08 『ミミックの戦士』だからだ!
「実は、私の他に数人、冒険者がいてパーティーを組んでいたんです」
プリメラが静かに語るのは、俺たちがこの異世界に訪れる以前の話。
「リーダーのタンボイさんを中心としたグループでした。パーティー名もすでに決まっていて、その名はザルバトロン。他にはライアンハイドさん、パチェットさん、ガイスターさん、ザンブルグーくん、ケーシーさん、スカルファイアさん……以上の方々のパーティーに入れてもらって、薬草採集のクエストを手伝っていたんです」
プリメラが語るパーティーメンバー。
心なしか、聞いた事があるような個人名ばかりだな……。
「そんなある時、一人の男性から、この村近辺の洞窟に、目当ての薬草が多く取れるという話を聞いたんです。その男は冒険者を名乗り、『ディべスティコン』に所属していると言っていました」
またも聞いた事がある個人名が出てきたぞ……。
それに反比例してか、プリメラの表情がどんどん曇っていく。
「そして私たちは案内されるまま、洞窟へ入っていきました。高レベル層のダンジョンだけど、入り口付近なら大丈夫だって……それがいけなかったのんです。ディべスティコンの男たちは待ち構えていて、またたく間に私たちを拘束しにきました。『モランスフォーム!』と、かけ声を出して」
いかんな……どんどん聞き覚えのある単語が出てくるぞ。
これ、まずいんじゃないか?
どこかから怒られてしまうんじゃないのか?
「私だけは何とか、逃げる事に成功したんです。といってもその後でゴブリンに捕まって、ミミ久さんたちに助けてもらったんですけどね……。それで洞窟を去る時彼らは叫んでいました。彼らのボスの名を……あの、恐ろしい名前を……」
名前だと……いや、まさかな……。
さすがにこれ以上は……。
「それでプリメラちゃんっ。ボスの名前ってっ?」
女神がボスについて触れてしまう。
俺は色んな意味で緊張していたのだった。
頼む……頼むぞ……。
「はい。その名はメグトロン。あの悪名高き洞窟最下層のボスにして、破壊大帝を名乗るモンスターです」
やっちまった!
どうすんだこの名前の流れ……あからさまじゃねぇか……。
俺、知らねーぞ……。
……と、俺が頭を抱えているそばで、プリメラは唇を強くかんでいた。
「話を聞いてくれて、ありがとうございます。私、……行かなきゃ」
突然、立ち上がるプリメラ。
薬草が効いたのか、足に痛みはないようだった。
しかし、村長を始めた村人たちが押し留めようとする。
「いけませんぞ、プリメラ殿! あの洞窟は、アナタ一人ではどうにもできませんぞ!」
「そうだよ、やめときなって! レベルが違いすぎる! 一人で行ったって自殺行為だよ!」
「いやです! 離して下さい! 立派な冒険者の人々が犠牲になって、私なんかがおめおめと生き残るなんて、信じられません!」
突如起こる、ひと悶着。
プリメラが歩こうとしている所を、村人たちが食い止めているのだ。
「そうは言っても、どうしようもないよ……。あそこの適正レベルは入り口付近だけで二十くらい。プリメラちゃんじゃどうしようも……」
「そ、それは……」
村人たちにほだされていくも、プリメラはどうしても悔しそうだった。
「……………………」
そんな様子を見ていて、俺の中で何かが込み上がるものを感じていた。
「なあ……、その冒険者たちってそんなに大事な仲間だったのか?」
「……え?」
唐突な質問だったんだろう。プリメラがきょとん、とした表情を一刻、みせていた。
「え……あ、はい! そうなんです。その、私のような駆け出し冒険者を、彼らは歓迎してくれましたから……。全員じゃないんですけど、新米の冒険者を嫌がる冒険者って、結構いますから……」
プリメラは真面目に答えてくれる。
なるほど、彼らザルバトロンとやらは懐が大きい冒険者パーティーだったんだな。
「それで、本来は初心者クエストのはずの薬草採集を手伝ってくれて、……私もそんな彼らのように強く優しい冒険者のようになれたら……そして、将来一人前になった時に彼らに何か恩返しができたらうれしいな……って、そう思っていたんです」
初めは楽しそうに語っていたプリメラだったが、やがてその表情に陰りが見えてきた。
「けど私、何もできなかったんです……。洞窟で襲われた時も何も反応できず、ケーシーさんに押されてその場から逃げる事しかできず……。その上、私なんかじゃ助けに行く事も叶わないんです……。悔しいです……。悔しいけど、私なんかに冒険者なんて無理だったのかな……」
今にも泣きそうになっているプリメラ。
俺はどうも、いたたまれない気持ちになっていたんだろうな。
「その洞窟って、ここから近いんだろ?」
「え、ええ……。ミミ久さんたちと来た方向と逆にまっすぐ進んでいけばすぐに……」
「適正レベルは、二十とか……だったよな?」
「え、ええ……。けど、どうして……?」
唐突に、出しゃばった真似をしてしまったからだ。
「その洞窟、俺が行こう。そして、冒険者たちを助けてくるよ」
堂々と、俺は宣言する。
「え……ええっ!」
プリメラが驚きの声を上げる。村の人々が戸惑い、ざわめき始めていた。
「え、待って下さい。どうしてミミ久さんが……?」
「どうしてって……」
俺は一歩、前進する。そして――
「俺が、『ミミックの戦士』だからだ!」
プリメラに、村人たちにみかって、高らかに言い放ったのだ。
「……………………」
ポカン、と固まる村人たち。
この時、俺はまだ気がついていなかった。
自分が今やっている事がいかに恥ずかしいか、その意味について――