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プロローグ1 アナタは死にました

「アナタは死にました」


 暗い空間で囁かれる、少女の声。

 と言っても、ただの少女ではない。

 白い衣装、肩と胸元を露出させたその格好は、まるで女神のよう。


「申し遅れました。私は女神。あなたの魂をいざなうため、はるばる異界から現界したのです」


 金色のロングヘアーで両端をくくった髪型の少女が、名乗りだす。

 普段なら何を言っているんだこの子は……と言いたい所だが、実は俺には心当たりがあったのだ。


「魂……か。やっぱり、死んだんだな。あの事故で」


 心当たりがあった。というより、つい今しがたの出来事だ。



 俺はトラックにはねられ、絶命してしまったのだから。



 俺はかつて、高校生だった。

 高校二年生。公立の高校に通う、中肉中背の平凡な男の子。

 クラスメートのオタクグループと固まって、彼らの話題に合わせて相槌をうっていた。

 それほど興味のない話題だとしても。


 だがある日、そんな俺に転機がおとずれる。


 それは学校の帰り道、いつものように一人、学ランに、マフラーで口元を覆い、黙々と帰っていると……。

 車がビュンビュンと通る道路の側で、小さい女の子がボール遊びをしているのが気になっていた。


 ……と、その時だ。

 ボールが女の子の手から離れ、道路へ跳ねていく。


 女の子も追いかけ道路へ飛び出した。

 ボールを捕まえたのも束の間。巨大なトラックが近づいている。

 運転手が慌ててブレーキを踏む。しかし、間に合いそうにない。


 その間、俺はどうしていただろう。確か、道路へ飛び出して……。



「……そう。俺は、女の子を助けようとして……」



 まだ小学生くらいの小さなツインテールのあの子だった。

 柄にもなく、体を張って……。


 俺の人生は、あの時点で終わってしまったんだ。

 けど、後悔はしていない。

 死の瞬間、女の子が俺の安否を気づかう表情が確認できたからな。


 彼女は無事だった。守るべきものは守れたんだ。

 ならこれで、心残りはない……。


「……って、思うじゃん?」


 俺の走馬灯に水をさしたのは、あっけからんとした女神の声。


「え、思うって……?」

「あのね、その女の子ね、新体操の才能持ってるの」


 女神らしい口調はどこへいったのか。

 こちらに構わず話を続けてくる。


「その才能ね、百年に一人の逸材って言われてて、オリンピックで金メダルの未来だって視えてるの」

「え? え?」

「だからね、トラックが迫ってきてたとしても、素早い身のこなしで難なくかわす事だってできたの」

「……は?」

「なのにアナタ、不用意に飛び出しちゃったでしょ? あれ、ムダ死にだったの」


 理解が追いつかない。

 いや、そんな軽々しく言われても……。


「それでアナタに突き飛ばされたせいでその女の子、ケガしちゃって。しかもそれが原因でジュニア大会の優勝を逃しちゃうし。その女の子、当時の状況を振り返って舌打ちしていたわ。『あの陰キャオタク。余計な事しやがって……』って」

「……………………」


 俺は絶句していた。


 お、おい、マジかよ……。

 じゃあ、俺が身を呈したあの救出劇は、何の意味もなかったって事? 

 俺が何もしなくても、あの女の子は助かっていた?

 俺が死んだのって、何のために……?


