06 何々の村へようこそ!
草木が生い茂る森の中。
俺たちはこの先にあるという村を目指していた。
後に分かったが、プリメラは足にケガをしていた。
なので女神が肩を貸し、俺がミミックと共に周辺を警戒する……という段取りだ。
幸い、モンスターに遭遇する事はなく、唯一の懸念だった俺の低レベル問題は取り越し苦労に終わりそうだ。
いや、まだ油断はできない。
これからバシバシレベルを上げて、彼女たちを守れるようなチートクラスの力を手に入れなければならない。
……と、安心できるのは俺が紐をつけて引きずっている、ミミックだけという状況。
緊迫した空気なんじゃないかと思われるかもしれないが……。
「へぇ〜! プリメラちゃんって、学校を卒業して冒険者になったんだっ!」
「あ、はい! 普通は酒場の登録で冒険者になれたりするんですけど、私は冒険者育成用の学校を通ってから登録したんです」
「そっかぁ〜。学校出たって事は、プリメラちゃん、頭いいんだねっ!」
「い、いえ! 私なんてそんな! 鈍くさいし、足引っ張ってばっかだし、私なんかよりもっとすごい人いっぱいいるし……」
「そんな事言わないで! プリメラちゃんカワイイから、みんながんばれ〜って応援してくれてるわよっ!」
「や、やめて下さい! 私なんて、そんな……目立たないし、大した事ないし……」
「そうかしらぁ〜? プリメラちゃんって、どこか上品そうに見えるし、もしかしてお嬢様だったりする〜?」
「あ……、えと、それより、そちらも髪、キレイですね! 金色に輝いていて、まるで陽の光のよう……」
「えっ、ホントにぃ〜? だよねぇ〜、私、美少女だから光って見えるもんねぇ〜?」
「はい! それで、えっと、顔もキレイだし、その……」
女神とプリメラ。
二人仲良く女子トークで盛り上がっていたのだった。
「……………………………………………………」
控えめな態度をみせるプリメラと、明るいというかカワイコぶった仕草で話す女神。
彼女のぶりっ子に気まずい空気になるんじゃないかと心配したが、それも杞憂のようだった。
まあ、見ていて微笑ましいとは思うよ。
「………………」
え? 俺はどうしているのかって?
ああ、分かるだろ、言わなくても。
陰キャの俺が、あの空気に入っていけない事くらいはな。
女の子たちは親睦を深め合い、俺とミミックは黙々と周囲の警戒を怠らない。
うん、役割分担じゃないか。
そうさ、これでいいんだ。
何も俺まで彼女たちの和に加わる必要なんてないんだから……。
「あ、この先です。村があるのは」
その時、プリメラが指をさす。
その先に光が差し込んでいた。
森の出口だ。ようやく目的地にたどりついたんだ。
幸い、モンスターに遭遇しないで済んだと俺は胸を撫で下ろしながら、出口へと進んでいく。
そして、視界が開ける。
「これが……」
俺は思わず、声を漏らしてしまった。
いかにも昔のヨーロッパによくある田舎の風景が、眼前に広がっていたからだ。
木造の家が並ぶ。
その側に畑が耕されている。
牧場があるのか、村人らしきおじさんが、茶色い馬を引っ張って歩いているのが見えた。
「喜んでる? ミミ久?」
「えっ。あ、いや、そんな……」
不意打ちで声をかけられ、俺はしどろもどろになってしまった。
「そりゃそうよねぇ〜。男の子だったら一度は憧れるもんねぇ〜? 『この村から、世界を救う伝説は生まれたのだ!』 ……とかね」
「いや、そんな浮かれてなんて……。異世界に来たばっかりだっていうのに……」
「とか言ってウズウズしているんじゃない? この村の奥がどうなっているのか……とか」
「ギク……いや、それはその……」
「RPGあるある! 町に入ると他人の家に侵入してアイテム持っていく!」
「いや、ここではやんねぇよ! やすがにやばいって!」
「あ、あの……そろそろ行きませんか? 用事があるので……」
プリメラにせっつかれたので、俺たちは話を切り上げ、村に入っていった。
「……あん? 何だぁ、お前ぇら?」
さっそく現れる村人Aなクワを持ったお兄さん。
怪訝そうにしていたが、プリメラに目を移すや否や、表情が変わっていく。
「あんた……冒険者の……。ちょ、ちょっと、村長呼んでくる!」
そう言い残すと、一目散に走っていったのだった。
「『何々の村へようこそ!』……って言ってくれなかったねっ?」
「え? いや、期待していたわけじゃ……」
なぜか俺に目を配って囁いてくる女神。
まあ、せめて歓迎してほしかったっていう気持ちは……。
確かにありました……。
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