14 擬態ってレベルじゃねーぞ!
「な、何だこいつ!って、い、生きてる!」
まあ、そりゃテンパるよな。
こんなふしぎな光景を見せられたら……。
どっこいしょ、と俺は上体を起こしたのだった。
白色の長いマントに半身を包み、口元をマフラーで隠している俺の姿は、よく言えばクール、悪く言えば陰気といったところか。
そんな俺に対し、(当然だと思うけど)盗賊たちは狼狽えている。
「な、何だてめぇ……。名を名乗れ!」
「……俺は、ミミ久。ミミックをやっている」
「み、ミミ……! 何ですか、そのふざけた名前は! なぜみき久じゃないんですか!」
戸惑いながらも、きっちりと俺の名前を否定してくる盗賊たち。
とりあえずスルーしておく俺。
「み、ミミックをやってって、……てめえ、人間じゃねえか! モンスターじゃねえじゃねえか!」
「大した若者じゃのう。いくら大きな宝箱とはいえ、その中で長時間丸まっていたとなれば、体の負担は大きなもの。なのに何故、平気そうにしておる?」
「いや、その……中は意外と快適だったぞ」
これはまあ……嘘をついていない。
自分でも驚いたミミックの口の中を、盗賊たちに見せてやった。
「って……えぇ! 布団が入ってますよ!」
眼鏡をかけた盗賊が、すっとんきょうな声をあげる。
そりゃあり得ねぇよな、俺も同じ気持ちだよ……と、ため息を吐きながら、宝箱の中を公開してやった。
そう、悠々自適かつ、宝箱の中でも引きこもれそうな個室を……な。
「キッチン付きの、風呂と便所別。エアコン、冷暖房完備のオール装備。フカフカベッドにこたつにがあって、漫画、ライトノベル、食事は三週間分セット。狭い空間だが住み心地は案外悪くなかった……」
「ええええええええええええええええっ!」
「ちょ! てめぇ! くつろいで……! 擬態ってレベルじゃねーぞ!」
うん、俺もそう思う。
そう思いながらも、女神との打ち合わせ通りに御託を並べていく。
「さらに、この宝箱の鍵の部分、あるだろ? こいつはな、一流デザイナーによって描かれたオーダーメイドなんだ」
「知るか!」
うん……俺も知りませんでした……。
っていうかこの異世界に来てから今までバタバタしていたのに、そんな所まで眺めている余裕なんてある訳ないじゃないか……。
……が、このミミックの住み心地については別だった。
俺がミミックのステータスのスキル欄を見た時に、気になる項目が目に映っていたからだ。
それは、スキル:居住性。
最初に見た時、俺は違和感を感じていた。
どうして宝箱で、モンスターであるはずのミミックに居住性なんてものが存在するのか。
女神に口の中に入れと言われた時に、その正体が判明したのだ。
ミミックの口の中。
宝箱の口の中に入るという窮屈さに、ぬめりとした感触の舌ベロや鋭いキバの中を通過しなければならない。
しかし、その先を越えると、確かに中は個室だった。
カプセルホテル程度の狭さだったが、それでも人一人が体を休めるには悪くない快適さだった。
女神が言っていたが、このスキルにも習熟度があるんだろう。
きっと部屋のスペースが広くなるのかもしれない。
今から楽しみだ。
……と、いけない。本題に戻ろう。
女神との打ち合わせの続きといこうか。
「そうだ、そこのお前。さっきの『騙した方が偉い』ってセリフ。上手い事言ったぞ」
「お、おお、どうも……」
戸惑いながらも、頬に傷をもつ盗賊は素直に答えてくれる。
「褒美にこれをやろう」
俺はポケットから、一本のつけペンを取り出した。
ペンの上部に、花のツボミがついているという一見おもちゃのようなペンである。
……これも、打ち合わせの時に女神からもらったヤツだ。
「一見、普通のつけペンに見えるだろ?」
「お、おお……。それが、どうした?」
「ペンの上部をひねってみよう。花のツボミの形をしたオブジェクトが、開くんだ。すると、中から熊が、飛び出す」
「…………………」
「ツボミかと思ったら、……熊さん。……最高だろ?」
「……………………」
盗賊たちは、無反応だった。
……あれ? やっぱり、面白くなかった?
「……あの、……熊さん」
「……てめぇ、俺たちをだましやがったな……」
「……え?」
「ツボミに見せかけて熊……? 要するに、熊だって分からねぇように、俺たちの目をあざむいたって事だろ……? そういや、あの宝箱の中で丸まっていた時だって……。よくもそんな卑劣なマネを……許せねぇ……」
どうやら盗賊たちは、殺意を抱いているらしい。
人の事言えた義理じゃないだろ!
……って思う所だけど、……ああ、これ、ミークが子供にヤラれた時と同じシチュエーションなんだろうな。
目の前でウソや誤魔化しをされた事が、とにかく許せないってヤツ……。
…………………………………………。
ごめんなさい。
自分でやっておいて……。
俺も死にたい気分です…………。
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