「泣かないで。大丈夫だから」


 さっきとは打って変わって、優しい口調で女神が語りかけてくる。


「アナタにはチャンスがあるわ。そのために私、こうして姿を現したんだから」

「……チャンス?」

「あれを見て」


 女神が指をさす。

 その先に突如照らされる、スポットライト。


 その先から感じる強烈な肉の腐ったニオイ。


 そこにあったのは、ボロボロの布切れに覆われた何かの塊。

 布切れからはみ出ている何かを包んだ白い布と、何かを詰めたのか膨らんでいた大きな靴。


「……何、あれ?」

「死んでます」

「え?」

「死体です。死後数日経過して、腐敗し始めています」

「はっ! ウソ! ……くさっ!」


 俺は驚きと同時に鼻をつまんだ。

 死体。そう言われて、布に覆われた何かを一瞬でイメージしてしまった。


 要するに『何か』とは動かなくなった人間の事だったのだ。

 布切れからはみ出ていた、あの何かを包んだ白い布と靴は、……死体の足。


 布ごしとはいえ、死体を始めて見たのだ。

 その驚きようったらありゃしない。

 しかも筆舌に尽くしがたいニオイを放っているのだ。


 鼻がもげるのではないかと思う程の激臭。

 恐怖心もそうだが、落ち着いた態度など保っていられるハズがなかった。


「彼は、ミーク・カロラ……」

「フガッ! フガッ!」

「あ、ゴメンねぇ。こんなに臭いと、話に集中できないよね」


 俺の様子に気がついたのか、女神は衣装の中から霧吹きを取り出す。

 そしてその中身を死体に吹きかけたのだった。


「はい、ファボリーズ。これでもうニオイは安心ね!」


 なぜファボリーズなのか。

 なぜ女神が霧吹きなんて持ち歩いているのか。

 なぜ白い衣装に似合わない日本の道具を持っているのか、死体を数日もの間に置きっぱなしにするような理由とは何なのか、そもそもここはどこで、女神と名乗る女は何者なのか……ツッコみだすとキリがない所だが、ニオイが消えたと彼女が言うので鼻から手を離す事にした。

 あの強烈なニオイはなくなっていた。


「じゃあ、改めて――」


 何事もなかったかのように、女神は一方的に話を進めようとする。


 すると、女神が神妙な面持ちを見せる。

 さらに再び、スポットライトが同じ場所に浴びせられた。


「その人はね、ミーク・カロラヴィーナというの」


 それは、布切れに覆われていた、肉の腐ったような悪臭を放っていた死体。


「彼は死んでしまったの」

「まあ……、見れば分かる」

「旅の道中に……ね。誰にも看取られる事なく、気づかれる事なく、孤独の中で寂しく、息絶えてしまったの」

「孤独……」


 このフレーズには、俺も心当たりがない訳ではない。

 俺は正直、陰キャだ。そしてぼっちだ。

 学校でそうなのだから、とても他人事とは思えないのだ。


「それで、何で死んだのかっていうと……」


 女神が悲しそうに語り続ける。


「びっくりさせちゃったからなの」

「……え?」


 び、びっくりさせた? 誰を? 一体何が?

 っていうか、たったそれだけで?


「映像を見せるわ」


 そう言って女神が手をかざす。


 すると俺の眼前に現れたのは、広大な緑の大地が広がる風景。


「え! これって……!」

「ここは、アナタが言う所の異世界。ミークはこの異世界で冒険者として、あるパーティーに所属していました」

「ぼ、冒険者……パーティー……」


 聞き覚えがあった。っていうか、RPGのゲームやライトノベルでよく聞くフレーズじゃないか……。


「ミークは冒険者として、町や村の人から依頼されたモンスター退治やアイテム採集などで、冒険者が集うパーティーに貢献しつつ生計をたてていたの」


 女神が解説を入れてくれる。


「ちなみにこの映像、ミーク視点だから彼の姿は映らないわ。その代わり異世界の住民たちの顔を見る事はできるけど」


 映像が切り替わる。

 そこに映っていたのは、中世ヨーロッパ風の木造建築。


 その中で、イスに座ってテーブルを囲っていた人たちが三人。

 いずれも、よくあるRPGに登場しそうな格好と装備を身につけた三人の青年たちだった。


 しかし、その空気はとても重苦しく……。


『ミーク。お前、パーティーを抜けろ』


 何と、追放宣言をされてしまったのだ。


 読んでくださりありがとうございました。


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