは出生について口ごもっていた場面があった。


 騙す事を許そうとしないこの異世界でだ。

 許される嘘もあるって事なんだろうな。


「待って下さい。だったら、これはどうなんですか?」


 と思っていたら、今度は僧侶風の女性冒険者からの追求が始まる。


「これ……何の事だ?」

「なぜ私たちを助けたのかもそうですけど、なぜあんな戦い方をしたのですか? あの盗賊たちを一瞬で倒せる力があるなら最初からやればいいのに、なぜあんな宝箱の中から登場したり、ツボミから熊とかよく分からないペンを見せつけたり……あれは一体何がしたかったのですか?」

「え……えーと……」


『女神との打ち合わせ通りに茶番やってました!』

 ……なんて言う訳にいかないよなあ……。


 そんな事を言ったりしたら、女神のくだりやら打ち合わせの件やら色々と話さなきゃいけなくなってしまう。

 正直……面倒だ。

 それ以前に、信用を得られていない状態で喋った所で、信じてもらえるとも思えない。


 くっそう……手で隠してはいるけど、下半身丸だしとか反応に困るじゃねぇか。

 いやラッキースケベなシチュエーション……って浮かれている場合じゃない。


 何か、何か言わないと……。


「それは……おみやげ戦術だからだ」


 俺は思わず、出任せで発言してしまった。

 何か言おうと口から搾りとった言葉が、



 『おみやげ戦術』だった。

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