13 あれ、宝箱じゃねぇか?
「なあ……本当に大丈夫なんだろうな……?」
「大丈夫よ! 打ち合わせ通りにやったらうまくいくから心配ないわっ!」
「いや心配なんだが……そもそも相手が想定通りの反応をするとも限らないっていうのに……」
「落ち着いて、堂々としていればいいのよっ。さ、この辺りで、よろしくねっ、ミミ久っ!」
「ったく……まあ、やるだけやってみるが……」
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松明が、ともっている。
ここは、暗闇が支配する洞窟。
冒険者たちが宝を、夢を求めるためにある秘境ともいえるだろう。
しかし、モンスターがはびこり、罠が仕掛けられ、時には命を落とす。
……そんな負の一面もある。
「……け、こんなもんかい。しけてやがんな」
ここ洞窟内にいたのは、冒険者たちをののしる、強靭な体つきの盗賊三人組。
頬に傷跡をもつ盗賊に、眼鏡をかけて知的さをアピールしようとしている盗賊、そしてベテランなのか年老いた風の盗賊。
が、そんな彼らに捕まった冒険者たちは、洞窟のトラップや狂暴なモンスターによってボロ雑巾にされた訳ではない。
身ぐるみを剥がされていたのだ。
三人の女性冒険者だったが、裸同然の格好にされていたのだった。
「くやしいか?え?何か言ってみろよ、オラ?」
「…………」
「はっきりしゃべれよ! 何言っているのか分からねえや!」
「こうでしょ? 「よくも騙したな」……って。バカが、世の中、騙した方が偉いって決まっているんだよ!」
盗賊たちが、執拗に冒険者たちを罵っている。
舐めるような目つきで、彼女たちの格好を見ながら。
ビキニアーマーを剥がされ、晒された胸を手で隠す、戦士風の女性冒険者。
下乳から下の布を破り捨てられ、大きな尻を隠しきれないでいる、僧侶風の女性冒険者。
魔法使い風の女性冒険者は短いスカートこそはいているものの、上半身がビリビリに破れたタイツで、くっきりと艶かしく体型をあらわに晒されているのも同然の格好だった。
「バカだよな、こいつら。一人一人が弱小でも、力を合わせりゃ乗り越えられるとか、本気で信じていやがる! 俺らハイエナ共にいいように滅ぼされてしまっているのによう!」
「いやいや、諦めるのは早いかもしれませんよ? このパーティー、みんな女でしかも裸。そのいやらしい身体で我々を気持ちよく誘惑してくれるなら、あるいはそのスキをついて逆転の可能性があるかもしれませんよぉ……?」
「ほっほっほ、よく言うのう……。おぬしが真っ先に脱がしたんではないか。我々とボス様の関係を知らせず、仲間のふりして狩っていこうと提案したのも、おぬしだというのに」
盗賊たちが、身を寄せ合い縮こまる女性冒険者たちを笑いものにしている。
「ん? おい、あれ……」
ふと、ここで頬に傷跡をもつ盗賊が、何かを見つけたようだ。
「あれ、宝箱じゃねえか?」
……どうやら、とうとう見つかってしまったようだな。
「すげええ! でけえじゃねえか! こりゃきっと、やばい宝だぜ!」
「ふむ、ワシはこの洞窟で冒険者狩りを二十年続けておったが、あんなでかい宝箱は初めて見るぞ」
「お待ちを。油断してはいけませんよ? モンスターの中には、ミミックという冒険者を欺く輩がいると聞いた事があります」
「ミミックぅ?」
へえ、盗賊のあの眼鏡のヤツ、本当に賢そうじゃないか。
敬語で話す盗賊は、眼鏡をくいっと動かしている。
「ミミックとは、人間にとってなじみのあるモノや動物に擬態し、虎視眈々と獲物が来るのを待っているモンスターです。もし、ミミックの罠に釣られてしまうと……瞬く間に餌食にされてしまう、恐ろしいモンスターなのだそうです」
「ほぉ、要するに、ワシら盗賊団と同じって事かい……。我々は色々な手口でだましてきたプロフェッショナルじゃ。人間様が培った知恵ってのがあるのじゃ。モンスターごときに遅れなどとるわけがなかろう……」
「そういう事だ。たかがモンスター一匹程度に、ビビる理由なんてねぇんだ。冒険者どもを何十人も屠ってきた俺たちが、今更こんな所でくたばるかよ」
盗賊たちがゆっくりと、大きな宝箱に近付いていく。
「……開けるぞ。ちょっとでも怪しい動きを見せたら、いっせいに切りかかれ」
頬に傷をもつ盗賊が、宝箱の取っ手口に指を掛けた。
ーーバタンッ!
宝箱が、盛大に開かれた。
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!」
彼らは、あらん限りの声をあげていた。
そりゃあもう、驚いただろうな……。
宝箱の中に、人間が収まっていたんだから。
俺が横になって、ミミックの口の中で丸まっていたんだから……。
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