10 目の前にある大穴が、洞窟への入口です
あれから俺たちは、プリメラの案内で例の洞窟に向かっている。
女神とプリメラの仲良し二人組が先頭で、俺はというとその後ろでミミックを引きずっていた。
彼女たちの背後を守る用心棒……といえば聞こえはいいが、早い話、女子二人の輪に入れないだけだった。
……が。
「あ、あの……ミミックの戦士って……?」
「宝箱を振り回すから、ミミックの戦士って呼ばれているのよっ」
「そ、そうだったんですね! すごいです、初めて聞きました! そんな単純な由来があったなんて……ビックリです!」
「私も驚いちゃったなぁ〜? ね、ミミ久っ?」
「……………………」
……と、女神がこんな調子でプリメラを使って俺をいじってくる。
「……………………」
俺はうつむくか、ソッポを向いて話をそらす事しかできないでいた。
「けどミミ久、名前名乗らなくてよかったねー? プリメラちゃんの時みたいに変とか言われちゃったかもしれないからねーっ?」
「あ、ええと……。確かに変……あ、いえ! ユニークな名前もアリだと思いますよ!」
女神のヤツ、俺の名前をまたバカにしやがって……。
っていうかプリメラも聞こえているからな?
それにユニークって、ちっともフォローになってないからな……。
まあ、確かにミミ久なんて名前、日本で幼かった頃から訝しむような反応をよく返されたよ。
この名前、母親が『愛嬌と独自性を醸し出した、この世にたった一つだけの、俺だけの名前だ』って、気合を入れてつけてくれたって言ってくれたんだ。
まあ、いいさ。誰に笑われようと、俺だけはこの名前を誇りに思って受け入れていく事にするよ……。
「さてと、やる事やっておかないとな……」
俺は小さく呟くと……。
「ステータスオープン」
地面に引きずり続けているミミックに向け、発動したのだった。
ミミック
レベル 78 職業 モンスター・ミミック
HP 6861 MP 4325 SP 5970
攻撃力 2834 防御力 1943
魔攻撃 1714 魔防御 1538
体力 2007 敏捷 2244
魔法 1067 運 10
相変わらず、高いレベルとステータスだと俺は思う。
さっきのゴブリンの時のように、大抵のモンスターなら倒せてしまうんじゃないか……と思わせてくれる。
「と、見とれている場合じゃないな」
俺が注目したかったのは、数値じゃない。
ステータスを表示した時によく見られる?もう一つの項目だ。
「スキルは……あるのか? どうやって見たらいいんだ?」
スキル欄。
ゲームではステータスの他、そのキャラクターが覚えている魔法や技が必ず表示していたものだ。
一見、俺の目に写っているのは数字の羅列。
まさかこの異世界には魔法が存在しないのではないか……と一瞬考えたが、以前プリメラのステータスを確認した時に表示していた『魔法職・プリースト』を見て、それはあり得ないと思っている。
どうしたものか……と指を動かしていると……。
・魔法
ブラスター
マジバキューム
デスハービー
・特技
擬態
眠りの息
回収
体内錬成
居住性
アイテムボックス
「これは……」
お望みの物が出てくれたようだ。
どうやらこの異世界にも、魔法やスキルに値する攻撃や補助の手段が存在しているようだ。
「他のヤツにもあるんだよな……どれどれ、ステータスオープン」
念のため、もう一度プリメラのステータスを開いてみる。
もちろん、唱える時は小声で気づかれないように……だ。
現れる数字の羅列。
さっきのミミックと同じように指を動かしてみるも……。
「あれ? おかしいな……現れないぞ……」
変化がなかった。
何度指を動かしてみても、数値の欄から魔法、特技の欄へと項目が切り替わらなかったのだ。
どうやら他人のステータスを隅々まで見られるほど、ステータスオープンは万能ではないらしい。
俺は仕方ない……とため息をはくと、プリメラのステータスを閉じ、もう一度ミミックのステータスをオープンさせる。
「さっきの魔法と特技……何か説明はないものか……」
俺は人差し指を動かし、目に映る魔法や特技の項目にタッチするように指を動かしていく。
そうして人差し指を長押しした瞬間、短いながらも説明文が表示されるようになった。
「お。こいつだな……」
俺はその内の一つに目を通していく。
ブラスターは火属性中位の魔法……と書かれている。
この時点で分かったのは、この異世界の魔法にも属性が存在していて、しかも中位というように階級で分けられているという事だった。
「他には……マジバキュームは無属性下位で相手の魔力を吸収する……。それでデスハービーは闇属性中位で相手を死に至らしめる……って、怖っ!」
どうやらこのミミック、色々とできる事が多いらしい。
まさか死にまつわる魔法まで覚えているとは思わなかったが。
「そうだ、特技も確認しておくか。ええと……擬態は対象の物、相手になりすます……か、そのままだな。それと眠りの息は……」
「ミミ久さん、つきました。目の前にある大穴が、洞窟への入り口です」
「相手を眠らせ……えええっ!」
突然だった。
プリメラの声が俺の耳に飛びかかってきたので驚愕の声を上げてしまったのだ。
「ひゃっ! え、えと……」
「ああ、ごめん。考え事をしていて……」
プリメラが怯えた表情を見せている。
申し訳なく思い謝っていると、今度は女神が頬を膨らませてきた。
「なぁにぃ? ミミ久? 何驚いているの? ボーッとしてたの?」
「あ、いや、その……」
「これから潜入するんだから、ちゃんとしなきゃだめなんだからっ! ぷんすかぷんすか〜!」
女神が怒った顔で距離をつめてくる。
「マイペースばっかりは人を苛つかせるんだからねっ! 考えぶりっ子ばっかやっていないで、ちゃんとみんなのペースに合わせなきゃだめでしょっ! ぷりぷり〜! だよっ!」
「……………………」
「み、みみ子ちゃん、そろそろこの辺で……」
「そうぉ? プリメラちゃんが言うならぁ、しょうがないにゃぁ〜。……じゃあ、ミミ久を叱ってプリメラちゃんが許して、これでめでたしめでたし、みんなハッピー、幸せワンワン♪」
「わ……ワンワン!」
プリメラまで、女神の調子に合わせてしまう始末。
「…………………………………………」
俺はもう、何も言う気にならなくなっていた。
っていうかよりにも寄って、何で女神に説教されてしまうんだろうか。
っていうか、これからのスキルや魔法の事を考えていたのに、何でここまで言われなきゃいけないんだろうか。
っていうか、何が『考えぶりっ子ばっかやっていないで……』だ。
かわいこぶりっ子かますお前に言われたくねぇよ……。