12 申し訳ないって思っているなら、……できるよね?
俺は冷や汗をかいていた。
一向に起きる気配がない、プリメラを何度もゆすりながら。
「ダメよミミ久〜? 『眠りの息』をまともに嗅いじゃったら、数十分は起きないわよぉ〜?」
そんな俺に呆れた声で語りかけてくるのは、口元を手でおさえた女神。
「ミミックって、レベルもステータスも強いでしょ? 魔法もスキルもね、それに合わせて強くなっていくんだけど、その逆もあったりするの」
「え? それって……?」
「ミミ久、ステータスが見えるんでしょ? それで他の人のステータス見ようとして、何か不便に思った事ってない?」
「あ、その……魔法や特技が見えない……ってのは……」
「そう、それ! それで、実はそれだけじゃないの。魔法やスキルにはね、実は習熟レベルが存在するの! けど駆け出しレベルのミミ久じゃ、他人のスキルが見えないように、そんな所まで判断できないのよ!」
「え……習熟レベル……?」
「魔法や特技ののコントロールに関わるステータス……それが習熟レベル! さっきのミミックの特技を見るに……コントロールできてないレベル一……ってところねぇ、だから加減がきかないでプリメラちゃん巻き込んじゃったのよねぇ」
俺は絶句した。
俺はミミックのステータスを全て理解した気になっていたのだ。
それがまさか……他にも見えていない項目が存在していたなんて……。
相変わらず猫なで声で話してくれる女神。
しかしその内容は、俺を凍りつかせるのに十分なものだった。
「し、質問……いいか?」
「いいよぉ〜?」
「あの群れに『メラミラ』を放とうと思っていたんだが……するとどうなる?」
「この周辺一帯……消えちゃうかも」
「じゃあ、洞窟で使ったりしたら……?」
「洞窟崩壊♫ 私たち、生き埋めになっちゃうねっ!」
満面の笑みを浮かべる女神の一方で、俺の震えが止まらなくなっていた。
実の所、さっきの『眠りの息』からの『メラミラ』で盗賊やモンスターたちを蹴散らす算段を考えていたのだ。
ミミックは強力である。
だからこのモンスターの力を使って洞窟内を無双しようと考えていたんだが……。
これでは使い物にならない。
こいつは……強力すぎる!
しかもプリメラが眠ってしまったのだ。
という事は、しばらく彼女を運びながら、そして守りながら戦わなければいけないという事になる……。
出来るのか……?
「困ってるの、ミミ久?」
「そ、それはな……緊急事態だぞ……」
「落ち込まないで、ミミ久。この宝箱、ミミックよ? だからきっと、何とかなるわ」
「お前……何を根拠に!」
「ねぇ、このミミックって、大きいと思わなぁい?」
「……はぁ?」
突然意味ありげに聞いてくる女神に、俺は苛立ちを隠せなかった。
「まあ、かなりな……」
「口を開けたら、何でも入る気がするんだぁ♫」
「まあ、大容量って感じだしな……」
「例えば人だって……丸くなったら収まると思うんだけどぉ……?」
「え? おい、それって……?」
次第に、苛立ちから困惑へと感情が変わっていく俺。
というか女神のやつ、今も眠っているプリメラに目を配っているような気が……?
「なあ、まさかとは思うけど、プリメラ……」
「ミミ久に、ミミックの中に入ってもらいますっ!」
「ああ、そりゃそうだよな……プリメラじゃなくて俺……」
ホッと、胸を撫で下ろしたのも束の間。
「え、今何て……」
「あのね、だからね……囮になってもらうの」
女神が満面の笑みを浮かべ、改めて俺に死刑宣告を告げたのだ。
「洞窟内で盗賊に開けてもらうまで、ミミ久にはミミックの口の中に閉じこもってもらいますっ!」
要するに、あれだ。
モンスターの口の中に、わざわざ入らなければならないって事だ。
「………………………………………………」
それはもう、絶句するしかなかったね。
その一方で、まるで待ち構えているかのように、ミミックがぐわん! と口を開けている。
その中身は当然、無数の鋭いキバと、ぬめり気を帯びたピンク色の舌ベロ、紅く肉々しい歯茎、上の歯からしたたり落ちる粘液で構成されていた。
「ミミ久……プリメラちゃんに申し訳ないって思っているなら、……できるよね?」
俺の罪悪感を揺さぶり、逃げ道をなくそうとする女神。
俺は今、確信したね。
コイツは女神なんかじゃない。悪魔だ。
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